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2006/02/27

飯坂温泉と松尾芭蕉

 自立支援医療費の書類かきもようやく下火になり、やっとブログを更新する時間ができたぽん太です。

P2210025 さて、先日ぽん太は福島県の飯坂温泉に行ってきました(飯坂温泉オフィシャルホームページへのリンクはこちら)。
 飯坂温泉は、福島駅からほど近いという立地を生かし、かつては観光バスの団体客や会社の宴会などでにぎわいましたが、いまではすっかり寂れていることで有名です。そんななかにあって、こんかい泊まったなかむらや旅館(公式ホームページはこちら)は、江戸末期に造られた土蔵造りの3階建てという美しい建物を現在に伝える宿です。この宿についてのぽん太の感想は、@nifty温泉のぽん太のクチコミをご覧下さい。
P2210034 で、この宿の近くに鯖湖湯(さばこゆ)という共同浴場があります。平成5年に改築された新しい建物ですが、改築前の明治22年に造られた木造建築のデザインを生かした、とても風情のある温泉です。鯖湖湯についてのぽん太の感想は、@nifty温泉のぽん太のクチコミをご覧下さい。また鯖湖湯の公式(?)ホームページはこちらで、立ち寄り温泉みしゅらんのこちらのページも詳しいです。
 で、この鯖湖湯は、日本武尊(やまとたけるのみこと)が東征のおりに立ち寄ったとか、松尾芭蕉が奥の細道の旅の途中で入浴したと言われているそうです。ということで、話しは松尾芭蕉の『おくのほそ道』に移ります。ぽん太の手元にあるのは、『おくのほそ道』潁原 退蔵他訳注、角川文庫、1967年ですが、現在は角川文庫ソフィアで出ているようです。ここの26ページに飯坂温泉が出てきます。

五月朔日のことなり。その夜、飯塚に泊まる。温泉あれば湯に入て宿を借るに、土座に筵を敷て、あやしき貧家なり。灯もなければ、囲炉裏の火かげに寝所を設けて臥す。夜に入て雷鳴、雨しきりに降りて、臥る上より漏り、蚤・蚊にせせられて眠らず、持病さへおこりて、消え入るばかりになん。短夜の空もやうやう明くれば、また旅立ちぬ。なほ夜のなごり、心進まず。馬借りて桑折の駅に出づる。遥かなる行末をかかへて、かかる病おぼつかなしといへど、羇旅辺土の行脚、捨身無常の観念、道路に死なん、これ天の命なりと、気力いささかとり直し、道縦横に踏んで、伊達の大木戸を越す。

 『おくのほそ道』の旅は、元禄2年(1689年)、芭蕉46歳のときに行われたとされています。「五月朔日(ついたち)のことなり」と書かれていますが、芭蕉のお供をした曾良(そら)の『曾良随行日記』(同書に収録されています)によれば5月2日とされており、そちらが本当の日付と考えられているようです。また「飯塚」と書かれていますが、当時も飯坂という地名だったそうで、芭蕉が飯坂の古い呼び名と聞き伝えて書いたのだろうという注釈があります。
 で、肝心の芭蕉が鯖湖湯に入ったかどうかですが、「温泉あれば湯に入りて宿を借るに」と書いてあるだけで、どこの場所とは書いてありません。芭蕉ドットコムというサイトの飯坂温泉についてというページでは、椎野健次郎著『飯坂散歩道』(飯坂温泉協会発行)を参照しながら、当時の飯坂には鯖湖湯、透達湯、滝の湯、波来湯の4つの温泉があったが、「湯に入りて宿を借る」と書いてあることから、近くに宿のない露天風呂であった滝の湯と波来湯は除外され、鯖湖湯か透達湯のどちらかだろう、としています。
 またこのページでは、芭蕉がなぜ「あやしき貧家」で一夜を過ごさなくてはならなかったかについて、わけもなく村に立ち入る者に宿を貸してはならないという厳しい藩令が村人の心に強く残っていたのではないか、と説明しています。しかし飯坂は、鎌倉時代から湯治場としてにぎわっていたといいますから、宿ぐらいなかったのかという疑問が残ります。江戸時代の温泉事情をいつかみちくさしてみる必要があるでしょう。『おくのほそ道』の文庫本の解説には、宿での苦難の記述はフィクションの可能性もあると書かれています。

 ということで結論は、松尾芭蕉は1689年5月2日に確かに飯坂温泉で入浴したが、その場所は鯖湖湯か透達湯と推定される、といったところでしょう。

 さて、残るは日本武尊ですが、これは『古事記』にも『日本書紀』にも、温泉に入ったという記述はないので、地元の伝承と考えていいようです。

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