【歌舞伎】時蔵の八重垣姫がよかった(2008年4月歌舞伎座昼の部)
4月の診療報酬改定などの医療制度改正に伴うどたばたもようやく一段落。疲労がたまって頭がぼーっとしています。4月の歌舞伎座は仁左衛門と玉三郎というロイヤル・コンビですが、寝てしまいそうないやな予感がします。
まずは「本朝廿四孝」の「十種香」。「本朝廿四孝」は1766年(明和3年)に人形浄瑠璃として初演され、同年に歌舞伎に移された作品。「十種香」は、歌舞伎の三姫のひとつの八重垣姫が登場いたします。歌舞伎初心者のぽん太は、これでようやく三姫を全部みることができました。ああ、うれしや。
で、時蔵の八重垣姫がすばらしかったです。蓑作(実は勝頼)をかいま見て「ヤア我が夫か、勝頼様」と思わず飛び出しそうになり、次の瞬間勝頼は既に切腹したのだと気がついて、いくら似ているとはいえ他人に一時でも心をときめかしたことを恥じ、亡き勝頼公の絵姿に向って一心不乱に手を合わせる出だしからして、若い姫様のうぶで純真な気持ちが感じられました。その後も、濡衣と蓑作の関係を疑っての嫉妬、濡衣に蓑作との仲立ちを頼んで照れる姿、赤の他人に恋心を打ち明けてしまったことを恥じて殺して欲しいと迫る武家の姫君らしい毅然とした態度、父が勝頼を殺そうとして追っ手を放ったことを知って不安と憂いをたたえた表情など、最初から最後まで引きつけられました。橋之助の勝頼は美しい。錦之助の白須賀六郎の若武者振りもりりしかったです。
「熊野」(ゆや)は、おそらくは今回の目玉ですが、お昼のお弁当も手伝って意識が断続的となりました。舞台中央にいた玉三郎が、次の瞬間花道にワープしていたりして、このような超能力をいつの間に身につけたのか、などと混濁した意識で考えながら鑑賞。切れ切れの記憶のなかで、玉三郎の抑制した表情と、仁左衛門の熊野に対する愛情が、印象に残っております。
「刺青奇偶」は、周囲の人たちはハンカチで目を拭い、客席のあちこちからすすり泣きが聞こえてくるという熱演でしたが、ぽん太はあまり感情移入できませんでした。第一幕は、これまで不幸な人生を送って来たお仲が、男らしい半太郎に惚れるという場面で、おおいに笑わせていただきました。能楽+世話物(お笑い付き)というのが最近の玉三郎のパターンか? 第二幕は、一転して半太郎が博打好きの困ったちゃんで、お仲は死病に冒されながらも夫に恨み言ひとついわない貞淑な女房となります。このぐらいの矛盾は歌舞伎ではよくあることです。博打をやめて欲しいという願いを込めて、お仲が半太郎の腕にサイコロの刺青を彫る所が見せ所。しかしぽん太は、「好き勝手なことをする夫が、優しい妻に赦してもらえる」というよくあるプロットがベタすぎて、感動できません。第三幕は、半太郎と鮫の政五郎の男同士の大勝負です。しかし半太郎の「人並みの家財道具を揃えた家で女房を死なせてやりたい」という気持ちがよくわかりませんし、その話しのどこにほだされて政五郎が半太郎と大勝負をする気になったのかもわかりません。それに、あれほどお仲がやめてほしいと言っていた博打で得た金で家財道具を揃えたとしても、お仲は喜ばないんじゃないかと思うのですが、タヌキのぽん太には人間の感情はなかなか難しくて理解できません。勘三郎、玉三郎、亀蔵、仁左衛門、個々の演技は絶品。
歌舞伎座 四月大歌舞伎 昼の部
一、本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)
十種香
八重垣姫 時 蔵
武田勝頼 橋之助
白須賀六郎 錦之助
原小文治 團 蔵
腰元濡衣 秀太郎
長尾謙信 我 當
二、熊野(ゆや)
熊野 玉三郎
従者 錦之助
朝顔 七之助
平宗盛 仁左衛門
三、刺青奇偶(いれずみちょうはん)
半太郎 勘三郎
お仲 玉三郎
荒木田の熊介 亀 蔵
赤っぱ猪太郎 錦 吾
太郎吉 高麗蔵
鮫の政五郎 仁左衛門
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