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2009年8月の13件の記事

2009/08/30

【旧道マニア】会津中街道の三斗小屋宿跡〜大峠間が復活!

 ぽん太は以前の記事( 【登山】那須三本槍岳(付:会津中街道・三斗小屋宿跡・三斗小屋温泉大黒屋)、2009年6月12日)で、会津中街道のうち、三斗小屋宿跡から大峠にいたる部分は、廃道になっているのではないか、と書きました。
 先日ネットサーフィンをしていたら、この区間の山道が復活したというニュースに行き当たりました。下野新聞の2009年7月26日の「下草刈り払い、会津中街道よみがえる 那須塩原の有志記事」というタイトルの記事(リンクは こちら)です。
 この記事によりますと、斉藤茂さん(56)ら地元有志7人が、6月中旬から歴史ある旧道の復活に着手。生い茂るチシマザサを約一ヶ月かけて刈り払い、7月11日に作業はほぼ完了したそうです。
 ぽん太もぜひ歩いてみたいです。ただし熊が出没する危険性もあり、沢を越えたりするため、初心者の山行は控えた方がいいそうです。登山経験のない「旧道マニア」の方はご注意を。
 ただ、せっかく切り開いた道も維持管理を怠ると、あっという間に元のササヤブに戻ります。ぜひとも管理の継続をお願いいたします。

2009/08/28

【六合村赤岩地区】高野長英がかくまわれたという湯本家住宅を見学

P8090005 地獄谷温泉で猿と戯れたぽん太とにゃん子は、志賀高原から渋峠を越えて、群馬県の六合村(くにむら)へ抜けました。吾妻川の北に位置する六合村は、野反湖、尻焼温泉、湯の平温泉、暮坂峠など、ぽん太は何度も訪れたことがあります。六合ハムもおいしいです。ちなみにこちらが六合村の公式ホームページ、こちらが六合村観光協会の公式ホームページです。
 こんかいは、赤岩地区を訪ねてみました。例えばこちらこちらを参照してください。この地域は国の伝統的建造物群保存地区に指定されており、日本の伝統的な山村の建物や景観が残っております。
 ぽん太が赤岩地区に立ち寄った理由は、ここに高野長英がかくまわれていたと伝えられる湯本家住宅があるからです。
 冒頭の写真が湯本家で、三階建ての土壁の家ですが、軒にぶら下げられた鉢や、写真右手前の刈り込まれた樹木など、なんとなくスイスの山荘のような雰囲気があるのがおもしろいです。現在の主の趣味でしょうか?人が住んでいるので、高野長英が滞在したという「長英の間」は見ることができませんでした。こちらの六合村観光協会のページに、長英の間の写真があります。またこのサイトによれば、毎月最終日曜日に、内部を見学できるようです。
P8090427 赤岩地区には、その他にも古い建物が残っております。こちらは毘沙門堂で昼寝するネコちゃんです。かわいいですね。
 高野長英に関しては、以前の記事で書いたことがありますが、そのとき読んだ佐藤昌介の『高野長英』(岩波新書、岩波書店、1997年)は、高野長英が六合村にかくまわれたということに対して否定的でしたが、ホントのところはどうなのでしょう。仮にウソだったとしても、長英の門下生に吾妻川周辺のひとが多くいたことや、長英が上州を旅したことはホントだそうで、湯本家と長英に何らかの関係があったとしても不思議ではありません。

2009/08/26

【温泉】おさると混浴の地獄谷温泉(★★★★)&地獄谷野猿公苑

P8080180 野口五郎岳・烏帽子岳遠征から生還したぽん太とにゃん子は、お猿と混浴で有名な地獄谷温泉後楽館に泊まって疲れた体を癒すことにしました。後楽館の公式サイトはこちらでしょうか?なんか、リンク切れの多いサイトなので、日本秘湯を守る会の紹介ページにもリンクしておきます。場所はこちらです。上林温泉の無料駐車場(地図)から歩くこと30分、地獄谷野猿公苑の有料駐車場(地図)から歩くこと15分。両足筋肉痛のぽん太とにゃん子は、迷わず有料駐車場を選択。一泊の料金は600円。駐車場までの道は狭いので気をつけて運転を。
 ちなみにこの程度の歩行時間では、ぽん太のブログの「歩かないと行けない温泉」シリーズには入れません。
P8080186 入り口ではゴールデンレトリバーのおばあさんがお出迎え。猿が入ってこないように見張る役目も担っているそうです。
P8080176 お部屋は落ち着く普通の和室です。
P8080177 ふと窓の外を見ると、目の前で猿が毛づくろいをしています。早速おさるとの触れ合いです。
P8080185 こちらが宿の全景。ひなびた雰囲気の木造建築ですが、全体にちょっと雑然としたところがあるのが残念。
P8080175 宿のすぐ近くの川縁に、天然記念物の噴泉があります。100度近いお湯が勢いよく吹き出ています。
P8080189 こちらが内湯です。湯船はさほど広くありませんが、古びた雰囲気がいいです。もちろん源泉掛け流しで湯量は豊富です。無色透明で硫黄の香りがするお湯で、泉質は単純硫黄泉でしょうか?体を洗うためのカランはありません。
P8080190 混浴露天風呂をチェックすると、猿がいます。猿との混浴は望むところですが、野猿公苑に行く観光客から丸見えなので泣く泣く断念し、翌日の早朝に入浴しましたが、残念ながらこのときはお猿さんはいませんでした。こちらのお湯は、白い湯の花が舞っていました。
 この他に女性の内湯と、女性専用の露天風呂、そして無料の貸し切り家族風呂が2つあります。
P8080191 こちらが夕食です。鴨鍋にイワナの塩焼き、葉っぱの天ぷら、鯉の洗いなど、おいしい山の料理です。
P8090194 朝食は比較的にシンプルですが、おいしゅうございました。
 素朴でアットホームな山の宿ですが、ちょっと雑然としていて細かいところに気が行き届いていないところがあるので、ぽん太の評価は普通は三つ星くらいなのですが、なんと言ってもお猿さんたちとの触れ合いがうれしく、プラス1点です。こんどは冬にも来てみたいです。
P8080182 地獄谷野猿公苑は宿からすぐ近く。小猿たちがじゃれ合っていてかわいいです。ドイツ人の学生(?)の団体が来ていて、大喜びしていました。ここの名物は温泉に入る猿。暑い夏にも入るのかと思っていたら、しっかり入っています(冒頭写真)。しかしよく観察すると、係の人が温泉の中にエサを投げ入れ、そのエサを食べるために猿たちは温泉に入っているようです。ちとかわいそうな、あわれな気もしました。

2009/08/24

【蕎麦】長野県の大町近くの「美郷」は素朴でおいしいにゃ〜(★★★)(付:長野県宝高山寺三重塔)

