« 【薬理】抗精神病薬のヒト脳組織での各種受容体に対する親和性 | トップページ | 【ぐち】サプリメントを飲んでいいかは、主治医に聞くのではなく、売っている会社が判断すべき »

2008/12/18

【ぼやき】救急医療雑感

 タヌキの世界の話しですが、繰り返される「妊婦たらい回し」事件をきっかけに、周産期を中心とした救急医療に対する社会的関心が高まっているようです。出産時をはじめとし、緊急時に直ちに適切な医療を受けられないことに対する不安と不満が、社会的に共有されてきたようです。これが医療の充実のきっかけとなればいいのですが。
 しかし一方で、不足しているのは「救急」医療だけではないぞ、とぽん太は思うのです。われわれの健康を向上させるためには、救急だけでなく、通常の医療や、介護・福祉も含む、さまざまな面で改革を重ねていく必要があります。「救急」あるいは「周産期」医療にばかり世間の目が向けられ、そこに重点的な予算が振り向けられることで、逆にほかの分野での質の低下が生じるのではないかという心配があります。

 救急医療の充実といっても、こんかいの動きからは「精神科」救急は除外されているようです。またしても精神科は蚊帳の外か、とぽん太は思いました。
 現在「精神科」救急のシステムは十分に機能しているとはいえません。みなさんは「救急」といえば119番に電話すればいいと思っているかもしれませんが、精神科の場合は、一般には救急車は対応してくれません。東京都の場合、東京都保健医療情報センター(ひまわり)に電話することになっておりますが、ホームページを見ても電話番号がありません(「各種相談窓口」というリンクをたどると見つかります。さあ、みなさん、探してみて下さい)。ようやく見つけて電話をかけると、自動応答テープが流れ、「コンピューターによる自動医療機関案内は1を、担当者による保健医療福祉相談は2を……」などというメッセージが流れます。この時点で、「電話をしたけど、なんかテープが流れていて……」と挫折したひとをぽん太は知っています。だいたい、家族が夜中に入院先を探す状況では、頭も混乱し、震える手で電話機のボタンを押すのもやっとという状況でしょうから、テープによる自動応答はかなり不親切です。119番に電話をしたら、「火災の消火等をご希望の方は1を、疾病によって病院への搬送をご希望の方は2を……」などというテープが流れて来たら、まずいんじゃないでしょうか。質の悪いサポートセンターじゃないんですから。少なくとも、精神科救急の電話番号を独立させることはできないのでしょうか?

 さて、ようやく電話がつながって、家族の入院を希望しても、帰ってくる返事は、「精神科救急では警察沙汰にならないような軽い患者は見ません。暴力を振るったり器物破損をしたら、警察を呼んで、精神科救急を受診して下さい」というものだそうです。これはあくまでも「ウワサ」で、ホントかどうか知りませんよ。それに、実際にこのような言い方をするのかどうかもわかりません。しかし、何人かの患者さん(の家族)の話しでは、ひまわりに電話をしたところ、「警察が関わる状態にならないとダメだ」と断られたそうです。
 ケース1。幻覚妄想状態で、「悪魔が憑いている」と、飼い犬の喉をカッターで切った。ひまわり「次に何かしたら警察を呼んで連れて来て下さい」(次は人の喉か!?)。
 ケース2。以前に幻覚妄想状態で自宅に放火をしたことがある患者さん。「苦しくてなにかしでかしそうなので入院したい」。ひまわり「実際に何かしたら警察を呼んで連れて来て下さい」(放火をしたら!?)。
 ということで、少なくとも東京(のタヌキ)の精神医療・福祉・当事者・家族のあいだでは、「ひまわりの精神科救急は犯罪を犯さないと入院できない」と言われています。事実かどうかわかりませんが。「病人」は入院させないが、「病人+犯罪者」になったら入院できるわけです。このアドバイスは「犯罪教唆」に当たるのではないか?なんとか他人に迷惑をかけたくないと願っている患者さんや家族にとって、「警察沙汰」になったら入院させるというのはいかがなものでしょう。
 羽藤邦利の「東京の救急の現状、課題、打開策」(『精神医療』51号[第4次]、2008年7月、批評社)を読んでみると、NPOメンタルケア協議会の行った平成19年の「ニーズ調査」によると、東京都の精神科関連施設の「最近の1〜2年で最も困った出来事」158例のうち、最終的にひまわりを利用したのはわずか11例(7%)で、35例はひまわりを利用しようとしたが利用できなかったそうです。また、精神科診療所の「最も困った例」59例に関していえば、ひまわりを利用したのがわずか5例で、残り54例はひまわりを使わずに対応したわけですが、そのうち34例はなんらかの形で入院となったそうです。つまり入院が必要だった39例のうち、ひまわりが対応したのはたったの5例(13%)ということになります。もちろん平日昼間に入院が必要になった場合、ひまわりを使わずに入院先を探すのが普通ですが、それでもこの数字は低すぎるのでは?

