« 2008年11月 | トップページ | 2009年1月 »

2008年12月の17件の記事

2008/12/26

【バレエ】間近で観るとすごい迫力・Kバレエの『くるみ割り人形』

 なんと席が最前列でした。にゃん子がファンクラブに入ったおかげか?しかもオーケストラピットなし。ということは、目の前数メートルでダンサーが踊っているわけです。
 近すぎて見づらいという面もありますが、とにかくぽん太は、生まれて初めて間近で観るダンスの大迫力にびっくり仰天いたしました。
 これまでジャンプが低いとか偉そうに言っててごめんなさい。これまで回転が遅いとか偉そうに言っててごめんなさい。これまで足が開かないとか偉そうに言っててごめんなさい。これまで踊りが硬いとか偉そうに言っててごめんなさい。
 これまではバレエは遠くの席から観ていたので、なんか別世界を眺めている感じだったのですが、こうして近くから見てみると、ぽん太と同じ生身の人間がこんなすごいパフォーマンスをしていたのかと、改めて驚きました。ぽん太には決してできません(あたりまえか……)。
 ジャンプ、回転、手足の動き、表情の表現、どれをとってもスゴイの一言。バレエ・ダンサーって、こんなにスゴイ人たちだったんだ。
 ぽん太は、最初から最後まであんぐり口を開けたまま、ただただボーゼンと観ていました。

 Kバレエの『くるみ割り人形』は3回目。音楽はすばらしいけど話しがつまらないことで有名な原作を、ストーリーの面白さを重視して改訂した熊哲版です。ただ第一幕は、美しいチャイコフスキーの音楽が、つぎはぎになってしまっているのが残念。マリー姫が天使(?)に導かれてクリスマスツリーから出てくるところや、くるみ割り人形がいったん王子様に戻ったと思ったら、またくるみ割り人形に戻ってしまったりするところは、ちょっと意味がわかりませんでした。それにドロッセルマイヤーが人形劇でこれまでのいきさつを述べるシーンがあるのだから、序幕の王子とマリー姫が変身させられるくだりは不要では?せっかくのチャイコフスキーの美しい序曲が寸断されてしまいます。
 音楽は録音。原作をかなり脚色していることと、赤坂ACTシアターという会場もあいまって、古典バレエというより、クラシック・バレエ団を使ったイベントという印象でした。TBSとの関係も含め、Kバレエが今後、どういう方向に進んで行くのか。ぽん太としては、「イベント」系もあってもいいですが、本格的なクラシック・バレエでもファンをうならせて欲しいです。

 以前に海賊でノーブルなアリを踊った遅沢佑介と松岡梨絵のコンビはお見事のひとこと。以前にも観た神戸里奈のクララちゃんは、とてもかわいらしかったです。特にスチュアート・キャシディとのパ・ド・ドゥは、柔らかな衣裳と軽やかなリフトで、まるで空を飛び交っているかのようでした。花のワルツの東野泰子さん笑顔が愛らしい。中国人形の副智美さん、コミカルなダンスですが、細かな動きやポーズの正確さが光ってました。ロシア人形の片方の人(名前不明)、ジャンプ力がすばらしい。全体にKバレエのダンサーは、この前観た新国立劇場バレエ団と比べると、アピールが上手な気がしました。

 問題を感じたのは、公演の後の遅沢くん、松岡さんとの握手会。ホールを出たときまだあまり人がならんでいなかったので、時間がかからないだろうと思って並んでみたのですが、二人が着替えて出てくるまで、小一時間待たされました。最初から一時間待つと聞いていたら、巣穴までの道のりの遠いぽん太は並ばなかったのに。せっかくいい気分だったのに、ちょっと待ちくたびれました。それでも生の松岡さん(と遅沢くん)は、奇麗でかっこよかったです。松岡さんは、両手でしっかりとぽん太の手を握ってくれました。惚れてまうやろ〜!
 

『くるみ割り人形』 The Nutcracker
Tetsuya Kumakawa K-BALLET COMPANY
2008年12月23日夜、赤坂ACTシアター

ドロッセルマイヤー Herr Drosselmeyer :スチュアート・キャシディ Stuart Cassidy
マリー姫 Princess Marie :松岡梨絵 Rie Matsuoka
くるみ割り人形 The Nutcracker / 王子 The Prince :遅沢佑介 Yusuke Osozawa
クララ Clara :神戸里奈 Rina Kambe
人形王国の王様 The Doll King / Dr.シュタールバウム Dr.Shtahlbaum :ショーン・ガンリー Sean Ganley
人形王国の王妃 The Doll Queen / シュタールバウム夫人 Mrs.Shtahlbaum :天野裕子 Yuko Amano
ねずみの王様 The Mouse King :スティーブン・ウィンザー Steven Windsor
フリッツ Fritz :酒匂麗 Rei Sakoh
【第1幕4場 (雪の国) ActI Scene4 (The Land of Snow)】
雪の女王 The Queen of Snow :樋口ゆり Yuri Higuchi
雪の王 The King of Snow :輪島拓也 Takuya Wajima
粉雪 Snowflakes: 副智美 Satomi Soi / 湊まり恵 Marie Minato / 中村春奈 Haruna Nakamura / 渡部萌子 Moeko Watanabe
【第2幕 (人形王国) ActII(The Land of Dolls)】
花のワルツ Valse des Fleurs :東野泰子 Yasuko Higashino / 白石あゆ美 Ayumi Shiraishi / 輪島拓也 Takuya Wajima / 西野隼人 Hayato Nishino
アラビア人形 Arabic Dolls :樋口ゆり Yuri Higuchi / ニコライ・ヴィユウジャーニン Nikolay Vyuzhanin / 石黒善大 Yoshihiro Ishiguro
スペイン人形 Spanish Dolls :浅野真由香 Mayuka Asano / 木島彩矢花 Sayaka Kijima / 小山憲 Ken Koyama / 内村和真 Kazuma Uchimura
中国人形 Chinese Dolls :副智美 Satomi Soi 小林由明 Yoshiaki Kobayashi
ロシア人形 Russian Dolls :荒井英之 Hideyuki Arai / 長島裕輔 Yusuke Nagashima
フランス人形 French Dolls :中谷友香 Yuka Nakatani / 湊まり恵 Marie Minato / 山口愛 Ai Yamaguchi
客人/子供たち/ねずみたち/兵隊/粉雪たち/花のワルツ コール・ド・バレエ 他 Artists of K-BALLET COMPANY
Ladies/Gentlemen/Children/Mice/Soldiers/Snowflakes/Valse des Fleurs
人形劇 / 天使 Puppet Play / Angel K-BALLET SCHOOL
●芸術監督 Artistic Director 熊川哲也 Tetsuya Kumakawa
●演出・振付 Production / Choreography 熊川哲也 Tetsuya Kumakawa
●原振付 Original Choreography レフ・イワーノフ Lev Ivanov
●オリジナル台本 Original Scenario マリウス・プティパ Marius Petipa
●音楽 Music ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー Peter Ilyich Tchaikovsky
●舞台美術・衣裳 Set and Costume Design ヨランダ・ソナベンド Yolanda Sonnabend / レズリー・トラヴァース Leslie Travers
●照明 Lighting Design 足立恒 Hisashi Adachi

2008/12/24

【バレエ】クリスマスの夢のような『シンデレラ』新国立劇場

 新国立劇場に『シンデレラ』を見に行ってきました。公式サイトはこちら
 最初はアリーナ・コジョカルが踊ると聞いて切符を買ったのに、怪我のためラリーサ・レジニナに変更。しかし彼女も初日の上演中に負傷して途中降板。本日のシンデレラはさいとう美帆が踊ることになりました。う〜〜ん。ダンサーに怪我はつきもの。残念だけど仕方がない……。仕方がないけど、残念です。

 第一幕。さいとう美帆を初め、新国立のダンサーたちは見事に踊ってはいるのですが、なんか、「をを」と引きつけられるものがありません。まったりと時間が過ぎて行きます。2幕目になって、王子のヨハン・コボー(公式サイトはこちら)が登場すると、さすがに舞台が引き締まります。いったいどこがちがうんだろ〜。たいしてジャンプが高いわけでもないのに……。そんなことを考えながら舞台を観ていました。バレエ初心者のぽん太には技術的なことはまったくわからないのですが、コボーだと、一つひとつの動作やポーズに感情がこもっているというか、表情があります。日本人のダンサーは、確かに上手に手足を動かしているのですが、それが「バレエの決まりだからそう動かしている」という感じで、内面から感情を伴って出て来た自然な動作になっていないような気がします。可愛い子犬をみて思わず手が伸びる動作と、その動作だけを真似ているのとの違いと申しましょうか。これはダンサーの上手下手という問題だけでなく、そもそもバレエの動きが、西洋人の身体言語になじむように作られているのかもしれません。
 2幕目の舞踏会の群舞は、迫力があってなかなよかったです。また、先日『アラジン』でお見かけした八幡顕光の道化も、飛ぶは廻るは大健闘。