P8080168 三日ぶりに山から下界に降りたぽん太とにゃん子は、まず温泉でジュンサイのヌメリをとって脱皮いたしました。利用したのは大町温泉郷の日帰り入浴施設薬師の湯。登山帰りに利用しやすい快適な温泉ですが、泉質は残念ながら「カルキ泉」でした。
 次いで腹ごしらえということで、地元の人に教えてもらった「石臼挽き手打ちそ美郷」へ。公式サイトはなさそうなので、食べログにリンクしておきます。場所はここ(Yahoo!地図)です。
P8080171 建物は飾りっけのない田舎のお蕎麦屋さんという感じです。サービスも素朴。店の一角で、若い男の人が一生懸命蕎麦を打っています。
P8080165 蕎麦好きのぽん太とにゃん子は、迷わず「ざる」を注文。サービスでお漬け物が出て来ました。うれしやうれしや、おいしやおいしや。
P8080167 店員さんがやってきて、いよいよ蕎麦登場か?ところがあれあれ、不思議な物体が出て来ました。頼んでないよ〜。えっ?サービス?ありがたやありがたや、おいしやおいしや。「そば薄焼き」とのこと。こんがり焼かれた平たく延ばした蕎麦の上に、甘いお味噌が乗っております。
 いよいよ蕎麦登場。冒頭の写真をご覧下さい。ここにも天ぷらのサービス付きです。器はプラスチックでこれまた素朴。手打ちのお蕎麦は太さも不揃いで素朴、口の中にそば粉の濃厚な香りが広がります。ちょっとブツブツ切れやすい感じだったか。つゆは甘くて濃厚でこれまた素朴でした。
 お店に置いてあった解説によると、「戸隠のそばか新行のそばか」と言われたほどに、新行の蕎麦はおいしくて有名だったそうです。40年ほどまえに村の有志が荒れていく農地を蕎麦畑として復活し、1972年からは「新行のそば祭り」を開催。「美郷」は1987年に開店以来、地元のそば粉を使って石臼引きの手打ち蕎麦を提供してきたそうです。
 伝統のそば粉で勝負の素朴な店。サービスメニューがうれしく味もおいしいですが、洒落た雰囲気も好きなぽん太の評価はちと辛く3点です。

P8080173 今宵の宿へ向かう途中、偶然通りかかった高山寺三重塔を見学いたしました。場所はこちら(Yahoo!地図)です。公式サイトはなさそうです。長野県宝に指定されており、1195年(建久6年)に源頼朝によって創建されたそうですが、現存の塔が建立されたのは1694年(元禄7年)だそうです。こじんまりとして落ち着いた、かわいらしい塔です。

2009/08/22

【登山】あいにく展望はなかったけどコマクサの大群落が見事!野口五郎岳、烏帽子岳

P8070117 今年の夏の山行はどこにするか?劔岳もいいけど、映画の影響で混みそうだし。歩かないと行けない温泉の湯俣温泉晴嵐荘にも泊まりたい。そこから水晶岳、赤牛岳を越えて読売新道を下るのも楽しそう。しかし、例のトムラウシの遭難事件が頭をよぎり、行程の長い読売新道は敬遠して、軟弱な裏銀座一部周遊をすることにしました。槍や水晶抱岳、赤牛岳などの展望を楽しみながらののんびりした山行が期待されます。
 このルート、烏帽子岳→野口五郎岳と回るのが一般的ですが、その日程だと山小屋が丁度込み合うとの情報を得て、野口五郎岳→烏帽子岳の逆回りにしました。周遊コースをどちらから回っても大して変わらんだろうと思っていたのですが、大間違い。湯俣温泉から野口五郎岳への登りが、いくつものピークを越えて行く長い登りでとてもきつく、運動不足のぽん太は途中で行き着けないのではと思ったくらいでした。

【山名】野口五郎岳(2924.3m)、烏帽子岳(2628m)
【山域】北アルプス
【日程】2009年8月5日〜8月8日
【メンバー】ぽん太、にゃん子
【天候】(8/5)晴れ、(8/6)晴れのちガス、(8/7)雨、(8/8)ガスのち曇り
【コース】(8/5)高瀬ダム(12:06)…湯俣温泉晴嵐荘(14:55)(泊)
(8/6)湯俣温泉晴嵐荘(5:32)…(竹村新道)…湯俣岳(8:53)…南真砂岳(11:47)…野口五郎岳(14:15)…野口五郎小屋(14:50)(泊)
(8/7)野口五郎小屋(6:01)…烏帽子小屋…烏帽子岳(10:39)…烏帽子小屋(11:26)(泊)
(8/8)烏帽子小屋(5:37)…(ブナ立尾根)…高瀬ダム(9:18)
ルート図と標高グラフ
【見た花】(高瀬ダム〜湯俣温泉)ウバユリ、ソバナ、タマガワホトトギス、クサボタン、イブキジャコウソウ、オオバギボウシ、アカモノ(実)
(湯俣温泉〜野口五郎岳)ギンリョウソウ、ミヤマリンドウ、エゾシオガマ、バイケイソウ、チングルマ、ウサギギク、アオノツガザクラ、ネバリノギラン、イワカガミ、ハクサンイチゲ、ハクサンチドリ、ミヤマコゴメグサ、ハクサンシャクナゲ、ハクサンフウロ、シナノキンバイ、タカネヤハズハハコ、タカネツメクサ、オヤマソバ、イワツメクサ、クモマスミレ(初)、イワオウギ、チシマリンドウ、ホソバトリカブト、ミヤマオトコヨモギ、クルマユリ、ミヤマハンショウヅル、ミネウスユキソウ、テガタチドリ、ミヤマクワガタ、ベニバナイチゴ、ミヤマキンポウゲ、ミヤマキンポウゲ、イワベンケイ、ミヤマキンバイ、ミヤマダイコンソウ、イワウメ、ミネズオウ
(野口五郎岳〜烏帽子岳)コマクサ(大群落)、ミヤマハタザオ、リンネソウ(初)
(烏帽子岳〜高瀬ダム)シャクジョウソウ、オタカラコウ、クガイソウ、ヤマホタルブクロ、イチヤクソウ、センジュガンピ、クルマバツクバネソウ
【マイカー登山情報】一般車は七倉ダムまでで、七倉山荘前に広い駐車場あり。ここからタクシーが2,100円の定額で高瀬ダムまで送ってくれます。乗り合い(定員4人)で行くとお得です。

 8月5日、東京を早朝に発ち、大町を抜けて七倉へ。ここに車を停め、タクシーで高瀬ダムへ。しばらくは舗装もされたダム整備用の道路を歩き、途中から山道となりますが、なんなく湯俣温泉晴嵐荘に到着。ぽん太が持っていた昭文社の地図には、行程3時間50分と書いてありましたが、途中ゆっくりランチタイムをとったのに、3時間弱で到着。最近道が整備されたのでしょうか?晴嵐荘に関しては、以前の記事をご覧下さい。

