【拾い読み】アウンサンスーチーに入門/根本敬・田辺寿夫『アウンサンスーチー 変化するビルマの現状と課題』
正月に観光したミャンマーの理解を深めるため、根本敬/田辺寿夫の『アウンサンスーチー 変化するビルマの現状と課題』(角川書店、2012年)を読んでみました。新書「角川oneテーマ21」の一冊なので手頃で読みやすいです。前半はビルマ近代史を専門にする上智大学教授の根本敬がアウンサンスーチーについて論じ、後半は、NHK国際放送ビルマ語班に所属していた経歴のあるフリージャーナリスト田辺寿夫が、日本に住むビルマ人についてエッセー風に書いております。知ってるようで知らないアウンサンスーチーさんについて、基本的な知識を得ることができました。以下いつもの拾い読み。
アウンサンスーチーさんの自宅軟禁は全部で3回、15年2ヶ月に及ぶそうです。最初の軟禁が1989年7月から1885年7月までの6年間、二回目が2000年9月から2002年5月までの1年8ヶ月、最後が2010年11月から2003年5月までの7年半とのこと。以前のブログに書いたように、「自宅」軟禁といっても広大な敷地をもつ邸宅ですが、それでも15年間は凄いですね。
2011年にミャンマーは民政移管されましたが、連邦議会の上院・下院それぞれの議席の25%が、あらかじめ軍人に割り当てられ、選挙で選ばれたのは75%にしか過ぎないそうです。また2008年に制定された憲法によれば、大統領は軍事に通じていることが「資格」とされており、内務大臣・国防大臣・国境担当大臣に関しては、任命権は大統領ではなく国軍最高司令官にあるそうです。また国家が非常事態に直面したときには、大統領は全権を国軍最高司令官に以上できるという規定があるそうで、軍が合法的にクーデターを起こせる抜け穴が作られているそうです。しかもこの憲法を改憲するためには、両院で75%以上の議員の賛成が必要だそうです。先ほど書いたように両院の25%が軍人ですから、民主的な方向への改憲は非常にハードルが高い仕組みになっているそうです。
著者(根本敬)は、民政への移行の三つの理由を推測しています。最初の理由は、「独裁的・非民主的・人権抑圧・難民流出国」といった軍政時代の負のイメージを改善したいと考えたから。第二の理由は、安定的な経済発展の重要性に気付き、アメリカやEUの経済制裁を解除してもらうために、民主化するしかないと考えたから。最後の理由は、中国の衛星国家にされてしまう危険から逃れるため、西側との関係を強化したいと考えたから。
アウンサンスーチーの思想には、国民の一人ひとりが「心の中の恐怖を克服する闘い」や「心理の追求」を行う強い意思が必要であるという、「自力救済」的な色合いがあります。この思想の背景には、ミャンマーの上座部仏教の影響があると考えられます。上座部仏教は、「仏の慈悲によって救済される」といった日本に伝わった大乗仏教とはことなり、一人ひとりが厳しい修行を通して悟りを開くことが求められます。しかしながら、一般の民衆が、彼女のいうような強い意思を持ちえるかどうか、という問題があります。また、アウンサンスーチーの自力救済の考え方は、他の宗教の人から見ると「傲慢」に見える可能性があるそうです。
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