 『シンデレラ』は初めて観る演目でした。振付けがアシュトンで、音楽はプロコフィエフとのこと。幕開きから登場する男性ダンサーが扮した二人の女性は、滑稽な魔女といった感じで、この人たちがシンデレラの義姉と気づくまで3分かかりました。全体にアシュトンの振付けは洗練されていてちょっとコミカルでオシャレでした。1幕目の最後、きらびやかなカボチャの馬車が上手から現れたかと思ったら、舞台を一周してまたたくまに下手に消えて行ってしまいました。せっかくゴージャスなセットなのですから、もっとじっくりと見たかったです。ラストシーンは、闇のなかキャンドルの灯に満天の星空。キラキラと星が降り注いで美しかったです。年末の祭日ということで客席に目立った子供たちには、小さかったころの夢のような記憶として、一生こころに残ることでしょう。
 子供たちといえば、ロビーにサンタがいたり、ネイルアートのコーナーがあったりして、クリスマスの雰囲気を盛り上げていました。「国立」でもこんなサービスができるんですね。
 プロコフィエフの音楽はさすがにすばらしいのですが、なんか『シンデレラ』には合わない。「暗い情念」と「鬼気迫る雰囲気」を感じてしまいます。舞踏会のシーンで、皆が手にオレンジを持ったと思ったら、『3つのオレンジへの恋』の「行進曲」がちらりと流れたりしました。ちなみに「行進曲」をYoutubeで探したら、次のが見つかりました。ヴァイオリンはなんとヤッシャ・ハイフェッツです。ああ、なつかしい。
 ついでに「シンデレラ」の物語について、ちとみちくさ。Wikipediaで調べてみると、民話を元に、ペロー(1628-1703)やグリム兄弟(長兄のヤーコプは1785-1863)が童話にして有名になったそうな。ペローの主人公の名はサンドリヨン(Cendrillon)、グリムではAschenputtelで、どちらも「灰」に関係のある名前で、日本でも「灰かぶり姫」という呼び名もあるそうな。なるほど、だから今日のバレエでも、暖炉の前で一生懸命灰をかき回していたのか。ホントは恐いグリム童話では、義姉たちはなんとかガラスの靴を履こうとして、長女は爪先、次女は踵を自ら切り落とすのだとのこと。さらにラストの結婚式で義姉たちはへつらってシンデレラの両脇に座るが、シンデレラの両肩に止まった白い鳩に目を潰されるのだそうです。おおこわ。このヴァージョンならプロコフィエフの音楽に合いそうです。


『シンデレラ』
CINDERELLA
オペラ劇場
2009年12月23日(夜)

【振 付】フレデリック・アシュトン
【作 曲】セルゲイ・プロコフィエフ
【監修・演出】ウエンディ・エリス・サムス
【指 揮】デヴィッド・ガルフォース

【シンデレラ】さいとう美帆
【王子】ヨハン・コボー
【義理の姉たち】マシモ・アクリ、井口裕之
【仙女】川村真樹
【父親】石井四郎
【春の精】小野絢子
【夏の精】西川貴子
【秋の精】遠藤睦子
【冬の精】寺島ひろみ
【道化】八幡顕光
【ナポレオン】 伊藤隆仁
【ウェリントン】貝川鐵夫
【王子の友人】陳 秀介、冨川祐樹、江本 拓、中村 誠

新国立劇場バレエ団
東京フィルハーモニー交響楽団

2008/12/23

【舞台】不思議ワールド炸裂なれどちと物足りなかった・『ある女の家』小野寺修二カンパニーデラシネラ

 小野寺修二の新作『ある女の家』を観に三茶にいってきました。バレエダンサー首藤康之を目当てに前作の『空白に落ちた男』を観て、すっかり小野寺ワールドに魅了されたのです。ちなみに小野寺修二の公式サイトはこちらです。
 隣りの世田谷パブリックシアターは何回か行ったことがありますが、シアタートラムは初めて。ちょっと椅子が固くてお尻が痛くなりましたが、とっても素敵な小劇場でした。そういえばここって、どこが運営しているんだろう。世田谷区営かしら?ググってみると、財団法人せたがや文化財団というところのようですが、まあ、一種の「区立」みたいなものと思っていいのでしょうか。さすが世田谷区はオシャレでリッチですね。
 で、舞台の感想ですが、正直言うと、期待が大きかっただけにちょっと物足りなかったです。前作に比べ、動きの面白さ、ストーリー性、不条理さ、情感、舞台セットなど、どの点でもイマイチだったように思えます。『空白に落ちた男』の、歩いて行くと次々に道ができていくネタ、今回も見たかったな〜。
 とはいえ、もちろん今回も小野寺ワールドが炸裂!一つ目は、小さな家のセットをずらしたり回転させたりし、それに合わせて中に入っている人が動いたり、人が入れ替わったりするところ。この家は骨組みだけでできているので、まるでコンピューター・グラフィックスによるワイヤーフレーム図形の座標変換を見ているみたいで、登場人物がCGの世界に紛れ込んだかのような不思議な印象を受けました。小野寺は『空白に落ちた男』では、無数の本棚を動かしたり傾けたりすることによって、曲面状に波打つ歪んだ空間を見せてくれましたが、今回の座標変換も面白かったです。
 ぽん太が気に入った小野寺ワールド二つ目は、舞台の終わり近く。4人の登場人物が椅子やテーブルなどの小道具も利用して、もたれあったり引っ張り合ったりしつつ、次々と相手や小道具を変えていく場面。例えば、ある人物が椅子を支えにして体を回転させて行くが、次の瞬間椅子の換わりに他の人物の足が支えとなり、その椅子は移動されて別の人を支えているなど……(う〜ん、言葉でうまく表現できない)。ぽん太は、昨年ギエムとマリファントが踊った「Push」というバレエを思い出しました。
 浅野和之や河内大和は二人ともすばらしいパフォーマンスを見せてくれたものの、マイムの訓練を積んできたわけではないので、どうしても動きがぴったりきません。マイムの基本の「か、壁だ」というヤツも、マイムの訓練を積んだ人がやるのと、素人が真似をするのでは、歴然とした差があります。ですからぽん太が小野寺に期待したいのは、他分野のゲストのフィーチャリングもいいですけど、マイムの訓練を受けた人たちからなる自前の劇団を作り、日頃から練習を積み重ねた上で、小野寺ワールドを表現して欲しいです。
 早回しや遅回しの芸が上手だった浅野和之さん、どっかで見たと思ったら、三谷幸喜の映画『ザ・マジックアワー』で(本物の)デラ富樫を演じていた人か〜。

小野寺修二カンパニーデラシネラ 新作公演『ある女の家』
シアタートラム・2008年12月21日
【作・演出】 小野寺修二
【出演】 浅野和之、河内大和、藤田桃子、小野寺修二 

2008/12/20

【ぐち】サプリメントを飲んでいいかは、主治医に聞くのではなく、売っている会社が判断すべき

 年末の忙しさで、グチっぽくなっているぽん太です。以下はまたしてもタヌキの世界の話しですが…

 患者さんよりのご質問。「××というサプリメントを飲みたいんですけど、飲んでもいいでしょうか?」
 ぽん太「ちょっとわかりませんね〜。サプリメントを売っている会社に聞いてみたらどうですか?」
 患者さん「だって、説明書に医療機関を受診している人は医師に相談して下さいって書いてあるんですよ」

