【オペラ】良くも悪くもペーター・コンヴィチュニー『アイーダ』
大雨のなか、渋谷のオーチャード・ホールにヴェルディの『アイーダ』を観に行ってきました。なんかぽん太とにゃん子がオーチャード・ホールに行くときは、雨が多いような気がします。
演出家のペーター・コンヴィチュニーは、2006年の4月にモーツァルトの『皇帝ティトの慈悲』(二期会)を観たことがありますが、皇帝ティトがトイレの中でアリアを歌ったりして、あまりにおちゃらけた演出にびっくりした記憶があります。ぽん太はコンヴィチュニーと聞くと、父親の指揮者フランツ・コンヴィチュニーの方が頭に浮かびます。ライプツィッヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団とのコンビは「いぶし銀」サウンドと評されました。父はいぶし銀、子どもはスキャンダラス、親子でかくも違うものか。『アイーダ』は、2005年にプラハ国立歌劇場を東京文化会館で観劇中に地震に遭遇して以来、今回が2回目です。
幕が開くと、とっても狭苦しい白いキューブ状の空間しかありません。中央に赤いソファが置かれ、下手にドアがあります。物語のほとんどすべてがこのちいさな空間のなかで展開します。服装もラダメスは白いシャツに白いズボン、アイーダはメイド服。壮大なスケールのグランド・オペラが、コメディ風室内劇になってました。
あの有名な凱旋の場も、音楽こそ2階客席の両側に配置された金管がファンアーレを吹き鳴らし、普通以上に壮大なサウンドでしたが、舞台上では狭い室内のなかで、国王とアムネリスとランフィスの3人が、クリスマスパーティーよろしく乱痴気騒ぎをするだけです。しまいには3人がそろってビリビリ感電しているような仕草をしますが、何のことだかちっともわかりません。「あの勇壮なスペクタクル・シーンをよくもこんなにしやがって!」と笑いがこみ上げてきます。
第1幕で軍隊の指揮官に選ばれたラダメスにアムネリスが与えるのは、軍旗ではなくゾウのぬいぐるみです。帰還してきたときにはぬいぐるみがぼろぼろになっており、戦闘の激しさを物語っています。
第3幕になると、白い部屋の壁に、スフィンクスとピラミッドとヤシの木の写真が投影されますが、そのいかにもエジプトという絵葉書のような風景は、「はいはい、君たち観客はエジプトの風景が見たかったんでしょ、そんなにみたけりゃ見せてあげますよ、これで文句ないでしょ」とコンヴィチュニーにからかわれているかのようです。
最後の地下牢のシーンでは、キューブがアムネリスによって壊され、舞台の一番奥に東京(?)の夜景の動画が映し出されます。アイーダとラダメスがビルの屋上で歌っているような感じです。東京が牢獄だと言いたいのでしょうか?
こうして書くと、ずいぶんおちゃらけたひどい演出のように思えるかもしれませんが、実際に観た印象は、モダンでセンスがあり、アイディアに満ちていてすばらしかいものでした。余分なスペクタクルを排して小さな空間で物語が繰り広げられることで、主要な登場人物の微妙な関係や心理が、とてもよくわかりました。終盤に近づくと余分なおちゃらけが減って、感情移入することができました。カーテンコールでコンヴィチュニーが登場すると、ブーイングとブラボーが両者入り乱れておりましたが、良しにつけ悪しきにつけ注目を集める力がある人のようです。
歌手について論評する能力はぽん太にはありません。ネーグルスタッドとヤン・ヴァチックの最後の二重唱は、イタリアオペラ的な仰々しさを微塵も感じさせず、崇高で哲学的でした。ぽん太は、『アイーダ』の十数年前に初演されたという『トリスタンとイゾルデ』のラストを思い浮かべました。
ペーター・コンヴィチュニー演出
ヴェルディ「アイーダ」
公演日程:2008/4/17(木)
オーチャード・ホール
(全4幕・イタリア語上演・日本語字幕付)
指揮:ウォルフガング・ボージチ
演出:ペーター・コンヴィチュニー
美術:ヨルク・コスドルフ
衣装:ミヒャエラ・マイヤー=ミヒナイ
管弦楽:東京都交響楽団 合唱:栗友会
出演:コンスタンティン・スフィリス(王) イルディコ・スェーニィ(アムネリス) キャサリン・ネーグルスタッド(アイーダ) ヤン・ヴァチック(ラダメス) ダニロ・リゴーザ(ラムフィス) ヤチェック・シュトラウホ(アモナスロ) ウルリケ・ビヒラー=シュテフェン(巫女)
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