【歌舞伎】仁左衛門の弁慶・玉三郎の義経に見とれる(2008年4月歌舞伎座夜の部)
歌舞伎座夜の部のお目当てはなんといっても『勧進帳』。仁左衛門が荒事の代表の弁慶をどう演ずるか、玉三郎の義経がどれほど美しく高貴か、いやでも期待が高まります。玉三郎、仁左衛門が花道に姿を見せるたびに、盛大な拍手が起こって鳴り止まず、会場も異様な熱気につつまれています。
仁左衛門の弁慶は、大きさや迫力はもちろんのことですが、仁左衛門特有のやわらかさと色気が荒事に消し飛ばされることなく、演技に優美さを与えていました。一般に弁慶は力強さを強調するあまり、演技が大げさで様式的になりがちですが、仁左衛門は過度な表現を抑えて、どちらかというと写実的に演じていました。例えばとかく仰々しい動作になりがちな、葛桶の蓋で酒を飲むシーン。ふーっとお酒を吹くところも大げさにせず、酒を飲み干すところでも蓋をぐるぐるとまわしたりはしません。また、細かな心理をしっかり表現していました。たとえば勧進帳を読み終えて富樫の反応を待つ間の緊張感、富樫が「勧進帳聴聞の上は、疑いはあるべからず」というのを聞いて、ほっとすると同時にどうだとばかりに帰ろうとするさま、次いで富樫の「さりながら」という言葉でハッとするあたり……。セリフも聞き取りやすく明瞭で、心理的な駆け引きのドラマとしての面白さが浮き彫りになっておりました。
玉三郎の義経は、貴品と美しさは言うまでもなし。最初の花道でのセリフはなんかもっさりしている気がしましたが、弁慶に手を差し伸べるところの優美さと憂いには、思わず口を開けて見とれてしまいました。
それと宿題の檀特山ですが、今回はきっちり聞き取れました。
いや〜、いいものを見たという感じの『勧進帳』でしたが、その他の演目は『勧進帳』の前後に「泣き」と「笑い」。『将軍江戸を去る』ですが、三津五郎・橋之助は熱演だったものの、ぽん太は真山青果の脚本は、『元禄忠臣蔵』もそうですが、あんまり好きじゃありません。「尊王であって勤王ではない」などセリフが理屈っぽいし、舞台上におじさんが大勢並んで「ううう」と泣き崩れている様子は美しくありません。『浮かれ心中』はおかしかったが、ただおかしいというだけの演目。三津五郎は何でもできる役者だなぁと改めて感動しました。
歌舞伎座 歌舞伎座百二十年 四月大歌舞伎
夜の部
一、将軍江戸を去る(しょうぐんえどをさる)
徳川慶喜 三津五郎
高橋伊勢守 彌十郎
宇佐見常三郎 巳之助
間宮金八郎 宗之助
天野八郎 亀 蔵
山岡鉄太郎 橋之助
二、歌舞伎十八番の内 勧進帳(かんじんちょう)
武蔵坊弁慶 仁左衛門
富樫左衛門 勘三郎
亀井六郎 友右衛門
片岡八郎 権十郎
駿河次郎 高麗蔵
常陸坊海尊 團 蔵
源義経 玉三郎
三、浮かれ心中(うかれしんじゅう)
中村勘三郎ちゅう乗り相勤め申し候
栄次郎 勘三郎
おすず 時 蔵
大工清六 橋之助
三浦屋帚木 七之助
お琴 梅 枝
番頭吾平 亀 蔵
佐野準之助 彌十郎
太助 三津五郎
伊勢屋太右衛門 彦三郎
最近のコメント