 なんで医師が、サプリメントを飲んでいいかどうかを、判断しなくちゃいけないのでしょうか?どうしてサプリメントの売り上げのために、ぽん太が無償で手伝わなくてはならないのでしょうか。
 実際に「サプリメント 医師に相談」でググってみると、無数のサイトがヒットします。しかしぽん太は、サプリメント会社から、「こんどこういう人たちが相談にいくけどいいですか?」と頼まれた覚えもなければ、「いいですよ」と引き受けた覚えもなく、さらに一円の報酬ももらっておりません。
 市販のサプリメントは、複数の成分が混ざっていたりします。まずネットで成分を調べ、その一つひとつに対して、処方している薬との飲み合わせや、疾病に対する影響の有無を調べる必要があります。それには結構な時間が必要です。調べてもよくわからない成分が混ざっていたりします。また調べたとしても、「飲んではいけないという証拠は見つからない」ということは言えますが、「飲んでいい」とは言えません。「飲んでいい」と言って、もしも副作用や事故が起きた場合、訴訟を起こされることも覚悟しないといけないのが、現在の医療の状況です。
 病気の治療のために必要な薬剤の飲み合わせのチェックや、通常の食料品の摂取の可否のチェックは、もちろん喜んでお手伝いいたします。しかし会社が利益のために、健康な人を対象に市販しているサプリメントを、医師が保険診療でチェックし、飲んでもいいことを保証しなくてはいけない理由は、タヌキのぽん太にはわかりません。販売している会社が医師なり薬剤師なりを置いて、購入者の質問に答え、副作用や事故が起きたときは責任を取るのが筋だと思います。あるいは、医師の余計な仕事の分だけ、サプリメント会社が医療費を負担すべきだと思いますが、ぽん太は間違っているのでしょうか(たぶん、間違っているのでしょう)。

 (12/21付記:テレビCMで見たのですが、ファンケルなどは、ちゃんと電話やメールで薬との飲み合わせをチェックしてくれるようです)。

2008/12/18

【ぼやき】救急医療雑感

 タヌキの世界の話しですが、繰り返される「妊婦たらい回し」事件をきっかけに、周産期を中心とした救急医療に対する社会的関心が高まっているようです。出産時をはじめとし、緊急時に直ちに適切な医療を受けられないことに対する不安と不満が、社会的に共有されてきたようです。これが医療の充実のきっかけとなればいいのですが。
 しかし一方で、不足しているのは「救急」医療だけではないぞ、とぽん太は思うのです。われわれの健康を向上させるためには、救急だけでなく、通常の医療や、介護・福祉も含む、さまざまな面で改革を重ねていく必要があります。「救急」あるいは「周産期」医療にばかり世間の目が向けられ、そこに重点的な予算が振り向けられることで、逆にほかの分野での質の低下が生じるのではないかという心配があります。

 救急医療の充実といっても、こんかいの動きからは「精神科」救急は除外されているようです。またしても精神科は蚊帳の外か、とぽん太は思いました。
 現在「精神科」救急のシステムは十分に機能しているとはいえません。みなさんは「救急」といえば119番に電話すればいいと思っているかもしれませんが、精神科の場合は、一般には救急車は対応してくれません。東京都の場合、東京都保健医療情報センター(ひまわり)に電話することになっておりますが、ホームページを見ても電話番号がありません(「各種相談窓口」というリンクをたどると見つかります。さあ、みなさん、探してみて下さい)。ようやく見つけて電話をかけると、自動応答テープが流れ、「コンピューターによる自動医療機関案内は1を、担当者による保健医療福祉相談は2を……」などというメッセージが流れます。この時点で、「電話をしたけど、なんかテープが流れていて……」と挫折したひとをぽん太は知っています。だいたい、家族が夜中に入院先を探す状況では、頭も混乱し、震える手で電話機のボタンを押すのもやっとという状況でしょうから、テープによる自動応答はかなり不親切です。119番に電話をしたら、「火災の消火等をご希望の方は1を、疾病によって病院への搬送をご希望の方は2を……」などというテープが流れて来たら、まずいんじゃないでしょうか。質の悪いサポートセンターじゃないんですから。少なくとも、精神科救急の電話番号を独立させることはできないのでしょうか?

 さて、ようやく電話がつながって、家族の入院を希望しても、帰ってくる返事は、「精神科救急では警察沙汰にならないような軽い患者は見ません。暴力を振るったり器物破損をしたら、警察を呼んで、精神科救急を受診して下さい」というものだそうです。これはあくまでも「ウワサ」で、ホントかどうか知りませんよ。それに、実際にこのような言い方をするのかどうかもわかりません。しかし、何人かの患者さん(の家族)の話しでは、ひまわりに電話をしたところ、「警察が関わる状態にならないとダメだ」と断られたそうです。
 ケース1。幻覚妄想状態で、「悪魔が憑いている」と、飼い犬の喉をカッターで切った。ひまわり「次に何かしたら警察を呼んで連れて来て下さい」(次は人の喉か!?)。
 ケース2。以前に幻覚妄想状態で自宅に放火をしたことがある患者さん。「苦しくてなにかしでかしそうなので入院したい」。ひまわり「実際に何かしたら警察を呼んで連れて来て下さい」(放火をしたら!?)。
 ということで、少なくとも東京(のタヌキ)の精神医療・福祉・当事者・家族のあいだでは、「ひまわりの精神科救急は犯罪を犯さないと入院できない」と言われています。事実かどうかわかりませんが。「病人」は入院させないが、「病人+犯罪者」になったら入院できるわけです。このアドバイスは「犯罪教唆」に当たるのではないか?なんとか他人に迷惑をかけたくないと願っている患者さんや家族にとって、「警察沙汰」になったら入院させるというのはいかがなものでしょう。
 羽藤邦利の「東京の救急の現状、課題、打開策」(『精神医療』51号[第4次]、2008年7月、批評社)を読んでみると、NPOメンタルケア協議会の行った平成19年の「ニーズ調査」によると、東京都の精神科関連施設の「最近の1〜2年で最も困った出来事」158例のうち、最終的にひまわりを利用したのはわずか11例(7%)で、35例はひまわりを利用しようとしたが利用できなかったそうです。また、精神科診療所の「最も困った例」59例に関していえば、ひまわりを利用したのがわずか5例で、残り54例はひまわりを使わずに対応したわけですが、そのうち34例はなんらかの形で入院となったそうです。つまり入院が必要だった39例のうち、ひまわりが対応したのはたったの5例(13%)ということになります。もちろん平日昼間に入院が必要になった場合、ひまわりを使わずに入院先を探すのが普通ですが、それでもこの数字は低すぎるのでは?

 ちなみに東京都の精神科救急システムは、東京都保健医療情報センター(ひまわり)に電話をすると、ひまわりのなかの「東京都精神科救急医療情報センター」が対応をするのですが、このセンターを運営しているのが上述のNPOメンタルケア協議会です(公式サイトはこちら)。その結果、いわゆるハードなケースには、墨東、松沢、豊島、府中の都立4病院があたり、ソフトなケースには当番制の病院や診療所が担当しているようですが、このへんのトリアージ(患者さんの振り分け)や、警察官通報によらない入院の扱いがどうなっているのか、組織に属さない一匹タヌキのぽん太にはよくわかりません。
 こちらのpdfファイルの、NPOメンタルケア協議会の「東京都救急医療情報センター、平成19年度実績報告書」によると、二次救急が年間298例あり、グラフから見てその8割くらいが入院したようですが、これが警察沙汰にならずに入院できたケースでしょうか?東京と福祉保険局のページ東京都の救急医療体制を見てもよくわからないし、もう少し情報開示をお願いしたいところです。

 仮に噂通り警察沙汰にならないと救急入院ができないのだとしたら、医療と司法が結びついていることにならないでしょうか。東京都に1978年に精神科救急医療システムが作られたとき、保安処分などの問題とも絡んで、医療と司法の関係が様々に議論されました。「救急」は「医療」が必要な人に対して行われるべきであり、社会的に問題を起こした人を対象とするものであってはならないという意見がありました。このときは少なくとも建前上は「司法」と切り離された「医療」として精神科救急がスタートしたと理解しているのですが、いつの間にか何の議論もされないまま、なし崩し的に医療と司法が再び癒着し、犯罪を犯さないと入院できない、あるいは入院しにくいシステムになっていたとしたら、大きな問題です。
 精神障害者の人権に関してさまざまな批判を行っている諸々の団体が、この点に関してはまったく無頓着でいるのがぽん太には不思議です。
 「東京都の精神科救急は警察沙汰にならないと入院できない」というのが、都市伝説であって欲しいと願うぽん太です。

2008/12/17

【薬理】抗精神病薬のヒト脳組織での各種受容体に対する親和性

 受容体の親和性の表は、ときどき参照するのですが、論文を保存しておくのが面倒なので、私的なメモ代わりにアップしておきます。ごめんなさい。
 ちなみにしばしば、こうした受容体親和性を用いた、病態や薬効のまことしやかな説明がなされていますが、それらのほとんどは「仮説」であることに注意しておきましょう。例えば、最近よく使われる抗うつ剤(SSRI)は、うつ病の原因はセロトニン系の神経伝達物質の低下によるものであり、それを正常化することでうつ病が改善すると説明していますが(例えばこちら)、これらはすべて「仮説」です。

