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2012年11月の13件の記事

2012/11/30

【温泉・精神医学史】斎藤紀一ゆかりの宿・福島屋旅館@熱海(★★★★★)&伊豆の走り湯

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 丹沢で、山ガールに化けた山の精に騙されて道に迷ったぽん太とにゃん子は、19時近くにようやくその日の宿、熱海温泉の福島屋旅館に到着しました。一泊朝食つきにしたので、到着が遅れても問題はありませんでした。「あの」熱海にありながら、昭和レトロの雰囲気が漂う宿として有名で、前から一度泊まりたいと思っておりました。宿のホームページはこちらです。

Img_3742 こちらが外観です。モルタル造りで、鄙びているというよりボロい感じ。普通なら泊まろうという気になりません。
Img_3726 こちらが玄関。内装はなかなかいい味を出してます。
Img_3740 玄関ホールです。木の柱と白い壁。建具の軽妙な衣装や、竹の斜め格子なども悪くないです。
Img_3739 玄関右手の階段方向。黒光りする廊下、松を象った壁の穴(建築用語不明)。左上の縦に桟が入った窓はガラスが入ってなくて、向こう側は階段の踊り場になっています。
Img_3727 その階段の右手の小スペースは、レトロなグッズが置かれています。
Img_3738 室内の手すりと欄干、細かく桟が入った窓や欄間から漏れて来る灯り。
Img_3736 流しと給湯コーナー。
Img_3733 こちらが客室です。昭和レトロっぽい和室です。
Img_3714 こちらは脱衣所。銭湯代わりに使っている人が多く、夕方までけっこう混み合っています。宿泊客はぽん太とにゃん子だけでした。
Img_3711 こちらが男湯の浴室です。浴槽とその周りはタイル張りで、白いペンキが塗られた板張りの壁も悪くありません。お湯は完全な源泉掛け流し。流れ込むお湯の量を蛇口で調節して温度を一定に保つという原始的な方式です。
Img_3712_2 もうひとつ小さな浴槽がありますが、こちらはお湯が張られてませんでした。その奥が洗い場になりますが……。
Img_3723 シャワーはなく、桶と「タライ」が置かれています。使い方がわかりますか?ぽん太も常連さんを観察してわかりました。お湯の蛇口を開けっ放しにしてタライにお湯を溜めます。それを桶ですくって使うという寸法です。確かにいちいち蛇口から桶にお湯を溜めるよりもスピーディーです。温泉ファンのぽん太ですが、こういう方式は生まれて初めて見ました。あゝ、感動!
Img_3722 こちらが朝食。普通のメニューですが、さすがに干物がふっくら柔らかくてとても美味しかったです。高度成長で賑わい、バブル崩壊で衰退した熱海にあって、昭和レトロな雰囲気が歴史を超えて保たれている点がすばらしく、ぽん太の評価は5点満点です。

 さて、ぽん太が以前の記事で書いたように、斎藤茂吉の父親であり、精神科医であった斎藤紀一氏は、熱海の「福島屋」という温泉を気に入って繰り返し訪れており、昭和3年(1928年)11月17日にそこで心臓麻痺を起こして息を引き取ったのでした。それって、この福島屋かな、と思って宿のご主人に尋ねたところ、確かにこの福島屋さんなんだそうです。あゝ、これもまた感激です。
 とはいえ当時はこの建物ではなかったようです。宿のホームページを見てみると、明治期は木造2階建てで、大正期に木造3階建てに建て替えられましたが、昭和19年の大火で消失したそうです。紀一氏がいつ頃から福島屋に泊まっていたのかわかりませんが、息を引き取った時は木造3階建ての時代ですね。この頃の写真をホームページで見ることができます。現在の建物は、大火後に再建されたものと推定されます。

 一方、こちらの記事に書いた森田館については、あまり手がかりがありませんでした。以前の記事では「森田旅館」と書きましたが、「森田館」が正しいようです。森田療法で有名な森田正馬先生が、昭和6年(1931年)6月1日に旅館伊勢屋を買い取って経営した宿です。熱海市立図書館にも行ってみたのですがめぼしい資料は見つかりませんでした。ただ、福島屋の廊下にかかっていた明治30年代の熱海の地図(福島屋のホームページにもあります)を見てみると、「イセヤ」という宿が福島屋からまっすぐ海の方向にいったあたりの海沿いに描かれております。その「イセヤ」が森田館になったんだとすると、場所は現在のこのあたり(Yahoo!地図)ではないかと推定されます。またこちらのpdfファイルには伊勢屋は「現在の富士屋の駐車場あたり」にあったと書いてありますが、ぽん太にはどこだかわかりあせん。伊勢屋は関東大震災の津波で損壊して、閉館になったと書いてあります。

Img_3719 さて、旅に話しを戻しますと、福島屋さんには一泊朝食付きで泊まったので、宿は熱海の街に繰り出しました。とは言え、夕食つきの旅館が普通の温泉街で、美味しそうな居酒屋があるかどうか。宿の近くを歩いてみたら、なんとかなりシブい歓楽街があり、地元のひとたちで賑わっているようです。初めに入ったのは居酒屋魚庵(ととあん)。ぐるなびにリンクしておきます。マンボウの刺身があるということで、(たぶん)生まれて初めて頂きました。海にプカプカと浮いている姿から想像できるように、筋力のかけらもない肉で、水っぽくて決して美味しいものではありませんでした。その後、鮨割烹廉(れん)(ホームページはこちら)に流れ、由比の生シラスや地魚のお鮨をいただきました。満足まんぞく。

Img_3747 さてもうひとつ。以前の記事でご紹介した、『梁塵秘抄』に書かれているという伊豆の「走り湯」。見てきました。
Img_3748 トンネルの中は木製のふたがある樋があり、突き当たりに小さな池があってお湯が沸々と湧き出てました。

2012/11/29

【登山】丹沢の林道歩きで痛恨のルートミス!真っ暗で真っ青(鍋割山・塔ノ岳)

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 冬も近づいてきたので低めの山ということで、丹沢に行ってきました。有名な鍋割山荘の鍋焼きうどんを初めて食べるのが主な目的です。

【山名】鍋割山(1272.5m)、塔ノ岳(1490.9m)
【山域】丹沢
【日程】2012年11月21日
【メンバー】ぽん太、にゃん子
【天候】快晴
【ルート】表丹沢県民の森駐車場10:49…二俣…後沢乗越…鍋割山13:01…塔ノ岳14:51…堀山ノ家…二俣…表丹沢県民の森駐車場17:30

(※大きい地図や3Dグラフはこちら
【マイカー登山情報】表丹沢県民の森のあたりに駐車場があります(Yahoo!地図)。国道246号線の菖蒲の交差点を北上。老人ホーム菖蒲荘を過ぎた所で、表示に従って細い道を右折。みくるべ病院の前を過ぎてしばらくいくと、ゲート前に駐車場があります。

Img_3688 高気圧にすっぽり覆われて、天気は快晴。丹沢でも紅葉には遅いようで、登り始めで既に枯れ木が目立ちます。鍋割山荘おなじみのボッカ・ボランティアは、ペットボトル1本。平日だというのに次から次へと登山客とすれ違いました。やはり丹沢は人気なんですね。途中、冒頭の写真のように、雪を頂いた富士山がきれいに見えました。
Img_3699 鍋割山山頂手前は、メギの赤い実が鮮やかでした。
Img_3701 山頂も登山客で混雑しておりましたが、ありがたいことに、お目当ての鍋焼きうどんは待ち時間なしで食べることができました。エノキ、シメジ、シイタケと3種類のキノコが入り、カボチャの天ぷらも甘く柔らか、味は濃いめですが登山で疲れた体にはぴったりで、汁まで全部いただきました。
Img_3707 鍋焼きうどんが待たずに食べれて、時間もありそうだったので、塔ノ岳まで足を伸ばしました。大倉尾根を下る途中、夕暮れの光がとてもきれいでした。
 堀山ノ家から二俣に下る道は、どこが道だかわかりませんが、とにかく尾根通しに降りて行きます。ただ、途中で右に回り込む感じのところがあって、小さな表示はありますが、見落とさないように注意が必要です。二俣の林道に出たのは4時過ぎで、すでに暗くなりかかってきましたが、この分なら4時半には駐車場につきそう。後沢乗越の方から降りてきた山ガール2人組の後を追って下って行きました。ところが歩いても歩いても駐車場に着かず、なんだか見たことない風景が。間違えて大倉に下る林道を歩いたようです。薄暗くなって景色が見えなかったのと、心のなかで先を急いでいたこと、先行する登山者の後をついつい追ってしまったことなどが重なって、分岐を通り過ぎてしまったようです。おかげで往復約1時間のロスをして、途中で真っ暗になってしまいましたが、ヘッドランプの灯りをたよりに何とか駐車場に戻ることができました。丹沢といっても油断はなりませんね。みなさんもご注意を。

