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2010年11月の12件の記事

2010/11/25

【拾い読み】製薬会社による抗うつ剤プロモーション 冨高辰一郎『なぜうつ病の人が増えたのか』

 精神科医なら誰でも、最近うつ病の患者さんが急激に増えたという実感を持っているはずです。その原因については、不況によるストレスの増大だとか、性格や考え方の変化など、諸説入り乱れておりますが、本書は、SSRIと呼ばれる新しいタイプの抗うつ剤の登場がその原因であると主張します。また例によってぽん太が興味深かったところを拾い読みいたしますので、興味がある方は原著をお読みください。冨高辰一郎『なぜうつ病の人が増えたのか』(幻冬舎ルネッサンス、2009年)です。

2150_2 筆者はまず、厚生労働省の調査データに基づき、気分障害の患者数が1999年以降に急速に増大し、2005年までの6年間で2倍以上になった事実を指摘します。おなじデータによるグラフを左にあげておきます。引用元はこちら(社会実情データ図録)です。ただし「気分障害」には、うつ病だけではなく、躁病や躁うつ病の患者さんも含まれております。

2740 うつ病急増の原因を、バブル崩壊などの社会環境の悪化によるストレスだとする考え方がありますが、著者はこの説明を否定します。その理由の第一として、うつ病が急増する1999年よりも前の1998年に、すでにリストラなどによる失業率の上昇とともに、自殺率の上昇が見られています。第二に自殺率の推移は、うつ病の患者数のように増加し続けてはおりません。左のグラフの出典はこちら(社会実情データ図録)。
 ぽん太が思うに、この主張に関しては、ストレスの増大からある程度時間がたってからうつ病が発症する場合が多いことや、自殺者が必ずしもうつ病になって病院を受診していたとは限らないこと、うつ病医療の発展によって自殺率が低下した可能性も否定できないことなどから、十分説得力があるとは思えません。

10111301_2 実はうつ病患者が急増する1999年という年は、日本で初めてSSRIと呼ばれる抗うつ剤が発売された年であり、その後の抗うつ剤市場の伸びは、まさにうつ病患者数の増大と同じカーブを描いていることがわかります(グラフは「医療用医薬品データブック」(富士経済、2004年No.2)。
 また著者は日本以外の外国でも、SSRI導入後に、同様のうつ病患者数の増大が見られていることを指摘します。こうしてうつ病患者の増加が、社会環境の変化によるものではなく、SSRIの登場とリンクしていることを論証します。
 すると次は、なぜSSRIの登場によってうつ病患者が増えたのかということになるのですが、それは製薬会社による販売促進活動の結果であると著者は言います。
 SSRIは、製薬会社にとって、多額の売り上げが期待できる薬剤です。その理由は第一に、SSRIはこれまでの抗うつ剤に比べて価格が数倍します。第二に、うつ病は10人に1人が一生涯のうちにかかると言われているように多くの人がかかる病気で、また一度うつ病になると服薬が長くなる可能性が高いため、大きな需要が見込まれます。
 ただ、ひとつ問題があります。うつ病になっても、病院を受診しない人が多いのです。日本の疫学的調査の結果によれば、過去1年間にうつ病にかかった人の、わずか15%しか病院を受診しなかったそうです。そこでSSRIの売り上げを増やすため、これまで病院を受診しなかった人が病院に行くようにすることが大切であり、多大な費用と時間を要する新薬開発などに比べて、手っ取り早い売上増進の手段となるのです。
 これまでのように、医者に対して宣伝活動をしていてもだめなのであり、一般社会に向けて、「あなたはうつ病かもしれない。うつ病だったら病院に行き、薬を飲むべきである」というメッセージを発する必要があるのです。これがDTC(Direct to Customer Campaign)です。まず、テレビや雑誌、新聞広告、インターネットなどを使い、うつ病の露出を増やします。内容は、有名人のうつ病体験だったり、精神科医による解説だったりします。それを見た人を電話のコールセンターやインターネットサイトに誘導します。
 確かに「あなたは●●かもしれません。それは治療可能な病気です。病院を受診しましょう」というテレビコマーシャルも、抗うつ剤に限らず、ED(勃起不全)、AGA(男性型脱毛症)、記憶に新しい禁煙など、いつの頃から目につくようになりました。こうしたコマーシャルは、決して具体的な薬の名前をあげません。製薬会社名も昔は出なかったけど、最近はファイザーの「お医者さんと禁煙しよう」のように露出する例も出てきているようです。このあたりは広告規制と絡んでいると思われますが、ぽん太はよくわかりません。
 こうした手法は、製薬会社がすでにアメリカ、ヨーロパで行って確立したプロモーションの方法を、日本で繰り返しただけだそうです。
 しかしこうした病気の啓発活動(Awareness campaign)は、ひとつ間違うと病気の押し売り(disease mongering)になりかねません。著者は、アメリカで小児躁うつ病キャンペーンの結果、患者数が40倍に増えたことを指摘し、また日本の「脳循環代謝改善剤」の教訓を思い出させます。
 また、スポンサー名を隠しての啓発活動もあります。一例として著者があげるのがUTU-NETという啓発サイトです。このサイトは、「うつ・不安啓発委員会」が運営し、製薬会社のイベント業務を専門とする広告代理店が事務局になっておりますが、ある製薬会社が支援しているのだそうです。
 また製薬会社は、学会や研究会の支援、あるいは研究費の援助を行います。また、「オピニオンリーダー」と呼ばれる、自社の薬剤をサポートしてくれる有力医師に対しては、国際学会への招待や、コンサルタント料などの名目による報酬も支払われるそうです。
 著者は、製薬会社の支援する啓発活動の内容にある程度のバイアスがかかるのは仕方ないが、少なくとも製薬会社が支援していることを明示すべきだと主張します。
 いわゆる非定型うつ病の増大に関しても、SSRIプロモーション以後の受診患者層の変化が影響していると考えられます。「自分は病気であり、薬で治療すべきである」という思いが強すぎると、回復を妨げることもあります。薬物療法だけではなく、認知療法の併用なども、患者さんによっては必要です。アイスランドにおける研究では、抗うつ剤の普及が、かならずしも社会全体におけるうつ病の現象につながらないことを示しています(Helgason T et al. Antidepressants and public health in Iceland. Time series analysis of national data. Br J Psychiatry. 2004 184:157-62)。
 また2008年には抗うつ剤の有効性に疑問をなげかける論文が発表され、世界中に衝撃を与えたそうですが、なぜか日本のマスコミはまったく騒がなかったそうです(Kirsch I et al. Initial Severity and Drug Antidepressant Benefits: A Meta-Analysis of Data Submitted to the Food and Drug Administration PLoS Medicine)。キルシュ教授は、アメリカのFDAにSSRIの臨床データを、これまで公表されていなかったものも含めて開示請求し、メタアナリシスを行いました。その結果、抗うつ剤の効果はプラセボと比較してあまり強くないということが明らかになったそうです。この研究は二つの意味で衝撃を与えたそうです。第一に、抗うつ剤の効果が実は強くないということ、第二に製薬会社が自社の薬に不利なデータを公表してなかったという事実がわかったということです。
 実際欧米のうつ病治療ガイドラインでは、軽症のうつ病には薬物療法を積極的には勧めていません。イギリスのNICEのうつ病の治療ガイドラインでは、「リスクと利益の比率が乏しいので、抗うつ薬は軽症うつ病の最初の治療としては勧められない」とされていますし、またアメリカでも「もし患者が希望するなら、軽症うつ病の最初の治療として抗うつ薬を投与していもよい」と書かれています。日本ではこうした論調はなく、軽症でも最初から抗うつ剤による治療が行われています。
 抗うつ剤と自殺の関係に関しては、論争に決着はついておらず、著者自身も判断できないとしています。またSSRIが従来の抗うつ剤に比べて優れているかどうかに関しては、副作用も含め、優れているとは言い切れず、それぞれに長所・短所があると考えるべきであるとしている。メンタル休職を減らすには、復職支援やリハビリが大切であって、さしあたって取り組むべき課題として残業対策をあげています。

