【歌舞伎】仁左衛門のこんな本格的な三味線を聴けるとは・2011年7月松竹座昼の部
お次ぎは昼の部。こちらが公式サイトです。
最初は怪談の「播州皿屋敷」。なに、ばんしゅ〜?番町じゃないのか……。皿屋敷伝説は日本各地にあるそうで、誰が書いたのかWikipediaがとても詳しいです。意外と短い一幕で、死んだと思ったらすぐ化けて出て来ました。
お菊役の孝太郎がすばらしかったです。最初は鉄山の悪巧みも知らず、可愛らしい仕草で、かいがいしくお皿の入った箱をかかえてやって来ます。言いよる鉄山を拒絶し、皿を数えるように命じられますが、数え始めた時にはまだ悪巧みにまったく気がついていません。しかし途中からだんだんと、鉄山と忠太の様子が変だと思い始めます。二人の顔色を伺いながらお皿を数え続けますが、まだ何が起きているのかわからない様子。そして最後にお皿が足りないことに気付いた時の驚き。ゆっくりと皿を数えるだけのあいだに、すばらしいドラマを作り出してくれました。もちろん最後に幽霊となっての凄まじい姿も迫力満点。
愛之助の鉄山は、ホンットに卑劣で悪いやつでありながら大きく美しい、歌舞伎独特の悪のヒーローでした。亀蔵が脇役をしっかり務めて芝居をしめておりました。
つづいて「襖落」は楽しい舞踏。三津五郎のユーモラスで洒脱な踊りが楽しかったです。秀調が大名らしい優雅な雰囲気をただよわせていました。梅枝きれい。
最後はお待ちかねの「江戸唄情節」。仁左衛門が三味線を披露するというご馳走付きです。三味線というので、てっきり少しくだけた色っぽい曲かと思ったら、本格的な長唄三味線。立三味線として「連獅子」の大薩摩を演奏します。普通でも三味線に拍手がわくという見せ場。ちょっとスピードは遅かったですがなかなか上手で、仁左衛門ファンとしては満足まんぞく。
仁左衛門演じる杵屋弥市は、元はヤクザですが足を洗って今は立派な三味線弾き。才能と芸にかける意気込みはすごいのですが、ヤクザの性根が抜けきれず、年上の三味線を怒鳴りつけたり、ヤクザの息がかかった芸者に入れあげたり。芸に対する厳しさ、ヤクザの気っ風、米吉への愛情、すべてにおいて仁左衛門の演技は絶品でした。
時蔵の米吉も、序幕での芸者らしい艶やかさ、二幕目以降の病に伏しながらも夫の才能が世に出ることを願う情愛がすばらしかったです。三津五郎の坂東彦三郎も誠実さと役者の気概を感じましたが、当代随一の人気役者なら、もっと大きさがあってもよかったような気がします。秀太郎のおふさは、芝居茶屋の女将の柔らかさと、愛情から言いにくいことをあえて言う親心が感じられました。彌十郎の七兵衛は親分にしてはいい人すぎるが、こういう役だから仕方ないか。
大詰めで戸板で運ばれて来た米吉が、夫の晴れの舞台に満足して息絶えるシーンでは、客席のあちこちで鼻をすする音が……。ぽん太も場面ばめんでは感動しましたが、全体としては、残念ながらこういう芝居は嫌いです。登場人物が善人ばかりで、親分の七兵衛すらとってもいい人。これじゃあヤクザとしては、周りになめられるんじゃないでしょうか。「播州皿屋敷」の鉄山のような悪役が登場しません。ではこの芝居の悪役は何かというと、杵屋弥市の「ヤクザの性根」です。自分の悪い性格・心理が敵役であり、それを克服することが求められていて、周りの人たちがみなそれを応援するという構図です。こうした心理的・内面的な芝居は、ぽん太の好みではありません。杵屋弥市が最後に約束通り七兵衛にタタッ斬られるのだったら、まだ納得できるのですが。
とはいえ、仁左衛門のカッコよさを堪能し、なによりも三味線を聴けたので大満足でした。
大阪松竹座
関西・歌舞伎を愛する会 第二十回
七月大歌舞伎
平成23年7月27日
昼の部
一、播州皿屋敷(ばんしゅうさらやしき)
浅山鉄山 愛之助
岩渕忠太 亀 蔵
腰元お菊 孝太郎
二、新歌舞伎十八番の内素(すおうおとし)
太郎冠者 三津五郎
鈍太郎 亀 蔵
次郎冠者 巳之助
三郎吾 萬太郎
姫御寮 梅 枝
大名某 秀 調
三、江戸唄情節(えどのうたなさけのひとふし)
序幕 芝居茶屋伏見屋より
大詰 村山座の舞台まで
杵屋弥市 仁左衛門
芸者米吉後に女房お米 時 蔵
坂東彦三郎 三津五郎
市村家橘 愛之助
俵屋娘おいと 梅 枝
隣家の女房お留 吉 弥
番頭平助 竹三郎
小揚げの七兵衛 彌十郎
伏見屋女将おふさ 秀太郎
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