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2007/12/04

【トリビア】ピネルは精神障害者を鎖から解放して……いなかった。

 ピネルといえば、近代精神医学の父と呼ばれる高名な精神科医であり、それまで鎖で繋がれていた精神障害者を鎖から解放した人物として有名であり、その様子は絵にも描かれている。しかし、実はピネルは精神障害者を鎖から解放して……いなかった。(へ〜え、へ〜え)

 

 はい、その通りです。ピネルは精神障害者を鎖から解放していません。それは、ジャック・オックマンの『精神医学の歴史』(阿部惠一郎訳、白水社[文庫クセジュ]、2007年)に書いてあります。

 

  「(ピネルは)1793年以降、ビセートル病院長に任命される。ここで彼は類いまれな人物で精神障害者の施設で管理人をしていたジャン=バチスト・ピュッサンに巡りあう。療養所に長期間居住していたピュッサンは、人道主義的でしかも明確な援助方法を作りあげていたので、ピネルは道徳療法を理論化するにあたって、ピュッサンから多くの示唆を受けている。精神障害者の拘束を緩和し、鎖を解き放ったのは、絵画などに描かれている有名なエピソードと異なり、ピネルではなく、彼がいなくなったのちにピュッサンが行ったのである」(15ページ)。

 し、知らなかった。ぽん太は過去の記事でどうどうとピネルが精神障害者を鎖から解放したと書いていました。よく見たら、Wikipediaにもちゃんと書いてあるやん。なになに、Wikipediaには、ピュッサンがビセートルの元患者だと書いてる。ほんまかいな。また新たな疑問が湧いてきました。

 ところでこの本はなかなか面白く、ぽん太が興味をもっている19世紀前半のフランスの精神医学の状況が書かれています。本書によれば、エスキロールらによる近代精神医学の確立は、精神科医が裁判に関与する権限の獲得と、表裏一体に行われたようです。そのためにエスキロールは、ピネルがすでに記録していた「部分的狂気」を「モノマニー」という概念で説明しました。

  これまでは犯罪は犯罪行為のみによって裁かれましたが、精神科医が精神鑑定を行って、モノマニー概念を使って責任無能力を認める権限を持つようになったため、モノマニー概念は激しい論争を引き起こしたそうです。そもそも裁判に精神科医が関わる必要があるのか、モノマニーは全体としては理性が保たれているのではないか、犯罪者の罪を軽減したら犯罪の抑止力が働かなくなるのではないか、あるいは狂人を装う者が出てくるのではないか、また裁判で無罪となった患者に対して結局精神科医は治療することができず、精神病院に収容するだけではないかなど、現在行われている議論とまったく同じようなことが論じられていたようです。

  1838年、フランスでは精神障害者を自由の制限などを定めた法律が作られました。この法律制定のために、エスキロールも力を尽くしたそうです。この法律では精神医学の専門性が認められ、精神科医に患者の自由の制限の権限を与え、精神科医に裁判への関与を認めました。この法律は、精神障害者の治療と、社会防衛との妥協の上に作られました。精神科医に与えられた権限に関して、その後もさまざまな議論が繰り広げられたそうです。

 近代精神医学が、その成立の当初から、犯罪責任能力の問題と結びついていたことがわかりました。しかし、なぜ両者のあいだに必然的な関係があるのかについては、ぽん太の狸脳ではいまだによくわかりません。

 もうひとつこの本で面白いのは、現代の精神学を「経済の時代」と呼んでいることです。長期入院をなくすこと、症状に的を絞って薬物療法と行動療法を行うこと、DSM-IIIの作成、社会的プログラムによるリハビリテーション、発達障害を心理や教育に任せることなどが、医療費の削減や、保険会社・製薬会社の要請などに結びつけられています。本書では詳しく分析されてはいるわけではなく、経済ですべてを説明できるわけではありませんが、現代の精神医療を過去に比べて「科学的に発展したもの」とみなす素朴で単純な考え方をしてはならないことは事実でしょう。

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雑学」カテゴリの記事

コメント

nyankiさん、だいぶお困りのようですね。
申し訳ありませんが、個別の医療相談は、ブログでは控えさせていただきたいと思います。
ただ、モノマニーというのは19世紀の概念であり、現在は使われていなと思います。主治医にもう一度病名を聞き、詳しく説明をしてもらってはいかがでしょうか?
お役にたてず申し訳ありません。

初めまして、失礼させて頂きます。
突然のご質問をお許しください。

私は、ある大学の医学部精神科の医者に、「モノマニー」と定義付けられました。

私自身は、物理学で理学博士の学位を取って、国の研究所で従事、現在は民間企業に従事しております。仕事は技術の研究開発です。不眠症の為、睡眠薬を服用しております。

開発テーマを与えられると、一気に研究に突入します。食事はほとんど取らず、睡眠もとらず(睡眠薬も効かない)、身を削るかのように働きます。
上記のような生活は、修士課程位から続いております。

国の研究所に居た時は、いろいろな「天才紙一重」的な人を見て来ました。当然多くの人は、何らかのバランスを持っておりましたが。
企業で働き始めて、10年が経ちます。その間、何度か行き過ぎた「そう状態」と判断され、強制的に休暇を取らされておりました。常に酷いそう状態で休暇に入っても、直ぐに何らかの趣味を見つけ休暇を楽しんでいました。「うつ」の状態になることが無かった。

企業の看護師等は、私の精神分析を医学部精神科の医者に頼み、結果として「モノマニー」との判断をされました。
今後の方針として、
・病院へ定期的に通院するようにと
・負荷の掛からない、目的が明白な業務へ一気に付けない
とのことでした。

基本的に世の中、「睡眠薬」を飲んでいることが問題なのでしょうか。モノマニーと定義付けられ、治療の方針はどうなるのか。病院へ行っても、デパケンRを出されるだけです。また、精神科の病院へ行くが診察時間は非常に短く、「診察」とはいきません。

睡眠薬を服用している。モノマニーと定義された。モノマニー自身の意味が良く解らず、睡眠薬を問題にされ、しっかりとした病院通いを行うように言われている。普通に病院へ行っても、診察は長くても15分程度という状況でどのように対応すべきかにおいて考えております。

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