 8月6日。宿泊客のほとんどはダムへ下って行く人たちで、本日竹村新道を登るのはぽん太とにゃん子と、ほかにひとりだけ。朝食を早めの5時にしてもらって出発です。昨夜は、いろんなひとからさんざん竹村新道を登るのはしんどいと脅かされたので、すっかり気が萎えています。はじめは樹林帯のなかの急登で、林の間から見える槍ヶ岳を励みに登って行きます。しかし、湯俣岳あたりでやっとこさ稜線にでると、ガスがかかってきて展望がきかなくなってしまいました。その後ペースはどんどん落ちるばかり。南真砂岳のピークを越えて、再び登り返して真砂岳の分岐に到着したのがたぶん13時30分頃。ほとんど8時間登り通しだったことになります。ああ、しんど。
P8060066 でも、さすがに高山植物がすばらしかったです。ぽん太が初めて見たのがクモマスミレ。あちこちに咲いていたちっちゃな黄色いスミレで、タカネスミレかと思いましたが、タカネスミレは葉が腎臓型で厚くて光沢があるのに、このスミレは葉がハート形でやや柔らかいです。調べてみるとクモマスミレといって、北アルプスと中央アルプスに分布するものだそうです。
P8060093 真砂分岐から野口五郎岳へは、高山らしい稜線歩きとなります。写真のようにガスがかかっており、期待していた展望はありませんでした。やがて到達した野口五郎岳は砂礫の山でした。ちなみに歌手の野口五郎の芸名が、この山の名前にちなんでつけられたことは有名です(Wikipedia)。
P8060106 野口五郎小屋は強風で有名で、以前にテントが飛ばされた事故があったため、幕営は禁止です。屋根の上に石が乗せられ、何本ものワイヤーで岩に固定されております。ラッキーなことにぽん太とにゃん子は個室(といっても蚕棚を二畳ほどの広さに簡単に仕切った部屋ですが)に泊まることができました。おかげでゆったり眠れました。
P8060244P8070246 夕食と朝食です。夕食は天ぷらが出てとってもおいしかったです。山小屋で天ぷらを食べたのは初めてのような気がします。またビールが雪渓から運んできた雪でキンキンに冷えていたのがありがたかったです。水場はなく、雨水を消毒したものを2リットル200円で購入します。

P8070123 8月7日。今夜宿泊予定の烏帽子小屋までは行程が短く、しゃかりきに歩くと午前10時ぐらいに到着してしまうので、途中景色を楽しんだり、花の写真をとったり、お湯を湧かしてゆっくり食事をしたり、昼寝をしたりしながら稜線を歩く予定でした。ところがあいにく天気は雨。台風の影響のようです。仕方なしにもくもくと歩いていたら、あっという間に烏帽子小屋到着です。しかし、途中稜線のコマクサがすばらしかったです。特に三ツ岳から烏帽子岳の間は大群落でした。烏帽子小屋に荷物をおいて烏帽子岳往復。烏帽子岳が一瞬だけガスの中から険しい姿をのぞかせてくれました。
P8070124 烏帽子岳付近に咲いていたこの花もぽん太は初めて見ました。小さいから見落としていたのかもしれません。あとで調べたところリンネソウという名前で、「輪廻」と関係するのかとおもったら、植物学者のリンネが愛した花だったのだそうです。へ〜、初めて知りました。こんな小さくて可憐な花に、大学者の名前が付いているのはおもしろいですね。
P8070132 こちらが烏帽子小屋です。週末が近づいてだいぶ混雑しておりましたが、ひとり布団一枚でゆったりと寝ることができました。泥酔状態で騒いでいる人がいて、ちょっとうるさかったです。山も夏休みの週末になると、いろいろな人が入ってきます。
P8070139 台風の影響か一時は土砂降りとなりましたが、夕食後に外を覗いてみると雨が上がって太陽が顔を出しておりました。赤牛岳の稜線に夕日が落ちて、時々刻々と変わる神秘的な景色を堪能いたしました。
P8070274P8080294 烏帽子小屋の夕食と朝食です。経営が同じなのでしょうか、野口五郎小屋と似ています。とてもおいしゅうございました。

 8月8日。最終日も天気が悪く、霧雨の中をもくもくと下るのみでした。下界は青空で暑い夏の日差しが降り注いでおりました。

 花、特にコマクサはすばらしかったですが、アルプスの展望を楽しめなかったのが残念。野口五郎岳と烏帽子岳を制覇できました。こんどは読売新道に挑戦したいと思います。

2009/08/21

【歌舞伎】大正時代からいたストーカー・歌舞伎座2009年8月第三部

 「お国と五平」、ぽん太は初めて観ましたが、意外とおもしろかったです。谷崎潤一郎が1922(大正11年)に発表した戯曲だそうです。幕が開くと舞台は那須の一面の薄野。人を異界に誘うような妖しい雰囲気です。しかしそこで始まるお芝居は、意外にも古典的な仇討ち劇。あれあれと思って観てましたが、エキセントリックな性格の友之丞が登場してから、舞台は思わぬ方向に漂流して行きます。そして次々と事実が明かされるにつれて、観客が三人を見る目が変わっていきます。
 お国をストーカーのようにこっそりと追い回し、世間を憎んで殺人を犯した友之丞は、まさに最近の無差別殺人犯にそっくりで、大正時代からこういう人がいたことを、ぽん太は初めて知りました。しかしさすがは谷崎、友之丞の性格や考え方が単純な紋切り型にならずに、きめ細かく複雑に描かれています。
 三津五郎が演ずる友之丞は、まるで幽霊のように現実感が希薄で、言うこともぶっ飛んでいるので、笑いがおきたりしていました。もっとリアルに演じたら、三人に渦巻く情念の妖しい雰囲気が出てきたような気もするのですが、なにぶん初めて観た演目なのでよくわかりません。

 「怪談乳房榎」は円朝作の怪談話が原作で、確かに幽霊も出てきますが、「怖い話し」というよりは「アウトローもの」ですね。勘三郎と橋之助の悪漢コンビは、昨年のコクーン歌舞伎の「夏祭浪速鑑」でも観ましたが、テンポもよく息があっています。本水や早変わりのケレンもあり、しどころの間に楽屋落ちも含めて上手に笑いをとったりして、勘三郎はこういった芝居小屋風の出し物は絶品ですね。福助のお関も、絵師重信の妻としての格式と、浪江が横恋慕するのもむべなるかなと思わせる色気があり、よかったです。
 ところでこの芝居に出てくる十二社大滝は、現在は東京都庁の東側の新宿中央公園の一角にある十二社熊野神社とのこと。場所は こちら(Googleマップ)でございます。またこちらが 十二社熊野神社の公式サイトで、左のメニューから「十二社と熊野神社の歴史」に入ると、十二社の滝について書かれています。高さ三丈・幅一丈あったそうですが、一丈は約3.3メートルですから、高さ10メートルほどあったことになります。1667年(寛文7年)に神田上水の水量を補うために、玉川上水から神田上水に向けて作られた神田上水助水堀が、熊野神社で滝になっていたそうです。ところで玉川上水と神田上水って、どこを流れてたの?時代による変遷もあったと思われますが、玉川上水に関しては、例えばこちらのサイトを見てみると、新宿付近では現在の甲州街道に沿って流れていたようです。また神田川の流れは例えばこちらのサイトでわかります。してみると神田上水助水堀は南から北に向かって流れていたことになりますが、そこに10mもの滝ができたのでしょうか?東京の詳しい標高図がネット上でみつからないのですが、例えばこの地図で新宿辺りを拡大してみると、確かに玉川上水は高台になっているところを流れており、神田川が低いところにあるようです。
 ちなみに重信が天井絵を描いた高田の南蔵院の公式サイトはこちらで地図はこちら、また重信が浪江によって殺された田島橋の地図はこちらです。


