2010年にルグリが芸術監督となった新生ウィーン国立バレエ団の初来日公演。まずは<ウィーン・ガラ>から。公式サイトはこちらです。
ガラといってもよくある名場面集ではなく、良質の短編小説集のような、よく考えられたプログラムでした。現代的な作品が多かったですが、曲はクラシック音楽がほとんどで、小難しいコンテンポラリー風の振り付けはなく、どれも素直に楽しめました。
ぽん太はウィーンのバレエと聞いてもイメージがわかなかったのですが、団員はロシア系が多いようです。今回の公演を観た限りはオシャレでエスプリが感じられ、どことなくパリオペっぽくて、ルグリの影響が強いのかな〜と思いました。
「バッハ組曲第3番」は、「管弦楽組曲第3番」(有名な「アリア」が入ってるやつですネ)にノイマイヤーが振り付けたもの。「純粋バレエ」風の作品で、華やかな幕開けでした。
「アンナ・カレーニナ」は、ダンディなエノ・ペシと、エレガントなツィンバルによる大人のムードあふれるバレエでした。
「マリー・アントワネット」は、ルグリお気に入りのパトリック・ド・バナの振り付け。バナは同行していたようで、「ルードヴィヒ」のカーテンコールに出てきました。バロック音楽にのせて、バナらしい濃厚な色気が漂う重厚な舞台でした。
「スキュー - ウィフ」は、ユーモラスでスピーディーな楽しい作品。ぽん太は「モペイ」を思い出しました。
休憩をはさんて「グロウ - ストップ」は、哀愁あふれるシックな踊りでした。
「イン・ザ・ナイト」は、ショパンのノクターンのピアノ生演奏にのせて、星空を背景に、三組のペアが順番に踊る、ロマンチックで静謐な作品。振り付けの関係かもしれませんが、ピアノの生演奏のテンポが遅く、ちょっともっさり間延びした印象を受けました。3組目に、いよいよルグリの登場。比べちゃいけないけど、格が全然違います。動作の一つひとつに、言葉のような意味と感情が感じられます。喜び・悲しみ・驚き・疑い……。情熱的に舞台袖に引っ込んだかと思ったら、一瞬の間に気を変えて、静かに一歩いっぽ舞台に歩み出るあたりの変化も見事。ピアノもルグリに触発されたのか感情がこもって来て、ショパンらしい激情が生じました。あゝすばらしい。
2回目の休憩をはさみ、「精密の不安定なスリル」。シューベルトの交響曲「ザ・グレート」の4楽章にのせて、軽快でスピーディーな踊りが繰り広げられます。女性の緑のCDみたいなチュチュや、男性の背中があいた体操ユニフォームみたいな衣裳も面白かったです。
「ルートヴィヒ2世-白鳥の王」で、再びルグリが登場。ド・バナの振り付けで、世界初演だそうですが、これまたため息が出るほど素晴らしかったです。ルートヴィヒ2世は、ヴィスコンティの映画も大好きだし、ノイシュバンシュタイン城も2回行ったし、ぽん太としてはけっこう思い入れがある題材です。会場で配られた配役表を見ると、音楽はワグナーとのこと。「ローエングリーン」かしら、などと思ってたら、「トリスタンとイゾルデ」の前奏曲と、最後の「愛の死」でした。ルグリ演ずるルートヴィヒ2世が、心配するエリザベート皇后をよそに、謎の「湖の貴婦人」に魅かれて行くという感じでした。Wikipediaをご覧になっていただければわかりますが、エリーザベト皇后というのはルートヴィヒの奥さんではなく、オーストリア=ハンガリー帝国の皇帝フランツ・ヨーゼフ1世の奥さんですね。同性愛者であり人との交わりを避けたルートヴィヒ2世が珍しく心を許した女性でしたが、エリーザベトが勧めた妹のゾフィーとの結婚をルートヴィッヒが拒否したことから、関係は悪化したようです。プログラムを買わなかったので、このバレエ作品の設定はわからないのですが、ルートヴィヒが「湖の貴婦人=白鳥」に魅了され、狂気へと近づいて行く場面のように思えます。表情豊かに踊るルグリですが、この作品では笑顔も恍惚とした表情も見せず、終始しかめつらをしており、王の苦悩が感じられました。
