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2012/01/17

【拾い読み】歴史上の真実の義経とは?五味文彦『源義経』

 歌舞伎や旅行を通じて、源義経に関してはかなり詳しくなってきたつもりのぽん太ですが、先日ふと、伝説ではなくて歴史上の義経というのはいったいどうなのかしらという疑問がわいてきて、五味文彦の書いた岩波新書の『源義経』(2004年、岩波書店)を読んでみました。
 源義経に関する歴史的資料としては、同時代の公家九条兼実の日記である『玉葉』(ぎょくよう)や、鎌倉末期に作られたとはいえ、当時の記録や文書に依拠している『吾妻鏡』などがあり、『平家物語』や『義経記』(ぎけいき)は歴史的資料としては信頼性が劣るそうです。もちろん『玉葉』や『吾妻鏡』も、筆者の立場や意図などを考慮しないといけないそうです。
 鞍馬山で童としての教育を受けたことや、その後みずからの手で元服し、秀衡を頼って奥州へ行ったことなどは事実と推測されるそうです。奥州下りの手引きをした金商人の吉次に関しては、元になる人物として院や摂関家の馬を管理する厩舎人(うまやとねり)などの存在が推測されますが、のちの創作と考えられるそうです。
 奥州から再び京に舞い戻り、鬼一法眼から兵法の極意を伝授されたり、弁慶と出会って従者としたというあたりも、創作のようです。
 頼朝の蜂起の知らせを聞いて奥州から駆けつけ、獅子奮迅の働きによって壇ノ浦で平家を滅ぼしたものの、次第に頼朝から遠ざけられ、やがて都を追われるあたりは、細かい部分を除けば大筋では史実と考えられます。
 義経らが吉野山に一時潜伏し、そこで静が捉えられ、鎌倉に送られて頼朝の前で舞いを舞ったことなどは『吾妻鏡』に書かれていることで、伝説の影響を受けているという指摘もありますが、史実に基づいている可能性が高いそうです。
 京を脱出した義経が、奥州の平泉に逃れたことも確かですが、『義経記』に書かれているその間のコースや出来事に関しては、科学的な裏付けはありません。
 泰衡が頼朝の脅しに屈して、義経を討ったことも史実のようです。大陸に渡ってジンギスカンになったというのは、もちろん伝説ですね。

 あとは恒例の、ぽん太が興味深かった所のご紹介。
 まず『義経記』で、義経と伴に東北に逃げた女性は、ぽん太は静御前だと思い込んでいましたが、正妻である大納言平時忠の娘とのこと。静御前はあくまでも「妾」扱いなんですね。『吾妻鏡』でも、義経が奥州で藤原泰衡に襲われて自害したとき22歳の妻と4歳の女の子がいたとされ、妻は河越重頼の娘と推測されるそうです。ということで、結局誰かはよくわかりませんが、妻を伴って奥州に逃れたという可能性は高いようです。それにしては歌舞伎の『勧進帳』では、一行のなかに義経の妻がおらんな〜。
 お次ぎは、吉野山を逃れた義経一行が次に赴いた先が、『吾妻鏡』によれば、多武峰(とうのみね)の妙楽寺で、現在の談山神社とのこと。う〜ん、談山神社は行ったことがあるのに、知りませんでした。
 『吾妻鏡』によれば、静御前が頼朝の前で舞いを披露し、有名な「しづやしづしづのをたまきくり返し 昔を今になすよしもかな」の歌を吟じたときに、伴奏で鼓を叩いていたのは、曽我物語の敵役で有名な工藤祐経だったとのこと。ただ、それだけですが……。
 以前の記事に書いたように、ぽん太は、義経が死なずに北海道に渡ったという伝説を、幕府が蝦夷支配のために利用したのではないかという仮設というか妄想を持っているのですが、本書によれば、寛文10年(1670年)に成った林春斎の『続本朝通鑑』(ぞくほんちょうつがん)に、義経が死なずに蝦夷に渡ったという「俗伝」があると書かれているそうです。この時期に蝦夷地への関心が高まったことや、寛文8年〜9年のアイヌのシャクシャインの蜂起(Wikipedia)との関連を指摘しておりますが、幕府の蝦夷支配との関連については書かれておりませんでした。

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