歌舞伎座さよなら公演
八月納涼大歌舞伎
歌舞伎座、平成21年8月

第三部

一、お国と五平(おくにとごへい)

           池田友之丞  三津五郎
            若党五平  勘太郎
              お国  扇 雀

二、怪談乳房榎(かいだんちぶさのえのき)
  中村勘三郎四役早替りにて相勤め申し候

   菱川重信/下男正助/蟒三次  勘三郎
            磯貝浪江  橋之助
          千住茂左衛門  亀 蔵
           万屋新兵衛  家 橘
            住職雲海  彌十郎
           重信妻お関  福 助

2009/08/19

【歩かないと行けない温泉(2)】湯俣温泉晴嵐荘(歩行時間2時間30分)

 P8050019 歩かないと行けない温泉シリーズ、2回目は湯俣温泉晴嵐荘です。公式サイトはなさそうなので、連絡先の電話番号などはググってお調べください。場所はこちら(Yahoo!地図)でございまして、長野県の黒部・立山の玄関口の大町から西へ向かいます。葛温泉を通りすぎて七倉ダムのところにゲートがあるので、車はここに停めます(広い駐車場あり)。シーズン中ですと、ここからタクシー(均一2,100円)で、高瀬ダムまで運んでくれます。ちなみに七倉ダムから高瀬ダムまで歩くと2時間かかりますので、お好きな方をお選びください。
P8050021 ここからまずダムに沿って、そして途中から高瀬川沿いに遡ること2時間30分で、晴嵐荘に到着します。ぽん太が持っていた昭文社の登山地図では3時間50分かかると書いてあったのですが、実際は2時間30分でした。道ははじめは舗装道路で、途中からちょっとした山道となりますが、ほぼ平坦でたいしたことはありません。運動靴でも大丈夫です。最後に高瀬川を吊り橋で渡ると、宿に到着します。
P8050023 外観は落ち着いた感じのま新しい木造建物で、山小屋とは思えないいい雰囲気です。しかし、紛れもない山小屋なので、旅館のつもりで来ると後悔いたします。客室は山小屋特有の蚕棚ですが、個室もあるようです。
 P8050030 お風呂は男女別になっています。石けんが置いてあって、使用可のようです(シャンプーは聞いていないけど、おそらくだめでしょう)。浴槽は広くはありませんが、源泉掛け流しのお湯は最高です。泉質は単純硫黄泉とのこと。ぽん太が入った時は無色透明でした。
P8060033 宿の前には露天風呂がありますが、今回は省略。川の反対側にある建物は、残念ながらいまは営業していない湯俣山荘ですが、機能主義的なシンプルなデザインが悪くないです。
P8050027 宿から高瀬川を15分ほど遡ると、天然記念物の噴泉丘があります。途中の吊り橋が崩壊して通行禁止なのでご注意を。今年は雨が多く、河が増水していたため、徒渉して噴泉丘の側にわたり、天然の露天風呂を楽しむことはできませんでした。残念!
P8050076 夕食は、釜飯に蕎麦に肉じゃが。炊きたての釜飯も、お蕎麦もおいしかったのですが、もうちょっと豪華だと、この宿だけに泊まりにくるお客さんも増えるような気がします。
P8060077 朝食は山小屋としては普通においしかったです。ぽん太とにゃん子は、登山道を野口五郎岳に向かって出発いたしました。

2009/08/18

【バレエ】ジル・ロマン、ルグリ&イレール、首藤のボレロ!世界バレエフェスティバル特別プロ <オマージュ・ア・ベジャール> 2009/08/17

 これもAプロ同様に偶然とれた切符でした。席は4階でしたが、ジル・ロマン、ルグリとイレール、首藤の「ボレロ」など、見れただけで大満足。これで5千円では安すぎる!
 暗転して音楽が流れ出し、亡きベジャールの映像がスクリーンに映し出されます。次いでジル・ロマンが登場し、司会と狂言回しの役を努めます。
 まずは東京バレエ団男性陣の「ルーミー」。白いスカート風の衣装が美しく、さまざまに組変わる隊列もおもしろく、開幕の雰囲気を盛り上げます。ぽん太はこの演目は昨年のモーリス・ベジャール・バレエ団の来日公演のおり、「祈りとダンス」という題で見ました。 そのときの記事に、ルーミーの意味について書きましたし、宗教的な旋回舞踏の動画へのリンクも張ってあります。
 続いて「ザ・カブキ」。といっても 毒霧を吐くレスラーではありません(誰も知らないか……?)。歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」を原作とするバレエです。歌舞伎好きのぽん太は前から一度観てみたいと思っていながら、いまだかなわずにいた演目ですが、こんかい一部分だけですけど、初めて観ることができました。ダンスもさることながら、黛敏郎の音楽も楽しみでした。こんかいのソロは、全体の中のどの部分なのでしがありますょう?高岸直樹を観るのも初めてのような気がするのですが、テクニックの方はさておき、踊り込んでいる感じで表現力に富んでいて、なかなかよかったです。えてして日本人のバレエは、形だけなぞっていて心が入っていない感じがするのですが、やはり忠臣蔵は日本人のハートにぴったりくるのでしょうか?
 エリザベット・ロスの「ボーン・トゥ・ラヴ・ユー」は、とても丁寧で完璧な踊りだったのですが、クイーンのロック・ミュージックに対抗するには、もっと激しさや野性味が欲しい気がしました。ロスのキャラには向いていない気もしたのですが、初めて観た演目なのでよくわかりません。こんなもんなんでしょうか?
 東京バレエ女性陣と木村和夫の「鳥」は、椅子の使い方が面白く、木村の踊りも悪くありません。東京バレエ団は、クラシックよりもコンテンポラリー系の方がいいですね。
 で、第一部の圧巻はやはりジル・ロマンの「アダージェット」。緩急のメリハリや、細かいポーズが美しいなあ、などと分析していたのは最初のうちだけ。途中からすっかり引き込まれて茫然と眺めておりました。マーラーの音楽も上質で、叙情的でありながら切なくなるような寂しさ、孤独感が漂ってきます。前日が終戦記念日だったことが頭によぎったりもして、思わず涙が溢れてきました。感動!
 さて、休憩を挟んで上野水香と後藤晴雄の「バクチIII」。インド風の踊りだったらもっとエロティックでもいいような気がするのですが、初めてみる演目なのでよくわかりません。こんなもんなのでしょうか?
 ルグリ、イレールの「さすらう若者の歌」。最高です。以前に観た気がするけどいつだっけ。そのときは「さすらう若人の歌」の歌詞を知らなかったので、ダンスのニュアンスがあまりわからなかったのですが、あとから復習してようやく納得いたしました。しかし今回も予習をしておくのを忘れたぞい。ちなみに歌詞を知りたい方は例えば こちらをどうぞ。しかし、このルグリ、イレールの味は、そんじょそこらの若いダンサーには絶対まねできないですね。二人の振付けはほとんど同一ではないのですが、それぞれがダンスとして完成されている上に、二人が微妙に関係し合い、すばらしい芸術を構成していました。男性二人の踊りですが、同性愛的なところはなく、酸いも甘いも味わった大人の男の友情といった感じです。
 首藤康之の「ボレロ」も、今回のお目当てのひとつでした。冒頭のスポットライトで浮かび上がった手は、指がはらりと広がって力が抜けています。その後も「うつろ」な感じの自動人形のような動きが続きます。ラストは鬼気迫るような恍惚とした笑顔を浮かべ、大いにテンションも盛り上がってのですが、ラストになって突然はじけたような印象で、ちょっと中盤が押さえ過ぎという感じがしたのですが、こんなもんでしょうか?とはいえ首藤の魅力を堪能することができて、大満足でした。