ヒト脳組織での各種受容体に対する親和性(Ki;nM)
haloperidolclozapinequetiapineolanzapinerisperidone
D22.6210770203.8
5-HT1A1800160300610190
5-HT1D401305601503.9
5-HT2A612.6311.50.15
5-HT2C47004.835004.132
α1176.88.1442.7
α260015802808.0
H12603.1190.095.2
mACh>100009.0140036>10000
Richelson,E. and Sounder,T. :Life Sci.,68:29-39,2000.より引用・改変した表を、Takeuchi,T. and Nishikawa,T. :Jpn.J.Clin.Psychopharmacol., 11:921-928,2008から引用。

2008/12/16

【ジャズ】大人のクリスマス/SADAO PLAYS AFRO SAMBA~Dedicated to Baden Powell~

 渋谷のオーチャードホールに渡辺貞夫を聞きにでかけました。恥ずかしながら、渡辺貞夫を生で聞くのは初めてです。
 「SADAO PLAYS AFRO SAMBA」というタイトルからすると、ブラジルの音楽をやる様子。「Dedicated to Baden Powel」という副題ですが、Baden Powelって誰?まさかバド・パウエルじゃないよね、というレベルの初心者のぽん太であります。
 バレエやオペラ、クラシックコンサートではよく訪れるオーチャードホールですが、今宵は小粋な服装のおじさまがたでいっぱいで、いつもとは違った雰囲気です。
 ブラジルの音楽は、なんか沖縄と通じるものがありますね。ジャズ初心者のぽん太もけっこう楽しめました。知ってる曲も何曲かあって、ぽん太が持っているセルジオ・メンデスのボサノバのCDに入ってました。こんかいギターを弾いていたマルセル・パウエルは、バーデン・パウエルの息子さんだそうです。すばらしいギターでした。ファビアーナ・コッツアの歌も迫力がありました。アクセサリーでしょうか、首から碇の鎖のようなものを下げていましたが、恰幅のいい彼女にはとても似合ってました。
 渡辺貞夫からのクリスマス・プレゼントとして、彼が関わっている子供たちの太鼓と合唱を聴くことができました。忙しい中、いろいろな活動をしているんですね、頭が下がります。
 12月の夜、素敵な大人の時間をすごすことができました。


SHISEIDO presents Christmas Gift Vol.16
SADAO PLAYS AFRO SAMBA ~Dedicated to Baden Powell~
2008年12月14日、Bunkamura オーチャードホール
出演者:渡辺貞夫(as,fl)、ファビオ・トーレス(p)、マルセル・パウエル(g)、ロドリゴ・ヴィーラ(b)、サンドロ・アラウージョ(ds)、ドグラス・アロンソ(per)、ファビアーナ・コッツア(vo)

2008/12/15

【オペラ】「ドン・ジョヴァンニ」でモーツァルトの奥の深さを知る・新国立劇場

 新国立劇場に「ドン・ジョヴァンニ」を観に行ってきました。このオペラを観るのは初めてで、これでモーツァルトがダ・ポンテと創った3つのオペラをすべて観たことになります。「コシ」と「フィガロ」を観た段階では、このコンビの特徴は「話しが馬鹿ばかしい」だと思っていたのですが、「ドン・ジョヴァンニ」は、馬鹿ばかしさもありながら、崇高さを併せ持つ奥が深いオペラでした。モーツァルトも芸域が広いですね(あたりまえか?)。
 今回の公演は(といっても初めて観たんですけど)、おちゃらけに走らず、格調を保った演出だったように思います。一番印象に残ったのはエレーナ・モシュクのドンナ・アンナでした。ドン・ジョヴァンニの誘惑を受け入れず、殺された父親の復讐を婚約者に託すという、うぶで真面目で主体性のない役どころですが、彼女の初々しさ・高潔さがとても心に響きました。モシュクの歌声もすばらしかったです。反対にドン・ジョヴァンニは、欲望のままに生き、社会秩序や道徳を顧みない、嫌なヤツという印象でした。それが今回の演出によるものなのか、ぽん太の個人的な受け止め方なのか、このオペラを初めて見るぽん太には判断がつきません。オペラをどう解釈するかは観る者の自由かと思いますが、こんかいぽん太の頭の中に浮かんだのは「ドン・ジョヴァンニ=アメリカ合衆国」という図式で、世界中の国々にアメリカ流欲望主義を広めようと、アフガンにちょっかいを出しイラクを口説いたりしていたドン・ジョバンニも、ついにサブプライム問題で地獄に引きずり込まれていったわけです。するとさしずめ日本はレポレッロか?
 ドンナ・エルヴィーラのアガ・ミコライも、ドン・ジョヴァンニに裏切られながらも愛し続け、更生を真摯に訴える姿が胸を打ちました。騎士長の長谷川顯が、迫力あるバスで好演。石像の場面では、ルチオ・ガッロのドン・ジョヴァンニに、互角に対していました。こちらの二期会のページを見ると、長く合唱団の一員だったとのこと。すばらしい人が隠れてたんですね。ファンになりそうです。ツェルリーナの高橋薫子も、素朴で愛らしい庶民の娘を見事に演じていました。
 舞台美術は、モダンでありながら落ち着いており、場面転換の手際も良く、ちょっと東洋風なところもあり、なかなかよかったです。ただ、地獄に堕ちるシーンでたくさんの手が出てくるのは、ちょっと陳腐か?指揮とオケの善し悪しは、ぽん太にはまったくわかりません。
 

「ドン・ジョバンニ」
2008年12月11日・新国立劇場オペラ劇場

【作 曲】W.A.モーツァルト
【台 本】ロレンツォ・ダ・ポンテ

【指 揮】コンスタンティン・トリンクス
【演 出】グリシャ・アサガロフ
【美術・衣裳】ルイジ・ペーレゴ
【照 明】マーティン・ゲプハルト

【芸術監督】若杉 弘

【ドン・ジョヴァンニ】ルチオ・ガッロ
【騎士長】長谷川 顯
【レポレッロ】アンドレア・コンチェッティ
【ドンナ・アンナ】エレーナ・モシュク
【ドン・オッターヴィオ】ホアン・ホセ・ロペラ
【ドンナ・エルヴィーラ】アガ・ミコライ
【マゼット】久保和範
【ツェルリーナ】高橋薫子

【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

2008/12/11

【読書】あなたは欧米派それとも日本派? 石川榮吉『欧米人の見た開国期日本 異文化としての庶民生活』

 以前に新聞の書評欄で見て気になっていた、石川榮吉の『欧米人の見た開国期日本―異文化としての庶民生活』(風響社、2008年)を読んでみました。
 開国期に日本を訪れた外国人たちの残した記録をひもとき、当時の外国人が日本をどのように見て、どのように感じていたかをまとめた本です。
 著者の石川榮吉(1925-2005)は社会人類学、オセアニア民族学が専門で、自身もオセアニアの少数民族のフィールドワークを何度も行っているとのこと。自らの異文化との接触体験を踏まえて、本書は、単なる開国期日本の風俗史ではなく、また外国人の誤解をあげつらうのでもなく、異文化の接触において生じる問題まで視野に入れているところが興味深いです。著者は2005年にこの世を去りましたが、氏の遺稿を須藤健一氏がワープロ化して、本書が生まれたとのこと。その須藤氏があとがきで書いているように、サイードの『オリエンタリズム』と同じ問題意識を持つ本だと思われます。とはいえ、けっして堅苦しい本ではなく、気軽に読むことができます。また、ところどころで著者がもらす現代の風潮に対する批判もおもしろく、エッセイとしても楽しめます。
 ぽん太の個人的興味としては、歌舞伎で描かれている人たちが、実際はどういう生活をしていたのかを知るという楽しみもあります。
 いつものように、興味のある方はじかに本を読んでいただくことにして、ぽん太が興味深かった点の抜き書きです。

