【東日本大震災】患者さんが意外と動揺してないのはなぜ?
東日本大震災の被災者の方々が、どれだけ不安な毎日を過ごしておられるかを考えると、胸が塞がる重いです。一日でも早い復興をお祈りいたします。また、救助や支援、原発の危機的状況に懸命の対応をなさっている方々に対しては、頭が下がる思いです。そして不幸にしてお亡くなりになった方々には、心からお悔やみを申し上げます。
今回の地震を通じて、ぽん太も多くのことを考え、多くのことを学びましたが、その内容は誰もが思っていることだと思うので、書くことはいたしません。
東京の多摩地区にあるぽん太のクリニックも、本棚の本が一部落ちた以外は特に被害もなく、通常の診療を行うことができております。でも地震のときは、これまで体験したことがない揺れに、「ひょとしたらビルが崩れて死ぬかな〜」と本気で思いました。
地震からまだ数日ですが、ぽん太が意外に感じたのは、患者さんたちが地震であんまり動揺していないことです。地震のショックで病状が悪化したひとはほとんどいなくて、多くのひとは落ち着いてらっしゃいました。些細なことをきっかけにパニック発作を起こしてしまう患者さんが、新宿から7時間かけて歩いて帰ってきたと笑っておりました。また被害妄想で外出することもできない統合失調症の患者さんも、地震で恐怖に襲われることはなかったようでした。てっきりぽん太は、みんなが動揺して病状を悪化させていると思ってたのですが。むしろぽん太の方が、停電への対応やらなんやらでテンパっておりました。
その理由を考えてみるに、まず思い浮かぶのが、統合失調症などでみられる、現実への無関心・鈍感さです。統合失調症の陰性症状により、外界の認知能力が低下したり、感情の起伏がなくなったりします。その結果、地震の恐怖や影響を正しく認識できなかったり、感情的な反応が小さかったりすると考えることができます。しかし、過敏で不安感が強いタイプの患者さんでも地震で症状が悪化していないことや、統合失調症以外の神経症やうつ病の患者さんも動揺していないことを考えると、この説明で納得することはできません。
次に考えられる理由は、薬を服薬しているため、不安や恐怖が生じなかったというものですが、病気によって使われている薬の種類は抗精神病薬・抗うつ剤・抗不安薬など多種多様だし、量も多い人から少ない人、そして飲んでいない人まで様々なので、この説明も十分とは言えません。
で、今回ぽん太が思いついたのは、患者さんたちは、それぞれの病気を克服するために、不安や恐怖などの感情をコントロールする力を、健康なひと以上に身につけているからである、という考えです。例えば普段から統合失調症の患者さんは、恐ろしい幻聴を聞き流したり、被害妄想の恐怖に打ち勝つ訓練を積んでいるわけです。「世界没落体験」と呼ばれている症状などは、読んで字の通り、まるで世界が崩壊するような体験であって、「最終戦争が起こる直前」のような緊迫感と不安感があると言われています。これはまさに大地震や大津波の恐怖、余震や原発の不安と重なります。「世界没落体験」を乗り越えた患者さんにとっては、地震のショックは「すでに乗り越えたもの」なのかもしれません。
またパニック障害の患者さんにしても、「このまま死ぬかもしれない」という恐怖と混乱を繰り返し体験しており、それをコントロールする術を身につけているわけです。うつ病の患者さんも、場合によっては自殺をしたくなるほどの気分の落ち込みや焦りを体験しているわけで、そういった病的体験に比べれば、地震に関する不安や恐怖は大したことないのかもしれません。
これはあくまでも推測でか、確かめるためにどのような方法があるかぽん太にはわからないので、信じるも信じないもあなたしだいというところなのですが、「これまで症状に耐えて乗り越える努力をしてきたからこそ、普通のひとより落ち着いていられるのかもしれませんね」という言葉は、患者さんにとってプラスになるように思います。
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