2012/11/28

【歌舞伎】口上が長くて楽しい/2012年11月永楽座歌舞伎

 今年で5回目を迎えるという永楽館歌舞伎。ぽん太とにゃん子は初めて行ってきました。公式サイトはこちらです。観てからだいぶ時間がたって、かなり印象が薄れてしまっているのですが、自分の備忘録として書きますのでご了承を。
Img_3657 永楽館は兵庫県豊岡市の出石(いずし)という町にある、明治34年に造られたという芝居小屋です。歌舞伎が行われる古い芝居小屋としては、香川は金比羅宮の門前町にある金丸座が有名ですが、永楽館は金丸座よりもっとちっちゃくて狭いです。ぽん太とにゃん子の席は前から2番目立ったのですが、わずか数メートルのところで芝居が進行し、すごい臨場感・一体感があります。
 狭いスペースに上手の床などさまざまな舞台装置を組み込んだせいか、定式幕が上手から下手に向かって開くようになっていたのが、ちょっと違和感がありました。また花道も、舞台から客席にむかってやや下りの傾斜があり、途中から水平になってました。客席の上方にはレトロな看板もかかっていて、芝居小屋の雰囲気を盛り上げてました。
 出石の町に関しては、機会があったら稿を改めてアップしたいと思います。

Img_3663 さて、芝居の感想に移らさせていただきます。
 まずは「実録忠臣蔵」より「大石妻子別れの場」。「仮名手本忠臣蔵」や「元禄忠臣蔵」は観たことがありますが、「実録忠臣蔵」というのはぽん太は初めて。ググってみると、福地桜痴作、3世河竹新七補、明治23年(1890年)に東京の歌舞伎座で初演されたそうです。初代の歌舞伎座が開設されたが明治22年(1889年)ですから、開設の翌年に上演されたことになります。当時の建物の写真は例えばこちらで見れますが、外観は洋風ですが内部は日本風の檜造りだったそうです。歌舞伎座創設に尽力した福地源一郎の、劇作家としてのペンネームが福地桜痴ですね。
 あらすじですが、場面は山科。放埒に明け暮れ、一向に敵を討とうとしない内蔵助に、母親の千壽と妻のりくは不満を感じています。意見をしてもきかない内蔵助にあいそがつき、とうとうりくは離縁を申し出ます。内蔵助は大事のために本心を明かさずに去り状を書き、りくと千壽は家を出て行きます。
 話しの構造としては「元禄忠臣蔵」の「南部坂雪の別れ」に似ています。討ち入りを前にした大石内蔵助は、別れを告げるために瑶泉院(浅野内匠頭の未亡人)を訪ねますが、密偵の目を気にして本心を打ち明けることができず、さんざんに未亡人の怒りをかって、立ち去って行きます。しかし「南部坂雪の別れ」には、最後に瑶泉院が内蔵助の本心を知る、という救いがあるのですが、「大石妻子別れの場」にはそれがありません。
 山科を立ち去ったりくたちの行き先は、永楽館がある「豊岡」とのこと。永楽館での公演に合わせて、ご当地の地名を盛り込んだのかとも思いましたが、口上での愛之助の話しによると、もともと「豊岡」が出て来る芝居だったので、今回の演目に選んだんだそうです。ふ〜ん、そうだったのか。大石内蔵助の奥さんは豊岡出身だったのか。
 ということで、Wikipediaを見てみると、たしかに「但馬国豊岡藩京極家の家老石束毎公の長女として誕生」とのこと。へ〜え、身長が180センチもあったんですね。そして討ち入りの年元禄15年(1702年)の4月15日に、りくは豊岡に戻され、その後離縁となったそうです。
 で、舞台の方ですが、妻りくを演じた壱太郎がすばらしかったです。文楽人形のように様式的で抑制された演技のなかで、眼球や喉の筋肉などの微妙な動きが、秘められた深い情動を雄弁に語っておりました。ん〜なんかぽん太は、壱太郎のファンになってきたな〜。愛之助、座長として頑張っておりましたが、大石内蔵助の大きさ、貫禄、茫洋とした感じが出ておらず、また、内に秘めた重いや苦悩も十分には表現されていません。もう少し頑張りましょう。
 いい男の薪車の寺坂吉右衛門が、つやっぽく色気もあるヤッコで、舞台に明るさとテンポを与えておりました。母千壽の吉弥が、若い役者が多い舞台をしっかりと締めておりました。大石主税の種之助も若々しかったです。

 次の「口上」が抱腹絶倒。しかも長い。愛之助をはじめ一人ひとりが、永楽歌舞伎への思いや、まつわるエピソード、裏話など、笑いを取りながらたっぷりと話してくれました。とくにこの日は昼の部の公演のみで夜の部はない日だったので、時間が押すのを気にせずに、いつもより長く話しているようでした。内容はだいぶ忘れてしまいましたが、愛之助は、第一回の永楽歌舞伎が真夏で暑くて大変だったこと、吉弥は、永楽館近くの蕎麦屋に入ったら愛之助と間違えられて(?)料金をただにしてもらった話、薪車は次回の永楽歌舞伎にも出さして下さいと愛之助に頼み、種之助は蕎麦を20杯食べて認定証をもらったが、愛之助が「鯉つかみ」を演じている最中でした、という話し、壱太郎は「永楽歌舞伎の口上は長い長いと聞いておりましたが、これほどとは思ってませんでした」と言ってました。

Img_3668 最後は「湧昇水鯉滝」の「鯉つかみ」。昼ご飯を食べて座席に戻って来ると、ビニールの風呂敷とレインコートが配布されております。幕が開くと、目の前2メートルのところに池が。これは危険です。
 「鯉つかみ」とは、主人公が水中で鯉の精と戦うという出し物で、解説によると「本水」を使った演出は長く上演されていなかったとのこどえすが、海老蔵で見たような記憶が……。ぐぐってみると、2008年8月の新橋演舞場の「石川五右衛門」のようですが、これは「滝」で「鯱」(しゃち)と戦うというものでした。
 新橋でも「滝」でしたが、本水では舞台に水槽をしつらえなければならないので、現代のコンクリート製の舞台では上演できないそうです。永楽館の舞台は木造で、豊岡市指定文化財ではありますが特別に許可を得た上で、舞台に穴を開けて池をしつらえたそうです。
 こんどはお姫様役の壱太郎は、ま〜可愛らしい。惚れちゃいそうです。愛之助も、こういった色っぽい稚児とか若衆役の方がいいですね。鯉つかみも大奮闘で、おかげで、レインコートとビニールシートでガードしていたにも関わらず、靴下がびっしょりになりました。最後の花道の飛び六方では、観客から手拍子がわき起こり、愛之助もそれに合わせて演技するという完全に田舎芝居のノリで、とても楽しかったです。
 歴史あるちっちゃな小屋で、臨場感あふれるアットホームな舞台を楽しめ、なかなかよかったです。ただちょっと遠いので、また来るのは難しいかも。


第五回 永楽館歌舞伎
平成24年11月7日

一、実録忠臣蔵(じつろくちゅうしんぐら)
  大石妻子別れの場
           大石内蔵助  愛之助
            妻 りく  壱太郎
            大石主税  種之助
           大石大三郎  吉太朗
          寺坂吉右衛門  薪 車
            母 千壽  吉 弥

二、お目見得 口上(こうじょう)
                  幹部俳優出演

三、湧昇水鯉滝
  鯉つかみ(こいつかみ)
     滝窓志賀之助実は鯉の精  
     滝窓志賀之助実は清若丸  愛之助
         釣家息女小桜姫  壱太郎
          篠村次郎公光  薪 車
          篠村妻 呉竹  吉 弥