 多くの外国人は、日本人の容姿を醜いと感じたようです。特に成人女性の、眉を剃り落してお歯黒をした姿は、彼らの目には醜く映ったようです。一方で若い娘に関しては、美しさや愛らしさを讃えた記述が多いそうです。
 日本人の清潔好きも、外国人を驚かせたようです。入浴の習慣を初めとし、道路の掃除が行き届いていること、住居がこざっぱりとしていることなどです。
 入浴に関しては、お湯の熱さに関する記述も多いそうですが、もひとつ男女混浴だったことへの驚きが大きかったようです。本書によれば、東京で男女混浴が禁止されたが1869年(明治2年)ですが効果は上がらず、1890年(明治23年)に東京で7歳以上の男女混浴の禁止が再度布告されてから、ようやく混浴は姿を消して行ったのだそうです。
 さらには、湯屋から近くの自宅まで、真っ裸で帰る男女がいたそうです。当時は裸は「見てもいいが見つめてはいけない」ものだったようです。しかし、外国人が日本に住むようになると、かれらのぶしつけな視線を嫌って、女性たちは湯屋の帰りもしっかりと着物を着るようになっていったのだそうです。
 吉原などの遊女に関しては、ぽん太も常々歌舞伎を見て疑問に思っておりました。平気で妻や娘を遊郭にやる気持ちがよくわかりませんでしたが、それは外国人も同じだったようです。もちろんヨーロッパにも娼婦はいましたが、日本の売春の特徴として、外国人はおおむね次のような特徴をあげているそうです。(1)幕府に公認された遊郭は、税金を納め、これが幕府の財源となっている。(2)日本の遊女の多くは貧しさのために売られたものであり、彼女には何の罪も責任もないし、社会から非難されることもない。(3)遊女たちは、年季が明けるか、身請け金を支払われた場合には自由のみとなって結婚することも多かったが、その際、過去が問われることはない。(4)幼女期に遊郭に売られた娘は、十五、六歳になって娼妓となるまでのあいだに、行儀作法、読み書き、歌舞音曲、生け花、書道など、高い教養を身につける。浅草の観音堂には遊女の額がかかげられていたそうですが、外国では非難される娼婦が日本では名誉ある身分とされていることに、外国人は驚いたそうです。
 家屋に関しては、日本の家がたいてい開け放ちで、家のものが家事をしていたり、寝そべっているのが丸見えだったそうです。家の中に家具がないことも珍しかったそうで、一般庶民は食事も畳の上に直接食器を起き、また少なくとも下層の庶民は、敷き布団を使う習慣もなかったそうです。
 外国人に対して、江戸時代の庶民が友好的で、親切で、正直な印象を与えたのに対し、幕府の役人や商人には、不誠実で嘘つきで信頼できないと受け止められたようです。役人たちは、のらりくらりと言い訳をして何もせず、倫理的あるいは論理的に問いつめても、意に介さなかったそうです。何かというと雑談をしたりお茶を飲んだりして、時間を無駄にしていたそうです。のらりくらりと責任転嫁して何もしないという役人の伝統は、開国期にはすでに出来上がっていたようですね。
 また、日本人の勤勉さを讃える外国人がいる一方で、日本人が怠惰で悠長で、「時は金なり」という観念がないというヨーロッパ人も多かったようです。当時の日本は「急ぐ」という感覚がなかったようで、いつから日本人は現代のような働き蜂に変身したのか、興味深いところです。
 ぽん太の関係する疾病に関して言えば、眼病と皮膚病が多いことを指摘している西欧人も多いそうです。
 宗教に関しては、日本人は宗教に無関心だと感じた外国人が多いそうです。ハリスの日記には、「この国の上層階級の者は、実際はみな無神論者であると私は信ずる」と書かれているそうです。またオールコックは、一般大衆の中には来世を信じている者もあるが、知識階級は死後の世界を信じていない、と書いています。また浅草寺のように、宗教と娯楽が結びついているというのは、西欧人には理解不能だったようです。
 よくいわれる当時の親子関係に関してですが、子供のしつけが行き届いていて、子供が愛情をもって育てられていることに多くの欧米人が着目しています。モースは、日本の学童が先生を深く尊敬していることに驚き、アメリカだったら「ある学区では、職業拳闘家(ボクサー)でなければ学校の先生は勤まらない」と嘆いたそうですが、現代のわれわれが当時の日本を訪れたら、モースと同じような感慨に浸ることでしょう。

 この本を読んでいると、ある部分では「日本人は今も昔も変わってないな〜」と感じますし、別の部分では「をひをひ、まじかよ!」と、外国人と一緒にツッコミを入れたくなります。同じ著者には、反対に当時の日本人は外国をどう捉えたか、を扱った『海を渡った侍たち―万延元年の遣米使節は何を見たか』という本があるので、そのうち読んでみたいです。

2008/12/10

【バレエ】優美なザハーロワの「白鳥」・ボリショイ・バレエ2008年日本公演

 オーシポワとワシーリエフの「ドンキ」で客席を興奮のるつぼに追い込んだボリショイ・バレエですが、先日はザハロワとウヴァーロフの「白鳥」を観に行ってきました。超絶技巧、元気はつらつの若手コンビの「ドンキ」とは一転した、大人のムードと色気が期待されます。ちなみにボリショイ・バレエ2008年来日公演の公式サイトはこちらです。
 ザハーロワ、初めて観ました。自然とにじみ出てくる優美さがあり、こればっかりは、いくら超絶技巧があっても、長いキャリアがないと身に付きません。顔もまるで少女マンガに出てくる、目に☆が輝く美女のようです。普通のバレリーナは、オデットかオディールのどちらか一方が似合っている場合が多いですが、ザハーロワは、オデットのしっとりした美しさも、オディールの小悪魔的な色気も、どっちもよかったです。グラン・フェッテはすべてシングルでしたが、バランスも完璧で余裕を持って踊っており、振り上げた足の高さには驚きました。新国立劇場で彼女をもっと観ておけばよかったです。来年の2月の「ライモンダ」のチケットは取りましたが。
 王子のウヴァーロフは、今年の8月にポリーナと「ドンキ」を踊ったのを観ました。ををっ、と目を引くようなジャンプや回転はありませんが、常にノーブルでやわらかくて美しく、すばらしい王子様でした。
 それから、道化の岩田守弘氏。身体が小さいのに、というか、身体が小さいのを生かして、すごいスピードでぐるぐる回って、拍手喝采を受けておりました。昨日のNHKのプロフェッショナルの流儀も感動しました。38歳なんですってね。小さい体で、しかもロシア伝統のボリショイ劇場で認められるまでの努力には頭が下がりました。

 ところで、今回の「白鳥」はグリゴローヴィチ版とのこと。ぽん太は初めて観ました。まず構成が、第一幕(第一場、第二場)、第二幕(第一場、第ニ場)となっております。
 第一幕第一場は、お城の中で貴族たちによって踊られます。道化付きです。お母さんが王子に成人の記念として渡すのは、剣とペンダントですが、意味が分かりません。このあと湖に、白鳥を剣で突き刺しに行くのでしょうか?なんかぞっとしないです。それから、この場だったでしょうか、男性の群舞があったのがとっても珍しかったです。スタイルのいい男性がそろったボリショイだからこそできる踊りかもしれませんが、迫力があってよかったです。また、グリゴローヴィチの振付けは、全体にシンメトリーが強調されています。あるダンサーが下手にいると、対称的に上手に別のダンサーがいるといった具合です。それから、湖に行く前の王子のソロでは、ロットバルトが一緒に、影のように踊るのが目新しいです。ロットバルトは王子にも魔法をかけているのでしょうか?シンメトリーと言えば、全体の構成も、第一幕と第二幕が対比され、さらにどちらも第一場が舞踏会で第二幕が夜の湖と、シンメトリックになっています。
 第一幕第二場はだいたいいつも通り。ぽん太は、オデットが上手奥から出てくる普通のパターンの方が好きです。
 第二幕第一場は、5カ国の王女が舞踏団を引き連れてやってくるという設定。ぽん太は今年の夏にアメリカン・バレエ・シアターで同じような趣向を観ましたが、そちらは4カ国でしたが、ボリショイでは、ロシアの王女様も加わって、5カ国になっております。オディールも黒鳥隊(!)を伴って登場。オディールのヴァリアシオンは、例の蛇使いのような音楽でした。
 第二幕第二場は、普段聞き慣れている音楽が、ツギハギになっているのが少し気になります。白鳥のなかに黒鳥もまざっているのですが、第二幕第一場での黒鳥を見ているので、これらが子供の白なのか、ロットバルトの手先なのか、よくわかりません。白鳥たちと一緒に逃げたりおびえたりしてましたから、子供の白鳥なのかもしれません。そしてラストシーン!オデットは死んでしまい、王子がひとり舞台で崩れ落ちたところで幕がしまります。暗いです。すっかり陰鬱な気分になりました。やっぱ「白鳥」はりハッピーエンドの方がいいです。
 グリゴローヴィチは1927年生まれで現在もご存命中とのこと。ということは、御年81歳か。今回の版は2001年に改訂されたものだそうです。ちとググってみると、「自我における善悪の二面性の戦い」がテーマと言われているようですが、そんなものでしょうか?詳しくは機会があったらみちくさしてみたいと思います。