 以上がこの本の内容で、製薬会社によるプロモーションに関しては、ぽん太も薄々感じていた点が、とても明確になりました。できれば製薬会社や広告業界に詳しい人にも、同じテーマで書いて欲しいです。また本書ではオピニオンリーダーと呼ばれ、仲間内では「御用学者」と呼ばれている、特定の製薬会社と密接に関連した医師に関しては、誰かにもっと細かく内輪話を暴露して欲しいですが、精神科医が名前を出してそういうことをすると、我が身を滅ぼすことになる危険性が高いです。
 いろいろと感想もあるのですが、長くなってしまったので、またの機会に述べたいと思います。

2010/11/23

【オペラの原作を読む(1)】ムソルグスキー「ボリス・ゴドゥノフ」←プーシキン『ボリス・ゴドゥノフ』

 先日キエフ・オペラで観たムソルグスキーの「ボリス・ゴドゥノフ」がいまいちよく理解できなかったので、原作を読んでみました。プーシキン『ボリス・ゴドゥノフ』(佐々木彰訳、岩波書店、1957年、岩波文庫)です。
 あらすじに関してはめんどくさいので省略。自分でググるか、本を買って読んでくだされ。
 オペラでは悪い奴なのか、意外といい人なのかよくわからなかったボリス・ゴドゥノフですが、原作でも権力を得るためには手段を選ばない悪人であると同時に、自分の罪におびえる弱い人間であり、また子を思う父親でもあるという風に描かれていました。
 全体としてムソルグスキーは、プーシキンのテキストをよく踏襲しているように思いますが、いくつかの違いがあります。まず、原作ではボリス・ゴドゥノフは発狂しません。総主教が語るドゥミトリーの墓の奇跡の話しを聞いて、顔色が真っ青になって大粒の汗を流すけれども、錯乱することはありません。そして少し後で、玉座に座っている時に、突然口や耳から血を流して卒倒します。
 もうひとつ、偽ドゥミトリーは1万5千にも満たない軍勢で、5万のロシア軍に戦いをいどみ、あえなく破れます。ここにも偽ドゥミトリーの野心的な性格が現れているように思えます。しかし上で書いたようにボリス・ゴドゥノフが急死することによって、偽ドゥミトリーに皇帝の椅子がころがりこんできます。 
 最後にラストシーンですが、ボリスの妻や息子フョードルたちが監禁されているボリス邸に、貴族たちが慌ただしく入っていきます。しばし乱闘のような物音が続いた後、扉を開けて出てきた貴族は民衆に向かって、「ボリスの妻や子供は毒をあおいで死んだ。さあ、皇帝ドゥミトリー万歳と叫ぶんだ」と言います。しかし人々は恐怖のあまり声を発することができません。オペラは「ボリス・ゴドゥノフの最後」みたいな感じですが、原作では「ボリスと偽ドゥミトリーの抗争」対「民衆」みたいな感じでした。

2010/11/21

【オペラ】まるで極上のスイーツや! 「アンドレア・シェニエ」新国立劇場

 ぽん太は「アンドレア・シェニエ」が初めてどころか、ウンベルト・ジョルダーノという名前すら初耳。Wikipediaを見てみると、1867年に生まれて1948年に死去したイタリアの作曲家とのこと。プッチーニ(1858 - 1924年)よりちょっと若いと思えばいいのかしら。作品としては「アンドレア・シェニエ」(1896年)と「フェードラ」(1898年)意外はあまり有名でないみたいですね。「アンドレア・シェニエ」のあらすじなどはWikipediaをどうぞ。革命前後のフランスを舞台に、実在の詩人アンドレ・シェニエを描いた作品で、ヴェリズモ・オペラの傑作だそうです。なんだ〜?「ヴェリズモ・オペラ」って。なんだか知らないことばっかりだな〜。こちらも困った時のWikipediaを見てみると、ふむふむ、なるほど。「ヴェリズモ・オペラ(verismo opera)は、1890年代から20世紀初頭にかけてのイタリア・オペラの新傾向である。同時代のヴェリズモ文学に影響を受け、内容的には市井の人々の日常生活、残酷な暴力などの描写を多用すること、音楽的には声楽技巧を廃した直接的な感情表現に重きを置き、重厚なオーケストレーションを駆使することをその特徴とする」とのこと。代表作は「カヴァレリア・ルスティカーナ」(初演1890年)で、「アンドレア・シェニエ」(同1896年)や「トスカ」(同1900年)も含めて考えていいそうです。
 新国立劇場での上演は、2005年に続いて2度目。国内では4度目の上演になるそうです。新国立劇場の特設サイトはこちら(たぶんそのうちリンク切れ)、通常のサイトはこちらです。
 さて、今回の公演、第一に挙げるべきはフィリップ・アルローの演出でしょう。フィリップ・アルローといえば、先の「アラベッラ」も彼の演出で、それはそれで悪くはありませんでしたが、今回の方が彼の力量がより発揮されているように思えます。斜めに傾いたコワニー伯爵邸の舞踏会場は貴族階級の不安定な位置を象徴し、ぐるぐるぐるぐる回る回り舞台(まわりすぎだろっ!)は時代の混乱と激動を暗示します。ギロチンのように突然上から降りて来る幕。左右から閉まる斜めに切れた戸。それらはプロジェクターの幕としても役立ち、さまざまな光景が映し出されます。なかでも幕間に、ぐるぐる回りながら次第に増殖して行くギロチンが映し出されたのには驚きました。こんなのアリ?近い将来、レーザー光線やCGを多用した演出も出て来るかもしれません。
 上にリンクした特別サイトに合唱指揮の三澤洋史の『見果てぬ夢』というエッセーがありますが、それによれば、アルローはフランス革命について次のように述べたそうです。「僕たち(フランス人)は、フランス革命がうまくいったから、ラ・マルセイエーズを国歌に定めているわけじゃないんだ。むしろ全てが悪くなり、長い間大混乱に陥ったけれど、そのリスクを背負いながらもどこの国よりも早くチェンジに踏み切った、その勇気を誇りに思っているんだ」。フランス革命がきれいごとではすまなかったことは、このオペラでも示されておりますが、マルローはさらに、第1幕最後ののガボットのシーンで労働者たちが貴族に襲いかかることや、最後にシェニエとマッダレーナがギロチンにかけられたとき、舞台上の群衆がみな倒れることで強調しています。
 なんだかマルローの演出は、前回の「アラベッラ」より格段によい気がしますが、やはり事業仕分けで予算が削られたのでしょうか(「アンドレア・シェニエ」は2005年のプロダクション)。削るなら現場の制作費ではなく、天下りの重役を削減して下さい。
 歌手たちもすばらしかったです。アンドレア・シェニエのミハイル・アガフォノフは、豊かで力強いテノールで、誠実に生きるあまり断頭台の露と消える詩人を見事に表現しておりました。マッダレーナのノルマ・ファンティーニも、透明な声でありながら非常に声量があり、また演技もすばらしかったです。ジェラールのアルベルト・ガザーレも、革命の変質を憂え、愛欲に囚われた自らを呪いながら、最後にはシェニエとマッダレーナを救おうとする心の動きを歌い上げました。竹本節子のマデロンも、胸にジワっときました。
 ジョルダーノの音楽はストレートでわかりやすく、悪くなかったです。ただ、「最後はみんないい人」という結末とともに、ちょっと「毒」がないのかな。
 極上のスイーツをいただいたような印象のオペラでした。おいしゅうございました。


