3月1日の最終日に行ってきました。これまで2回なまクマテツを見損なったので、今回も怪我で途中降板したらどうしよう、やっぱり初日に見とけばよかったかな……などと不安でしたが、久々に元気に踊る姿を見ることができてよかったです。K-BALLETの公式サイトの公演情報はこちらです。こちらのチケットスペースのページも詳しいですが(動画がスタートするので音に注意!)、そのうちリンク切れになるかもしれません。
まず熊川の「放蕩息子」。バレエ初心者のぽん太は初めて見る演目です。
無学なるぽん太は「放蕩息子」と聞いてもまったくピンとこなかったのですが、新約聖書の「ルカによる福音書」の第15章11~24節に書かれたとても有名な話しだそうです。ご興味のある方は、こちらで読むことができます。レンブラントにも「放蕩息子の帰宅」という絵があるようです(画像はたとえばこちら)。たしかドビュッシーがローマ大賞を受賞した曲も「放蕩息子」だった気がしますが、調べてみると、これも「ルカによる福音書」を題材にしたギナンEdouard Guinandの劇詩をテクストとしているようです。バレエともとの聖書の話しを比べてみると、兄に関わる部分が省略されて、ならず者や売春婦と放蕩にふけっている部分が拡大されているようです。この聖書の話の意味は、ぽん太には深遠すぎてわかりません。
で、その放蕩息子役を踊ったのが熊川哲也です。飛び蹴りのようなジャンプ(バレエ初心者のぽん太は用語がわかりません)は、あっと驚く高さで、安定した回転や豊かな表現力などクマテツの魅力は健在でした。しかしジャンプしたり膝の上に女性を乗せたりするたびに、また膝を痛めないかと、見ているこちらがヒヤヒヤしました。サイレーンを踊った浅川紫織もよかったですが、もう少し妖艶な魅力があるとよかったです。坊主頭の集団のムカデ歩きもおもしろかったです。歌舞伎もよく見るぽん太は、「京鹿子娘道成寺」に出てくる所化(しょけ)かと思いましたが、「ならず者」とのこと。
「放蕩息子」は、1929年にパリのサラ・ベルナール劇場で初演された、いわゆるバレエ・リュスの作品とのこと。当時の迫力が伝わってきます。
背景はジョルジュ・ルオー。ぽん太にとってルオーは、素朴な宗教画ばかり描いている人というイメージで、いささか食傷気味だったのですが、ちゃっかりバレエの舞台美術もやっていたのか……。今回の舞台装置は、まさか初演当時のではないですよね。こちらのサイトで「放蕩息子」のルオーによる背景画のひとつを見ることができます(拡大できます)。これを見てもわかるように、後年のどこか素朴な味わいの宗教画と異なり、フォーヴィスムあるいは表現主義風で、嵐の前触れのような暗い緊迫感と不安に満ちています。改めて画集を見てみたら、初期のルオーはフォーヴィスムに属していたとのこと。う〜ん、なんだかルオーにも興味が湧いてきました。こちらのページによれば、出光美術館にルオーの「放蕩息子」という作品があり、バレエ「放蕩息子」の初演の年に描かれたものだそうで、ちょっと見てみたい気がします。
ぽん太はノイマイヤーの「人魚姫」の感想で、「バレエダンサーが舞台上でトウシューズを脱ぐなどというのは見たことがない」などと書いたのですが、このバレエでも放蕩息子がダンスシューズ(トウシューズではありませんが……)を脱がされます。ああ、無知ほど恐ろしきものはなし。ならず者たちに全てを奪われることを表しているようです。プロコフィエフの音楽も雰囲気にあっていて、シアターオーケストラトーキョーも切れのいい迫力ある音を出していました。井田勝大の指揮を聞くのはぽん太はたぶん初めてだと思うのですが、若いのに力がありそうですね。こちらやこちらに簡単な経歴が載っております。
続いて「ピーターラビット」。ダンサーがみな顔も出さずに全身着ぐるみで踊ります。この着ぐるみは英国ロイヤル・バレエから借りたものだそうですが、とてもよくできています。子供ショーのような着ぐるみの動物たちが、すばらしいテクニックで踊るので、なんだか不思議な感じがします。樋口ゆりのアヒルの仕草がとてもかわいらしかったです。宮尾俊太郎のきつねも、くるくる回りながら大きな円を描くヤツ(ぽん太には名前がわかりません)で、ふといしっぽがブンブン回って面白かったです。ジェレミー・フィッシャーどんの清水健太も、カエルの名に恥じない見事な跳躍でした。ネズミは悪すぎます!