第12回世界バレエフェスティバル特別プロ
<オマージュ・ア・ベジャール>
2009/08/17、東京文化会館

振付:モーリスベジャール
構成:ジル・ロマン
振付指導:小林十市、那須野圭右

<第一部>

「ルーミー」 音楽:クドシ・エルグネル
高橋竜太、平野玲、松下裕次、氷室友、長瀬直義、横内国弘、
小笠原亮、宮本祐宜、梅澤紘貴、中谷広貴、安田峻介、
柄本弾、佐々木源蔵、杉山優一、岡崎隼也、八木進
「ザ・カブキ」より由良之助のソロ 音楽:黛 敏郎
高岸直樹
「ボーン・トゥ・ラヴ・ユー」 音楽:クイーン
エリザベット・ロス
「鳥」 音楽:マノス・ハジダキス
木村和夫
「アダージェット」 音楽:グスタフ・マーラー
ジル・ロマン

<第二部>

「バクチIII」 音楽:インドの伝統音楽
シャクティ:上野水香
シヴァ:後藤晴雄
「さすらう若者の歌」 音楽:グスタフ・マーラー
ローラン・イレール、マニュエル・ルグリ
「ボレロ」 音楽:モーリス・ラヴェル
首藤康之
平野玲、松下裕次、長瀬直義、横内国弘

※音楽は特別録音によるテープを使用。

2009/08/15

【医療改革】書類を減らすだけで医者不足は解消できる

 昨年 医者の書く書類が多すぎますという記事を書きましたが、せっかくなので今年は、記録をとってみました。7月中にぽん太が書いた書類は、これだぁ〜。

7月a日
介護保険意見書
診療情報提供書
7月b日(休日出勤)
訪問看護指示書
自立支援医療診断書
自立支援医療診断書
自立支援医療診断書
7月c日
精神障害者手帳診断書
自立支援医療診断書
自立支援医療診断書
生保医療要否意見書
生保医療要否意見書
生保医療要否意見書
7月d日
自立支援医療診断書
自立支援医療診断書
自立支援医療診断書
自立支援医療診断書
7月e日(休日出勤)
障害年金診断書
障害年金診断書
障害年金診断書
自立支援医療診断書
自立支援医療診断書
自立支援医療診断書
7月f日
診療情報提供書
7月g日(休日出勤)
障害年金診断書
障害年金診断書
障害年金診断書
診療情報提供書
7月h日
診療情報提供書
7月i日
診療情報提供書
障害年金診断書
7月j日
ハローワーク主治医意見書
自立支援医療診断書
自立支援医療診断書
精神障害者手帳診断書
診療情報提供書
精神障害者手帳診断書
自立支援医療診断書
自立支援医療診断書
自立支援医療診断書
自立支援医療診断書
自立支援医療診断書
自立支援医療診断書

 以上、書いた順に並べてみました。診察時間内で短時間で書けるような、休業のための診断書や、検査依頼のための診療情報提供書、傷病手当金意見書などは、省略してあります。すべて診療時間とは別の時間に作成した書類です。
 以前のブログにも書いたように、障害基礎年金の診断書は7月に一年分まとめて来るので大変です。また、確か32条が自立支援法に変わったときだったか、全員一斉に10月1日付で切り替えたので、自立支援と手帳は10月1日から更新になるひとが異常に多く、その更新手続きが7月1日から開始されるため、こちらも書類書きが集中します。
 なお障害基礎年金に関しては、お役所(社会保険事務所?)もさすがに問題を感じたらしく、該当する患者さんに対して6月中に、「7月は診断書の提出の月なので、診断書の用紙を送るから、ちゃんと書いてもらって7月中に提出して下さい」みたいな内容の文書を送りつけたようです。これがいかにもお役所仕事で、何人かの患者さんから、「こんな書類が来たけどなんでしょう?」という相談を受けて、よけいに手間がかかりました。ばっかばかしい。それだったら、6月中に診断書の用紙を送ってくれた方がよっぽどいいのに。

 これだけの書類を書くのにどれだけ時間がかかるか計算してみましょう。それぞれの書類を書くのにかかる時間を、短めに見積もって、介護保険意見書(B5表裏)15分、診療情報提供書(A4)20分、訪問看護指示書(A4)20分、自立支援診断書(A3)20分、障害者手帳診断書(A3)20分、生保医療要否意見書(A4)15分、障害年金診断書(A3表裏)30分、ハローワーク主治医意見書(A4)20分としましょう。すると上記のすべての書類を書くのに、14時間50分かかることになります。これはほぼ2日分の診療時間に匹敵します。月に開業している日数が20日前後であることを考えれば、10日に1日が書類書きに費やされたことになります。
 ということは、逆に言えば、書類書きがなければ10日で1日診療日が増やせるわけで、さらに言い換えれば、医者の人数が1割増えたのと同じになります。
 上の7月j日などは、どうしても間に合わないので、初診の患者さんの受け付けを断って、診療時間中も書類書きに没頭せざるをえませんでした。
 ぽん太は書類を書きたくて医者になったのではありません。患者さんの治療をしたくて医者になったのです。それを邪魔するやつは書類の山で、その書類を書かせているのは……。
 もちろん書類を全くなくすことはできないでしょう。しかし自立支援医療診断書や障害年金診断書は、前回と9割近くは同じです。お役所が診断書をフォーマット化してパソコンで打ち出せるようにするだけで、医者が診察以外の無駄な時間を使わなくてすむようになります。レセプト・オンライン化よりも書類フォーマット化の方がよっぽど安上がりで医療費削減に貢献すると思うのですが、いかがでしょう?
 あと、ついでに指摘しておきます、最近出回っている東京都の手帳診断書の用紙の、「4現在までの病状、状態像等」の(5)が「分裂病等残遺状態」になっておりますが、「統合失調症等残遺状態」に修正した方がいいのでは?