「アンドレア・シェニエ」
ウンベルト・ジョルダーノ
Umberto Giordano:Andrea Chénier
2010年11月18日 新国立劇場オペラ劇場

【指 揮】フレデリック・シャスラン
【演出・美術・照明】フィリップ・アルロー
【衣 裳】アンドレア・ウーマン

【アンドレア・シェニエ】ミハイル・アガフォノフ
【マッダレーナ】ノルマ・ファンティーニ
【ジェラール】アルベルト・ガザーレ
【ルーシェ】成田博之
【密偵】高橋 淳
【コワニー伯爵夫人】森山京子
【ベルシ】山下牧子
【マデロン】竹本節子
【マテュー】大久保 眞
【フレヴィル】萩原 潤
【修道院長】加茂下 稔
【フーキエ・タンヴィル】小林由樹
【家令/シュミット】大澤 建

【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

2010/11/19

【歌舞伎】陰と陽の幸四郎・菊五郎 2010年11月新橋演舞場昼の部

 昼の部は「天衣紛上野初花」の通し。「河内山宗俊」はこれまで何度か観たことがあり、「直侍」も一昨年に菊五郎・菊之助で見ましたが、通しで見るのは初めてでした。やっと両者の関係と、全体的な筋立てがわかりました。松竹の公式サイトはこちらです。
 幸四郎、夜の部の「逆櫓」はいまいちでしたが、今日の「河内山」は楽しめました。世話物だと、うまく間を取って観客を笑わせたりするところはやはりうまいし、宗俊の腹に一物ありそうなところが、幸四郎の雰囲気に合っております。
 いっぽう菊五郎の片岡直次郎は、悪党とは思えないほど、明るく色っぽくてカッコよかったです。時蔵の三千歳もよかったです。前回の菊之助の三千歳は、匂い立つような女の色気がありましたが、時蔵はどこか薄幸そうで、心細そうな風情が漂うのがいいです。「大口屋寮」で金子市之丞が直次郎を馬鹿にしたとき、すごい表情で市之丞を睨みつけた所にも、直次郎への一途な思いがにじみ出ていました。その市之丞は段四郎。「逆櫓」では複雑な人物の漁師権四郎が少し手に余ってる気がしましたが、格式ある剣豪、実は金の力で三千歳を身請けしようとするスケベ親父、実は妹思いの実直な兄という役を、骨太に演じておりました。
 團蔵も明るく粋な持ち味を生かして、宗俊や直次郎の主役にかぶらないように、小悪党の暗闇の丑松をうまく演じてました。秀太郎のおまきと友右衛門の和泉屋清兵衛もいかにも品がよく、宗俊の悪事を聞いてそそくさと立ち去るところも面白かったです。田之助の按摩丈賀は、なんかホンワカして不思議な存在感。


新橋演舞場
吉例顔見世大歌舞伎
平成22年11月 昼の部

通し狂言
  天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはな)
  河内山と直侍

   序 幕 湯島天神境内の場
       上州屋見世先の場
   二幕目 大口楼廻し部屋の場
       同 三千歳部屋の場
       吉原田圃根岸道の場
   三幕目 松江邸広間の場
       同 書院の場
       同 玄関先の場
   四幕目 入谷村蕎麦屋の場
       大口屋寮の場
        浄瑠璃「忍逢春雪解」
   大 詰 池の端河内山妾宅の場

                 河内山宗俊    幸四郎
                   三千歳    時 蔵
                 金子市之丞    段四郎
                 松江出雲守    錦之助
                  宮崎数馬    高麗蔵
                  腰元浪路    梅 枝
                  北村大膳    錦 吾
                   おみつ    萬次郎
                 暗闇の丑松    團 蔵
                和泉屋清兵衛    友右衛門
                高木小左衛門    彦三郎
                 後家おまき    秀太郎
                  按摩丈賀    田之助
                 片岡直次郎    菊五郎

2010/11/18

【バレエ】一転シリアスなプログラム「アリア」「火の鳥」「3人のソナタ」モーリス・ベジャール・バレエ団

 楽しいショーのような「80分間世界一周」から一転して、本日はシリアスで見応えのある演目がならびました。公演の公式サイトはこちらです。
 「3人のソナタ」は、男性一人、女性二人による濃密な人間ドラマで、「へ〜、ベジャールもこんな作品を創るのか」と思いました。公式サイトの解説によれば、ベジャールがパリの小劇場を本拠地にしていた1957年に発表されたものだそうで、例の「春の祭典」の初演が1959年ですから、初期の作品なんですね。テーマは「不倫現場で鉢合わせの修羅場」でしょうか……違うみたいです。サルトルの『出口なし』という戯曲が元のようですが、哀しいかなタヌキのぽん太は読んだことがありません。帰ってからググってみて納得。サルトルの有名な言葉「他人は地獄だ」の出所なんだそうです。まあ「地獄」という点では似ているけど……。こんど読んでみようっと。バレエを観る前に調べておけばよかった。ファヴローらダンサーも、見事な表現力。ベジャール・バレエ団って、こういう内面的な心理劇みたいなのも一級品なんですね。参りました。
 ベジャール版の「火の鳥」は、ぽん太は初めてでした。「奇跡の響宴」でベジャール版の「ペトリューシュカ」と「春の祭典」を観てますから、短期間でストラヴィンスキーの三大バレエのベジャール版を観れたことになります。また、先日新国立バレエで、フォーキンのオリジナル版の「火の鳥」も観たばかりですが、いや〜、さすがにベジャール版は、踊りそのものの面白さ、美しさが違いますね〜。火の鳥が男性なのも驚きますが、確かに男性の方が女性よりもダイナミックな踊りが可能で、主人公の「火の鳥」が引き立ちます。その火の鳥役のダヴィッド・クピンスキーがまたすばらしかったです。長身でスタイルも良く、大きく高くしなやかな踊りで、振付けも古典的なテクニックが多く用いられていたので、古典バレエのような美しさでした。「白鳥の湖」の王子とか踊ってくれないかな〜(くれるわけないか……)。フェニックスのオスカー・シャコンの方は濃密な感じでこれはまたよい(火の鳥とフェニックスって、どう違うんだ?)。群舞も迫力ありました。
 ジル・ロマンからの贈り物で、「メフィスト・ワルツ」がプログラムに加わりました。手術台に乗った女性を、男性がなにやら手術しているようなところから始まります。ベジャール版「コッペリア」、あるいは「フランケンシュタイン」といったところでしょうか。最後は立場が逆転します。先ほどダイナミックな火の鳥で魅了したクピンスキーが、今度はおしゃれでちょっとユーモラスな踊りを見せてくれました。キャサリーン・ティエルヘルムも上手でした。
 最後は、ジル・ロマン振付けの「アリア」。う〜ん……。振付家としては、ジル・ロマンはまだまだベジャールには及びませんな。初期の作品にありがちな、あれもこれも「詰め込み過ぎ」です。またダンスの動きもいまいちで、ダンサーたちの鍛え抜かれたテクニックや身体美が生かされてない気がします。小道具を使った美術は面白く、衝撃音を伴う場面転換も加わり、なんだか熱に浮かされて見る悪夢のような、幻想的で不安な雰囲気がありました。バッハの「ゴールドベルク変奏曲」のテープは、うなり声も入ってたし、グレン・グールドの演奏でしょうか。そういえば、グールドもイヌイットの音楽に興味を持っていたはずですが、なにか関係があるのかな……。


モーリス・ベジャール・バレエ団
2010年11月14日 東京文化会館

「3人のソナタ」
ジャン=ポール・サルトル「出口なし」に基づく
振付:モーリス・ベジャール 
音楽:ベラ・バルトーク (2台のピアノとパーカッションのためのソナタ第1楽章、第2楽章)