2012/11/26

【バレエ】大人っぽくなってきたね/ダニール・シムキンのすべて <インテンシオ>

 シムキン君のガラ、最終日に観てきました。公式サイトはこちら。「インテンシオ」という言葉は初めて聞きましたが、intention(意図)とintense(力強い)を合わせた造語とのこと。なかなかすばらしい公演でした。
 公演が始まると、半透明の幕にシムキンのダンス映像が映し出され、幕の向こう側のライトが明滅するたびに、これから踊るダンサーがスナップショット的に紹介されていくという趣向。アメリカのショー的な感じでなかなかシャレておりますが、一階後方に設置されたプロジェクターの冷却ファンの音(?)がちょっと耳障りでした。映像にはシムキンの父親がかかわっているようですが、プログラムを買ってないのでよくわかりません。
 「Qi(気)」も映像技術を使った演出で、舞台でシムキンが踊ると、背景に写った影が煙の用に変化して行くというもの。パフォーマンスとしてはおもしろかったですが、目がついつい背景の方に行ってしまい、ダンスに集中できませんでした。
 「葉は色あせて」を踊ったジュリー・ケントとコリー・スターンズは、前回のABT来日公演のガラで観たことがあります。「葉は色あせて」は初めてでした。悪くはないですけど、あまり特徴のない振り付けでした。
 続いて「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」。イザベラ・ボイルストンは、ちょっとボリューム感ある体型の、明るい元気娘。やはり前回のABT来日公演で観ているようです。初見のホアキン・デ・ルースは甘いマスクの男性で、際立ったところはないけれど端正な踊りで安定感がありました。
 サンクトペテルブルク・バレエ・シアターのイリーナ・コレスニコワは、2011年春に「白鳥の湖」の来日公演が予定されていて、ぽん太もチケットを取っていたのですが、3.11の影響で日程が変更となり、観ることができませんでした。今回は前半で白鳥のグラン・アダージオ、後半で黒鳥のパ・ド・ドゥを踊るという趣向。「踊る女優」というキャッチコピーさながらの表現力のある踊りでしたが、ちょっと濃すぎるというか、演歌の世界という感じでした。ぽん太の好きなリフトがなかったのも残念。後半の黒鳥では、一転してピチピチした踊りをみせてくれるのかと期待していたのですが、こちらもねっとり妖艶。男のぽん太は、「こういう女に手を出してはいけない」と、本能的に危険信号が発令されます。ん〜〜善し悪しというより好き嫌いだよね。ぽん太はちと苦手。グランフェッテもスピードは速かったけど全部シングルなのがちと不満でした。ピルエットしながら両腕を上げていく技は初めて観ました。王子のウラジーミル・シショフは、ウィーン国立バレエ団所属。今年の春のガラで観ているようです。長身で手足が長く頭が小さくて見栄えがします。踊りも大きく見えますが、ちょっと荒いというか、エレガントな柔らかさに欠けておりました。
 「椿姫」第3幕のパ・ド・ドゥは、ジュリー・ケントは悪くなかったと思うのですが、ロベルト・ボッレがきびきびしすぎていて、狂おしいような感情の高まりが感じられませんでした。やはりこれはルグリの方がいいです。
 さて、前半の〆は、シムキンとコチェトコワという以前に観た「ドンキ」のコンビで、「海賊」のパ・ド・ドゥ。いや〜すばらしい。凄すぎます。シムキンの身体能力にはびっくり。特にあの空中まわしげりみたいなジャンプ(すんません、名前知りません)の高さは、観客席がどよめきました。
吉野山。二人は主従というより恋人のような踊り。コチェトコワはとてもキュートで、メドゥーラとアリは本来主従の関係のはずですが、恋人同士のような雰囲気でした。まあ、コンラッドもいないし、歌舞伎の「吉野山」の静御前と佐藤忠信みたいなもんすかね。グランフェッテでは、回転しながら向きを少しずつ変えて一周するという(わかるかな?)不思議な技を披露。最初、向きがわからなくなったのかと思いました。
 休憩を挟んでシムキン君が「雨」で登場。冒頭の「Qi」と同じくオチョアの振り付けですが、どうもぽん太はオチョアの振り付けがピンとこないというか、なんだか動きが多すぎてせわしなく感じます。伴奏はバッハの「ゴールドベルク変奏曲」のアリア。うなり声が入ってたからグールドの演奏ですかね。
 次のコチェトコワの「ジゼル」も最高でした。ほんとにふわりふわりと空中を漂うようで、ガラ公演ではありますが、「あの溌剌とした少女がこんな哀れな姿になっちゃって〜」と悲しみに襲われ、涙が出てきました。
 「クルーエル・ワールド」も悪くなかった気がしますが、あまりよく覚えてません。
 黒鳥はさっき書いた……と。
 「ロミオとジュリエット」のバルコニーシーン。吉田都のジュリエットはホントに可愛らしくて子供こどもしています。ボッレのロミオは、きびきびした踊りなので若者らしさがあり、「椿姫」よりはよかったです。ただ体がでかすぎて都ちゃんとのバランスが悪かったです。リフトは高かったですねえ。最後はバルコニーの上と下で手が届いていたのがすごかったです。
 最後は「レ・ブルジョワ」でシムキン君が本日4回目の登場。眼鏡をかけて出て来た時は、ハリー・ポッターかと思いました。シャンソンに乗せたコミカルで洒脱なダンスで、くわえ煙草をリズミカルに上げ下げしたりして、洒落っ気たっぷり。ただテクニック的には古典的な動きが多く、シムキンの身体能力は楽しめましたが、コンテンポラリーの振り付けとしてはイマイチだと思いました。「フィギュアスケートでスピンに入る前のように、飛び上がるように足を後ろに跳ね上げる動作」(名称不明)がすごかったです。
 ということで、ぽん太の好みでは1位「海賊」、2位「ジゼル」、3位「ロミジュリ」でした。


ダニール・シムキンのすべて
<インテンシオ>
2012年11月25日 ゆうぽうとホール

〈オープニング〉

「Qi (気)」
振付:アナベル・ロペス・オチョア/音楽:オーラヴル・アルナルズ
ダニール・シムキン

「葉は色あせて」
振付:アントニー・チューダー/音楽:アントニン・ドヴォルザーク
ジュリー・ケント、コリー・スターンズ

「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」
振付:ジョージ・バランシン/音楽:ピョートル・I. チャイコフスキー
イザベラ・ボイルストン、ホアキン・デ・ルース

「白鳥の湖」より グラン・アダージオ
振付:レフ・イワーノフ/音楽:ピョートル・I. チャイコフスキー
イリーナ・コレスニコワ、ウラジーミル・シショフ

「椿姫」より 第3幕のパ・ド・ドゥ
振付:ジョン・ノイマイヤー/音楽:フレデリック・ショパン
ジュリー・ケント、ロベルト・ボッレ

「海賊」より 第2幕のパ・ド・ドゥ
振付:マリウス・プティパ/音楽:リッカルド・ドリゴ
マリア・コチェトコワ、ダニール・シムキン

「雨」
振付:アナベル・ロペス・オチョア/音楽:ヨハン・S. バッハ
イザベラ・ボイルストン、ダニール・シムキン

「ジゼル」より 第2幕のパ・ド・ドゥ
振付:ジャン・コラーリ/ジュール・ペロー/音楽:アドルフ・アダン
マリア・コチェトコワ、ホアキン・デ・ルース

「クルーエル・ワールド」
振付:ジェイムズ・クルデカ/音楽:ピョートル・I. チャイコフスキー
ジュリー・ケント、コリー・スターンズ

「白鳥の湖」より 黒鳥のパ・ド・ドゥ
振付:マリウス・プティパ/音楽:ピョートル・I. チャイコフスキー
イリーナ・コレスニコワ、ウラジーミル・シショフ
黒鳥はどうかと思ったが、こちらもこってり。こういう女に惚れられては危険。グランフェっては速かったけどシングル。

「ロミオとジュリエット」より 第1幕のパ・ド・ドゥ
振付:ケネス・マクミラン/音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
吉田都、ロベルト・ボッレ

