【オペラ】感動したぜい!「さまよえるオランダ人」新国立劇場オペラ
新国立劇場でヴァグナーの「さまよえるオランダ人」を観てきました。第一幕は、舞台が暗くて動きがなくて(けっきょくオランダ人とダーランとが二人で会話してるだけだよね)ちょっと眠くなりましたが、第二幕で目が覚め、ラストは感動でうるうるでした。公式サイトはこちら。
ぽん太は「さまよえるオランダ人」を観るのは2回目。1回目は2012年の新国立劇場で同じプロダクションで、その時はストーリーがよくわからず納得できない部分が多かったのですが、今回はすんなりと頭に入って来ました。
例えば前回は、「オランダ人は自分を救済する花嫁を、たまたま出くわしたおっさんに財宝をあげて手に入れていいんかい」などと思ったのですが、実はオランダ人は、7年に一度陸に上がって自分を救済する娘を探すことが許されてはいるけれど、これまでことごとく裏切られ、はなから今回もダメだろうとヤケ気味になっていることがよくわかりました。
また前回は、ゼンタとエリックはホントは愛を誓っていたのかどうか、もよくわからなかったのですが、ゼンタを愛するエリックが、ゼンタの何気ない言葉を愛の誓いだと思い込んでいたこと、二人の会話を盗み聞いたオランダ人が、ゼンタとエリックが愛を誓い合っていたと誤解したことを納得できました。ゼンタによってついに救済されると確信していたオランダ人ですが、持ち前の人間不信がここで顔を出し、ゼンタが裏切ったと思い込んでしまったんですね。そういう意味では、ストーリー上ではオランダ人は「永遠に生き続けるという呪い」から救済されたのですが、本当は、どうせだめだという「ひがみ根性」から救済されたのかもしれません。
またラストも、前回は「オランダ人、ひとり残されて死んじゃったけど、これでホントに救済なの」と思ったのですが、ヴァグナーの音楽をよくよく聴けば、まごうことなき救済であることは明らかでした。
ま、どれもオペラファンなら常識なんでしょうけど……。
また、このオペラでは、世俗の世界と、一段崇高な世界が対比されていることもよくわかりました。お金や結婚という幸せを喜ぶ父ダーラント、若者の初々しい恋を語るエリック、糸を紡ぎながら水夫たちの帰りを待つ娘たち、みんな普通のいい人です。音楽もヴァグナーらしからず明るくて単純。でもゼンタは一風変わった不思議ちゃん。普通の人たちからはちょっと浮いてます。そのわけは、彼女に「崇高さ」の種が秘められていたからです。その種はオランダ人との出会いを通して成長し、「自分の命を犠牲にして他人を救済する」という思いとして花開いたのです。
タイトルロールのトーマス・ヨハネス・マイヤーは、前回の「ヴォツェック」も怖くて迫力ありましたが、今回もオランダ人の荒々しくどこかダークな雰囲気ををうまく表現しておりました。ゼンタのリカルダ・メルベート、さすがバイロイト出演歌手だけあって、音域を選ばない見事な声。表現力もすばばらしかったです。彼女の歌を聴いていると、ゼンタこそがこのオペラの真の主人公であることがはっきりとわかります。ダーラントのラファウ・シヴェクは、声量は一番あったかもしれません。声も顔もシブくて格好よすぎて、お金大好きなお父さん役ではもったいなかったかも。エリックのダニエル・キルヒも、誠実で普通な(世俗を超越できない)若者をうまく歌っていました。
新国立劇場合唱団の水夫や娘たちも、いつもながらの大迫力。合唱指揮者の三澤洋史さんの『オペラ座のお仕事――世界最高の舞台をつくる』読ませていただきました。面白かったです。
これだけ歌手がいいと、申し訳ないけど東京交響楽団がちょっと力不足に感じちゃうな〜。金管の音程とか、弦の重厚さとか……。指揮は飯守泰次郎。ヴァグナーの生の舞台を振れてきっとうれしいことでしょう。ぽん太も聞いててうれしかったです。「音楽講座」(公式サイトにあります)も楽しみにしてます。
なお、「さまよえるオランダ人」には、荒々しくて救済のない初稿(1841年版)と、穏やかで救済のある1880年版があるそうですが、今回のプロダクションは基本的には1841年版で、最後だけ救済のあるヴァージョンが使われていること。
オペラ「さまよえるオランダ人」/リヒャルト・ワーグナー
Der fliegende Holländer/Richard Wagner
2015年1月25日 新国立劇場オペラパレス
指揮:飯守泰次郎
演出:マティアス・フォン・シュテークマン
美術:堀尾幸男
衣裳:ひびのこづえ
照明:磯野 睦
ダーラント:ラファウ・シヴェク
ゼンタ:リカルダ・メルベート
エリック:ダニエル・キルヒ
マリー:竹本節子
舵手:望月哲也
オランダ人:トーマス・ヨハネス・マイヤー
合 唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京交響楽団
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