2009/08/14

【歌舞伎】良くも悪くも劇画調・海老蔵の「石川五右衛門」2009年8月新橋演舞場

 原作の樹林伸は、漫画の原作者として有名な方だそうで、海老蔵の「これまでにない石川五右衛門を演じてみたい」という希望でコラボが成立したそうです。
 以下、ネタバレがありますので、これから観劇予定の方はご注意を!
 無知なるぽん太はオーソドックスな石川五右衛門を知らないのですが、今回のアイディアの眼目は、五右衛門が茶々と恋に落ちること、そして五右衛門と豊臣秀吉が実は親子だったという点でしょうか。
 五右衛門と秀吉が南禅寺で対面します。五右衛門は、秀吉の度肝を抜いてやろうと、茶々が身ごもっているのが実は自分の子であることを明かします。しかし秀吉はそんなことは先刻承知。逆に秀吉は、五右衛門の度肝を抜いてやろうと言います。そして語ったのが、実は五右衛門が秀吉の子であり、従って茶々が身ごもったのは秀吉の孫だという話。これには五右衛門ばかりか観客も度肝を抜かれ、「そうきたか〜」とばかりしばし笑いが起きました。漫画の原作者だけに荒唐無稽と言うこともできるかもしれませんが、そもそも歌舞伎は荒唐無稽なもので、これまで知られている物語に、度肝を抜くようなアイディアを付け加えて成り立って来たものですから、じつはこれが歌舞伎の正しい姿なのかもしれません。まあ、映画の「スター・ウォーズ」のルークとダース・ベイダーが実は親子だったという話とかぶってはいますが……。
 しかし、秀吉と五右衛門が親子だったというせっかくのアイディアが、十分に展開されていないところに、不満が残りました。五右衛門は秀吉を国を盗んだ泥棒といって憎んでいました。親子だとわかったことで彼は矛盾に陥り、結局、自分が悪に徹することで父秀吉を善となそうと決意するのですが、心理展開が不自然なうえ描写も不十分で、わかりにくいしあんまり納得できません。秀吉の評価が変わったとしても、やっていることは同じだと思うのですが……。滝で鯱と戦う場面も、ぽん太がぼーっとしてたためか、前後関係がよくわかりませんでした。いよいよ五右衛門の釜炒りとなって、五右衛門を義族と讃えていた町人が、秀吉こそ立派な天下人と思い直すあたりも、花道の世間話で表現するのでは軽すぎて説得力がありません。最後のつづら抜けの名場面の意味を読み替えるあたりも、おもしろいアイディアでした。
 海老蔵が八面六臂の大活躍。七之助の茶々も美しかったです。團十郎の秀吉が、大きさとユーモラスさで舞台を引き締めていました。
 ただ、「仮名手本忠臣蔵」風に片しゃぎりに乗せてゆっくりと幕が開いての人形振りからのスタート、そして踊りあり、衣装の引き抜きあり、立ち回りあり、舞台の競り上がりあり、幕前での義太夫あり、早変わりあり、宙乗りあり……で、中華料理から西洋料理から和食からなんでもありのフルコースのようで、たまに歌舞伎を見にきた人にはいいかもしれませんが、毎月観ているぽん太にはちょっと盛りだくさんすぎて、食傷気味でした。
 よくもわるくも劇画調。観客の度肝を抜くアイディアがおもしろく、スペクタクル、エンターテイメントとしては上出来ですが、心理的な掘り下げや思想性には欠けていました。


新橋演舞場八月歌舞伎公演
石川五右衛門
2009年8月、新橋演舞場

          石川五右衛門  市川 海老蔵
              茶々  中村 七之助
            前田利家  片岡 市 蔵
           百地三太夫  市川 猿 弥
            霧隠才蔵  市川 右 近
            豊臣秀吉  市川 團十郎

       樹林伸  作
  川崎哲男・杉岡亮  脚本
      奈河彰輔  監修
     藤間勘十郎  振付・演出

2009/08/13

【歌舞伎】楽しい芝居と本格派の踊り・2009年8月歌舞伎座・第一部/第二部

 夏だ!納涼歌舞伎だ!……とはいえ、台風が来たり、地震があったり、皆既日食もあったし、天変地異の年ですね。さて、8月はいつもの3本立て。今日は第一部と第二部を観て来ました。
 「天保遊侠録」は初めて見る演目です。作は真山青果ですが、実はぽん太は、真山青果はちと苦手です。というのも以前に観た「元禄忠臣蔵」では、舞台上におじさんがいっぱいいて「ううう」と泣いているシーンばっかりだったり、理屈っぽい台詞が多かった印象があるからです。しかし「天保遊侠録」は、なかなか楽しめる娯楽作品で、特に子供の勝驎太郎のおませな台詞がかわいらしかったです。勝小吉と息子の麟太郎を、橋之助とその息子宗生が演じていたので、なおさらおもしろかったです。ちなみに橋之助の奥さんは三田寛子ですね。
 小吉は、役人に取り立ててもらうため、様々な恥辱に対し我慢に我慢を重ねますが、とうとう堪忍袋の緒が切れて、小禄ながらも自由気ままに市井で生きることを選びます。自分を馬鹿にした侍に対し、そうやって威張れるのも所詮は禄高の違いであって、人間の値打ちとは別だとタンカを切ります。ここは拍手喝采が来るところ。しかし一方で、息子麟太郎と別れてお城勤めをさせることを嫌がっていたものの、阿茶の局に「家のため」と説かれると納得いたします。う〜む、権力組織や、世襲制の身分社会には反対するけど、家の制度は認めるのか……。この戯曲は1938年(昭和13年)に雑誌に発表されたものですが、真山青果の権力に対するスタンスというものが、いまだにぽん太にはよくわかりません。
 橋之助の小吉は、いい男で明るいのが持ち味ですが、江戸っ子らいしい気っ風の良さや、しゅんとしたときの可愛らしさにはちょっと欠けます。菊五郎が演じたらきっとおもしろいだろうな〜と思いました。勘太郎はいつもの謹厳実直な役回り。萬次郎の阿茶の局が、位の高さを表す気品があってよかったです。
 「六歌仙容彩」は三津五郎の至芸ですが、ぽん太は夏バテと満腹で意識がまだら。
 第二部の最初は「真景累ヶ淵」。原作はご存知、三遊亭円朝の怪談話です。今回上演されたのは、顔の腫れ物で見にくい姿となった豊志賀が、若い内弟子の新吉に対する愛と嫉妬のなかで悶死し、化けて出てくるという下り。いわゆる遊園地のお化け屋敷のような芝居で、心理的に不気味だとか人間の業を表して怖いとかいうのではなくて、思いがけないところからお化けが出て来て「ぎゃ〜〜!」と叫びながらもワハハと笑う感じで、恐いというよりびっくりするというのが当てはまる演出でした。ちなみにぽん太が最も恐いと感じた歌舞伎は、仁左衛門の『盟三五大切』です。
 豊志賀役の福助がパワー全開。新吉の勘太郎は、今回は忠犬ハチ公のような役ではなく、滑稽さもある役柄を、間合いよく演じていました。しかし噺家さん蝶役で出てきた勘三郎には、まだまだかないまへんな。
 最後は勘三郎の「船弁慶」。平知盛となってからの勘三郎の表情が、禍々しい亡霊というよりも、苦しさを背負った人間のように見えたところが、とてもおもしろかったです。


歌舞伎座さよなら公演
八月納涼大歌舞伎
2009年8月歌舞伎座

第一部

一、天保遊侠録(てんぽうゆうきょうろく)
             勝小吉  橋之助
           松坂庄之助  勘太郎
          大久保上野介  彌十郎
            勝麟太郎  宗 生
           井上角兵衛  亀 蔵
            阿茶の局  萬次郎
             八重次  扇 雀

二、六歌仙容彩(ろっかせんすがたのいろどり)
  遍照・文屋・業平・小町・喜撰・黒主
            僧正遍照
            文屋康秀
            在原業平  三津五郎
            喜撰法師
            大伴黒主
            小野小町  福 助
              所化  秀 調
               同  高麗蔵
               同  松 也
               同  梅 枝
               同  萬太郎
               同  巳之助
               同  新 悟
               同  隼 人
               同  小 吉
               同  鶴 松
              官女  亀 蔵
               同  彌十郎
           祇園のお梶  勘三郎