「レ・ブルジョワ」
振付:ベン・ファン・コーウェンベルク/音楽:ジャック・ブレル
ダニール・シムキン

〈フィナーレ〉

2012/11/21

【歌舞伎】「四千両小判梅葉」はまるで「実録!刑務所潜入」2012年11月新橋演舞場夜の部

 仁左衛門が11月2日から病気で休演しているとのこと。1日の初日に昼の部を見れたのはラッキーでした。そのときは、ちょっと声が小さいのが気になりましたが、そんなに具合が悪いとは思いませんでした。十分休養して早く舞台に戻って下さい。さて、今回は夜の部。公式サイトはこちらです。
 実はぽん太とにゃん子が歌舞伎ファンになったのは、2005年に仁左衛門の「熊谷陣屋」を観て以来。ちなみに相模は雀右衛門でした。そのときは感動で涙が止まりませんでしたが、哀しいかな歌舞伎を観るのは2回目だったので、細かいところはまったくわかりませんでした。その後、歌舞伎もいろいろと観て、多少は演技の善し悪しもわかるようになったところで、ぜひもう一度、仁左衛門の「熊谷陣屋」を観たいと思っていたのですが、残念でした。
 でも、まあ、松緑の初役を観れるんだからいいかと、気を取り直して観に行ったのですが、やはり力不足は否めません。相模を見つけて両手で袴をたたく仕草から、なんか速すぎて貫禄がありません。表情も、迫力を出したいのかもしれませんが、何であんなに歯を食いしばったり、口をあんぐりあけたりするのでしょう。なんだか必死になっている子供みたいでした。まわりの配役が仁左衛門を想定した幹部級ぞろいなので、よけいに若さが目立ってしまい、出陣の支度をして座っているあたりでは、ほんと存在感がなくなってしまいました。最後の幕外の花道でも泣き叫んでいるだけで、吉右衛門のような複雑な表情の変化はありませんでした。などと批判ばっかりになってしまいまいしたが、代役での初役だから仕方ないかも。ぜひ役を重ねていき、いつかぽん太を感動させて下さい。
 梅玉の義経がさすがにすばらしかったです。梅玉もここのところ代役が多くて、仁に合わない役を苦労して演じておりましたが、梅玉といえば義経、義経といえば梅玉、水をえた魚のように延びのびと演じておりました。高貴さといい、深い慈悲といい、これ以上のものはありません。
 魁春の相模も格式が感じられて悪くはなかったですが、息子の首を抱きかかえ、藤の方に見せるあたりの悲しさ、哀れさが、いまひとつでした。藤の方の秀太郎はあいかわらずうまい。左團次の弥陀六は、老人っぽさはありましたが、ちょっとテンポが遅く、糸にのせたリズム感がありませんでした。
 全体として、メリハリに欠けて一本調子でしたが、画竜点睛の仁左衛門を欠いていたので仕方がありません。

 藤十郎の「汐汲」は短い踊りですが、華やかで美しく、最高レベルの芸を見せてくれました。後半に翫雀の此兵衛が出て来るのは、新演出なんだそうな。
 ところで、今月の夜の部の演目は、「一・中幕・二」となっておりますが、昭和初期まで行われていたという「一番目」(時代物)、「中幕」(所作事または一幕物の時代物)、「二番目」(世話物)という習慣に従ったのでしょうか。
 ところで、ここのところ上演時間が短くなってますが、切符の値段は下がらないのでしょうか。

 「四千両小判梅葉」は初めてみる演目。菊五郎お得意の世話物で、家族との泣き別れなどもあってそれなりに面白かったのですが、「大牢の場」になってびっくり仰天。テレビの「実録!刑務所潜入」といった感じで、小伝馬町の牢の様子が延々と描写されます。牢名主が畳を重ねて座っているのはよく見る光景ですが、板もいっぱい持っているのは何なんでしょう。板も貴重なんでしょうか。囚人に「すってん踊り」を踊らせたり、新入りの入牢の儀式や、キメ板で打つ懲罰など、驚くことばかりです。ぽん太も以前の記事で小伝馬町の牢についてはみちくさしてことがありますが、百聞は一見に如かずでした。
 これってどこまでリアルなんだろうと思ってぐぐってみたところ、こちらの「文化デジタルライブラリー」に行き当たりました。「四千両小判梅葉」は明治18年(1885年)11月に千歳座で初演されたそうです。千歳座は現在の明治座です。明治座の歴史については以前の記事でみちくさしてことがありますが、現在の明治座とほぼ同じ位置にあったと思われます。当時の千歳座の興行師・田村成義(たむらなりよし)は、幕末に小伝馬町の牢役人をしていたそうで、奉行所の書類を調査したり、もと囚人から話しを聞いたりして、様々なしきたりから小道具にいたるまで、リアルに表現されているそうです。
 今月は「顔見世」ですが、看板役者たちが囚人役で勢揃いしているのがおかしかったです。


新橋演舞場
吉例顔見世大歌舞伎
平成24年11月 夜の部

   一谷嫩軍記
一、 熊谷陣屋(くまがいじんや)
                   熊谷直実  仁左衛門
                  白毫弥陀六  左團次
                     相模  魁 春
                    堤軍次  亀 寿
                   亀井六郎  松 也
                   片岡八郎  萬太郎
                   伊勢三郎  右 近
                    藤の方  秀太郎
                    源義経  梅 玉

中幕 汐汲(しおくみ)
                   蜑女苅藻  藤十郎
                    此兵衛  翫 雀

二、 四千両小判梅葉(しせんりょうこばんのうめのは)
    四谷見附より
    牢内言渡しまで
                 野州無宿富蔵  菊五郎
                  女房おさよ  時 蔵
                浅草無宿才次郎  松 緑
                寺島無宿長太郎  菊之助
                   黒川隼人  松 江
                      頭  亀三郎
                    三番役  亀 寿
                 伊丹屋徳太郎  松 也
                下谷無宿九郎蔵  萬太郎
                田舎役者萬九郎  桂 三
                   穴の隠居  由次郎
                    数見役  権十郎
                   石出帯刀  秀 調
                   隅の隠居  家 橘
                  生馬の眼八  團 蔵
                うどん屋六兵衛  東 蔵
                   浜田左内  彦三郎
               牢名主 松島奥五郎  左團次
                  藤岡藤十郎  梅 玉

2012/11/20

【オペラ】マムシのようなセンヒョン・コーのスカルピア「トスカ」新国立劇場

  トスカは(新国立も含め)何回か観た演目なので、それほど期待もせずナニゲに観に行ったのですが、非常にドラマティックな舞台で、ぽん太はすっかり引き込まれて涙がこぼれ落ちそうになりました。公式サイトはこちらです。
 何といってもメインの歌手陣が光ってました。トスカを歌ったノルマ・ファンティーニは、以前に新国立の「アンドレア・シェニエ」でも抜群の歌唱力と演技力をみせてくれましたが、今回も期待を裏切りませんでした。焼き餅焼きの歌姫が、深い苦悩に追い込まれていき、ついにスカルピアを刺し殺す勇気を得て、ひとときカヴァラドッシとの愛の幸福にひたるものの、スカルピアが仕掛けた罠にかかって愛する人を失い、スカルピアとのさらなる戦いに向けて自ら命を絶つ、そうした一つひとつの変化がくっきりと表現されていました。また歌でも、「歌に生き、愛に生き」では、最後の方は歌っているのかすすり泣いているのかわからないくらい、感情がこもっておりました。
 そしてスカルピアのセンヒョン・コー。韓国出身で、メイクをした顔はコロッケと和田勉を足して2で割ったよう。最初は「をひをひ、『トスカ』に東洋人かよ」とか「冷酷で狡猾なスカルピアには合わね〜な〜」とか思ってたのですが、「いやらしくて、ずる賢く、まむしのような」コーのスカルピアがだんだんすばらしく思えて来て、最後は感動することしきりでした。ヨーロッパ人の表情ってなんだかよくわからないですが、コーは同じ東洋系のでしか、細かい表情の変化がよくわかりました。
 カヴァラドッシのサイモン・オニールの伸びやかで明るい声にも、すっかり聞き惚れました。
 志村文彦の堂守は、こっけいな人物。アンジェロッティの谷友博も朗々としておりました。指揮は沼尻竜典。今後も日本人指揮者を取り上げて欲しいです。指揮者が日本人だったからかどうかわかりませんが、東京フィルがとってものびのびと力強く演奏しておりました。

 「トスカ」といえば、最後の言葉「スカルピア、神の御前で」がよくわからない、というので有名です。なんで「カヴァラドッシ、神の御前で」ではないのでしょう。ぐぐってみると、「実はトスカはスカルピアの悪の魅力に魅かれつつあったのでは」などと勘ぐっている人もいるようです。
 ぽん太も最初に「トスカ」を観た時は、同じような疑問を持ったのですが、今回の舞台ではトスカが力強く決然と飛び降りて行きましたから、「次は神の前でスカルピアと白黒つける」という雰囲気が出ていました。
 それに、最近ぽん太は地獄や天国について興味をもってみちくさしているので思うのですが、日本の聴衆はキリスト教と仏教を混同しているんじゃないでしょうか。仏教に支配された日本の考え方では、トスカが最後に身を投げるのをみると「心中」を思い浮かべ、「トスカとカヴァラドッシが現世では添い遂げられなかったので、あの世で二人幸せに暮らしたい」と理解します。しかしそれは、善人も悪人も信仰心さえあれば死後に極楽浄土に生まれ変わるという浄土宗の影響を受けた考えです。キリスト教では、死者はこの世の終わりの最後の審判の日に甦り、神の裁きを受けて天国と地獄に振り分けられて行くのですし、ましてやトスカは悪人とはいえスカルピアを殺しているのですから、彼女の頭には「死後の世界でカヴァラドッシと幸せに暮らす」などという発想はなかったんだと思います。
 残念ながらぽん太は、キリスト教における死後の世界の捉え方については詳しくないので、正確なところはわかりません。ググってみても、宗派によって考え方が違うようですし、怪しげな新興宗教の教義も混ざっていたりして、一般的なキリスト教徒の考え方がよくわかりません。
 そういえば「ロミオとジュリエット」では、息絶えたロミオを見てジュリエットは自ら命を絶ちますが、ロミオが死んだことに絶望して自殺しただけなのかどうか。「白鳥の湖」のある版では、死んでしまった王子とオデットが、なかよく天に昇って行きますが、あれはひょっとしたら非キリスト教的な物語なのか。ぽん太にはじぇんじぇんわかりません。