ジュリアン・ファヴロー
ルイザ・ディアス=ゴンザレス
ダリア・イワノワ


「火の鳥」
振付:モーリス・ベジャール
音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー

火の鳥:ダヴィッド・クピンスキー
フェニックス:オスカー・シャコン
パルチザン:シモナ・タルタグリョーネ、フロランス・ルルー=コルノ、リザ・カノ、ホアン・サンチェス、
      マルコ・メレンダ、アンジェロ・ムルドッコ、ホアン・プリド、エクトール・ナヴァロ
小さな鳥たち:アドリアン・シセロン、ローレンス・ダグラス・リグ、ヘベルス・リアスコス、
       ファブリス・ガララーギュ、サンドリン・モニク・カッシーニ、オアナ・コジョカル、
       キアラ・パペリーニ、コジマ・ムノス


「メフィスト・ワルツ」
振付:モーリス・ベジャール
音楽:フランツ・リスト

ダヴィッド・クピンスキー、キャサリーン・ティエルヘルム


「アリア」
振付、演出:ジル・ロマン
音楽:J.S.バッハ、ナイン・インチ・ネイルズ、メルポネム、イヌイットの歌から抜粋
オリジナル音楽:チェリ・オシュタテール&ジャン=ブリュノ・メイエ(シティ・パーカッション)

彼:フリオ・アロザレーナ
他者:ジュリアン・ファヴロー
アリアドネたち:エリザベット・ロス、ダリア・イワノワ、カテリーナ・シャルキナ
若い娘:シモナ・タルタグリョーネ
闘牛士:ヴァランタン・ルヴラン
若者たち:マルコ・メレンダ、ホアン・サンチェス、ヴァランタン・ルヴラン、ホアン・プリド、
     ガブリエル・アレナス・ルイーズ、アドリアン・シセロン、大貫真幹、
     ファブリス・ガララーギュ、ヘベルス・リアスコス、シモナ・タルタグリョーネ、リザ・カノ、
     オアナ・コジョカル、サンドリン・モニク・カッシーニ、ポリーヌ・ヴォワザール、
     フロランス・ルルー=コルノ、コジマ・ムノス、キアラ・パペリーニ

2010/11/12

【バレエ】楽しや美しや「80分間世界一周」モーリス・ベジャール・バレエ団

 開演を10分遅らせて17時10分としたものの、休憩なしの80分で世界一周。実際の上演時間は95分だそうですが、それでも9時前には早々に終演。みぢかっ!!でも、ぽん太は大満足でした。公演の公式サイトはこちらです。
 モーリス・ベジャール・バレエ団は、独特の身体美がありますね〜。みな引き締まった身体をしていて、特に男性は上半身裸の場合が多いので、それが強調されます。それでいて柔らかい動きもできて、ポーズもきれいです。彼らが、次々と世界各国にちなんだダンスを踊ってくれるのですから、サービスも満点です。美しく、感動しつつも、楽しいバレエでした。
 公式サイトの解説によれば、2007年、ベジャールが80歳を迎えたのを機に創作を開始しましたが、未完のまま死去。ジル・ロマンらカンパニーによって仕上げられたのだそうです。う〜ん、どこがベジャールで、どこがその後に補完された部分なんでしょう。わかりません。
 イントロダクションでは、男性ダンサー全員が、身体をほぐしながら練習に集まって来る雰囲気で始まり、先日観たばかりの「春の祭典」のさわりを踊ります。
 そして世界一周のスタートはアフリカのセネガル。解説によれば、ベジャールの曾祖父がアフリカ出身なのだそうですが、ぐぐってみると「曾祖母」だとか「祖母」だとか書いているサイトもあります。ホントはどうなのでしょう?それはさておき、生の迫力あるパーカッションにのせて、アフリカ風の迫力あるダンスが踊られます。
 一つひとつの感想は省略しますが、ギリシャの女性ダンサーの群舞はよかったな〜。ヴェネツィアの那須野君の「恋する兵士」も頑張ってました。ウィーンの「美しく青きドナウ」に乗せたワルツも優雅でした。
 エジプト王タモスのジル・ロマンは、やはり軍を抜いておりました。身体のキレもさることながら、一つひとつの動きのなかに劇的な表現力がありました。ただ、狂言回しみたいな感じで所々に登場するのはどうか……。ジル・ロマン目当ての客へのサービスもあるのかもしれませんが、「旅人」が狂言回しの役割をしているのですから。いきなり登場して華麗に踊ってさっと去る感じでもよかったのでは。
 ぽん太が納得できないのは「北極」。北極にはペンギンはいないだろ。南極じゃないの?なにか深い意味があるんだろうか……。
 「サンフランシスコ」のショー風のダンスも良かったし、ハムレットの黒人ダンサーの踊りは迫力がありました。最後の「ブラジル」では、全員がサンバのリズムに乗って踊りまくり、しまいにはテレビのお笑いコントのオチでカメラが揺れるようなふにょふにょの状態になっておしまいでした。


[ベジャール・バレエ]
「80分間世界一周」
モーリス・ベジャール振付
2010年11月10日 東京文化会館

I. イントロダクション :男性全員
旅人 :マルコ・メレンダ
II. セネガル
ソロ :リズ・ロペス
パ・ド・ドゥ :ダリア・イワノワ、ダヴィッド・クピンスキー
III. サハラ
パ・ド・シス :ジュアン・プリド、ヴァランタン・ルヴラン、ホアン・サンチェス、
        ダニエル・サラビア・オケンド、ガブリエル・アレナス・ルイーズ、エクトール・ナヴァロ
IV. エジプト :ジュリアン・ファヴロー
V. ギリシャ :女性全員
マヌーラ・ムウ :リザ・カノ
VI. ヴェネツィア
七つの色 :大貫真幹、ガブリエル・アレナス・ルイーズ、エクトール・ナヴァロ、ウィンテン・ギリアムス、
      ローレンス・ダグラス・リグ、ダニエル・サラビア・オケンド、ヴァランタン・ルヴラン
ライト :エリザベット・ロス
恋する兵士 :那須野圭右
VII. ウィーン
美しく青きドナウ :フロランス・ルルー=コルノ、ポール・クノブロック、カンパニー全員
エジプト王タモス :ジル・ロマン
VIII. パルジファル :カテリーナ・シャルキナ、オスカー・シャコン
IX. インド :那須野圭右、ガブリエル・アレナス・ルイーズ、ヴァランタン・ルヴラン
       男性全員
X. アレポ :ルイザ・ディアス=ゴンザレス、ポール・クノブロック、
       マーシャ・アントワネット・ロドリゲス、フェリペ・ロシャ
XI. 中国 
ソロ :オアナ・コジョカル
パ・ド・ドゥ :エリザベット・ロス、ジュリアン・ファヴロー
XII. 北極 :男性全員
XIII. サンフランシスコ
タップ・ダンス :ダリア・イワノワ、カテリーナ・シャルキナ、リザ・カノ、女性全員
ハムレット(デューク・エリントン) :ジュリオ・アロザレーナ

XIV. パ・ド・シス :エリザベット・ロス、カテリーナ・シャルキナ、ダリア・イワノワ
          ジュリアン・ファヴロー、ドメニコ・ルヴレ、ポール・クノブロック
XV. アンデス
ソロ :ダヴィッド・クピンスキー
XVI. ブラジル
バトゥカーダ :那須野圭右、ガブリエル・アレナス・ルイーズ、ダヴィッド・クピンスキー、
         ポール・クノブロック、オスカー・シャコン、カテリーナ・シャルキナ、ダリア・イワノワ、
         エリザベット・ロス、ジュリアン・ファヴロー、カンパニー全員