第二部

一、真景累ヶ淵(しんけいかさねがふち)
  豊志賀の死
             豊志賀  福 助
              新吉  勘太郎
              お久  梅 枝
              勘蔵  彌十郎
           噺家さん蝶  勘三郎

二、新歌舞伎十八番の内 船弁慶(ふなべんけい)
       静御前/平知盛の霊  勘三郎
             源義経  福 助
            舟子岩作  高麗蔵
            舟子浪蔵  亀 蔵
            亀井六郎  松 也
            片岡八郎  巳之助
            伊勢三郎  新 悟
            駿河次郎  隼 人
           武蔵坊弁慶  橋之助
          舟長三保太夫  三津五郎

2009/08/11

【バレエ】まさに「祭典」の名にふさわしい・世界バレエフェスティバル・Aプロ

 バレフェスAプロの感想です。何かと忙しくてブログを書くヒマがなかったので、ちょっと気が抜けたビールみたいになってしまいましたが……。
 いや〜すごかったです。にゃん子も興奮状態。バレエ初心者のぽん太とにゃん子は、前回の3年前は観ておらず、バレフェスは今回が初めて。「世界バレエフェスティバル」という看板に嘘偽りなし。最高レベルのダンサーが次々と登場し、しかも全部で4時間半。レベルといいボリュームといい、まさに「祭典」の名にふさわしい公演でした。
 切符を取るのも大変でした。プレリザーブの抽選に外れ、一般発売初日はインターネットがつながったと思ったら既に全席完売。すっかりあきらめていましたが、ある日何気なく見てみたら空席があるではないですか!慌てて確保しました。あまりいい席ではなかったですが、観れただけで幸せでした。
 まずは先日「ドン・キホーテ」を観たコチェトコワとシムキンがいきなり登場。演目は「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」。シムキンの良さは言わずもがな。コチェトワは「ドンキ」ではあまり特徴を感じませんでしたが、とても柔らかくて軽い踊りで、今日の演目では彼女の魅力がよくわかりました。
 続いてオーストラリア・バレエ団組の「くるみ割り人形」。初めて観るコンビです。「くるみ割り」なのに、なぜかピクニックのシーン。マーフィー振付けとのこと。なんかヘンテコなリフトが多くて、技術的には難しいのかもしれませんが、ちっとも美しさがなく、ぽん太にはいま一つの印象でした。
 次は、ヌニュス、ソアレスのロイヤル・コンビの「海賊」。ヌニュスはきらびやかで華があって、ぽん太のハートをわしづかみでした。フェッテの最初のピルエットは、最後がちょっとよろけましたが、4回転でしょうか、5回転でしょうか。びっくりいたしました。
 タマラ・ロホは、草刈民代最終公演では大人っぽい色気を醸し出し、先日の「コッペリア」では可愛らしい娘を踊りましたが、こんかいはコンテンポラリー。なんでもできるんですね。前半では美しい身体の動きを見せ、天井から下がってきた衣装を着て踊る後半では、布の性質を見事に生かして踊っておりました。いい仕事してます。
 コジョカルを観るのは初めてでした。以前に新国立の「シンデレラ」の切符を買っていたのですが、怪我だか病気だかで来日しませんでした。バランス能力がすばらしく、とても安定した踊りでした。
 「ジゼル」のガニオは、スタイルとマスクの良さはいうまでもなく、表現力がすばらしいですね〜。やはりルグリ先生ゆずりなのでしょうか?
 ギエムとリッシュの「クリティカル・マス」は、振付けがおもしろかったです。いわゆる「ミニマリズム」風で、同じようだけど少し違った動きが反復されます。同じ動作が、スピードを変えるだけで、こんなにも印象が変わるのかとびっくりしました。
 ブシェとボァディンの「オテロ」は、ノイマイヤーの振付け。現代的な孤独から切り離されない愛を見事に表現しておりました。
 「椿姫」は、ルグリ先生の踊りを観れただけで満足。
 コピエテルスとジル・ロマンの「フォーヴ」は初めての演目。会場で配られた配役表に、音楽はドビュッシーと書いてあったので、ドビュッシーにそんな曲はあったかなと思っていたら、何のことはない「牧神の午後への前奏曲」に振り付けたものでした。なんかヘンテコな振付けでした。「牧神」は音楽としてはぽん太が大好きな曲なのですが、ディアギレフがヘンテコな振付けをしたせいで、あとから振り付けるときについついそれを意識して、ますますヘンテコな振付けになってしまっている気がします。ぽん太は、いままで観た振付けの中では、ジェローム・ロビンズのものが好きです。
 ザハロワの「黒鳥」はいつもながら完璧。マラーホフ、ヴィシニョーワもよかったです。ポリーナとフォーゲルの「マノン」はとても色っぽく、小娘のように見えたポリーナも急速に大人のダンサーへと変貌しているようです。
 キメはオシポワとサラファーノフの「ドンキ」。以前に観てびっくり仰天したオーシポワの身体能力が今回も全開。しかし、キトリが最初に登場する場面での前後開脚のけぞりジャ〜ンプがなかったのは残念でした。


第12回世界バレエフェスティバル [プログラムA] 
8月2日(日)  会場:東京文化会館

■第1部■ 
「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」
振付:ジョージ・バランシン/音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー
マリア・コチェトコワ ダニール・シムキン

「くるみ割り人形」より "ピクニック・パ・ド・ドゥ"  
振付:グレアム・マーフィー/音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー
ルシンダ・ダン ロバート・カラン

「海賊」
振付:マリウス・プティパ/音楽:リッカルド・ドリゴ
マリアネラ・ヌニェス ティアゴ・ソアレス

「エラ・エス・アグア ‐ She is Water」
振付:ゴヨ・モンテロ/音楽:コミタス、クロノス・カルテット
タマラ・ロホ

「くるみ割り人形」
振付:レフ・イワーノフ/音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー
ヤーナ・サレンコ ズデネク・コンヴァリーナ

「コッペリア」
振付:アルテュール・サン=レオン/音楽:レオ・ドリーブ
アリーナ・コジョカル ヨハン・コボー

■第2部■
「ジゼル」より第2幕のパ・ド・ドゥ
振付:ジャン・コラーリ、ジュール・ペロー/音楽:アドルフ・アダン
上野水香 マチュー・ガニオ

「クリティカル・マス」
振付:ラッセル・マリファント/音楽:リチャード・イングリッシュ、アンディ・カウトン
シルヴィ・ギエム ニコラ・ル・リッシュ

「ライモンダ」より第3幕のパ・ド・ドゥ
振付:マリウス・プティパ/音楽:アレクサンドル・グラズノフ
マリア・アイシュヴァルト フィリップ・バランキエヴィッチ

「スカルラッティ・パ・ド・ドゥ」(「天井桟敷の人々」より)
振付:ジョゼ・マルティネス/音楽:ドメニコ・スカルラッティ
アニエス・ルテステュ ジョゼ・マルティネス