 美術は、最近はパステル調の柔らかく淡い色彩の衣裳が多いなか、今回の舞台は全体に暗かったです。金・銀・黒を主に、水色や赤が加わってロシアっぽい色彩で、よくわかりませんがぽん太の頭の中には「ロマノフ朝」という言葉が思い浮かびました。舞台中央に下げられた二枚の幕が上がったり下がったりしますが、特に場面転換にもなってないし、あまり効果的でなく思われました。
 クリニチェフさん指揮のオケも、本日は「ドンキ」と違ってゆったりとしたテンポで、要所ようしょを劇的に盛り上げておりました。

 今年のボリショイは、若さと身体能力爆発のオーシポワ、ワシリーエフ組と、大人の美しさのザハーロワ、ウヴァーロフ組という好対照の二組を観れて、大満足でした。


「白鳥の湖」
2008年12月7日/東京文化会館

音楽 : ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
台本・改訂振付・制作 : ユーリー・グリゴローヴィチ
原振付 : マリウス・プティパ,レフ・イワノフ,アレクサンドル・ゴールスキー
美術 : シモン・ヴィルサラーゼ
音楽監督・共同制作 : パーヴェル・ソローキン
照明 : ミハイル・ソコロフ
指揮 : パーヴェル・クリニチェフ
管弦楽 : ボリショイ劇場管弦楽団

オデット/オディール : スヴェトラーナ・ザハーロワ
王妃 (王子の母) : マリーヤ・イスプラトフスカヤ
ジークフリート王子 : アンドレイ・ウヴァーロフ
ロットバルト : ドミートリー・ベロゴロフツェフ
王子の家庭教師 : アレクセイ・ロパレーヴィチ
道化 : 岩田守弘
王子の友人たち : アンナ・ニクーリナ,アナスタシア・ゴリャーチェワ
儀典長 : アレクサンドル・ファジェーチェフ
ハンガリーの王女 : ネッリ・コバヒーゼ
ロシアの王女 : オリガ・ステブレツォーワ
スペインの王女 : アナスタシア・メシコーワ
ナポリの王女 : アナスタシア・ゴリャチェーワ
ポーランドの王女 : エカテリーナ・シプーリナ
3羽の白鳥 : ネッリ・コバヒーゼ,ユーリヤ・グレベンシチコワ
      オリガ・マルチェンコワ
4羽の白鳥 : チナラ・アリザデ,スヴェトラーナ・グネードワ
      スヴェトラーナ・パヴロワ,アナスタシア・スタシケーヴィチ
ワルツ : オリガ・ステブレツォーワ,アナスタシア・シーロワ
      アレーシヤ・ボイコ,アンナ・オークネワ
      カリム・アブドゥーリン,デニス・サーヴィン
      ウラジスラフ・ラントラートフ,エゴール・フロムーシン

2008/12/07

【蕎麦】「手挽き」の芳醇な香りはさすが有名店・島田市「薮蕎麦 宮本」

Pb270081 京都旅行の帰り、前から一度行きたいと思っていた、島田市の「薮蕎麦 宮本」に立ち寄りました。雑誌の蕎麦特集では必ず取り上げられる有名店です。これまではなかなかちょうどいい時間に島田市に来ることができませんでした。東名高速の吉田インターから近いので、時間さえ合えば、旅の途中に立ち寄っておいしいお蕎麦をいただくのに便利です。
 余談ですが、高速道路でグーグルストリートビュー・カー(と思われる車両)を見ました。噂通りのプリウスで、屋根の上に棒があって、その上に何やらカメラらしきものがありましたが、カバーがかけられていました。前のバンパー周りがボコボコだったのがは、狭い道を走り回ったせいでしょうか?
 建物は古民家風で、とても凝っています。量が少ないとのことなので、「せいろ」と「手挽き」を一枚ずつ注文。「せいろ」は香り、旨味、歯触りとも最高です。汁は意外と濃いめで、少量付けて食べるようにとのアドバイスでした。「手挽き」は石臼で自家製粉したものだそうで、蕎麦の芳醇な香りが口いっぱいに広がります。どちらもすばらしかったです。
 室内の写真撮影は禁止されていたので、お蕎麦の写真は残念ながらございません。
 

2008/12/06

【京都】大原三千院・寂光院、比叡山延暦寺

Pb260054 私だけ?「きょうと〜お〜はらさんぜんいん」と歌うと(Youtube動画)、いつのまにか日本昔話のオープニング(Youtube動画)になってしまうのは……。
 ということで、ぽん太とにゃん子は京の大原に行ってきました。ぽん太の大原御幸は実に約30年ぶりです。
 まずは三千院。紅葉の真っ盛りでした。こちらが三千院公式ホームページです。
Pb260057 「紅葉の中で、観光バスで押し寄せた団体ツアー客に出会ってしまいました。急いでケータイを切ります。あしからず。」
 JR東海のコマーシャル(Youtube動画ポスター)のおかげで、今年の三千院は大混雑だそうで、三連休などはすごいことになっていたそうです。
Pb260060 とはいえ往生極楽院に安置された国宝・阿弥陀三尊坐像は、やはりすばらしかったです。脇侍の観音菩薩と勢至菩薩は、ややうつむき加減で神妙な表情を浮かべ、人間的な印象も受けるのですが、阿弥陀如来は、ふっくらとした面立ちがまるで子供のようでもあり、人間を超越した融通無碍な境地におられるようで、とても有り難く思われました。

Pb260069 こちらは寂光院です。こちらが公式サイトです。真新しい本堂を見て、寂光院が2000年に放火にあったことを思い出しました。
Pb260070 寂光院は、建礼門院徳子が閑居したことで有名で、その様子は『平家物語』の最後の巻の「灌頂巻」(かんじょうのまき)で描かれています。建礼門院は、平清盛の娘で、高倉天皇と結婚し、安徳天皇をお産みになりました。平家が壇ノ浦の戦いで敗れて、安徳天皇が入水したとき、建礼門院も身を投げましたが、源氏の武将が髪の毛を熊手に引っ掛けて救い上げました。彼女は出家し、1185年(文治元年)の9月、都を避けて寂光院に隠棲します。しばらくして後白河法皇が、寂光院に建礼門院を訪ねます。法皇が見た寂光院の様子が、次のように書かれています。
「庭の若草しげりあひ、青柳の糸をみだりつつ、池の蘋(うきくさ)浪にただよひ、錦をさらすかとあやまたる。中島の松にかかれる藤なみの、うら紫にさける色、青葉まじりのをそ桜、初花よりもめづらしく、岸のやまぶきさきみだれ、八重たつ雲のたえ間より、山郭公(やまほととぎす)の一声も、君の御幸をまちがほなり」(「大原御幸」より)。
 ここに描かれている池と松が、写真の心字池、姫小松だそうです。歴史ある姫小松も、火災による痛みが原因で平成16年に枯死したそうです。
Pb260071 三千院の隣りにある大原西陵に建礼門院徳子は眠っています。観光客でごった返す三千院とは一変して、訪れる人もまばらです。院は大原で仏に祈りをささげながら生涯を送り、諸説ありますが、六十数歳でこの世を去りました。そしてこれが、「祇園精舎の鐘の声」に始まる『平家物語』の末尾となっております。
Pb260073 小道の横には「朧の清水」がありました。標識には「『平家物語』(建礼門院)縁(ゆかり)の泉」と書かれていますが、『平家物語』を読んでも出てきません。こちらの京都新聞のサイトに、この清水について書かれています。古来歌枕として有名だそうで、吉田兼好や与謝蕪村もこの清水を歌に詠んでいるのだそうです。建礼門院が、朧月の夜、水面に映るやつれた姿を見て身の上を嘆いた、というエピソードがあるのだそうですが、その出典はわかりません。

Pb260079 午後は比叡山延暦寺に行きました公式サイトはこちらです。写真は国宝の根本中堂です。堂々として立派です。延暦寺は仏教の学問の一大中心地で、現在で言えば東京大学のようなものでした。道元や日蓮など、多くの名僧が延暦寺で学んだのちに、独自の境地を打ち立てて諸派の開祖となりました。実はぽん太は生まれて初めて訪れました。