「トスカ」
ジャコモ・プッチーニ
2012年11月11日、新国立劇場オペラ劇場

【指揮】沼尻竜典
【演出】アントネッロ・マダウ=ディアツ
【美術】川口直次
【衣裳】ピエール・ルチアーノ・カヴァロッティ
【照明】奥畑康夫

【トスカ】ノルマ・ファンティーニ
【カヴァラドッシ】サイモン・オニール
【スカルピア】センヒョン・コー
【アンジェロッティ】谷 友博
【スポレッタ】松浦 健
【シャルローネ】峰 茂樹
【堂守】志村文彦
【看守】塩入功司
【羊飼い】前川依子

【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

2012/11/16

【バレエ】ロパートキナの異次元の踊り「ラ・バヤデール」マリインスキー・バレエ

 3年ぶりに来日のマリインスキー・バレエ。まずは「ラ・バヤデール」から。いきなりロパートキナの登場です。あゝ、うれしや。公式サイトはこちらです。
 会場は文京シビックホール。ホントはこのくらいの大きさの箱がいいですね〜。東京文化会館やオーチャードホールはちょっと広すぎます。
 とにもかくにもロパートキナがすばらしかったです。ほかのダンサーに比べて「別格」という感じでした。
 あまりうまくないダンサーだと、振り付け通りに体を動かしているという感じですが、上手なダンサーになると、一つひとつの動作に「意味」や「感情」が感じられます。しかしロパートキナになると、再びそれらが見えなくなります。しかし消え去ったわけではなく、完璧な身体の運動としての「舞踏」のなかで、それらは象徴的に表現されています。うれしそうな仕草、可愛らしい仕草、哀しそうな仕草…といったものがありますが、ロパートキナはそういう仕草は使わずに、抽象的なレベルで感情を表現します。ロパートキナ以外にこのような身体表現ができるのは、経験の乏しいぽん太の知る限りでは、マラーホフと坂東玉三郎ぐらいです。
 ただ、「ラ・バヤデール」という演目はあまり面白くないですね。ドラマがありません。昔だったら「インドが舞台」というだけで物珍しかったのかもしれませんが。振り付けも、いくら「伝統を守るマリインスキー」とはいっても、もう少し斬新さやテクニカルな要素が欲しい気もします。今回の演出は「大仏崩し」はナシで、ソロルの幻覚でおわりとなります。音楽は、「ドン・キホーテ」のミンクスだったんですね。舞台セットは奥行きが感じられてよかったです。
 ソロルを踊ったコルスンツェフを観るのは、ぽん太はたぶん初めてです。比較的がっしりとした体型で、とても安定感があり、端正な踊りでした。ジャンプも高く大きく、回転も安定しておりました。ガムザッティのコンダウーロワは、背も高く、内からあふれてくるようなきらびやかさがあり、役柄にあってました。そのほかのキャラクターダンスや群舞もみなすばらしく、さすがはマリインスキーでした。子供たちも可愛らしかったです。
 レプニコフ指揮のマリインスキー劇場管弦楽団もお手の物の演奏で、バレエとぴったり息があっていて、勢いある演奏でした。
 次はスコーリフ/セルゲーエフの「白鳥の湖」を観に行く予定です。いまから楽しみです。
 

マリインスキー・バレエ
ミンクス ≪ラ・バヤデール≫
2012年11月15日 文京シビックホール

音楽:ルードヴィヒ・ミンクス
台本:マリウス・プティパ,セルゲイ・フデコフ
振付:マリウス・プティパ
改訂振付:ウラジーミル・ポノマリョフ, ワフタング・チャブキアーニ
振付増補:コンスタンチン・セルゲーエフ、ニコライ・ズプコフスキー
舞台装置:ミハイル・シシリアンニコフ
(アドルフ・クワップ,コンスタンチン・イワノフ,
(ピョートル・ランビン,オレスト・アレグリの元デザインに基づく)
照明:ミハイル・シシリアンニコフ
衣装:エフゲニー・ポノマリョフ
指揮:アレクセイ・レプニコフ
管弦楽:マリインスキー劇場管弦楽団

ニキヤ(寺院の舞姫):ウリヤーナ・ロパートキナ
ドゥグマンタ(藩主):アンドレイ・ヤコヴレフ
ガムザッティ(藩主の娘):エカテリーナ・コンダウーロワ
ソロル(戦士):ダニーラ・コルスンツェフ
大僧正:ウラジーミル・ポノマリョフ
トロラグワ(戦士):イスロム・バイムラードフ
奴隷:アンドレイ・エルマコフ
マグダヴェヤ(托鉢僧):グリゴリー・ポポフ
アイヤ(ガムザッティの召使):エレーナ・バジェーノワ
ジャンペの踊り:ヴィクトリア・クラスノクツカヤ、アナスタシア・ニキーチナ
マヌー(壺の踊り):ナデジダ・バトーエワ
舞姫たち(バヤデルカ):アンナ・ラヴリネンコ、エレーナ・チミリ、エレーナ・フィルソーワ、スヴェトラーナ・イワノワ
グラン・パ・クラシック:ヴィクトリア・クラスノクツカヤ、ダリア・ヴァスネツォーワ、ヴィクトリア・ブリリョーワ、ユリアナ・チェレシケヴィチ、アンドレイ・エルマコフ、アンドレイ・ソロヴィヨフ
インドの踊り:アナスタシア・ペトゥシコーワ、カレン・イオアンニシアン
太鼓の踊り:オレグ・デムチェンコ
金の仏像:アレクセイ・ティモフェーエフ
精霊たち:マリーヤ・シリンキナ、アナスタシア・ニキーチナ、ダリア・ヴァスネツォーワ
子役:日本ジュニアバレヱ(指導:鈴木理奈)

2012/11/15

【歌舞伎】見所満載・見応え不十分、猿之助の「天竺徳兵衛新噺」2012年11月明治座夜の部

 11月の明治座は、猿之助率いる澤瀉屋一門による公演。ちと用事が立て込んでいるぽん太は、これまで見たことがない演目の夜の部だけ観劇しました。公式サイトはこちらです。
 猿之助が早変わりに宙乗りに、木琴演奏をしたり幽霊になったりと大奮闘。自らがCM出演しているソルマックまで持ち出して大サービス。大ガマガエルが登場したり、「山門」のせり上がりなど仕掛けも目を引き、おおいに楽しめました。
 でも残念ながら、「歌舞伎」としての見応えは、あまりありませんでした。目を見張るような場面をずらりと並べたような芝居で、全体がぶつ切りな感じで、ドラマとしての盛り上がりやストーリー展開に欠け、感動するようなシーンもありません。「毛剃」の「元船」や、「山門」など、どこかで見た場面も多く、「歌舞伎名場面集」みたいでした。
 段四郎は休演。米吉はこれまであまり意識してなかったのですが、小平次妹おまきの演技が印象に残りました。顔はかわいいのに、男性関係に妙に積極的だったりして、変な娘です。
 今回の狂言の元となる「天竺徳兵衛韓噺」は、四世鶴屋南北の出世作なんだそうな。初演は享和4年(1804年) 江戸河原崎座とのこと。河原崎座は、木挽町(現在のマリオット銀座東武ホテル付近)にあった劇場ですね。
 四世鶴屋南北は、宝暦5年(1755年)に生まれ、文政12年(1829年)に亡くなりましたから、この芝居を作ったのが49歳のとき。意外と遅いデビューだったんですね。
 「天竺徳兵衛韓噺」に関しては、文化デジタルライブラリーに詳しい解説があります。この演目が初演された1804年は、ロシア使節のレザノフが長崎に来航したりして、庶民のあいだにも外国への関心が高まっていたんだそうです。猿之助の弾いた木琴も、ぽん太は「木琴」と聞くと「小学生」を思い出しますが、当時は中国から伝わった「外国の楽器」というイメージだったそうです。
 をゝ、天竺徳兵衛はなんと実在の人物とのこと。Wikipediaにも出ています。慶長17年(1612年)に播磨国加古郡高砂町(現在の兵庫県高砂市)で出生。鎖国(寛永16年(1639年))が行われる前に、商人として海外貿易に関わり、ヤン・ヨーステン(八重洲という地名の由来の人ですね)とともにインドまで行ったということで、「天竺徳兵衛」と呼ばれるようになったそうです。鎖国がしかれたのち、『天竺渡海物語』を書いて長崎奉行に提出をしましたが、中身はアヤシい部分が多いそうです。兵庫県高砂市の善立寺にお墓があるとのこと。そのうちみちくさしてみたいと思います。


