精神障害の成年後見制度ーー権利擁護がキーワードだ!
ぽん太は、地域に権利擁護センターを設立するための検討委員を仰せつかっております。しかしなにぶん福祉や法律には素人のぽん太、基本的なことを質問したり、とんちんかんな発言をしたりして、ずいぶん恥ずかしい思いをしております。
権利擁護センターとは、要するに成年後見制度の相談や推進を行う機関のようです。現状では、成年後見制度を利用しようと思っても、どこに相談に行ったらいいかもわからないので、身近に相談窓口を作ろうというわけです。
成年後見制度とは、精神障害や認知症などで判断能力が不十分になった人に代わって、家庭裁判所が選任した後見人などが財産の管理や契約などを行うという制度です。成年後見制度の詳細については、例えば広島県立総合保健福祉センターのこちらのページをご覧ください。
成年後見制度というと、禁治産、準禁治産といった言葉が思い浮かびますが、平成12年4月介護保険制度の開始と同時に、成年後見制度は新しく生まれ変わりました。実は介護保険の導入は、福祉の考え方の大きな変化を伴っていたのです。それは「措置」から「契約」へという変化です。これまで福祉というのは、お役所が困っている人にやってあげるもの(措置)でしたが、介護保険は利用者が自らサービスを選択して、契約するのです。でも認知症のお年寄りなど、記憶力が衰えたり判断力が鈍っている場合は、自らの意思で契約することができません。認知症の老人をターゲットにしたリフォーム詐欺などは耳新しいところです。そこで登場するのが成年後見制度なのです。後見人などが本人に代わって、サービスの選択や契約をしてくれるのです。
さて精神障害の領域では、「親なき後」という大問題があります。地域福祉の推進によって、入院していた精神障害者が地域で生活できるようになったのはいいのですが、障害者の生活を支えて来た両親が高齢化してきているのです。もしも親が倒れたら、残された精神障害者の生活はどうなるのでしょうか。成年後見制度は、こうした問題の解決手段のひとつとして期待されます。
問題は費用です。例えば法定後見の場合、裁判所申立費用が約1万円、登記費用が訳1万円、申立書作成費用が約8万円必要だそうです。さらに医師の鑑定が必要な場合、鑑定費用が5万円から15万円かかります。これは後見のスタートにかかる費用で、さらに月々後見人に対する報酬として、2万から3万を支払い続けなければなりません。
な〜んじゃ、そんなら結局成年後見制度は、金持ちだけの制度やないかい!金がない人はどうしたらええんじゃい!とぽん太は思ったのです。
だいいち精神障害の分野では、成年後見制度と同じことはこれまでもやってきたやん。身寄りがない患者さんも、日常生活は作業所の職員やケースワーカー、市の障害者福祉課や保健所が話し合ってなんとかやってきたし、病気が重くなって入院するときは市区町村同意の制度があったし、それで本人も納得してたやんか。ちゅうことは、これまでうまくいってた人は今まで通りやって、財産がいっぱいあったり、法律上問題が複雑なケースだけ成年後見制度を使うっちゅうことやな。やっぱり成年後見制度は金持ちが対象か。でも、金持ちの財産管理の機関をわざわざ公の制度で作ってええのんか?
わけのわからなくなったぽん太は、福祉の基本を勉強する必要を感じ、社会福祉士試験の教科書を近くの本屋で買ってきて読んでみました。いや〜、するといろいろと勉強になりました。いちいち書きませんが、医療とは異なる福祉の視点がよくわかりました。医者はホントに井のなかの蛙ですね〜。
で、大切なのは「権利擁護」という考え方だとわかりました。権利擁護というと、権利を守るという感じで、障害者差別はんた〜いとかいうのを思い浮かべますが、実はなんとadvocateの訳なんだそうです。advocateという言葉をexcite辞書の新英和中辞典第6版(研究社)で引くと、1主唱者、唱道者、2代弁者、と書いてあります(こちらをどうぞ)。つまり本人になり代わって、障害者の声なき声を代弁する者のことです。これまでの福祉は、既成の制度に本人を当てはめようとしてきましたし、障害者自身もそれで仕方ないとあきらめていました。しかし大切なのは、障害者自身が本当は何を必要とし、何を望んでいるのかを代弁し、それに適した制度を選択することであり、なければ新たに作り出すというくらいの覚悟が必要なのです。
さきほどぽん太は、精神障害者の分野ではこれまで成年後見制度と同じことをやってきたと書きました。しかしそれは大嘘でした。やっていることは一見同じようでも、考え方が根本的に違っていたのです。障害者の立場に立って、障害者自身の必要や要求を実現することよりも、医者や役人の都合で制度に障害者を当てはめてきただけです。これは権利擁護ではありません。これまで福祉に関わって来た人たちの多くは、これまでも自分は障害者の立場に立って活動して来たと言うでしょう。それはその通りかもしれませんが、でも障害者の立場を代弁するひとを一人立てた方がすっきりしますよね、というのが権利擁護の小さくて大きい一歩なのです。精神障害者の思いを本人の立場で代弁し、場合によっては新しい制度や施設を生み出して行くという視点こそ、権利擁護の本質だとぽん太は理解しました。
東京でもすでにいくつかの成年後見センターが造られています。しかし成年後見は、権利擁護を実現するための制度のひとつにすぎません。ぽん太の関わっている地域が「成年後見」センターではなく、「権利擁護」センターになるように、発言をして行きたいと思っています。
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