2008/12/05

【バレエ】オーシポワとワシーリエフの身体能力に大興奮/ボリショイ・バレエ「ドン・キホーテ」

 いや〜すごかったです。久しぶりにいいものを見ました。
 この日しか予定があいていなかったから決めたのですが、キャストを見てみると、主役のオーシポワとワシーリエフの名前はなんだかチラシの右端のほうに……。「若手かな……まあ、いいか」というぐらいの感じで、あまり期待せずに行ったのですが、すばらしい身体能力で、ホントにびっくりしました。
 キトリのオーシポワは最初のジャンプからして、高さもあり、足がよく開いています。その後もすごいジャンプ力を見せつけます。グランフェッテも、2回転を入れるのはあたりまえ、その上すごいスピードでした。全体として、若くてはつらつとして愛らしくて、元気いっぱいのキトリでした。
 バジルのワシーリエフも見事なジャンプ力でした。回転して足を前後に広げるジャンプ(すみません、バレエ初心者のぽん太は用語を知りません)で登場した時は、その高さと滞空時間にびっくり仰天し、椅子からズレ落ちそうになりました。回転でも軸がぶれません。片手リフトでは、さらに片足を上げて一本足で立ちました。ただ、第3幕の有名なソロ(すみません、呼び名がわかりません)などは「あれっ?」という感じで、技や身体能力はすごいけれど、踊り全体を雰囲気を持ちながら踊り切る表現力はまだ不十分なのかもしれません。
 とにかくこの日は、観客のノリがよかったです。ひとつの踊りが終わるごとに大拍手。興奮のるつぼでした。ただ、ひとつの踊りの途中で、技を出すたびに拍手する人たちもいて、ちょっとやり過ぎというか、鑑賞の邪魔になる感じもしました。まあ「ドンキ」なら許せるか、という感じです。

 クリニチェフ指揮のオーケストラも、速いテンポでぐんぐん押していきます。1幕の群舞など、コールドバレエも、すごいスピードで体を精一杯動かしていて、力強かったです。その他のダンサーも、一人ひとりが個性があってすばらしかったです。全体としてダイナミックでエキサイティングな舞台でした。舞台美術も、背景画がパステル調でおもしろかったです。衣装はとてもきれい。
 や〜、こんなダンサーが二番手、三番手でいるなんて、ボリショイってホントにすごいですね。日曜日には「白鳥」に行く予定ですが、今度は「ドンキ」と一転して、どのようなしっとりとした舞台を見せてくれるのか、いまから楽しみです。
 ちなみにボリショイ・バレエ2008の公式サイトはこちらです。またオシーポワの公式サイトはこちら。探してみたら、Youtubeにオーシポワとワシーリエフのドンキの動画がありました。何度見ても興奮が甦ります。

 あとで調べてみたら、オーシポワもワシーリエフも、去年のマリインスキー・バレエ&ボリショイ・バレエ合同ガラ公演で踊っていたではないか(公式サイトの残骸はこちら)。ぽん太が見たのはBプロですから、オーシポワは「ミドル・デュエット」、ワシーリエフは「ばらの精」を踊ったようです。「ばらの精」は、すごいジャンプ力だけどちょっと上半身ががっちりしているダンサーだった気がしますが、「ミドル・デュエット」の方はまったく記憶がありません。恐るべし狸脳!


「ドン・キホーテ」
2008年12月4日、東京文化会館

    音楽 : ルートヴィヒ・ミンクス
    台本 : マリウス・プティパ
    振付 : マリウス・プティパ,アレクサンドル・ゴールスキー
  振付改訂 : アレクセイ・ファジェーチェフ
ファジェーチェフの助手 : ミハイル・ツィヴィン
    美術 : セルゲイ・バルヒン
  衣裳復元 : タチヤーナ・アルタモノワ,エレーナ・メルクーロワ
  音楽監督 : アレクサンドル・コプィロフ
    照明 : ミハイル・ソコロフ
  美術助手 : アリョーナ・ピカロワ
    指揮 : パーヴェル・クリニチェフ
   管弦楽 : ボリショイ劇場管弦楽団

  キトリ/ドゥルシネア : ナターリヤ・オーシポワ
      バジル(床屋) : イワン・ワシーリエフ
ドン・キホーテ (さすらいの騎士) : アレクセイ・ロパレーヴィチ
サンチョ・パンサ (ドン・キホーテの剣持ち) : アレクサンドル・ペトゥホーフ
ガマーシュ (金持ちの貴族) : デニス・サーヴィン
フアニータ (キトリの友人) : ヴィクトリア・オーシポワ
ピッキリア (キトリの友人) : オリガ・ステブレツォーワ
   エスパーダ (闘牛士) : アルテム・シュピレフスキー
   ルチア (街の踊り子) : アナスタシア・メシコーワ
   メルセデス (踊り子) : マリーヤ・イスプラトフスカヤ
  ロレンソ (キトリの父) : イーゴリ・シマチェフ
ロレンソの妻 (キトリの母) : アナスタシア・ヴィノクール
          公爵 : アレクサンドル・ファジェーチェフ
        公爵夫人 : エカテリーナ・バルィキナ
      居酒屋の主人 : イワン・プラーズニコフ
      森の精の女王 : エカテリーナ・シプーリナ
     3人の森の精 : ユーリヤ・グレベンシチコワ,ネッリ・コバヒーゼ
             オリガ・マルチェンコワ
     4人の森の精 : アレーシャ・ボイコ,スヴェトラーナ・パヴロワ
            チナラ・アリザデ,スヴェトラーナ・グネードワ
      キューピッド : アナスタシア・スタシケーヴィチ
     スペインの踊り : クリスチーナ・カラショーワ
             アンナ・バルコワ,エカテリーナ・バルィキナ
     ジプシーの踊り : アンナ・アントロポーワ
         ボレロ : アンナ・バルコワ,アントン・サーヴィチェフ
グラン・パの第1ヴァリエーション : エカテリーナ・クリサノワ
グラン・パの第2ヴァリエーション : ネッリ・コバヒーゼ

2008/12/04

【オペラ】声量はないけど演技が秀逸!「フィガロの結婚」ワルシャワ室内歌劇場オペラ

 最近、オペラにはまりつつあるぽん太とにゃん子は、渋谷に『フィガロの結婚』を観に行ってきました。生で観るのは初めてです。光藍社のオフィシャルサイトはこちらです。
 『フィガロの結婚』は、1786年にウィーンで初演されたモーツァルトのオペラです。先日観た『コシ・ファン・トゥッテ』の初演は1790年ですから、近い時期に作られたもので、台本はどちらもダ・ポンテの手になり、ともに話しが馬鹿ばかしいという共通点があります。ちなみにダ・ポンテはもうひとつ『ドン・ジョバンニ』の台本にも関わっていますが、こちらはもうすぐ新国立劇場で観る予定です。
 おなじみの序曲は、先日聴いた西本智実に比べて速いテンポで軽快に始まりました。どこがどう違うのか素人のぽん太には言えませんが、さまざまなメロディやリズム、パッセージが戯れ合うのが心地よく、オペラへの期待が高まります。序曲が終わったところで拍手が沸き、指揮のグラーツァが、オケのメンバーを立たせてお辞儀をしました。
 幕があくと、セットはいがいとこじんまり。歌手たちも声量に欠けるようです。アリアを朗々と歌い上げて拍手喝采、という雰囲気ではありません。ワルシャワ室内歌劇場という名前の「室内」というのがどういう意味なのかぽん太は知りませんが、おそらくはもう少しこじんまりした劇場での公演がメインなのではないでしょうか。ぽん太の席はけっこう前の方だったのでよかったですが、遠い席では聞こえにくかったかもしれません。
 しかし、本来こじんまりした空間で行うものだと割り切ると、いいところが見えて来ます。とにかく芸達者で、演技がうまいのに驚かされます。表情や身ぶりも豊かで、テンポがあり、タイミングよく笑いを取って行きます。そしてみんな、ルックスもそこそこいいです。
 「音楽」を中心に考えるとちょっと物足りないですが、「芝居」としてはとてもすばらしかったと思います。先日観たウクライナ国立歌劇場はグランドオペラを重々しく朗々と歌い上げるスタイルでしたが、ワルシャワの方は軽妙で洒落ていて、両者の違いがぽん太には面白かったです。

 ところで、この話しに出てくる「初夜権」なるもの、ホントにあったのでしょうか?goo辞書には(ということは大辞林第二版には)「初夜権:結婚に際し、領主・祭司・僧侶などが、花嫁に対してもつ初交の権利」と書かれています。Wikipediaには「歴史上実在したかについては争いがある」と書かれていますが、出典は曖昧です。今後の宿題にしておきたいと思います。


