【歌舞伎自由研究】弁天小僧菊之助ゆかりの地@江ノ島
ぽん太とにゃん子は2月中旬、登録有形文化財のローマ風呂がある岩本楼に泊まって、江ノ島を観光してきました。江ノ島といえば超有名な観光地。江ノ島を紹介したブログは浜辺の砂の数ほどあるでしょうから、ぽん太は、歌舞伎の弁天小僧菊之助の名セリフに出てくるところを選んでご紹介することにしましょう。
弁天小僧菊之助は、河竹黙阿弥作の歌舞伎「青砥稿花紅彩画」(あおとぞうしはなのにしきえ)、通称「白浪五人男」(しらなみごにんおとこ)の登場人物です。「浜松屋店先の場」で弁天小僧は、武家娘に化けてゆすりを働きますが、悪事が露見して正体を明かすときのセリフが歌舞伎の名台詞として有名で、黙阿弥一流の七五調が耳に心地よく響きます。
知らざあ言って聞かせやしょう
浜の真砂と五右衛門が歌に残せし盗人の
種は尽きねえ七里ヶ浜、その白浪の夜働き
以前を言やあ江ノ島で、年季勤めの稚児が淵
百味講で散らす蒔き銭をあてに小皿の一文字
百が二百と賽銭のくすね銭せえ段々に
悪事はのぼる上の宮
岩本院で講中の、枕捜しも度重なり
お手長講と札付きに、とうとう島を追い出され
それから若衆の美人局
ここやかしこの寺島で、小耳に聞いた爺さんの
似ぬ声色でこゆすりたかり
名せえゆかりの弁天小僧菊之助たぁ俺がことだぁ!
このセリフの解説は、あちこちにあるので、どうぞ参照して下さい。
・http://www.shinchosha.co.jp/books/html/610024.html ・http://srnm5men.seesaa.net/article/8797488.html ・http://hanautakurabu.cocolog-nifty.com/blog/2009/05/1-f7fc.html また、これから解説する地名が江ノ島のどこにあるかは、例えば、藤沢市観光協会のサイトにある江ノ島イラストマップをご覧下さい。
・http://www.fujisawa-kanko.jp/pamph/eno2010.pdf まずは「七里ヶ浜」です。江ノ島から見た写真ですが、江ノ島の付け根から東に伸びる砂浜です。正確には付け根よりやや東にある小動岬から稲村ケ崎までを指すようです。
「稚児ヶ淵」です。江ノ島の一番奥、江ノ島岩屋へと下る手前の崖の上から見下ろすことができます。
名前の由来ですが、たとえばこちらのサイトにあるように、鎌倉の建長寺広徳院の自休蔵主という僧侶が、江ノ島で出合った鶴岡相承院の稚児・白菊に恋をしてしまいました。自休の一方的なアタックに白菊はにっちもさっちも行かなくなり、江ノ島の断崖絶壁から身を投げました。それを知った自休は、白菊の後を追って身を投げたそうです。
写真ではわかりませんが、打ち寄せる波が岩にぶつかって複雑な流れが生じ、身を投げるには良い場所のようです。
ちなみにこの自休・白菊をモデルにした歌舞伎が、鶴屋南北による「桜姫東文章」(さくらひめあずまぶんしょう)で、僧清玄が稚児白菊丸と心中をはかる発端は、「江の島稚児が淵の場」となっております。
「上の宮」です。江ノ島神社には辺津宮(へつのみや)、中津宮(なかつのみや)、奥津宮(おくつのみや)という三つの宮がありますが、このうち中津宮が「上の宮」です。
境内には歌舞伎に関連するアイテムがいっぱい見受けられます。写真は、当代菊之助お手植えのしだれ梅。平成11年(1999年)の「江の島大歌舞伎」の折りに菊之助が植えたものだそうです。
これが、その時の菊五郎と菊之助の手形です。
こちらは「菊五郎のしだれ桜」。昭和60年(1985年)に当代の尾上菊五によって植えられたものだそうで、江戸時代の天明2年(1782年)に中村座が石灯籠を寄進して200年を記念して植樹したものだそうです。
で、こちらがその200年前の中村座寄進の石灯籠でしょうか?
角度を変えてみると、確かに天明2年と書かれています。 Wikipediaによると、この時期の中村座は堺町(現在の日本橋人形町3丁目)にあったようです。近くには、歌舞伎の市村座のほか、多くの人形浄瑠璃の小屋などもあって、演劇の待ちとして賑わっていたようです。天保12年(1841年)に中村座からの出火により市村座ともに焼失し、天保の改革によって浅草聖天町へ移転させられました。
別の角度です。名前が書いてありますが、よくわかりません。
別の角度です。名前が書いてありますが、よくわかりません。
市村座と書いている灯籠もありました。同じ頃に市村座が寄進したものでしょうか?
「岩本院」は、現在は岩本楼という旅館になっております。詳しくは、ぽん太がここに泊まったときの記事(こちら)を参照してください。
「弁天小僧」の名前の由来は、「江ノ島弁財天」です。現在の江の島には「江島神社」があり、多紀理比賣命、市寸島比賣命、田寸津比賣命といった神様が祀られてますが、明治時代の神仏分離によって神社になる以前は、弁財天の信仰が盛んでした。江ノ島弁財天は、琵琶湖に浮かぶ竹生島の宝厳寺、安芸の宮島の大願寺とともに、三大弁財天に挙げられておりました。
写真の奉安殿のなかには、八臂弁財天と妙音弁財天という二つの弁財天が祀られております。江ノ島の信仰の歴史を示すものですが、拝観料がかかるせいか(150円ですが)、多くの観光客が素通りしていたのが残念です。
弁財天というときれいなお姉さんが琵琶を弾いている姿を思い浮かべますが、「八臂弁財天」は、その名の通り八本の腕を持ち、密教的なおどろおどろしさが感じられます(写真 - 江ノ島神社公式サイト)。源頼朝が奥州藤原氏を調伏祈願のために文覚証人に造らせたものだそうです。Wikipediaによれば、弁財天の八臂の姿は『金光明最勝王経』に基づくものだそうで、鎮護国家の戦神としての姿だそうです。
奉安殿のもう一つの弁財天である「妙音弁財天」は、なんとも艶かしい全裸のお姿で、琵琶を弾いておられます。時代もやや下るそうです。同じ神様が、このように対照的な像として表現されるということは、とても興味深いですね。「妙音」というのは琵琶の妙なる音色を思わせますが、実は『法華経』の妙音菩薩との同一視によるのだそうですが、これ以上は難しくてよくわかりません。
岩本楼のロビーにも、室町時代末期の作とされる八臂弁財天が祀られてましたが、なかなか見事でした。
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