「ディアナとアクティオン」
振付:アグリッピーナ・ワガノワ/音楽:チェーザレ・プーニ
シオマラ・レイエス ホセ・カレーニョ

「オテロ」 
振付:ジョン・ノイマイヤー/音楽:アルヴォ・ペルト
エレーヌ・ブシェ ティアゴ・ボァディン

■第3部■
「椿姫」より第1幕のパ・ド・ドゥ   
振付:ジョン・ノイマイヤー/音楽:フレデリック・ショパン
オレリー・デュポン マニュエル・ルグリ

「フォーヴ」  
振付:ジャン=クリストフ・マイヨー/音楽:クロード・ドビュッシー
ベルニス・コピエテルス ジル・ロマン

「白鳥の湖」より"黒鳥のパ・ド・ドゥ"
振付:マリウス・プティパ/音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー
スヴェトラーナ・ザハロワ アンドレイ・ウヴァーロフ

「カジミールの色」
振付:マウロ・ビゴンゼッティ/音楽:ドミトリー・ショスタコーヴィチ
ディアナ・ヴィシニョーワ ウラジーミル・マラーホフ

「マノン」より"寝室のパ・ド・ドゥ"
振付:ケネス・マクミラン/音楽:ジュール・マスネ
ポリーナ・セミオノワ フリーデマン・フォーゲル

「ドン・キホーテ」
振付:マリウス・プティパ/音楽:レオン・ミンクス
ナターリヤ・オシポワ レオニード・サラファーノフ

指揮:ワレリー・オブジャニコフ  
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団  
ピアノ:高岸浩子

2009/08/01

【バレエの原作を読む(5)】ドリーブ「コッペリア」←ホフマン『砂男』

 久々の「バレエの原作を読む」シリーズです。
 今回はかわいらしくオシャレなバレエ「コッペリア」。初演は1870年パリ・オペラ座で、音楽はレオ・ドリーブ(1836年-1891年)、台本はシャルル・ニュイッテルとアルチュール・サン=レオン、そしてアルチュール・サン=レオンの振付けでした。その後さまざまなヴァージョンの振付けが作られましたが、なかでも有名なのは、ぽん太も先日見たローラン・プティ版(1975年)でしょうか。
 さて、「コッペリア」の原作はホフマンの『砂男』です。E.T.A.ホフマン(1776年-1822年)はドイツの作家ですが、音楽や絵画でも才能を発揮し、法律家でもあったという多芸多才の人です。怪奇的な幻想文学で知られており、バレエの「くるみ割り人形」の原作となった『くるみ割り人形とねずみの王様』を書いたことは、以前の記事で書きました。例に漏れず『砂男』も、あの楽しいバレエの原作とは思えない、おどろおどろしい怪奇小説です。
 ぽん太の読んだ邦訳は、日本の幻想文学の第一人者である種村季弘(たねむらすえひろ)の河出文庫版(『砂男 無気味なもの―種村季弘コレクション、河出書房新社、1995年)です。『砂男』を論じたフロイトの『不気味なもの』も収録されていますが、現在は絶版で、古書でも高価なようです。岩波文庫の『ホフマン短篇集』(池内紀訳、岩波書店、1984年)の方が、同じ絶版でも古書の価格が安いようです。
 『砂男』のあらすじは例えばこちらで読めますが、幻想怪奇小説のあらすじを読んでもよくわからないでしょうし、もともと文庫本で100ページ足らずの短編ですから、ぜひ直接お読みになることをお勧めします。ようやく暑くなって来た夏の夜が、少しは涼しくなりますヨ。
 バレエと原作を比べてみると、自動人形を恋するというモティーフは共通ですが、その他はまったく異なっています。原作のナタナエルとクララは、バレエではフランツとスワルニダという名前になり、二人が結ばれるというのが結末であって、フランツはナタナエルのように発狂したりはしません。バレエの「ドン・キホーテ」が、ドン・キホーテは登場するものの、バジルとキトリが結ばれる話になっているのと同じ手法でしょうか?またバレエの自動人形の名前は、題名にもなっているコッペリアですが、小説ではオリンピアです。
 ぽん太が疑問に思うのは、なんで楽しく可愛らしくあるべきバレエの原作に、おどろおどろしいホフマンを持って来たのでしょうか?当時ホフマンがそんなに人気だったのでしょうか?ぽん太にはちっともわかりません。
 ということで、鈴木晶先生の『バレエ誕生』(新書館、2002年)をひも解いてみました。鈴木先生は、公式ブログによれば、サバティカルでニューヨークに滞在し、バレエを見まくっているようで、うらやましい限りであす。医者にもサバティカルの制度を作っておくれ。
 さて、鈴木先生の本を読んでいくつかわかったこと。まず、フランスでいわゆる「ロマンティック・バレエ」が最も盛んだったのは、1830年の七月革命で成立した七月王政の時代だったそうです。この時代に「ラ・シルフィード」や「ジゼル」といった名作が生まれたのですが、それを支えたのは上層ブルジョワジーや金融資本家による上り坂の社会でした。しかしその時代は、一方では労働者階級が生まれて来た時代でもありました。労働者階級は、1848年の二月革命で七月王政を倒し、革命はヨーロッパ各地に飛び火してウィーン体制を倒しましたが、再び反動政府が成立しました。フランスでは1852年にルイ・ナポレオンによる第二帝政が成立しました。この時代のバレエの代表作が「コッペリア」です。ロマン主義バレエの代表である「白鳥の湖」が悲劇であるのに対し、「コッペリア」は喜劇であり、ホフマンのロマン主義をふまえながら、それをパロディとして対象化して扱っています。この時代は例えば、快楽主義的なオッフェンバックのオペレッタがもてはやされた時代でした。ちなみにオッフェンバックにも「ホフマン物語」というオペレッタがありますね。
 18世紀は啓蒙主義の時代で、近代理性が形作られていった世紀で、それは1789年のフランス革命として結実したのでした。しかしその後19世紀前半にかけて、当然のことながらこうした理性主義に対する反動が生じた訳で、それがロマン主義だということができるでしょう。精神医学の世界では、「ピネルが精神障害者を鎖から解放した」という、真実ではないけれども象徴的な出来事が1793年。19世紀前半は、フランスにおけるリヴィエールの裁判と精神医学者エスキロール、ドイツのヴォイツェク裁判などを通して、理性が人間の本質であって、理性のない精神障害者は責任能力がない、という考え方が形成され、それは近代精神医学へと受け継がれていきました。一方で19世紀前半のドイツでは、ハインロートやイーデラーなど、現代では「ロマン主義精神医学」と呼ばれる思弁的精神医学が生まれましたが、時代のあだ花として、彼らの死後急速に力を失って行きました。
 すると「コッペリア」は、19世紀後半に近代的な精神と社会が成立していくなかで、19世紀前半のロマン主義を、ノスタルジックに再現したものだったのかもしれません。日本の歌舞伎でいえば、明治時代になって、失われて行く「江戸」を舞台で再現しようとした河竹黙阿弥みたいなもんでしょうか?
 鈴木晶先生の公式サイトの「「コッペリア」とはどういうバレエか」という文章がありますが、とても面白いので一読をお勧めいたします。パリ・オペラ座では第二次世界大戦後まで女性がフランツを踊っていたということは、初めて知りました。

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