先日、ミラノ・スカラ座来日公演で、レオ・ヌッチの名人芸を観たばかりの「リゴレット」。あれを観たあとでは少々分が悪いですが、新国立も新制作の舞台。ふふふ、楽しみです。特設サイトはこちら、公式サイトはこちらです。
こんかいの舞台の演出は、以前に新国立の「ヴォツェック」を演出したアンドレアス・クリーゲンブルク。不気味でおどろおどろしい演出が、ベルクのオペラにピッタリでしたが、ヴェルディにはどうでしょう?
結論から言うと、ぽん太は少し不満が残りました。カーテンコールにクリーゲンブルクが出て来たら、ブーイングも出るんじゃないかな(出て来なかったですけど)、などと思ったのですが、ついついスカラ座と比較してしまったからでしょうか。
で、どこが不満だったかというと、「リゴレット」が、モラルの崩壊した退廃的な世界として描かれているところです。現代の大都市のホテルが舞台となっているのですが、廊下を何人もの下着姿の女性が、荷物や靴を抱えて、うなだれながらウロウロしてます。暴行された女性たちでしょうか。第三幕の舞台はそのホテルの屋上で、人々がホームレスのような生活をしています。
マントヴァ公爵も、快楽を求める刹那的人間として描かれます。行方不明になったジルダを案じて歌う『あの娘の涙が見えるようだ』も、痣だらけで口から血を流した下着姿の女性を乱暴に抱きしめたりしながら歌われます。こうして、マントヴァ公爵とジルダが愛を歌い上げる2重唱『それは心の太陽』も肉体だけが目当てに女をたぶらかす歌となり、第3幕の有名な「女心の歌」も退廃的でおぞましい歌となってしまいます。
すると観客は、これらの有名なアリアに聞き惚れて拍手喝采をおくる、というわけにはいかなくなってしまいます。確かにマントヴァ公爵は女好きで節操がないですが、一つひとつの恋にはそれなりに真剣で、ちょっといい男という設定でないと、これらのアリアに酔えないのです。
しかし、オペラ「リゴレット」の原作であるヴィクトル・ユーゴーの戯曲『王は愉しむ』Le Roi s'amuseが、フランス国王・フランソワ1世を主人公とした過激な内容で、初演の翌日に上演禁止となったことを考えれば[1]、クリーゲンブルクの演出の方が原作に近いのかもしれません。なお『王は愉しむ』は、『王者の悦楽』というタイトルで翻訳されているようですが(『ユーゴー全集 4 戯曲』本の友社、1992年)、現在アマゾンでも取り扱っていないようです。ぽん太は図書館で入手いたしました。他に翻訳があるのかどうか、よくわかりません。
舞台上に数階建てのフロアがあり、階段でつながっている舞台装置は、5月の「ナブッコ」とかぶってます。新国立のスタッフが教えてあげなかったのかしら。おまけに回転するとギシギシと音をたてるのが耳障りでした。
リゴレットのマルコ・ヴラトーニャは初めてでしたが、ガタイがよくて「怪人」という印象。力強い歌声でしたが、レオ・ヌッチのような哀愁はなし。演出家の指示でしょうけれど、アリア『悪魔め、鬼め』Cortigiani, vil razza dannataで、「マルッロ、あなたは優しい心の持ち主だ…」と慈悲を乞う場面でも、マルッロにすがる演技はせず、観客に向かって歌ってました。アリアをきっちり聴かせるという意図かもしれませんが、演劇性は薄れました。
ジルダのエレナ・ゴルシュノヴァも初めてですが、新国立定番の美人キャストシリーズか。スタイルもよかったです。高音もしっかり出てましたが、ちょっと慎重に歌っている感じで、ぽん太を酔わせるには到りませんでした。マントヴァ公爵のウーキュン・キムは、新国立の「椿姫」のアルフレードを歌ったのを聴いたことがあります。甘いきれいな声で、前回は声量に欠けた気がしましたが、今回は朗々とした歌声でした。前回は席が悪かったのかも。スパラフチーレの妻屋秀和、声はいつもながら素晴らしかったですが、風貌が殺し屋というよりは怪しいおじさんという感じで、モノマネ芸人のゆうたろうを思い出しました(ごめんなさい)。モンテローネ伯爵の谷友博の呪いも迫力がありました。
新国立劇場2013/2014シーズンオペラ オープニング公演
《新制作》「リゴレット」
ジュゼッペ・ヴェルディ
2013年10月6日、新国立劇場オペラ劇場
指 揮:ピエトロ・リッツォPietro Rizzo
演 出:アンドレアス・クリーゲンブルクAndreas Kriegenburg
美 術:ハラルド・トアーHerald Thor
衣 裳: ターニャ・ホフマンTanja Hofmann
照 明: シュテファン・ボリガーStefan Bolliger
舞台監督: 村田健輔Murata Kensuke
リゴレット:マルコ・ヴラトーニャMarco Vratogna
ジルダ:エレナ・ゴルシュノヴァElena Gorshunova
マントヴァ公爵:ウーキュン・キムWoo-Kyung Kim
スパラフチーレ:妻屋秀和Tsumaya Hidekazu
マッダレーナ:山下牧子Yamashita Makiko
モンテローネ伯爵:谷 友博Tani Tomohiro
ジョヴァンナ:与田朝子Yoda Asako
マルッロ:成田博之Narita Hiroyuki
ボルサ:加茂下 稔Kamoshita Minoru
チェプラーノ伯爵:小林由樹Kobayashi Yoshiki
チェプラーノ伯爵夫人:佐藤路子Sato Michiko
小姓:前川依子Maekawa Yoriko
牢番:三戸大久Sannohe Hirohisa
合唱指揮:三澤洋史Misawa Hirofumi
合 唱:新国立劇場合唱団New National Theatre Chorus
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団Tokyo Philharmonic Orchestra
芸術監督:尾高忠明Otaka Tadaaki
[1]http://ja.wikipedia.org/wiki/リゴレット
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