日曜日というのに会場には意外と子供が少なかったです。もっとも「放蕩息子」と組み合わせるということは、熊川ははなから「ピーターラビット」も大人をターゲットにしていたのかもしれません。
絵本の「ピーターラビット」は、「放蕩息子」と同じく超有名らしいのですが、ぽん太はを読んだことがなかったので、せっかくなので読んでみました。題材になっているのは、『あひるのジマイマのおはなし』『こぶたのピグリン・ブランドのおはなし』『ジェリミー・フィッシャーどんのおはなし』『2匹のわるいねずみのおはなし』『りすのナトキンのおはなし』の5つと解説に書いてありましたが、ティギーおばさんも登場した気がします……。原作を読んで、ようやく筋がわかったと同時に、「ピーターラビット」が世界中で愛されている理由もよくわかりました。
Tetsuya Kumakawa K-BALLET COMPANY Winter 2009
バレエ ピーターラビット®と仲間たち & 放蕩息子
2009年3月1日 Bunkamuraオーチャードホール
≪ 放蕩息子 Prodigal Son ≫
放蕩息子 The Prodigal Son 熊川哲也 Tetsuya Kumakawa
サイレーン The Siren 浅川紫織 Shiori Asakawa
父 Father ルーク・ヘイドン Luke Heydon
放蕩息子の召使 Servants to the Prodigal Son ビャンバ・バットボルト Byambaa Batbold
ニコライ・ヴィユウジャーニン Nikolay Vyuzhanin
姉妹 The Sisters 木島彩矢花 Sayaka Kijima / 松根花子 Hanako Matsune
9人のならず者 9 Drinking Companions 西野隼人 Hayato Nishino / 合屋辰美 Tatsumi Goya
石黒善大 Yoshihiro Ishiguro / 小山憲 Ken Koyama
森田維央 Io Morita / 長島裕輔 Yusuke Nagashima
酒匂麗 Rei Sakoh / 高島康平 Yasuhira Takashima
内村和真 Kazuma Uchimura
●振付 Choreography ジョージ・バランシン George Balanchine
●音楽 Music セルゲイ・プロコフィエフ Sergei Sergeigevich Prokofiev
●舞台美術・衣裳 Set and Costume Design ジョルジュ・ルオー Georges Rouault
●指揮 Conductor 井田勝大 Katsuhiro Ida
≪バレエ ピーターラビットと仲間たち Tales of Beatrix Potter ≫
まちねずみジョニー Johnny Town-Mouse 石黒善大 Yoshihiro Ishiguro
チュウチュウおくさん Mrs.Tittlemouse 副智美 Satomi Soi
ねずみくんたち 2 Mouse Boys 荒井英之 Hideyuki Arai / 内村和真 Kazuma Uchimura
ねずみちゃんたち 2 Mouse Girls 中谷友香 Yuka Nakatani / 渡部萌子 Moeko Watanabe
ティギー・ウィンクル Mrs.Tiggy-Winkle デイビッド・スケルトン David Skelton
あひるのジマイマ・パドルダック Jemima Puddle-Duck 樋口ゆり Yuri Higuchi
きつねの紳士 The Fox 宮尾俊太郎 Shuntaro Miyao
ピグリン・ブランド Pigling Bland ニコライ・ヴィユウジャーニン Nikolay Vyuzhanin
ピグウィグ Berkshire Black Pig 東野泰子 Yasuko Higashino
ぶたくんたち 2 Pig Boys 奥山真之介 Shinnosuke Okuyama / 酒匂麗 Rei Skoh
ぶたちゃんたち 3 Pig Girls 浅野真由香 Mayuka Asano / 木島彩矢花 Sayaka Kijima
松根花子 Hanako Matsune
ペティトーおばさん Mrs.Pettitoes ショーン・ガンリー Sean Ganley
ジェレミー・フィッシャーどん Mr.Jeremy Fisher 清水健太 Kenta Shimizu
2ひきのわるいねずみ Two Bad Mice
トム・サム Tom Thumb ビャンバ・バットボルト Byambaa Batbold
ハンカ・マンカ Hunka Munka 神戸里奈 Rina Kambe
ピーターラビット Peter Rabbit 橋本直樹 Naoki Hashimoto
りすのナトキン Squirrel Nutkin 長島裕輔 Yusuke Nagashima
4ひきのりすたち 4 Squirrels 星野姫 Hiromi Hoshino / 笠井千愛 Chie Kasai
湊まり恵 Marie Minato / 山口愛 Ai Yamaguchi
8ひきの小さなねずみたち 8 Small Country Mice K-BALLET SCHOOL
●振付 Choreography サー・フレデリック・アシュトン Sir Frederick Ashton
●演出 Production サー・アンソニー・ダウエル Sir Anthony Dowell
●編曲 Music ジョン・ランチベリー John Lanchbery
●舞台美術・衣裳 Set and Costume Design クリスティン・エドザード Christine Edzard
●マスク Masks ロスティスラフ・ドボジンスキー Rostislav Doboujinsky
●照明デザイン Lighting Design マーク・ジョナサン Mark Jonathan
●指揮 Conductor 福田一雄 Kazuo Fukuda
●芸術監督 Artistic Director 熊川哲也 Tetsuya Kumakawa
●演奏 シアターオーケストラトーキョー THEATER ORCHESTRA TOKYO
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