【演奏】
パーカッション:チェリ・オシュタテール&ジャン=ブリュノ・メイエ(シティ・パーカッション)
キーボード&トランペット:イリア・シュコルニク

2010/11/11

【歌舞伎】菊五郎・菊之助の「都鳥廓白浪」 2010年11月新橋演舞場夜の部

 11月の新橋演舞場は、まず夜の部から。公式サイトはこちらです。
 まずは「ひらかな盛衰記」より「逆櫓」です。なぜかわかりませんがぽん太には、ちょっと盛り上がりに欠けたような気がしました。幸四郎は迫力はありましたが、声がくぐもって聞き取りづらく、台詞や動きに義太夫物っぽさがありません。浜辺物見の松の場では、立ち回りで疲れたのか、なんだか棒立ちみたいな時もありました。高麗蔵の女房およしも、しっかり演じているけどちと華がない。また段四郎も、漁師権四郎の複雑な気持ちの動きを十分に表現しきれていなかった気がしました。魁春のお筆はさすがに立派。富十郎の畠山重忠は朗々と明るいが、まだ台詞が入ってなかったのが残念。
 次は「梅の栄」は、琴も加わっての華やかな踊り。種太郎、右近、種之助、米吉の若衆が初々しくて美しかったです。次いで大ベテラン芝翫と、孫の宣生の踊り。芝翫の熟練の芸と、おもちゃみたいにかわいい宣生君の対比がおもしろかったです。
 最後は菊五郎と菊之助の「都鳥廓白浪」。ぽん太は初めて観る演目です。菊五郎らしい、スピーディーで明るい芝居でした。「実は……だった」の連続で、次々と場面が移り変わり、御家騒にだんまりにお宝の奪い合いなど、歌舞伎の醍醐味も満載で楽しめました。河竹黙阿弥の出世作なんだそうで、七五調のセリフは聞かせてくれます。菊五郎は生世話物はあいかわらずうまいです。最後の木の葉の峰蔵も笑わせてくれました。「おまんまの立廻り」、初めて見ましたけどおもしろいですね。菊之助も、女形での美しさ、男になっての貫禄がともにあって、脂が乗っている感じ。ただ、どうも表情の変化に欠けるような気がします。時蔵のお梶も上手で、惣太の家に花子が訪ねてきた時のおもしろくなさそうな演技がおよかったです。團蔵の葛飾十右衛門は明るく小粋、歌六の丑市は怪しくて、ともに芝居を盛り上げておりました。内容というか深みはない芝居だけど、ま、いいか。


新橋演舞場
吉例顔見世大歌舞伎
平成22年11月 夜の部

一、ひらかな盛衰記(ひらかなせいすいき)
  逆櫓
        船頭松右衛門実は樋口次郎兼光    幸四郎
                    お筆    魁 春
               船頭日吉丸又六    友右衛門
               同 明神丸富蔵    錦之助
               同 灘吉九郎作    男女蔵
               槌松実は駒若丸    金太郎
                  畠山の臣  尾上右 近
                  畠山の臣    萬太郎
                 女房およし    高麗蔵
                 漁師権四郎    段四郎
                  畠山重忠    富十郎

二、梅の栄(うめのさかえ)
                    梅野    芝 翫
                   雄吉郎    種太郎
                   佑太郎  尾上右 近
                   暁之丞    種之助
                   修之助    米 吉
                   駒之丞    宜 生

三、傾城花子 忍ぶの惣太
  都鳥廓白浪(みやこどりながれのしらなみ)

   序 幕 三囲稲荷前の場
       長命寺堤の場
   二幕目 向島惣太内の場
   三幕目 原庭按摩宿の場

          忍ぶの惣太/木の葉の峰蔵    菊五郎
  傾城花子実は天狗小僧霧太郎実は吉田松若丸    菊之助
                葛飾十右衛門    團 蔵
                  下部軍助    権十郎
                 吉田梅若丸    梅 枝
                 植木屋茂吉    男女蔵
                御台班女の前    萬次郎
                    お梶    時 蔵
                 宵寝の丑市    歌 六

2010/11/06

【バレエ】やっぱオケって大事だね〈奇跡の響演〉ズービン・メータ指揮イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団/モーリス・ベジャール・バレ団/東京バレエ団

 〈奇跡の響演〉という名前に釣られて行ってきました。モーリス・ベジャール・バレエ団と東京バレエ団の合同公演(ここまでは普通の競演)に、ズービン・メータ指揮イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団がオーケストラピットに入るとのこと!まさに奇跡としか言いようがありません。NBSさん、商売うまいね〜。公式サイトはこちらです。
 オーケストラにとって、演奏会は自分たちが主役、オペラでは歌手と対等の立場です。しかしバレエの場合は、どちらかというと脇役で、指揮者も踊りに合わせてテンポを調整しなくてはなりません。指揮者やオケにとっても一段低い仕事と見られているとことがあって、先日の某公演のように、こんなオケだったら録音テープの方がまし、という場合もあります。そんなバレエのオケピにメータとイスラエル・フィルが入ってくれるなんて。あゝうれしや、うれしや。いったいどんな体験ができるのだろう。
 ぽん太はいまだかつてない期待を持って会場の東京文化会館に足を運んだのですが、期待に違わず、というか期待以上のすばらしい公演でした。音が普段聞き慣れているのとまったく違います。キレがあるけど柔らかくふくよか……なんだか日本酒の褒め言葉みたいですが、そんな感じです。ホルンが裏返らないとか、リズムきっちりそろってるなんてのは当たり前。色彩豊かで、さまざまな副旋律が絡み合って心地よく、小さい音も美しく繊細、しかしやるときゃやるぜ、大音量のパンチもものすごいです。最初にメータがオケピに現れた時から、会場は割れんばかりの拍手。最後のカーテンコールでは、ダンサーたちのカーテンコールが何度も繰り返され、なんだかメータが出てくるの遅いな〜などと思っていたら、何回目かにカーテンが開いたとき、メータとイスラエル・フィルの楽団員全員が舞台に並んでいました。しかも、わざわざチェロとか楽器持って。客席は大興奮でした。
 今回の公演プログラムは、ストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」と「春の祭典」、そして「愛が私に語りかけるもの」の音楽はマーラーの交響曲第3番の第4,5,6楽章ですから、バレエの伴奏に慣れていない指揮者やオケでも演奏しやすかったかもしれません。また、メータ&イスラエル・フィルは、今回のオケとしての来日公演のプログラムに「春の祭典」を入れているので、実は一度で二度おいしい……のかも。

 よた話しはこれくらいにして、公演の感想に戻りますが、まず東京バレエ団の「ペトルーシュカ」。よかったです。感動しました。数年前に見た時よりもツーランクいい感じ。やはり踊る方も、いい音を聞きながら踊るとワンランクくらいうまくなるのではないでしょうか。観客の感動もいい音楽でワンランクあがるので、合計ツーランクという感じ。青年を踊ったのは長瀬直義。これまであまり注目しておりませんでしたが、非常にのびのびと踊っており、感情表現も豊かでした。モーリス・ベジャール・バレエ団のように、ゆっくりとした動きの中で身体の線の美しさを見せるところまでは行ってませんが……。群舞もとても迫力がありました。例の舞台装置も、遊園地のミラーハウスのような効果が面白かったです。ベジャール版「ペトルーシュカ」は、若者が自己のなかにある他者を見いだして混乱していく、みたいな心理学くさいところがちと嫌いなのですが、その結果若者が、仲間たちと以前のようにはうまくいかなくなり、世間から浮き上がっていくところは、少ししんみりしました。
 次いでモーリス・ベジャール・バレエ団の「愛が私に語りかけるもの」。初めてみる演目ですが、マーラーの交響曲第3番の、第4,5,6楽章に振付けたものとのこと。第6楽章の部分が、ゆったりした動きが彫像のように美しく、神秘的で少し官能的で、崇高な感じを受けました。ただ最後の、いきなり黄色タイツの元気いっぱい少年が出て来て、お空に真っ赤な太陽というのは、『ツァラトストラ』の「大いなる正午」なのかもしれませんがちょっと絵が俗っぽく、「をひをひ最後がこれかい!」とツッコミたくなりました。「彼」を踊ったジュリアン・ファヴローは悪くないのですが、2年前に見た時も感じたのですが、あまりに健康的で普通のいい人っぽいのがぽん太には不満。ジル・ロマンみたいにちょっと翳りがある感じの人がいいです。
 最後はモーリス・ベジャール・バレエ団、東京バレエ団入り交じっての「春の祭典」。どしても東京バレエ団組は見劣りするけど、もうそんなの関係なし。メータ・IOPの熱演も加わって、〈奇跡の響演〉の大迫力に酔いしれるのみ。「春の祭典」といえばベジャールの出世作。もう歴史的な価値がありますね。そういえば今月は、ベジャール版「火の鳥」も見る予定ですから、これでベジャール振付けのストラヴィンスキー3大バレエを見れることになります(そういえばフォーキンの「火の鳥」も見たばかりでした……)。