ポーランド国立ワルシャワ室内歌劇場オペラ
『フィガロの結婚』
作曲:W.A.モーツァルト

    アルマヴィーヴァ伯爵:マリウシュ・ゴドレフスキ
          伯爵夫人:アンナ・ヴィエルツビカ
          スザンナ:マルタ・ボベルスカ
          フィガロ:アンジェイ・クリムチャック
         ケルビーノ:ユリタ・ミロスラフスカ
       マルチェリーナ:マジャンナ・ルドニツカ
バジーリオ、ドン・クルツィオ:イェジ・クネティッグ
          バルトロ:スワヴォミル・ユルチャック
        アントーニオ:ボグダン・シリーヴァ
        バルバリーナ:マグダレナ・スムルチンスカ

指揮:ズビグニェフ・グラーツァ
演奏:ポーランド国立ワルシャワ室内歌劇場管弦楽団
合唱:ポーランド国立ワルシャワ室内歌劇場合唱団

2008/12/03

【蕎麦】蕎麦三枚で蕎麦三昧・京都北山「じん六」

Pb260074 とある日、ぽん太とにゃん子は、京都の北山にある「蕎麦屋 じん六」で昼食といたしました。こちらが「じん六」の公式サイトです。
 お品書きを見ると、いわゆる「せいろ」というのはないようで、「蕎麦三昧」というメニューを頼んでみました。なんでも、三種類の異なる産地のソバをいただけるそうです。てっきり一度に三種類が出てくるのかと思ったら、食べるタイミングをみながら、一種類ずつ出てきました。造りたてを味わって欲しいという店主の心づかいが感じられます。
 それぞれの蕎麦の産地は残念ながら忘れてしまいました。味と香りは、食べ比べの常道に従って、後に行くに従ってだんだんと強くなります。最初は、上品で香りのよいおそばでした。細打ちなのに、しこしこと歯ごたえがあります。ツユは薄味ですが、甘ったるさのないキリッとしたお味で、ダシがしっかりきいていて、「さすが京風」という感じでしょうか。
Pb260077 こちらはお店の門構え。内部は、間取りは広くないですが、天井が高くて開放感があります。
Pb260075 こちらが二番目のお蕎麦です。器も美しいです。
Pb260076 最後は、田舎蕎麦風で、かなり味も濃いです。噛むとぷにょぷにょとした弾力がありました。
 三種類の蕎麦の食べ比べ。まさに蕎麦三昧の名にふさわしいです。

2008/12/02

【京都】高雄の高山寺・元栂ノ家・神護寺

Pb250030 城崎温泉三木屋で松葉ガニを堪能したぽん太とにゃん子は、紅葉を求めて京都の高雄に向かいました。写真は高山寺の国宝石水院です。紅葉がとても美しかったです。せっかくの国宝の建築物なのに、外観を眺めることができないのが残念です。高山寺といえば国宝『鳥獣戯画』が有名ですが、ここにはレプリカの一部があるだけで、現物は国立博物館に保管されています。ぽん太は最近はサントリー美術館で拝見したことがあります。
Pb250024 高山寺の駐車場の向かいにある元栂ノ家(もととがのや)です。川に面した細長い建物で、この時期紅葉が見事です。うどんが美味しゅうございました。
Pb250046 「かわらけなげ」で有名な神護寺です。嵐山・高雄パークウェイに入るとすぐ、無料の駐車場があります。そこから階段を降りて行くと、神護寺への参道に行けるので、駐車場料金を節約できます。神護寺に行くには、いったん坂道を谷底まで下り、また反対側の階段を登って行く必要があるので、けっこう大変です。いい運動になりました。こちらが神護寺の公式サイトです。

2008/12/01

【第九】やっぱ西本智実はカッコええのう

 ナマ西本智実を一度見て、失礼!、聴いてみようと、出かけてきました。
 西本智実と言えば、美しい容姿で有名な女性指揮者で、「男装の麗人」ともウワサされています。ちなみにこちらがオフィシャルサイトです。美しい写真もありますよ。だれですか、とろりん(西村知美)と間違えているのは。あの西本智実をぽん太の生息地の多摩地区で見れるとなれば、行かない手はありません。
 風の便りによれば、西本智実のコンサートには、彼女と同じように黒いパンタロンスーツに身を包んだコアなファンが押し寄せるとのこと。西村智実を見るも楽しみですが、訪れる観客を見るのもまた楽しみです。ひょっとして客席は、そんな女性ばっかり?中年タヌキのぽん太は、ホールへ向かう道すがら、ひょっとしたらとっても場違いなところに来てしまったのではないかと気恥ずかしくなり、顔を伏せて裏道を歩いてゆきました。しかし実際に行ってみると、普通に第九を聴きに来た多摩地区のおじさん・おばさんも多く、バッチリ化粧を決めた熱烈なファンは見当たりませんでした。ぽん太の考え過ぎだったのでしょうか?

 オーケストラの音合わせがすんで、客席が暗くなり、いよいよナマ西村の登場です。今回はクラシック・コンサートでありながら、ぽん太は双眼鏡を持参。さっそうと下手から登場する様子をアップで眺めます。胸から上に黒い刺繍が施されたタキシードがカッコいいです。宝塚風の濃いメークをしているのかと思ったら、意外とナチュラル・メイクで、かわゆらしかったです。
 まずは「フィガロの結婚」序曲。指揮ぶりもオーソドックスで、けっこう淡々とタクトを振っていました。そのせいか細かなニュアンスには欠けた気がしましたが、あくまでも「第九」の前菜なのでこんなものでしょうか。しかし、なんで「第九」の前に「フィガロの結婚」なのか、という疑問も残ります。メイン料理を引き立てるために、どのような前菜を出すかは、とっても大切なことのはず。十分に考えた上での選曲なのでしょうか?地方公演なので、有名でわかりやすけりゃいいや、という理由だけだったとしたら、ぽん太は納得できません。
 続いて休憩を挟まずお目当ての「第九」。全体としては悪くなかったですが、特徴というか、自己主張があまり感じられませんでした。昨年聴いたシフの第九は、とにかく速くて閉口しましたが、(ぽん太は納得しなかったものの)一本筋は通っていました。西本ならではの音楽を聴かせて欲しいところです。アンサンブルやリズムが時々乱れたのは、オケの実力もあったのかも。ところどころにテンポや音量でアクセントを付けるのですが、曲全体としての構成に裏打ちされていないので、唐突な印象を受けてしまいます。何回か、フッと一瞬の静寂を作るのは、ちょっとキザッタらしいけど面白かったです。激しい部分では、力強さを出そうとしてなのか、タクトを鋭く降っては止め、鋭く降っては止め、という動作になるので、ビートが強調されて旋律の流れが寸断されていたようにも思われました。終楽章は熱演でしたが、宗教性というか思想性というか、高尚さにはやや欠けた気がします。逆に意外とよかったのが3楽章。この曲が、こんなに美しくて奇麗な曲だったとは、これまで気がつきませんでした。

 コンサート終了後は、CD等の購入者を対象に、サイン会が行われました。数百人が並んでいたように思います。すごい人気です。ぽん太とにゃん子は、サインはもらいませんでしたが、近くから美しい御姿を鑑賞させていただきました。演奏が終わったばかりなのに、一生懸命ファンサービスをしている姿が、ちょっと気の毒にも思えました。
 ぽん太としては、もっと憂いを含んだ横顔や恍惚とした表情を聴衆に見せたり、キッとオケを睨んだりして、ビジュアル系を徹底して欲しいです。音楽ももっとスタイリッシュにして、「他の指揮者がやったら怒るけど、西本なら許せるよな〜」というビューティーな演奏を期待します。
 もっとも西本自身は、こうした「売れ方」は望んでおらず、実力で勝負したいと思っているのでしょう。しかし容姿の美しさも天から授かった才能で、そのおかげで多くのファンが聴きに来てくれるのですから、それを感謝し大事にしつつも指揮者としての実力を身につけて欲しいと、ぽん太は願っております。


どりーむコンサート
東京交響楽団が贈る 人類讃歌〜ベートーヴェン「第九」
2008年11月30日/府中の森芸術劇場どりーむホール

モーツァルト
 歌劇「フィガロの結婚」K.492より序曲
ベートーヴェン
 交響曲第9番ニ短調 作品125「合唱付」

     指揮:西村智実
   ソプラノ:澤畑恵美
メゾ・ソプラノ:林美智子
   テノール:経種廉彦
   バリトン:宮本益光
   合唱指揮:安藤常光
     合唱:東響コーラス
    管弦楽:東京交響楽団


« 2008年11月 | トップページ | 2009年1月 »

無料ブログはココログ
フォト
2024年8月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31