今回のモンテカルロ・バレエ団の日本公演は、「LAC〜白鳥の湖」の一本立て。でも、異才ジャン=クリストフ・マイヨーがいったどんな「白鳥」を見せてくれるのか、とっても楽しみ。小池ミモザも見れるしね。公式サイトはこちらです。
座席はなんと最前列。鍛え抜かれたダンサーの肉体がすごい迫力です。表情もよく見え、息づかいまで伝わってきました。
オケはいなくて、音楽はテープでした。全体にけっこう早めで、コンサートで演奏されるときのテンポに近かったです。バレエ公演では踊りやすいようにかなりゆっくりめに演奏してますが、コンサートでこのテンポで演奏すると、かなり間延びした印象を受けます。そういう意味では、チャイコフスキーの音楽の魅力がいつも以上に引き出されていたわけです。
曲の順序も普通の「白鳥」とはだいぶ入れ替えられてました。でも、例えば黒鳥とのパ・ド・ドゥの音楽は元々は第一幕の音楽ですから、オリジナルに近いとも言えるのですが。4羽の白鳥や、嫁さん選びパーティーの民俗舞踊はスペイン以外ばっさりカットされており、全体の上演時間はかなり短くなってました。
客席が暗くなって、最初はどんな音楽で始まるかな〜と耳をそばだてていたら、ちゃんと序曲でスタート。ところが舞台上ではとつぜん白黒のムービーが上映されます。登場人物の一部が仮面をつけた無言劇で、おおげさな身振りなどコメディア・デラルテのようでありながら、悪夢を観ているかのような怖さもありました。
男の子と両親がいて、男の子は女の子にご執心。女の子もまんざらではない感じ。王子とその両親と、白鳥でしょうか。そこに子供の頃の黒鳥が、黒鳥ママに連れられてやってきます。黒鳥ママは、白鳥ちゃんを押しのけ、黒鳥ちゃんを王子の隣りに座らせます。「あんたどきなさいよ……。王子ちゃん、うちの黒鳥ちゃんと遊んでね」って感じ。でも王子はやっぱり白鳥ちゃんがお気に入りみたい。ついに黒鳥ママの命令で、男たちが白鳥ちゃんをさらっていきます。
ここまでがプロローグで、いよいよバレエがスタート。成長した王子と両親が現れます。原作の「白鳥の湖」は「父の不在」(王様が登場しない)が特徴ですが、ここではちゃんと両親が登場します。しかし「マザコン王子」という設定は踏襲しているようで、王妃は王子にべったりで、王様にはつれない素振り。しかし後に黒鳥ママが登場して王様を誘惑し始めると、今度は王妃は王様にすり寄っていきます。ん〜ん、なんかホームドラマみたいですね。
で、最初の幕が、普通の「白鳥」の3幕みたいな、お妃選びの舞踏会になってます。いろんなタイプの女性たちが王子を誘惑しますが、王子は気に入りません。「ママー、このお姉ちゃんたち、やだよ〜」「よしよし、いい子ね。お母さんがいるわよ」と王妃。するとそこに大人になった黒鳥ちゃんが、黒鳥ママと一緒に乱入。でも王子はやっぱり黒鳥ちゃんを気に入りませんが、あれあれ、王様の方が黒鳥ママにご執心のようです。
二幕は大きな岩がある人里離れた場所で、そこで王子は、プロローグで連れ去れた白鳥ちゃんに再会します。白鳥ちゃんはみすぼらしい服を着させられて、なんだか虐待されていた様子。通常版で白鳥が最初に現れて、ちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんちゃん!という音楽で、例の背中を反らせた白鳥ポーズをとるところで、肩をすぼめて両手で身体を隠して「お恥ずかしい」のポーズをしたのには大笑い。ギャクがきいてます。そのほかのところにも笑いがちりばめられてました。例えば白鳥の振りをした黒鳥が王子を誘惑してるとき、思わず癖が出てつま先で床をとんとん蹴ってしまうのを、黒鳥ママが両手で靴をにぎって押さえつけるとことか、あるいはまた、王妃と王様のよりが戻ってようやく家庭に平和が訪れたとき、どなたかお客様が……。出迎えに行くとにっくき黒鳥ママで、王妃は思わずのけぞり、みんなうなだれてしまいます。しかつめらしい「芸術」ではなく、楽しいステージでした。
コールドバレエの白鳥たちは、配役表には「キマイラたち」と書いてありますから、白鳥と黒鳥の両方の遺伝子を持つハイブリッドでしょうか。STAP事件で「キメラマウス」が有名になりましたネ。黒鳥ママの手先の悪い奴らみたいです。最初、後ろ向きで上体を前にかがめてお尻をブリブリふるわせながら登場してきたのですが、近くで見るとスゴい迫力で、ぽん太は最初マッシュボーンみたいに男性ダンサーの白鳥なのかと思いました。その後のダンスもエネルギッシュでパワフルでした。