<奇跡の響演>
2010年11月4日 東京文化会館
振付:モーリス・ベジャール

『ペトルーシュカ』
東京バレエ団
音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー

青年:長瀬直義
若い娘:佐伯知香
友人:木村和夫
魔術師:柄本武尊
3つの影:高橋竜太、氷室友、小笠原亮
4人の男:松下裕次、梅澤紘貴、井上良太、岡崎隼也
4人の若い娘:高村順子、森志織、村上美香、吉川留衣

『愛が私に語りかけるもの』
モーリス・ベジャール・バレエ団
音楽:グスタフ・マーラー(「交響曲第3番」より第4,5,6楽章)

彼:ジュリアン・ファヴロー
彼女:エリザベット・ロス
子ども:大貫真幹
子どもたち:ローレンス・ダグラス・リグ、ウィンテン・ギリアムス、ヘベルス・リアスコス、
ダニエル・サラビア・オケンド、エクトール・ナヴァロ、アドリアン・シセロン
オアナ・コジョカル、フロランス・ルルー=コルノ、キアラ・パペリーニ、
ジャスミン・カマロタ、コジマ・ムノス
大人たち:ダリア・イワノワ、ガブリエル・アレナス・ルイーズ、ヴァランタン・ルヴラン
マルコ・メレンダ、キャサリーン・ティエルヘルム、那須野圭右
ダヴィッド・クピンスキー、ルイザ・ディアス=ゴンザレス、ティエリー・デバル、
ポール・クノブロック、ポリーヌ・ヴォワザール、オスカー・シャコン

『春の祭典』
モーリス・ベジャール・バレエ団、東京バレエ団
音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー

生贄:オスカー・シャコン
2人のリーダー:ダヴィッド・クピンスキー、柄本武尊
2人の若い男:松下裕次、マルコ・メレンダ
生贄:井脇幸江
4人の若い娘:キャサリーン・ティエルヘルム、フロランス・ルルー=コルノ、
小出領子、吉川留衣

指揮: ズービン・メータ
演奏: イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団
ピアノ: ラハヴ・シャニ (「ペトルーシュカ」)
メゾ・ソプラノ: 藤村実穂子 (「愛が私に語りかけるもの」)
合唱: 栗友会合唱団 (「愛が私に語りかけるもの」)
児童合唱: 東京少年少女合唱隊 (「愛が私に語りかけるもの」)

2010/11/05

【オペラ】重厚だけどなんか地味 キエフ・オペラ「ボリス・ゴドゥノフ」

P5020344 ウクライナ国立歌劇場の「ボリス・ゴドゥノフ」を観て来ました。ムソルグスキーの有名なオペラなので一度観ておきたかったのと、昨年のゴールデン・ウィークにロシア旅行をしたときボリス・ゴドゥノフの墓を訪れたという縁もあったからです。左の写真がボリス・ゴドゥノフのお墓です。
P5020341 モスクワ郊外のセルギエフ・パサードという街に、トロイツェ・セルギエフ大修道院があります。左の写真のタマネギがいっぱいある大きな白い建物が、その修道院のなかにあるウスペンスキー大聖堂ですが、その片隅(写真の向かって左側)にひっそりとボリス・ゴドゥノフのお墓があります。周囲は観光客で賑わっていますが、彼のお墓に目を向ける人はほとんどいませんでした。写真の左手前には、柱で囲まれた屋根みたいなものがありますが、聖なる泉が湧き出ていて、目の見えない人がこの泉で目を洗ったら見えるようになったという伝説があるそうです。オペラ「ボリス・ゴドゥノフ」の第4幕で、老僧ピーメンが語る話しのなかで、「聖なる水で目を洗ったが見えるようにはならなかった」みたいなことを言ってた気がしますが、この伝説と関係しているのかもしれません。
 オペラ「ボリス・ゴドゥノフ」のあらすじは、検索するといろいろと出てくるので省略。実在のボリス・ゴドゥノフについても省略。ぽん太自身の頭の整理のためにネットの情報を簡単にまとめておくと、1551年生まれ、1605年に死去。有名なイヴァン雷帝の息子フョードル1世が1598年に死去してから、1613年に長期安定政権ロマノフ朝が成立するまでのあいだ、動乱時代と呼ばれる混乱した時代がありました。政権も不安定で、飢饉や災害があいつぎ、多くの農民が餓死したり逃げ出したりしたそうです。フョードル1世の異母弟のドミトリーは、次の皇帝になるはずでしたが、1591年に謎の死を遂げます。これが実はボリス・ゴドゥノフによる暗殺だったとかなかったとか。1598年にボリスが皇帝の座につきますが、飢饉や災害で国内は乱れに乱れます。1604年ポーランドに、死んだはずの皇子ドミトリーと名乗る男が現れ、外国勢力や国内不満分子の支持を受けてモスクワに進軍。1605年にボリスは死去、ボリスの息子のフョードルが跡を継ぎましたが、間もなく殺されます。偽ドミトリーはモスクワ入場して皇帝となりますが、これも長続きせず殺されます。その後は、続々と偽ドミトリーが現れたりしてぐだぐだの展開となりましたが、最終的には義勇軍によってモスクワは解放され、ロマノフ朝が始まりましたとさ。

 てなことを前置きにして、今回の公演に話しを戻しますが、もとのオペラそのもののできが良くない気がして、あまり楽しめませんでした。ドラマチックな盛り上がりに欠け、いくつかの場面が断続的に提示されている感じです。ロシア人なら誰でも知っている話しだから、これでもいいのかもしれませんが、歴史が苦手なぽん太には、人物関係や話しの流れがよくわかりませんでした。ボリス・ゴドゥノフが悪役なのか、ちょっと弱いいい人なのか、見ててもよくわからず、感情移入しにくいです。一介の修道士にすぎないグリゴリーが、どうやってポーランドで偽ドミトリーになれたのかも不思議です。また今回の公演では、偽ドミトリーの進軍が描かれず、ボリスの死で終わっているため、偽ドミトリーの話しが、伏線だけ張ってあるだけでラストに絡んで来ず、尻切れとんぼに終わっています。演出上も、一つの場面が終わるごとの幕が下ろされて場面転換という感じで、よけいに劇が寸断されている印象を受けました。音楽も、順番に人が現れて独唱するという感じで、複雑な二重唱や、三重唱・四重唱がありません。ここが拍手のしどころ、みたいな所もありません。ムソルグスキーには観客を喜ばせるような歌劇を作るという気がなかったのか、能力がなかったのか……。こういうところは、先日の「アラベッラ」のシュトラウス・ホフマンスタール・コンビはうまかったですよね。せっかく登場したウクライナ国立歌劇場バレエ団の踊りも、とっても地味でがっかりしました。
 歌手たちは声量豊かで迫力がありました。ボリス・ゴドゥノフのタラス・シュトンダは苦悩する皇帝を迫力をもって歌い、グレゴリーのドミトロ・クジミンの朗々としたテノールが良かったです。美術は重厚で重々しく、背景幕を何枚も重ねることで奥行きと立体感をうまく表していました。演出は地味で、斬新さはありませんでした。伝統的、というんでしょうか。オケと指揮者についてはぽん太にはよくわかりません。
 