明治座
十一月花形歌舞伎
平成24年11月 夜の部

三代猿之助四十八撰の内
通し狂言 天竺徳兵衛新噺(てんじくとくべえいまようばなし)
  市川猿之助宙乗り相勤め申し候

  序 幕 遠州灘元船の場より
  大 詰 梅津館奥庭の場まで

    天竺徳兵衛/小平次/女房おとわ  市川 猿之助
               尾形十郎  市川 右 近
                枝折姫  市川 笑 也
        木曽官の霊/馬士多九郎  市川 猿 弥
            小平次妹おまき  中村 米 吉
               百姓正作  市川 寿 猿
                奴磯平  中村 亀 鶴
              梅津桂之介  市川 男女蔵
             今川左馬次郎  市川 門之助
             今川奥方葛城  市村 萬次郎
           菊地大膳太夫貞行  市川 段四郎

2012/11/11

【温泉・カニ】香住もいいけど松葉だね/きむらや(★★★★)

Img_3614 11月上旬、永楽歌舞伎を観に行ったぽん太とにゃん子ですが、観劇の前夜は、兵庫県の日本海側の柴山にある「きむらや」さんにお世話になりました。公式サイトはこちらです。
 冬の日本海といえば何と言ってもカニ!。きむらやでは、リーズナブルなお値段でカニをいただくことができます。ここでいただける香住がには、柴山の近くにある漁港の香住(かすみ)で水揚げされるかにですが、松葉がに(ズワイガニ)と違って、香住がには「紅ズワイガニ」なので、漁期も長くお値段もお手頃なのです。
 ということで、こんかいぽん太とにゃん子も、香住がにコースで予約するつもりだったのですが、予約の電話をしていみると、その日がちょうど松葉がにの解禁日とのこと。天の配剤か。これは、ちょっと予算オーバーしようとも、松葉がにコースにするしかありません。
 柴山は、有名な城崎の少し西にある漁村です。きむらやさんの建物は真新しくきれいで、とても居心地がいいです。
 上の写真には、定番の茹でがに、松葉がにのお刺身、旬のお刺身、茹でせこがになどが写っています。特に松葉がにのお刺身は、甘くってとってもおいしいですよね〜。
Img_3616 写真は松葉がにの陶板焼。炭火焼と違って、とってもジューシーです。
Img_3620 とはいえ炭火焼もやっぱりうまい〜。とっても香ばしく、加熱した蟹味噌に付けて頂くと濃厚です。さらにかに鍋も加わります。
Img_3621 こちらは最上階にある展望風呂。海が見渡せて雄大な景色が楽しめます。「柴山温泉」とよばれるれっきとした温泉で、泉質は、と聞くとアルカリ性単純温泉になってしまいますが、実はラドン温泉で、25.0Bq/kgとのことです。
Img_3624 小さな露天風呂が付いています。
Img_3631 朝食にもかにと海老の陶板焼きがついて、もう大満足です。
 とにかくカニがうまい!温泉にも入れて、建物もきれいだし、ぽん太の評価は4点。

2012/11/06

【拾い読み】後白河法皇入門『梁塵秘抄』

 今回の大河ドラマ「平清盛」は今ひとつでした。理由は、画面が汚いとか、松山ケンイチの演技が悪いとか、題材が悪いとかいろいろ言われていますが、ぽん太に言わせれば脚本が悪いと思います。「大河」ドラマだからといって史実を全部追っていたら散漫になるのは当たり前で、複雑な史実のなかから物語を取捨選択して、毎回のドラマを作り上げなくては、見ていて面白いはずがありません。
 でも、よく取り上げられる源平合戦よりもちょっと前の時代に触れられたのはよかったです。後白河法皇なんてこれまでまったく知りませんでしたが、なんとなくイメージが涌きました(正しいかどうかは別にして)。
 ということで、後白河法皇が編纂した『梁塵秘抄』をひもといてみました。わかりやすい現代語・日本語訳で有名な光文社文庫版です(川村湊訳、光文社、2011年)。
 みなさんはご存知かと思いますが、無知なるぽん太が自分のためにおさらいしておけば、『梁塵秘抄』は後白河法皇(大治2年(1127年)〜建久3年(1192年))が治承年間(1180年頃)に編纂した歌謡集で、そこに納められているのは「今様」と呼ばれるものです。
 本書の前書きによれば、今様は11世紀後半から12世紀にかけて京を中心に流行したもので、宗教的なものからまったくの俗謡まで幅が広く、伴奏や舞いを伴って歌われ、宮中の余興から神社仏閣の行事、庶民の大道芸としても演じられたものだそうです。今陽は、静御前で有名な白拍子が歌ったものとしても知られてますね。次の歌は、小耳に挟んだことがあると思います。

遊びをせんとや生まれけん 戯れせんとや生まれけん
遊ぶ子どもの声きけば、わが身さえこそゆるがるれ(原歌359)
 本書は、『梁塵秘抄』から100の歌を選び、かなりこなれた訳を付け加えたものです。仏教的な歌を恋愛の歌として訳すなどかなりぶっ飛んだ訳ですが、雰囲気がわかって悪くはありません。かくゆうぽん太も昔古典の時間に清少納言の「春はあけぼの…」を、「朝方になって、高層ビルが紫に光るわ」と訳してえらく怒られた記憶があります。
 で、ぽん太は『梁塵秘抄』を文学的に批評する力はありませんので、以下、いつものような拾い読みです。
四方の霊験所は 伊豆の走湯 信濃の戸隠 駿河の富士の山 伯耆の大山 丹後の成相とか 土佐の室生戸 讃岐の志度の道場とこそ聞け(原歌310)
 日本各地のパワースポットを挙げた歌。「伊豆の走湯」ってどこでしょう。こちらのようです。熱海の少し北の伊豆山温泉にあるんですね。あそこらへんは高級旅館が多いので、行ったことがありませんでした。そのうち見に行ってみます。「丹後の成相」は、天橋立近くの成相寺のようです。「志度の道場」はこちらの志度寺ですね。

 原歌314の解説。「清水寺は、最初の征夷大将軍の坂上田村麻呂が、その東北征伐であまりに多くのエミシを殺したので、その魂を祀るために建てたと伝えられる、観音菩薩を本尊とした寺である」。ううう、そんな恐ろしい由来があるとは知りませんでした。しかし、清水寺公式サイトの縁起のページWikipediaに坂上田村麻呂は出て来るが、「多くのエミシを殺したので」という下りはないぞ。よくわからん。

京より下りしとけのほる 島江に屋建てて住みしかど そも知らずうち捨てて いかに祭れば百大夫験なくて 花の都に帰すらん(原歌375)
 解説によれば、「百太夫」とは遊女の守り神で、男根をかたどった柱のようなかたちで、大きいものは道祖神として路傍に祀られ、小さいものは「金精様」として遊女の部屋に祀られたんだそうな。
 「金精様」と聞くと、ぽん太は日光の「金精峠」を思い出しますが。Wikipediaを見ると、金精峠には金精神社があり、男根をご神体としているとのこと!キター!
 公式サイトはなさそうなのでWikipediaを見ると、巨根だったという道鏡に由来するものだそうな。金精信仰は、関東・東北地方に盛んで、子宝や豊穣に霊験があるそうですが、性病にも効くといわれ、このあたりが遊女とつながっているのかもしれません。