第二幕から場面転換で続く第三幕は仮面舞踏会で、黒鳥ママが「白鳥」を連れてやってきます。白鳥ちゃんと同じ白い服を着てますが、この「白鳥」が実は黒鳥ちゃんであることは観客には一目瞭然。どんな仕掛けなのか、踊ってる間に「馬脚」ならぬ「黒い羽根」が見えてきます。だけどトンマな王子は気がつかず、黒鳥ちゃんに愛を誓ってしまいます。自分の過ちに気付いて王子は呆然。王妃は「うちの可愛い息子になんてことを!」と黒鳥ちゃんにつかみかかります。
三幕から休憩なしで続く第四幕は、再び大きな岩の前。さあ、あとはマイヨーがどんな結末を用意したかです。ハッピーエンドか悲劇か。それとも思いもかけぬエンディングをか。
なんと人々が黒鳥ちゃんの死体を運んできます。彼らが集団でボコって殺してしまったのでしょうか。なんか残酷。そこまでしなくても。黒鳥ちゃんは王子が好きなだけだったのに。だんだん可哀想になってきました。それを見た黒鳥ママは、仕返しとばかりに白鳥ちゃんを殺害。王子もなんか倒れちゃったよ。よくわからないけど悲惨な結末です。プログラム買おうかな。でも高いからやめた。ラストの布を使った演出は印象的でした。
黒い衣裳の闇の大天使とかも含め、時節がら、何を見てもイスラム国や上村君事件を連想してしまうのが悲しいところ……。
原作から適度な距離感のマイヨーの読みかえが、とにかく面白かったです。振付けは全体にエネルギッシュでした。美術はシンプルで洗練された感じ。
王子というより現代の若者といった感じのルシアン・ポスルウェイト、筋肉質で力強い黒鳥ちゃんのノエラニ・パンタスティコ、清楚なアンハラ・バジェステロスと、適所適材といった感じの配役。夜の女王のエイプリル・バールも背が高くてディズニー映画に出てきそうな感じでした。そしてぽん太ごひいきの小池ミモザの王妃もよかったです。とっても表情豊かで、演技力抜群。甘えた表情で夫に猫のようにすり寄ったのに、引かれてしまって憮然とする様子など、お上手です。もちと太めですが、そのぶん迫力があり、外人さんと同じ振付けで踊るところでも、他の外人さんたちよりも動きが大きく、表現力がありました。田島香緒理も可愛らしかったです。
とてもスリリングでドラマチックな公演でした。次回の来日が今から待ち遠しいです。
モナコ公国モンテカルロ・バレエ団
「LAC〜白鳥の湖」
2015年3月1日(日)
東京文化会館
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
舞台美術:エルネスト・ピニョン=エルネスト
衣裳:フィリップ・ギヨテル
照明:ジャン=クリストフ・マイヨー、サミュエル・テリー
ドラマトゥルギー:ジャン・ルオー
構成:ベルトラン・マイヨー
初演:2011年12月27日、モナコ、グリマルディ・フォーラム
王:ガブリエレ・コッラオード
王妃:小池ミモザ
夜の女王:エイプリル・バール
王子:ルシアン・ポスルウェイト
白鳥:アンハラ・バジェステロス
黒鳥:ノエラニ・パンタスティコ
王子の友人(相談役):アシエル・エデソ
闇の大天使:クリスティアン・ツヴァルジャンスキー、ブルーノ・ロケ
[欺くものたち]
虚栄心の強い女:キャンデラ・エッベセン
偽りの無関心を装う女:アレッサンドラ・トノローニ
放埓な女たち:フランセス・マーフィ、田島香緒理
貪欲な女:ガエル・リウ
狩人たち:ルーカス・スリーフット、エドアルド・ボリアニ、コーエン・ハヴェニス、オレリアン・アルベルジュ、ヨアキム・アデベリ、リー・ワン、ダニエレ・デルヴェッキ、エドガル・カスティロ、ステファノ・デ・アンジェリス
その友人たち:エレーナ・マルザーノ、アンナ・ブラックウェル、サラ・クラーク、イー・スン、アンヌ=ロール・セイラン
キマイラたち(白鳥):シヴァン・ブリツォワ、フランチェスカ・ドルチ、ティファニー・パチェコ
エレーナ・マルザーノ、フランセス・マーフィ、田島香緒理、ベアトリス・ウァルテ、ガエル・リウ、
リイサ・ハマライネン、アンヌ=ラウラ・セイラン、イー・スン、キャンデラ・エッベセン、アンナ・ブラックウェル
宮廷:田島香緒理、エレーナ・マルザーノ、キャンデラ・エッベセン、クイン・ペンデルトン、フランセス・マーフィ、イー・スン、サラ・クラーク、アレッサンドラ・トノローニ、ティファニー・パチェコ
リー・ワン、ヨアキム・アデベリ、ルーカス・スリーフット、ステファノ・デ・アンジェリス、オレリアン・アルベルジュ、エドガル・カスティロ、ダニエレ・デルヴェッキオ、コーエン・ハヴェニス、エドアルド・ボリアニ
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