 
キエフ・オペラ
ウクライナ国立歌劇場オペラ ータラス・シェフチェンコ記念ー
「ボリス・ゴドゥノフ」
作曲:M.ムソルグスキー
2010年11月3日 オーチャードホール

ボリス・ゴドゥノフ: タラス・シュトンダ
フョードル: テチヤナ・ピミノヴァ
クセーニャ: リリア・フレヴツォヴァ
グレゴリー: ドミトロ・クジミン
ピーメン: セルヒィ・マヘラ

指揮:ヴォロディミール・コジュハル
管弦楽:ウクライナ国立歌劇場管弦楽団
合唱:ウクライナ国立歌劇場オペラ合唱団
バレエ:ウクライナ国立歌劇場バレエ団

2010/11/04

【バレエ】楽しいけどね……「ペンギン・カフェ」新国立劇場

 新たに新国立劇場の舞踏芸術監督に就任したデビット・ビントレーのオープニング、「ペンギン・カフェ」を観て来ました。新国立劇場の特設サイトはこちら(たぶんそのうちリンク切れ)。通常の公演案内はこちらです。
 ビントレーは、2年前に「アラジン」を観ましたが、なんか夏休み子供ミュージカルみたいで感心しなかった記憶があります。しかし、ひとたび芸術監督となったからには今後は最低3年間のおつきあい。とりあえずご挨拶に行かねばなりません。
 まずはストラヴィンスキーの「火の鳥」です。ぽん太は音楽は何度もきいてますが、バレエを観るのは初めて……いや、はるか昔に観た記憶が……。なんか黒人のバレエ団だった気がするぞ。赤い火の鳥の衣裳を着た黒人ダンサーがとても美しかった印象があります。ぐぐってみると、1983年のニューヨーク・ハーレムダンス・シアターの来日公演で観ているようですが、詳細不明。こちらのdance theatre of Harlemと同じなんでしょうか。よくわかりません。
 さて、新国立に話しをもどして、まずは「火の鳥」から。今年はこのバレエの初演からちょうど100年目にあたるそうで、ビントレーはフォーキンのオリジナルの振付けを使っているようで、また最後のロシアの街の背景画もオリジナルのデザインだそうです。そのせいか、なんだか古典芸能を観ているような印象を受けます。物語性や美術的な美しさは感じられますが、ダンスはテクニック的にちょっと物足りなかったです。火の鳥も、もっとジャンプしたり、くるくる回ったりして欲しいところです。「火の鳥」の音楽は、ストラヴィンスキーとフォーキンが共同作業をしながら作られたそうで、音楽だけを聴いていると唐突に思える部分も、実は舞台上の動きに対応していたりするそうです。火の鳥を踊ったエリーシャ・ウィリスはちょっと地味な印象。このような振付けだと、ちょっとした動きにゾクッとするような、雰囲気と表現力のあるダンサーの方があっているかも。コールドのリンゴを投げる踊りは、優雅できれいでした。バレエそのものとして楽しむというよりは、「オリジナルの『火の鳥』はこんなだったのか」という感じ。
 続いてバランシンの「シンフォニー・イン・C」。最初少し動きが固い気がしましたが、だんだんとよくなってきた気がします。しかしこの振付けは、ホントによくできてますね。音楽とバレエが見事に対応しています。バイオリンの流れるような旋律にはピルエット、弾むようなパッセージにはジャンプ、そしてトゥッティでは舞台上の全ダンサーが同じ振付けで踊ります。とってもクレバーでスマートなバレエだと思いました。新国立メンバーの踊りも、目を見張るとこまでは行きませんでしたが、悪くなかったです。
 最後はビントレー振付けの「ペンギン・カフェ」。絶滅危惧種の動物たちの着ぐるみが次々と現れ、ダンスを繰り広げます。それぞれの踊りが個性的で、バラエティに富んでいます。動きはあまり斬新なものではなく、見やすく楽しいのですが、あまり知性は刺激されません。なんかアメリカのショーのような印象を受けました。最後は動物たちが嵐のなか逃げ惑い、ノアの箱船に乗り込みます。絶滅危惧種のなかに人間も入っているのがちょっとした風刺か。でも、料理のスパイスに留まっていて、いわゆるメッセージ性はありません。カンガルーネズミの福田圭吾がコミカルなダンスだけどきっちりと踊っていてすばらしく、会場の子供たちも大喜びでした。音楽は、ミニマルのテイストを入れたポピュラーミュジックでした。
 前回観た「アラジン」と同様ショー的なバレエで、「楽しいけどね……」という印象でした。新国立の今後の公演ですが、「シンデレラ」と「ラ・バヤデール」は外人ゲストダンサーがいないのでパス。事業仕分けの影響でしょうか?不要な役員を削らずに、現場の予算を削ってどうするのでしょう?次は「ダイナミック ダンス!」を見に行く予定です。


ビントレーのペンギン・カフェ
同時上演
 バランシンのシンフォニー・イン・C
 フォーキンの火の鳥
[New Production]
Symphony in C
The Firebird
´Still Life´ at the Penguin Café

2010年10月31日 新国立劇場オペラ劇場

<火の鳥>
【振 付】M.フォーキン
【音 楽】I.ストラヴィンスキー
【装 置】D.バード
【衣 裳】N.ゴンチャローヴァ
【照 明】沢田祐二

<シンフォニー・イン・C>
【振 付】G.バランシン
【音 楽】G.ビゼー
【演 出】C.ニアリー

<スティル・ライフ・アット・ザ・ペンギン・カフェ>
【振 付】D.ビントレー
【音 楽】S.ジェフェス
【装置・衣裳】H.グリフィン
【オリジナル照明】J.B.リード

【指 揮】P.マーフィー
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

<火の鳥>
【火の鳥】エリーシャ・ウィリス
【イワン王子】イアン・マッケイ
【王女ツァレヴナ】寺田亜沙子
【魔王カスチェイ】冨川祐樹

<シンフォニー・イン・C>
第1楽章 米沢 唯 菅野英男
第2楽章 川村真樹 貝川鐵夫
第3楽章 厚木三杏 輪島拓也
第4楽章 丸尾孝子 古川和則

酒井はな、厚木三杏、小野絢子、川村真樹、
長田佳世、堀口 純、本島美和、米沢 唯

山本隆之、江本 拓、貝川鐵夫、マイレン・トレウバエフ、
芳賀 望、福岡雄大、古川和則、輪島拓也

<ペンギン・カフェ>
【ペンギン】井倉真未
【ユタのオオツノヒツジ】遠藤睦子/江本 拓
【テキサスのカンガルーネズミ】福田圭吾
【豚鼻スカンクにつくノミ】西山裕子
【ケープヤマシマウマ】古川和則
【ブラジルのウーリーモンキー】吉本泰久
【熱帯雨林の家族】小野絢子/山本隆之