最後はウィーン国立バレエの団員が多数加わって「ライモンダ」で踊りおさめました。終演は夜の10時でしたが、大満足。
昨年「マニュエル・ルグリの新しき世界」で「モペイ」を踊った木本全優が出てました。背が高くて顔が小さくて上手ですね。他にも日本人がけっこう多いのが目につきました。
今回の来日公演のもうひとつのプログラム「こうもり」は、言わずと知れたウィーンの作曲家ヨハン・シュトラウスのオペレッタに基づく演目。こちらでどのような舞台を見せてくれるのかも楽しみになってきました。
ウィーン国立バレエ団<ウィンナー・ガラ>
2012年4月25日 東京文化会館
「バッハ組曲第3番」
振付:ジョン・ノイマイヤー 音楽:ヨハン・セバスティアン・バッハ
マリア・ヤコヴレワ ‐ ロマン・ラツィク
橋本清香 ‐ ミハイル・ソスノフスキー
マルタ・ドラスティコワ ‐ アレクサンドル・トカチェンコ
アリーチェ・フィレンツェ ‐ ドゥミトル・タラン
澤井怜奈 ‐ ダヴィデ・ダト
「アンナ・カレーニナ」より パ・ド・ドゥ
振付:ボリス・エイフマン 音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
アンナ:イリーナ・ツィンバル カレーニン:エノ・ペシ
「マリー・アントワネット」より
振付:パトリック・ド・バナ 音楽:ジャン=フィリップ・ラモー、ルイ・ミゲル・コボ、アントニオ・ヴィヴァルディ
マリー・アントワネット:オルガ・エシナ
ルイ16世:ロマン・ラツィク
運命:キリル・クルラーエフ
「スキュー ‐ ウィフ」
振付・衣裳:ポール・ライトフット、ソル・レオン 音楽:ジョアッキーノ・ロッシーニ
イオアナ・アヴラム、ミハイル・ソスノフスキー、デニス・チェリェヴィチコ、マーチン・デンプス
「グロウ ‐ ストップ」
振付:ヨルマ・エロ 音楽:ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト、フィリップ・グラス
オルガ・エシナ、イリーナ・ツィンバル、リュドミラ・コノヴァロワ、アリーチェ・フィレンツェ、仙頭由貴、アンドレア・ネメトワ、
キリル・クルラーエフ、リヒャルト・ザボ、ウラジーミル・シショフ、アッティラ・バコ、エノ・ペシ、イゴール・ミロシュ
「イン・ザ・ナイト」
振付:ジェローム・ロビンズ 音楽:フレデリック・ショパン
ナタリー・クッシュ ‐ 木本全優
アレーナ・クロシュコワ ‐ ロマン・ラツィク
ニーナ・ポラコワ ‐ マニュエル・ルグリ
イーゴリ・ザプラヴディン(ピアノ)
「精密の不安定なスリル」
振付・衣裳・照明:ウィリアム・フォーサイス 音楽:フランツ・シューベルト
リュドミラ・コノヴァロワ、玉井るい、橋本清香、木本全優、デニス・チェリェヴィチコ
「ルートヴィヒ2世‐白鳥の王」 〈世界初演〉
振付:パトリック・ド・バナ 音楽:リヒャルト・ワーグナー
ルートヴィヒ2世:マニュエル・ルグリ
エリザベート皇后:マリア・ヤコヴレワ
湖の貴婦人:ニーナ・ポラコワ
「ライモンダ」よりグラン・パ
振付:ルドルフ・ヌレエフ(マリウス・プティパに基づく) 音楽:アレクサンドル・グラズノフ
ライモンダ:オルガ・エシナ
ジャン・ド・ブリエン:ウラジーミル・シショフ
アンリエッテ:アレーナ・クロシュコワ
パ・ド・カトル:アッティラ・バコ、グレイグ・マチューズ、ドゥミトル・タラン、アレクサンドル・トカチェンコ
クレメンスとふたりの女性:マルタ・ドラスティコワ、マリア・アラーティ‐澤井怜奈
他、ウィーン国立バレエ団
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