【バレエ】「レニングラード・シンフォニー」ってコリャおもろいの〜「オールスター・ガラ」マリインスキー・バレエ団
公演の前にキャスト表を見て、「なんだ、『オールスター・ガラ』とか言って、ヴィシニョーワもコンダウーロワも出てないじゃん」と、ちとなめてかかっていたのですが、さにあらず。素晴らしいガラ公演に、ぽん太はとっても幸せな気分になりました。テクニック的にも高水準で、マリインスキーの層の厚さを見せつけられましたし、また見たことない演目には、歴史と伝統を感じました。公式サイトはこちらです。
最初の演目は「レニングラード・シンフォニー」。ぽん太は初めて観る演目ですが、バレエとして純粋に面白かっただけでなく、歴史的なこともいろいろと考えさせてくれました。
音楽は、ショスタコーヴィチの交響曲第7番「レニングラード」の第1楽章でした。この交響曲はぽん太は好きで、特に第3楽章が気に入ってます。第1楽章はちょっと俗っぽい印象を持ってましたが、マリインスキー劇場管弦楽団の生演奏で聞くと、家でステレオで聞くのとは違って胸に迫るものがありました。時は第二次世界大戦、ヒトラー率いるナチス・ドイツ軍は、ソビエト連邦(現在のロシア)の第二の都市レニングラード(現在のサンクトペテルブルク)を包囲しました。包囲は900日近く続きましたが、食料不足による飢餓や冬の燃料不足による凍死、爆撃などによって、一説によると100万人におよぶ市民が死亡したといいます。ショスタコーヴィチは、この包囲されたレニングラード市内に居合わせ、そこでこの交響曲を作曲しました。初演は1942年3月5日に臨時首都が置かれたクイビシェフで行われましたが、8月9日に包囲下のレニングラードで行われた演奏会は、今日にいたるまで人々の語りぐさとなっております。
この交響曲は、初演当時は反ナチスの象徴としてもてはやされましたが、そのあからさまなプロパガンダ的性格から、冷戦時代には西側での評価は下がったこともあります。しかし1970年代に出版された有名な『ショスタコーヴィチの証言』等をきっかけに、「この曲はナチス・ドイツだけでなく、ソビエトの全体主義も批判している」ということになって、再び評価されるようになりました。何を批判しているかによって音楽の評価が変わるというのは狸のぽん太には理解しがたいところですが、攻め寄せる敵に対する英雄的抵抗と犠牲者の鎮魂を表現した、素晴らしい音楽だとぽん太は思っています。
さて、今回のバレエでは、最初は恋人たちが仲睦まじく戯れる平和な風景が描かれますが、そこに敵の軍隊が襲ってきます。この敵は、ハイル・ヒトラーよろしく片手を斜め前に挙げるポーズを取ったりします。女たちは嘆き苦しみ、男は捕虜として捉えられます。やがて反撃が開始され、侵略軍は撃退されます。
このバレエが初演されたのは、レニングラード包囲戦から約20年たった後の1961年のことです。当時は東西冷戦下でしたから、このバレエは、社会主義的なイデオロギーに沿って作られたと考えられます。一方で復刻版初演は2001年ですが、1991年に社会主義のソビエト連邦は崩壊して、市場経済が導入されています。この復刻版初演は、どのような意図で行われたのでしょうか。ソビエト時代の伝統的な演目を復活しようとしたのか、それとも社会主義をも批判する作品と捉えたのか、無知なるぽん太にはさっぽりわかりません。ちなみにこのバレエの一部が右(→)のDVDに収録されているようです。
今年はソビエト連邦が崩壊してから21年。今回踊ったダンサーたちのなかには、ソビエトの社会主義時代を記憶していない人も多いはずです。ダンサーやオケのメンバーがどのような気持ちで上演していたのか大変興味がありますが、ぽん太にはまったくわかりません。
また今回の振付は、1961年の初演当時の振付をどこまで踏襲しているのでしょうか。衣装も「労働者」っぽいですし、振付もなんか「モダン・ダンス」っぽくてレトロな味わいがありました。また、ダンサーが並んでポーズを取ったりと、「牧神」っぽいところもありました。美術は、1920年代のロシア・アヴァンギャルド的な雰囲気がありました。ロシア・アヴァンギャルドはソビエト時代は否定されてましたから、おそらく初演時は社会主義リアリズムに沿った舞台装置や衣装が使われたと思われます。今回の美術は、復刻版初演時の制作でしょうか?