2010/11/03

【伝統芸能】仁左衛門の実盛 第37回NHK古典芸能鑑賞会

 本日の芸術鑑賞はダブルヘッダー。Kバレエの「コッペリア」をオーチャードホールで観たあと、冷たい雨のなかをNHK(紅白歌合戦専用)ホールまで歩き、NHK古典芸能鑑賞会を鑑賞。お目当ては仁左衛門の「実盛物語」です。NHKの公式サイトはこちら
 しかしNHK(紅白歌合戦専用)ホール、久々に訪れましたがでかいです。でかすぎます。2階の後ろの方の席でしたが、出演者がごま粒のようにしか見えません。鼓なんか、叩くのが見えてからあいだをおいて音が聞こえてきます。歌舞伎の台詞が聞こえるか心配でしたが、意外と聞こえるもんですね〜って、聞こえたらダメじゃん。音楽専用ホールだったら、残響が長く設定されているため、台詞は反響して聞き取れないはずです。ばかでかさといい残響の短さといい、やっぱりNHKホールは紅白歌合戦専用ホールなのか?
 まずは箏曲「三番叟」。「とうとうたらり〜」の詞章がおなじみで、歌舞伎の舞踊で何度も観ていますが、「箏曲」というのはぽん太は初めて。琴だけで弾くのかと思ったら、歌や三味線、鼓も加わっていました。箏曲が初めてのぽん太には、どこが聴きどころか皆目わかりませんが、なんか良かったです。
 次は「奴道成寺」。これも歌舞伎では観たことがありますが、歌舞伎以外でなまで舞踊を観るのは初めてです。歌舞伎と比べると柔らかさや味がありますが、遠目から見た動きの大きさやメリハリは、歌舞伎の方があるように思いました。もう少し小さな会場で見ると、もっといいかも。長唄と常磐津の掛け合いもよかったです。
 さて、お待ちかね「源平布引滝 実盛物語」ですが、とってもすらばらしかったです。
 仁左衛門の「実盛物語」は、調べてみると3年前に観たことがあります。このときも秀太郎の小万、千之助君の太郎吉でしたが、葵御前は魁春でした。今回は孝太郎が葵御前で、3代競演ということになります。千之助君成長しましたね、などと通らしくほざいてみたいところですが、あんまりよく覚えてません。
 仁左衛門が演じるのは斎藤別当実盛。カッコいい武将です。仁左衛門は、先月の新橋演舞場でも佐々木盛綱というカッコいい武将を演じていましたが、ぽん太は今回の方がよかったです。片腕とか、お馬さんとかの小道具が目を引くせいでしょうか。あるいは実盛の方が、仁左衛門のカッコよさだけでなく、可愛らしいところも楽しめるかもしれません。千之助君ととの掛け合いの表情は、まさに孫を見るおじいさんの顔で、目尻が下がってました。また最後に花道で馬がむずがるとき、言うことをきかない馬を叱らずに、まずよしよしとなでてやり、そのあと毅然とした態度で拍車を入れて、颯爽と引き上げて行くところもよかったです。
 座席はがらがら。歌舞伎ファンも、このおいしい公演を知らなかった人が多かったんじゃないかな……。
 

第37回 NHK古典芸能鑑賞会
2010年10月28日 NHKホール

◆箏曲 「三番叟(さんばそう)」 
   唄:山勢松韻、岸辺美千賀、井口法能、武田祥勢
   箏:萩岡松韻、武藤松圃
   三絃:山登松和、田中奈央一
   小鼓:藤舎呂船
   
◆舞踊 長唄・常磐津掛合
 「奴道成寺(やっこどうじょうじ)」
   白拍子花子実は狂言師升六:花柳壽輔
   唄:今藤長一郎
   三味線:杵屋栄八郎   
   浄瑠璃:常磐津初勢太夫   
   三味線:常磐津文字蔵
   囃子:堅田喜三久  
   
◆歌舞伎 
「源平布引滝 実盛物語」
(げんぺいぬのびきのたき さねもりものがたり)             
   斎藤別当実盛:片岡仁左衛門
   九郎助娘小万:片岡秀太郎 
   倅太郎吉:片岡千之助
   御台葵御前:片岡孝太郎
   瀬尾十郎兼氏:市川左團次

2010/11/01

【バレエ】品良くまとまっているけれど Kバレエカンパニー「コッペリア」

 Kバレエの「コッペリア」は初めてでした。Kバレエカンパニー公式サイトの本公演のページはこちらです。
 ぽん太は「コッペリア」といえば、ローラン・プティ版を思い出します。人形を相手に踊るコッペリウスの中年の悲哀が身につまされます。熊川哲也はいったいどのように料理してくれるのでしょうか?
 振付けの基本はサン・レオン版のようで、ちょっと怖いけど、コミカルで明るく楽しいバレエに仕上がってました。いつも通り衣裳や美術もとてもきれいでした。
 ただ、Kバレエにはいつも感じることですが、あまりにも品良くまとまっていて、屈折したぽん太にはちょっと物足りない気がします。特に「コッペリア」はストーリーに劇的な盛り上がりがないので、よけいそう感じました。もちろん熊川哲也のパフォーマンスには目を見張りましたが、もうひとつ何か香辛料がきいているといいのですが……。
 熊川哲也、まだまだ体力的に衰える気配なし。スワルニダは東野泰子の予定でしたが、体調不良とのことで荒井祐子に変更。悪くはありませんが、ををっ!と目を引くところが欲しいです。ボリショイ・マリインスキーを観たばかりだったので、ごめんなさい。「祈り」の浅川紫織の、柔らかで大きくて雰囲気ある踊りがよかったです。


Tetsuya Kumakawa K-BALLET COMPANY
Autumn 2010
コッペリア Coppelia
2010年10月30日 東京文化会館

コッペリウス博士 Dr.Coppelius :スチュアート・キャシディ Stuart Cassidy
スワニルダ Swanilda :荒井祐子 Yuko Arai
フランツ Franz :熊川哲也 Tetsuya Kumakawa
領主 Burgomaster :ブレンデン・ブラトーリック Brenden Bratulic'
宿屋の主人 Innkeeper :ビャンバ・バットボルト Byambaa Batbold
コッペリア Coppelia :星野姫 Hiromi Hoshino

【第1幕 Act 1】 スワニルダの友人たち Swanilda's Friends:神戸里奈 Rina Kambe / 副智美 Satomi Soi / 日向智子 Satoko Hinata /中村春奈 Haruna Nakamura / 岩渕もも Momo Iwabuchi / 並河会里 Eri Namikawa
フランツの友人たち Franz's Friends :橋本直樹 Naoki Hashimoto / 西野隼人 Hayato Nishino /ニコライ・ヴィユウジャーニン Nikolay Vyuzhanin / 内村和真 Kazuma Uchimura
ジプシーたち Gipsies:松根花子 Hanako Matsune /遅沢佑介 Yusuke Osozawa
浅野真由香 Mayuka Asano / 松岡恵美 Emi Matsuoka
村人たち Villagers :Artists of K-BALLET COMPANY
【第2・3幕 Act2・3】
祈り Prayer :浅川紫織 Shiori Asakawa
ブライドメイド Bride maids:副智美 Satomi Soi
浅野真由香 Mayuka Asano / 日向智子 Satoko Hinata /中村春奈 Haruna Nakamura / 松岡恵美 Emi Matsuoka
仕事の踊り Work:湊まり恵 Marie Minato / 渡部萌子 Moeko Watanabe / 星野姫 Hiromi Hoshino /梶川莉絵 Rie Kajikawa / 香西由美子 Yumiko Kohsai / 和田紗永子 Saeko Wada /長島裕輔 Yusuke Nagashima / 愛澤佑樹 Yuki Aizawa / 合屋辰美 Tatsumi Goya /北爪弘史 Hirofumi Kitazume / 小山憲 Ken Koyama / 酒匂麗 Rei Sakoh
時の踊り Hours :井上とも美 Tomomi Inoue / 松根花子 Hanako Matsune /別府佑紀 Yuki Beppu / 岩渕もも Momo Iwabuchi /北見奈稚 Nachi Kitami / 金雪華 Kim Solhwa / 小山留依 Rui Koyama /國友千永 Chiei Kunitomo / 三井英里佳 Erika Mitsui / 並河会里 Eri Namikawa /山口愛 Ai Yamaguchi / 柳原麻子 Asako Yanagihara

●芸術監督 Artistic Director 熊川哲也 Tetsuya Kumakawa
●演出・再振付 Production / Additional Choreography 熊川哲也 Tetsuya Kumakawa
●原振付 Original Choreography アルトゥール・サン=レオン Arthur Saint-Léon
●音楽 Music レオ・ドリーブ Léo Delibes
●舞台美術・衣裳 Set and Costume Design ピーター・ファーマー Peter Farmer
●照明 Lighting Design 足立恒 Hisashi Adachi
●指揮 Conductor 井田勝大 Katsuhiro Ida
●演奏 シアター オーケストラ トーキョー THEATER ORCHESTRA TOKYO

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