【バレエ】嬉し恥ずかしマルティネスとルテステュ パリ・オペラ座バレエ団「ジゼル」
もちろん「ジゼル」はすばらしかったのですが、「シンデレラ」の感動があまりに強すぎて、ちょっともの足りなく感じたのも事実です。斬新な「シンデレラ」の舞台に比べ、「ジゼル」は基本的にはシンプルでオーソドックスな演出でした。こちらがNBSの公式サイトです。時間が経ってだいぶ記憶が薄れてしまいましたが、備忘録もかねて感想を。
ぽん太が観たのは、ルテステュとマルティネスというキャストでした。マルティネスのアルブレヒトは、一見して遊び人。やたらとジゼルの肌に触れたりして、椅子に座った時はキスしようとさえします(昨年観たレニングラード国立バレエの新演出の「ジゼル」もそうでした)。ルテステュのジゼルも生きいき溌剌としていて、病弱で内気ないつものジゼルではありません。アルブレヒトに言い寄られてまんざらではない様子。逆に甘えてみせたりします。恋に落ちた若い男女の嬉し恥ずかし状態で、こんなにいちゃつくジゼルとアルブレヒトは初めて観ました。なんだか海老蔵・真央のバカップルを思い出し、「勝手にやってろー!」と言いたくなりました。
ウィリとなってからのジゼルは、先日のアナニアシヴィリとは正反対で、亡霊のような固く無機質な表情。双眼鏡を使ってアップで見ると、正直ちょっと恐かったです。もう少し愛と哀しみを表情に出してもいいような気もしました。表情は固かったですが、踊りは表現力豊かで、静かで軽く柔らかかったです。リフトで宙を舞うような動きも、リアルに浮遊しているようでありながらも、やり過ぎず踊りの一部として収まっておりました。
ジローのミルタは、冷徹で神々しいというよりも、マッダームの迫力があり、それはそれで恐ろしかったです。オファルトのヒラリオンは、顔も踊りも精悍でよかったです。最初の登場の時、鳥とか花とかお土産をもってこないのが目新しかったです。コール・ド・バレエがみなスタイルも良く、技術的にもすばらしいのは「シンデレラ」で申したとおりです。
舞台装置は、ジゼルの家と、アルブレヒトが剣を隠す家が、舞台袖ではなく正面寄りにありました。これなら端の席からも見えてグッドです。第二幕では、幕が開くとおびただしいスモークが溢れ出し、オケピが沼のようになってました。背景には教会のような建物が見え、グルジア国立バレエに続きパリ・オペラ座よお前もか、と思いましたが、よく見ると朽ち果てた教会でした。
衣装では、ウィリたちのスカートがちょっと厚いというか、重い感じがしました。
二幕の初めに「さいころ遊びをする人たち」が出てきて、大勢のウィリが襲いかかるという演出も初めて見ました。
「ジゼル」が1841年にパリ・オペラ座で初演されたときの台本を見てみると[1]、第二幕の冒頭では、何人かの森番がジゼルの墓の近くで狩りを行おうとしています。そこにやってきたヒラリオンが、ここはウィリたちが踊る呪われた場所であることを教え、逃げるよう促します。おりしも零時の鐘が鳴り、どこからか幻想的な音楽が聞こえてきます。彼らは鬼火に追われながら、一目散に逃げ出します。また二幕の途中では、一人の老人を先頭にして村の若者たちが通りかかると、ウィリが彼らを取り囲み、風変わりな音楽に乗せて踊り出します。それに誘われて若者たちは踊り出し、死んでゆこうとするところ、老人が踊りの真ん中に飛び出して、若者たちが危険を冒していることを告げます。彼らはウィリの追撃を振り切り、命からがら逃げ出します。
今回の「ジゼル」の「さいころ遊びをする人たち」は、こうした演出を踏襲しているのかもしれません。
ウィリたちがミルタに向かって ケチャみたいに両手をのばす仕草も、ちと珍しかったです。
パリ・オペラ座バレエ団
「ジゼル」(全3幕)
テオフィル・ゴーティエ、ジュル=アンリ・ヴェルノワ・ド・サン=ジョルジュの台本による
1998年製作
2010年3月18日/東京文化会館
音楽:アドルフ・アダン
振付:ジャン・コラーリ、ジュール・ペロー(1841)
改訂振付:マリウス・プティパ(1887)
パトリス・バール、ユージン・ポリャコフ(1991)
装置:アレクサンドル・ブノワ
装置製作:シルヴァノ・マッティ
衣裳:アレクサンドル・ブノワ
衣裳製作:クローディ・ガスティーヌ
ジゼル:アニエス・ルテステュ
アルブレヒト:ジョゼ・マルティネス
ヒラリオン:ジョシュア・オファルト
ウィルフリード:ジャン=クリストフ・ゲリ
ベルタ、ジゼルの母:ヴィヴィアン・デクチュール
クールランド大公:ヤン・サイズ
バチルド姫:ベアトリス・マルテル
ペザント・パ・ド・ドゥ:メラニー・ユレル、エマニュエル・ティボー
ミルタ:マリ=アニエス・ジロー
ドゥ・ウィリ:マリ=ソレーヌ・ブレ、サラ=コーラ・ダヤノヴァ
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
指揮:コーエン・ケッセル
【参考文献】
[1] 『十九世紀フランス・バレエの台本―パリ・オペラ座』慶応義塾大学出版協会、2000年。
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