2012/11/05

【歌舞伎】「井筒屋」を観たら「双蝶々曲輪日記」がよけいわけがわからなくなった。2012年11月新橋演舞場昼の部

 初日に観てきました。公式サイトはこちら
 まずは「双蝶々曲輪日記」。こんかいは、東京では戦後初の上演という「井筒屋」がついていて、「角力場」はなし、という構成。いつもの「角力場」&「引窓」だと、なぜ濡髪長五郎が人を殺して逃げ延びることになったのかが謎でしたが、そのあたりがわかるのかも、と期待して観に行きました。
 ところが、「井筒屋」を観たら、余計にわけがわからなくなってしまいました。井筒屋に呼ばれた二人の遊女、都と吾妻。都には南与兵衛、吾妻には山崎屋与五郎という恋人がいます(なんだ、「角力場」の与五郎と、「引窓」の与兵衛は知り合いだったのか…)。しかも、ならず者に絡まれた与兵衛を救うため、与五郎は相手を斬り殺してしまいます(えゝ、与五郎って人殺しだったの?ひょっとして、角力場の与五郎は人殺しで指がないの?)。都と吾妻は、与兵衛と与五郎を救うため、吾妻に身請けを迫っていた権九郎という番頭を騙して指を切り落とし(指がないのが犯人の証拠です)、権九郎は役人に捉えられてしまいます(それって、あまりにひどくない?)。
 「難波裏」の冒頭の会話のなかで、濡髪と放駒長吉が手打ちをしたことを知らされます(えーと、人物関係はどうなったんだ)。吾妻の身請けをもくろむ平岡たちが、吾妻を拉致し、与五郎を痛めつけているところに濡髪が止めに入りますが、暗闇の中で敵二人が同士打になりかけます。ここで突然濡髪が二人を斬り殺します(な、な、なぜ?)。さらに自害しようとしたところを、あとから駆けつけた放駒に説得されて落ち延びることを決意しますが、襲ってきた敵をさらに二人殺してしまいます。
 さて「引窓」ですが、「井筒屋」があったせいで、お早(=都)に遊女言葉が残っているという下りが、すんなりと理解できました。そこに落ち延びて行った濡れ髪が、死ぬ前に母親に一目会いたいと、訪ねてきます。母親が後妻として嫁いだ家の息子がなんと南与兵衛で、いつの間にか都を身請けして、二人で所帯を持っているのです(は、早すぎる。それとも濡髪が数ヶ月逃げまくっていたのだろうか)。母親に家に都がいることに驚いた濡髪は、「さては与兵衛さんと所帯をもったか」とか言いますが、濡髪の母と与兵衛が義理の親子であることは知っているのか?少なくとも与兵衛は、義母が養子に出した息子がいることはしっていますが、それが濡髪であることは知らなかったはずです。
 都が、「殺した相手が偽金使いの悪人だったので、無罪放免になった」みたいなことを説明し、それを聞いた濡髪はが「同じ人を殺しても、ちょっとした偶然でこうも違うものか」みたいなことを言いますが、人を殺したのは与兵衛じゃなくて与五郎なので、辻つまがあわないのでは?
 まあ、江戸時代に作られた歌舞伎(ちなみに初演は寛永2年(1749年)、大阪竹本座です)に細かいことを言ってもはじまりませんが、原作はどうなっているのか興味がわいてきたので、そのうちみちくさしてみたいと思います。
 近代演劇的な視点からいえば、「難波裏」で濡髪が、その気がないのについ人を殺めてしまうというあたりがもう少しドラマチックに表現されていないと、悲劇的な盛り上がりが生じないかと思います。

 で、こんかいの公演の感想に戻りますと、「井筒屋」という珍しい場が観れてよかったです。扇雀と翫雀が二人ででると、芝居に浪速っぽい雰囲気が出てきますね。「引窓」の仁左衛門の南与兵衛、武士としての毅然たる姿と、商人の人なつこいかわいらしさとが、見事に演じられていました。左團次の濡髪長五郎、大きく身を屈めて鴨居をくぐったり、大きさと貫禄を見せる技は見事。ただ先ほど書いたように、元々の演出なのかもしれませんが、うっかり殺人を犯してしまうところに悲劇的な盛り上がりには欠けていました。時蔵の都とお早、梅枝の吾妻、竹三郎のお幸、いずれもすばらしかったです。

 菊五郎の「人情噺文七元結」は以前にもみた演目。菊五郎と時蔵がいつものとぼけた味を出して、ときに笑いをとり、ときに涙をさそっておりました。菊之助が文七、右近が娘お久。松緑の息子の藤間大河クンが酒屋丁稚三吉で出演。


新橋演舞場
吉例顔見世大歌舞伎
平成24年11月・昼の部

一、 双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)
   井筒屋
   難波裏
   引 窓
           南与兵衛後に南方十次兵衛  仁左衛門
              藤屋都後に女房お早  時 蔵
                 山崎屋与五郎  扇 雀
                   平岡丹平  権十郎
                   三原伝造  亀三郎
                   藤屋吾妻  梅 枝
                    母お幸  竹三郎
                   放駒長吉  翫 雀
                  濡髪長五郎  左團次

二、 人情噺文七元結(にんじょうばなしぶんしちもっとい)
                  左官長兵衛  菊五郎
                   女房お兼  時 蔵
                   手代文七  菊之助
                    娘お久  右 近
                 酒屋丁稚三吉  藤間大河
                  角海老藤助  團 蔵
                  鳶頭伊兵衛  松 緑
                 和泉屋清兵衛  東 蔵
                角海老女将お駒  魁 春

2012/11/04

【バレエ】大人のオシャレなドラマ/新国立劇場「シルヴィア」

 昨日観たKバレエの「ドンキ」も良かったですが、今日のビントレー版「シルヴィア」もすばらしかったです。二日続けて面白いバレエを観れるとは、あゝ、ありがたや、ありがたや。こちらが公式サイト特設サイトです。
 ぽん太はこれまで「シルヴィア」は、アシュトンの振り付けしか観たことがありません。今回の版はビントレーが1993年に英国バーミンガム・ロイヤル・バレエのために振り付けしたものだそうです。アシュトン版のあらすじは、例えばこちらをどうぞ。また、「シルヴィア」の原作であるトルクァート・タッソの『アミンタ』のあらすじは、以前の記事に書いたことがあります。
 プロローグとエピローグがついて劇が額縁状になっているところは、『アミンタ』からアイディアを借りたのかもしれません。『アミンタ』では、まず愛神アモーレ(=エロス)が舞台に現れ、これまで母親の美神ヴェーネレ(=ヴィーナス)の命令によって高貴な人たちにばかり愛を芽生えさせてきたけど、これからは一般の民衆に愛をもたらしたい、と言って、シルヴィアの心を射抜きに向かうことで劇が始まります。最後にはヴェーネレがアモーレを探しに来ますが、ここには居そうもないので他のところを探そう、と立ち去ります。なんてことのない演出に思えますが、この劇が作られた16世紀イタリアでは、宮廷文化が次第に力を失い、代わりにメディチ家などが力を持つようになって来た時代であり、「愛はもはや宮廷にはなく、民衆のなかにある」というのは、当時としては生々しい現実の問題であり、極めてショッキングな演出だったのです。ビントレーが、愛の覚めた伯爵夫妻と、愛を信じられない若い男女という現代的なシチュエーションを持ってきたのは、単なる思いつきではなく、『アミンタ』を踏襲しているようにぽん太には思われます。
 本編の方もアシュトン版とはだいぶ変わっていて、アシュトン版のシルヴィアの「男に興味を持たず、狩りをする勇ましい女」という性格は、新たな登場人物ダイアナに移し替えられ、シルヴィアは心優しく美しいニンフという役割になります。ダイアナは狩りの神ですから、これはぴったりとあてはまっているように思えます。そしてアミンタは、ダイアナやニンフたちの水浴を見た罰として視力を失いますが、エロスに導かれてシルヴィアを追って行きます。シルヴィアが、自分をさらったオラリオンを酔わせて逃げ出すという下りは同じですが、最終幕では、海賊が連れて来た女奴隷の一人がシルヴィアであり、エロスの力で視力を回復したアミンタとついに対面しますが、貞操の誓いを破ったことを怒るディアナに殺されそうになります。
 ここでエロスの力によって皆は現代へと戻り、伯爵夫妻、若い二人が、愛を取り戻してめでたしめでたし……ですが、あらすじだけ読んでもわかりませんよね。
 ということで、あくまでも神話の世界の話しだったアシュトン版に比べ、ビントレー版は現代的な男女関係が描かれています。セットや美術も洗練されており、とってもオシャレな大人のバレエに仕上がっておりました。
 
 アミンタ役のツァオ・チーは中国出身で、現在はバーミンガム・ロイヤル・バレエ団に所属しているとのこと。動きが柔らかく、回転がとても安定しており、表現力がとても豊かでした。ジャンプ力や体の柔軟性は普通のようでした。シルヴィアを踊った佐久間奈緒も、バーミンガム・ロイヤル・バレエ団所属。彼女も動きがとても柔らかく、細かいところまで神経が行き届いていて一つひとつの動作が美しく、演技力もすばらしかったです。あまり見慣れないリフトがたくさん組み込まれていましたが、見事にこなしておりました。それもそのはず。今回の振り付けは、この二人のためにビントレーが2009年に再振り付けをしたものなんだそうです。
 本島美和は、長い手足をつかっ大きくキリッとした勢いのよい踊りで、勇ましくも、神々しさがありました。厚地康雄も、ダイナミックで荒々しいオライオンと、人生に倦怠感を感じている伯爵を見事に踊り分けておりました。エロスは狂言回しでもあり、「コッペリア」のコッペリウスや「こうもり」のウルリックなどローラン・プティに出て来るような哀愁ある老人のようでもあります。演技力が必要とされる役柄を、福田圭吾がこなしておりました。とくに片足が義足の海賊の踊りでは、不自由な衣裳で見事なピルエットを決め、大きな拍手をもらっておりました。
 ゴグ・マゴグ(と現代の二人のおかま)を踊った野崎哲也と江本拓も怪演。どちらがどちらだったんでしょう。妻のにゃん子は、向かって左のおかまを気に入ったようです。群舞も悪くなく、ワルキューレみたいな曲にのせたニンフの群舞も勇ましかったです。
 美術も豪華。バーミンガムの首席指揮者のマーフィーの指揮による東京フィルの音楽もよかったです。
 しかし、新国立のダンサーって、本当に演技力がつきましたよね。一つひとつの動作が言葉のように感じられるようになってきました。きっとビントレーのおかげでしょう。しかしそのビントレーも一期で芸術監督を退任し、平成26年(2014年)秋からは大原永子が引き継ぐ予定とのこと。もう少しやって欲しかった気がします。