最初の場面に描かれていた楽譜、楽譜が読めないぽん太には何なのかわかりませんでした。また途中の籠が吊り下げられているような背景画も、ぽん太には意味不明でした。
「アルレキナーダ」も初めて観ました。覆面の目隠しをした男性と、恋人と思われる女性との可愛らしいダンス。踊ったのは、ぽん太が観た『ラ・バヤデール』の、壷の踊りと仏像のペア。ティモフェーエフはこれがあの仏像だったのかと思うような、ちょこまかとした動きで、バトーエワはグラン・フェッテでドゥーブルを交えて頑張ってました。
「グラン・パ・クラシック」は、ぽん太が観た「白鳥の湖」で2羽の白鳥を踊っていたニキーチナが、ハツラツとした踊り。アスケロフは顔はごついですが、大きくノーブルな踊りでした。
「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」は、シクリャローフのパフォーマンスに驚きました。とにかくジャンプの高さがすごかったです。昨年のボリショイ&マリインスキー合同ガラで観た「ロミジュリ」では荒さが目立ちましたが、今回も「力一杯踊っていいます」という感じで、よく言えば若々しくてダイナミックですが、もうちょっと優雅に踊って欲しい気もします。2羽の白鳥で観たシリンキナは、とても柔らかい踊りでした。
「海賊」は、ぽん太が観た「白鳥の湖」の、白鳥/黒鳥とロットバルトのペア。スコーリクは「白鳥」では固さが目立ちましたが、今日は堂々たる踊りで、とても輝いていて、風格が感じられました。今後が楽しみです。エルマコフはちょっと体の固く、ウルウル感がないのは気になりました、滞空時間の長い大きなジャンプがすばらしく、「主従」の感じが出てました。
「ビギニング」はぽん太は初見です。サティのピアノ曲にのせて、コールプがコミカルかつペーソスたっぷりに踊る、洒落た演目。最初リンゴを加えて出てきた時は、タラコくちびるかと思いました。また帽子をかぶると、TRFのSAMに顔が似ています。なんかコールプって、マリインスキーとは思えない個性派ですよね。ぽん太は大好きです。
「ディアナとアクテオン」は、筋骨隆々のカレーラスのアクテオンでしか観たことがないのですが、今回のキム・キミンはスレンダー。一方でディアナのエフセーエワ(ぽん太は初見)は、ちょっと肉感的です。グラン・フェッテでは、両手を上げてのドゥーブルで、ぶるんぶるんと回ってました。一方のキミン(こちらも初見)は、最初は「なんか華奢やな〜」と思ったのですが、驚異的なジャンプ力で、回転も速くて安定しています。連続回転回し蹴りも高かったです。また、フィギュアスケートの4回転・3回転・3回転みたいな連続ジャンプも見せてくれました。
〆の「パキータ」も、ぽん太は初めて。ロパートキナとコルスンツェフの「ラ・バヤデール」ペア。「バレエ界の美空ひばり」という感じのロパートキナの風格ある踊りを見せていただきました。コールドやヴァリエーションもついての30分の演目で、とても楽しかったです。
オールスター・ガラ
2012年12月2日 東京文化会館
≪レニングラード・シンフォニー≫ [30分]
音楽:ドミトリー・ショスタコーヴィチ(交響曲第7番)/振付:イーゴリ・ベリスキー/デザイン:ミハイル・ゴルドン
世界初演:1961年4月14日 レニングラード・キーロフ劇場
復刻版初演:2001年5月30日 サンクトペテルブルグ・マリインスキー劇場
娘:スヴェトラーナ・イワーノワ
青年:イーゴリ・コールプ
侵略者:ミハイル・ベルディチェフスキー
≪アルレキナーダ≫よりパ・ド・ドゥ [12分]
音楽:リッカルド・ドリゴ/振付:マリウス・プティパ
ナデジダ・バトーエワ
アレクセイ・ティモフェーエフ
≪グラン・パ・クラシック≫ [11分]
音楽:ダニエル=フランソワ=エスプリ・オーベール/振付:ヴィクトル・グゾフスキー
アナスタシア・ニキーチナ
ティムール・アスケロフ
≪チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ≫ [10分]
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(≪白鳥の湖≫より)/振付:ジョージ・バランシン
舞台指導:フランシア・ラッセル/衣装デザイン:カリンスカ
マリーヤ・シリンキナ
ウラジーミル・シクリャローフ
≪海賊≫ [10分]
音楽:アドルフ・アダン(リッカルド・ドリゴ)/振付:マリウス・プティパ
オクサーナ・スコーリク
アンドレイ・エルマコフ
≪ビギニング≫ [5分]
音楽:エリック・サティ(グノシエンヌ第1番)/振付:ウラジーミル・ワルナワ
初演:2012年6月12日 サンクトペテルブルグ・ミハイロフスキー劇場
イーゴリ・コールプ
≪ディアナとアクテオン≫ [12分]
音楽:チェーザレ・プーニ/振付:アグレッピナ・ワガノワ
エレーナ・エフセーエワ
キム・キミン
≪パキータ≫よりグラン・パ [30分]
音楽:ルードヴィヒ・ミンクス/振付:マリウス・プティパ
復刻制作協力:ピョートル・グーセフ、リディア・ティウンティナ、ゲオルギー・コニシチェフ
装置デザイン:ゲンナジー・ソトニコフ/衣装デザイン:イリーナ・プレス
世界初演(≪パキータ≫より第3幕):1881年1月27日 ペテルブルグ帝室ボリショイ劇場
復刻版初演:1978年6月29日 レニングラード・キーロフ劇場
[ソリスト]ウリヤーナ・ロパートキナ、ダニーラ・コルスンツェフ
[ヴァリエーション]
ダリア・ヴァスネツォーワ
スヴェトラーナ・イワーノワ
マリーヤ・シリンキナ
アナスタシア・ニキーチナ
指揮:アレクセイ・レプニコフ
管弦楽:マリインスキー劇場管弦楽団
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