 ちなみに東京都の精神科救急システムは、東京都保健医療情報センター(ひまわり)に電話をすると、ひまわりのなかの「東京都精神科救急医療情報センター」が対応をするのですが、このセンターを運営しているのが上述のNPOメンタルケア協議会です(公式サイトはこちら)。その結果、いわゆるハードなケースには、墨東、松沢、豊島、府中の都立4病院があたり、ソフトなケースには当番制の病院や診療所が担当しているようですが、このへんのトリアージ(患者さんの振り分け)や、警察官通報によらない入院の扱いがどうなっているのか、組織に属さない一匹タヌキのぽん太にはよくわかりません。
 こちらのpdfファイルの、NPOメンタルケア協議会の「東京都救急医療情報センター、平成19年度実績報告書」によると、二次救急が年間298例あり、グラフから見てその8割くらいが入院したようですが、これが警察沙汰にならずに入院できたケースでしょうか?東京と福祉保険局のページ東京都の救急医療体制を見てもよくわからないし、もう少し情報開示をお願いしたいところです。

 仮に噂通り警察沙汰にならないと救急入院ができないのだとしたら、医療と司法が結びついていることにならないでしょうか。東京都に1978年に精神科救急医療システムが作られたとき、保安処分などの問題とも絡んで、医療と司法の関係が様々に議論されました。「救急」は「医療」が必要な人に対して行われるべきであり、社会的に問題を起こした人を対象とするものであってはならないという意見がありました。このときは少なくとも建前上は「司法」と切り離された「医療」として精神科救急がスタートしたと理解しているのですが、いつの間にか何の議論もされないまま、なし崩し的に医療と司法が再び癒着し、犯罪を犯さないと入院できない、あるいは入院しにくいシステムになっていたとしたら、大きな問題です。
 精神障害者の人権に関してさまざまな批判を行っている諸々の団体が、この点に関してはまったく無頓着でいるのがぽん太には不思議です。
 「東京都の精神科救急は警察沙汰にならないと入院できない」というのが、都市伝説であって欲しいと願うぽん太です。

« 【薬理】抗精神病薬のヒト脳組織での各種受容体に対する親和性 | トップページ | 【ぐち】サプリメントを飲んでいいかは、主治医に聞くのではなく、売っている会社が判断すべき »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

erinさん、コメントありがとうございます。
わ〜!2ヶ月以上も放置して申し訳ありません。m(_ _)m
erinさんのおっしゃるとおり、現在の救急医療は、
予算の関係もあるのかもしれませんが、
満足できるようなシステムにはなっておりません。
少しでもいいものになっていくといいのですが。

救急医療のトリアージなどという、人命に関わることを、NPOに丸投げしていることがまず驚きですよ。しかも日本の首都・東京で。

メンタルケア協議会のサイトからPDFも見ました。
このNPOのサイトは、一見の価値ありです。

結局、精神科救急で入院しても、とりあえず鎮静させて(=注射で眠らせる)必要があれば拘束の上、保護室に入れておくくらいの処置しかできないようです。
しかし患者からすれば、一番辛い時にいきなりそれじゃ、その後とうてい信頼関係に基づく治療など、成り立たなくなってしまうでしょう。

このNPOのサイトで精神科救急の実態を知り、自分なら何があっても精神科救急など呼ばず、頓服&眠剤を倍飲みで(本当はダメだけど注射打たれるよりはマシでしょう)、死ぬ気で朝まで耐えて、かかりつけ医を受診しようと心に決めました。
入院してもそんな処置じゃ、ショックでよけい悪化するに決まっていますから。

あと問題は、内科などの身体合併症がある精神障害者に対し、受診や入院を拒否する病院(精神科以外の)が多いことです。
受付のねーちゃんならまだしも(?)、医者なら何科でも、医学部出てるでしょ? 精神科の講義も受けたでしょ? 専門じゃなくても偏見ってどうなの? と、情けなくなりました。

the morita gardenさん、コメントありがとうございます。
精神科救急、ホントに充実させてほしいですね。予算だのなんだの、いろいろと問題があるのはわかりますが……。
東京都の精神科救急システムに関しては、少し詳しく説明しているサイトを見つけたので、そのうちご紹介しようと思っております。

精神科救急は精神医療の分野で問題になっています。急性期病床数、医師を含む医療スタッフ数、予算、立地(近隣住民への対策を配慮して、郊外に建設)など課題が山積しています。一番のネックは先に記した、病床数と近隣対策であるかと思います。
精神医療への世間の理解が深まってきてはいるのですが、いざ私事(健常者)となると、産廃処理場や原発と同様敬遠されます。
以前報道で大阪中心部の精神科救急病院を特集していましたが、患者側のニーズになるべく答えるが、なかなか難しい状況とのことでした。心の病を持った患者が増加するなか、政府を中心として、この問題を真摯に取り組まないといけないと思います。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 【ぼやき】救急医療雑感:

» 秋田市の医療福祉の求人 [求人@ジョブカフェ]
秋田市で医療福祉の求人などについて調べてみました。秋田市の福祉関係医療の仕事では老人ホームなどの仕事も福祉医療の仕事に含まれるのでしょうか。 [続きを読む]

« 【薬理】抗精神病薬のヒト脳組織での各種受容体に対する親和性 | トップページ | 【ぐち】サプリメントを飲んでいいかは、主治医に聞くのではなく、売っている会社が判断すべき »

無料ブログはココログ
フォト
2024年8月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31