「シルヴィア」Sylvia

【音 楽】レオ・ドリーブ
【振 付】デヴィッド・ビントレー
【美 術】スー・ブレイン
【照 明】マーク・ジョナサン
【指 揮】ポール・マーフィー
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

家庭教師/シルヴィア:佐久間奈緒
召使い/アミンタ:ツァオ・チー
庭師/エロス:福田圭吾
伯爵夫人/ダイアナ:本島美和
伯爵/オライオン:厚地康雄
ゴグ:野崎哲也
マゴグ:江本拓
ネプチューン:加藤朋子
マーズ:竹田仁美
アポロ:井倉真未
ジュピター:大和雅美

2012/11/03

【バレエ】熊川哲也の気迫/Kバレエカンパニー「ドン・キホーテ」

 熊川哲也のバジルと聞いたら、観ないわけにはいきません。Youtubeで見た熊川が16歳のときのローザンヌ・コンクールでの踊りが目に焼き付いています。
 でもファンクラブを退会したら、3階席しかとれませんでした。ファンクラブを辞めたといっても、ファンをやめたわけではありません。ぽん太が数年前にバレエ鑑賞に目覚めたとき、「日本でバレエといえば熊哲だろう」とファンクラブに入会し、その後時間の許す限りほとんどの公演を観させていただきました。美しく楽しい舞台に感動するとともに、いろいろ勉強もさせていただきました。ほんとうにありがとう。ただ、Kバレエの客層と雰囲気は、中高年のおっさんタヌキのぽん太にはちょっと辛いものがあり、また熊川が出演しない公演も増えてきたため、これからは観たい公演を選んで普通にチケットをとって行きたいと思います。
 で、オーチャードホールの3階席は、意外と舞台を観やすいのに驚きました。舞台全体が見渡せるので、群舞や群衆シーンが楽しめ、一階席とは違った面白さが感じられました。ただジャンプの高さは一階の方が迫力ありますね。
 で、なんと、ぽん太がKバレエの「ドン・キホーテ」を観るのは今回が初めて。前回の公演は2007年だったようですが観ておりません。予定があわなかったのか、それとも熊川が直前の怪我で出演しなかったからなのか、理由はよく覚えていません。
 ぽん太がこれまでみた「ドンキ」は、ほとんど東京バレエ団のフィーチャリング版です。以前にボリショイでも観ましたが、このときはオシポワとワシーリエフの驚異的な身体能力に目を奪われて、その他の部分は記憶に残っていません。というわけで、いつもと違うバレエ団の「ドンキ」が観れるというのも楽しみのひとつでした。
 
 熊川のバジルは、「衰えを感じさせない」などという表現が恐れ多い、完璧なパフォーマンスでした。ジャンプの高さ、回転の早さや安定性、ピルエットでの姿勢の美しさなど、一つひとつの技に思わずため息が出そうになりました。動きの緩急のつけかたも、あいからわず絶妙。第3幕のソロでは、回転ジャンプのあと片足で着地してそのまま回転するという、ローザンヌでも見せた技を披露。ラストヴァリエーションのピルエットでは、あまりの速度に最後はよろけそうになりながらも、なんとかキメのポーズ。こらえた!こらえた!という感じ。どっかの元知事じゃありませんが、「若い人、しっかりしろよ」と言ってるみたいで、熊川の「気迫」が伝わってきました。
 キトリは荒井祐子。愛らしくハツラツとした可愛らしいキトリでした。グランフェッテもダブルを入れてましたね。バランスは得意でないのか、一回しかありませんでした。ただ、スペイン的なねっとり感やキレには少し欠けたかな。
 エスパーダの宮尾俊太郎、あいかわらずカッコいいですが、体幹の動きが小さく、踊りにキレが感じられませんでした。スペインの闘牛士なんだから、もっと芝居がかってキザっぽく踊ってもいい気がしました。浅野真由美のメルセデスも悪くありませんでしたが、やはりスペインらしい妖艶さがいまひとつ。森の女王は松岡梨絵。彼女が出て来ると、舞台がぱあっと華やかになります。
 全体として、明るく楽しくオシャレで美しい舞台でしたが、何と言っても熊川のパフォーマンスが印象に残りました。「いいものを観たな」という感じで、とってもいい気分になりました。

 ところで東京バレエ団の演出と比較してですが、キューピッドが出てくる場面は、東京バレエ団の方が子供たちが出てきて可愛らしい気がします。東京バレエ版でぽん太が嫌いな「いっちゃっているジプシーの踊り」はKバレエ版ではありませんでした。やはりあれは東京バレエ独自の踊りなのでしょうか?

Tetsuya Kumakawa K-BALLET COMPANY Autumn Tour 2012
ドン・キホーテ Don Quixote
2012年10月28 Bunkamuraオーチャードホール

キトリ Kitri:荒井祐子 Yuko Arai
バジル Basil:熊川哲也 Tetsuya Kumakawa
ドン・キホーテ Don Quixote: スチュアート・キャシディ Stuart Cassidy
ガマーシュ Gamache :ビャンバ・バットボルト Byambaa Batbold
サンチョ・パンサ Sancho Panza :小林由明 Yoshiaki Kobayashi
メルセデス Mercedes :浅野真由香 Mayuka Asano
エスパーダ Espada:宮尾俊太郎 Shuntaro Miyao
ロレンツォ Lorenzo:ニコライ・ヴィユウジャーニン Nikolay Vyuzhanin
花売り娘 Flower Girls :白石あゆ美 Ayumi Shiraishi / 佐々部佳代 Kayo Sasabe
ドルシネア Dulcinea:浅川紫織 Shiori Asakawa
【第1幕 ActI】
闘牛士 Toreadors:秋元康臣 Yasuomi Akimoto / 伊坂文月 Fuzuki Isaka / 西野隼人 Hayato Nishino / 福田昴平 Kohei Fukuda / 池本祥真 Shoma Ikemoto / 川村海生命 Mikina Kawamura
【第2幕 第2場 ActII Scene2】
森の女王 Queen of the Dryads:松岡梨絵 Rie Matsuoka
キューピッド Cupid :神戸里奈 Rina Kambe
【第3幕 ActIII 】
第1ヴァリエーション 1st Variation :白石あゆ美 Ayumi Shiraishi
第3ヴァリエーション 3rd Variation :佐々部佳代 Kayo Sasabe
クラシカルジェンツ Classical Gents
秋元康臣 Yasuomi Akimoto / 西野隼人 Hayato Nishino
アントレ Entrée:日向智子 Satoko Hinata / 中村春奈 Haruna Nakamura / 井上とも美 Tomomi Inoue / 梶川莉絵 Rie Kajikawa / 森絵里 Eri Mori / 田中利奈 Rina Tanaka
闘牛士 Toreadors:伊坂文月 Fuzuki Isaka / 福田昴平 Kohei Fukuda / 浜崎恵二朗 Keijiro Hamasaki / 池本祥真 Shoma Ikemoto / 川村海生命 Mikina Kawamura / 杉野慧 Kei Sugino
町の娘たち / 町の男たち / 妖精 / ジプシー Spanish Ladies / Seguidillas / Dryads / Gypsies:
K-BALLET COMPANY ARTISTS
子供たち Kids K-BALLET SCHOOL
●芸術監督 Artistic Director 熊川哲也 Tetsuya Kumakawa
●演出/再振付/美術/衣裳 Production / Additional Choreography / Set and Costume Design 熊川哲也 Tetsuya Kumakawa
●原振付 Original Choreography マリウス・プティパ Marius Petipa / アレクサンドル・ゴールスキー Alexander Gorsky
●照明 Lighting Design 足立恒 Hisashi Adachi
●音楽 Music レオン・ミンクス Léon Minks
●指揮 Conductor 井田勝大 Katsuhiro Ida
●演奏 シアター オーケストラ トーキョー THEATER ORCHESTRA TOKYO

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