【歌舞伎】勘三郎のエンターテイナー遺伝子が始動・2015年4月平成中村座夜の部
平成中村座の夜の部を観に行ってきました。勘三郎がいない中村座なんてな〜、勘九郎と七之助に普通に歌舞伎やられても〜などと高をくくっていたのですが、あにはからんや、小さな劇場ならではの、舞台と客席が一帯となった素晴らしい公演でした。う〜ん、血は争えん。勘三郎のエンターテイナーのDNAが勘九郎と七之助のなかで息づいているようです。歌舞伎美人のサイトはこちら、平成中村座公式サイトはこちらです。
席はもちろん桜席。一般の客席から見て幕の向こう側、舞台の両袖にある二階席です。こんなところから歌舞伎を見れる機会は滅多にありません。ぜひオススメします。びっくりすることで一杯です。
こんなところになんで客席があるのかと思うかもしれませんが、上の浮世絵を御覧下さい。三代目歌川豊国による『踊形容江戸繪榮』(おどり けいよう えどえの さかえ)です(Wikipedia掲載の著作権フリーの写真です)。安政年間(1854–59年)の猿若町移転後の市村座を描いたものです。演目は『暫』ですね。平成中村座の構造と何となく似てますね。これを見ると、能舞台と同じように、舞台の左右にも観客がいるのがわかります。ただ、幕は客席の向こう側にあるようです。ということは、幕が閉まった状態でも、舞台の手前は見えたままということですかね。さらに舞台の向かって左奥に、舞台を後ろ側から見るような(P席?)客席がありますが、これは完全に幕の向こう側です。この一階部分は、手前の客席から見るとまるで羅漢像のようなので(例えばこちら)、羅漢台と呼ばれました。確か海老蔵が昔「壽三升景清」で舞台上に観客席を作ったことがありましたが、恐らく羅漢台が頭にあったんだろうと思います。そして羅漢台の二階を「吉野」と読んだそうですが、その名前の由来はぽん太にはわかりません。平成中村座の「桜」席の由来は「吉野」だから?というのは穿ち過ぎでしょうか?
で、この桜席、幕が閉まった状態での役者や鳴物の立ち振る舞いや、大道具さんの手際よい舞台転換を見ることができます。幕が開くと、通常の客席に座っているお客さんに、「をゝ、こんなところに客席があるぞ」とばかりにじろじろ見られるのが、ちと恥ずかしいです。しかしその後は反対に、あそこにかわいい娘がいるぞとか、お客さんをじっくり観察することができます。真剣な顔の人、にこにこ笑っている人、寝てる人などなど、一目瞭然です。舞台で演じている役者さんから、客席がこんなふうに見えるんだ。よく歌舞伎は、役者とお客さんが一緒になって作るものだなどと言いますが、その意味が少しわかりました。
また、演技を横から見るのもとても新鮮で、例えば「三笠山御殿」で刀で刺されて倒れている七之助が、これまでの娘の化粧を、血の気を失ったように治しているのもわかりました。特にこんかい下手の席だったので、幕が閉まってから掃けて行くときに、役者さんたちが笑顔を向けてくれました。もちろんみんな、盛大な拍手でお見送り。こんな素晴らしい席が一番安いなんて、ぽん太信じらんな〜い。
うぉっほん、舞台の感想に戻ります。「三笠山御殿」は、橘姫が御殿に戻って来る所からスタート。鱶七の獅童が豪快に槍を枕に寝る所も見たかったですが、そこは平成中村座、七之助の見せ場中心で文句はありません。その七之助のお三輪は素晴らしかったです。素晴らしかったです。大切なことなので二度繰り返しました。
最初の可愛らしい田舎娘、官女にいじめられる「責め場」の哀れさ(昨今のいじめ事件を思い出して、身につまされました)、嫉妬と怒りによってまるで悪霊と化したがごとき凄まじさ、そして愛する人のために死ぬことを喜ぶ聖女の姿……。最高です。
刀で刺された七之助が、二重で獅童が真相を明かすのを見ている場面、正面の客席からは七之助の背中しか見えませんが、獅童を見ながらずっと苦しそうな顔で、ときにつばを飲み込んだりしていて、その横顔に感動いたしました。こういうもんなんですね〜。
七緒八クンの豆腐買娘お柳、カワユス。
「高坏」は勘九郎のゲタップダンス。お客さんを楽しませる愛嬌が、板についてきました。舞台奥手を向いて踊っているとき、鼓の田中傳左衛門がつられて笑っているのが見えました。最高のエンターテイナーです。最後に幕が閉まった直後、人差し指を立てて左右の桜席に「ちょっと見ててね」と合図をすると、おもむろに扇子を放り投げ、くるりと回って落ちるところ、扇面を上からぱっとつかんでみせてくれました(技の名前不明)。サービス満点の演技に、桜席の観客は大声援に大拍手。幕の向こう側のお客さんは、何の歓声だろうと不思議に思ったことでしょう。
最後は橋之助の「幡随長兵衛」。明るくて豪快な橋之助にとっても合った役で、悪い所はなかったのですが、なんかもう一つ引きつけるものが欲しいです。それが何なのか素人のぽん太にはわかりませんが……。観ていてぐっと引きつけられて思わず息を飲む、といったところが欲しいです。
劇中劇の「公平法問諍」では、舞台上に観客役の俳優を置かず、中村座のお客さんが「公平法問諍」を観ているという設定。幡随長兵衛が客席から現れたり、水野十郎左衛門が正面の二階席に登場したりして、臨場感がありました。
「公平法問諍」の坂田公平役の中村いてうが、劇中劇のなかで名代昇進のご披露。
今回の中村座、「十八世中村勘三郎を偲んで」と銘打ってますが、もちろん4月6日に94歳で他界された中村小山三さんも偲んでいることでしょう。「小山三ひとり語り」、読ませていただきました。「現役最高齢の歌舞伎役者」ということしか知りませんでしたが、すばらしい役者さんで、ホントにいろいろな経験をされてたんですね。ご冥福をお祈りします。
平成中村座 陽春大歌舞伎
十八世中村勘三郎を偲んで
平成27年4月19日
夜の部
一、妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)
三笠山御殿
杉酒屋娘お三輪 中村 七之助
漁師鱶七実は金輪五郎今国 中村 獅 童
橘姫 中村 児太郎
豆腐買娘お柳 波野 七緒八
豆腐買おむら 中村 勘九郎
烏帽子折求女実は藤原淡海 中村 橋之助
二、高坏(たかつき)
次郎冠者 中村 勘九郎
高足売 中村 国 生
太郎冠者 中村 鶴 松
大名某 片岡 亀 蔵
三、極付 幡随長兵衛(ばんずいちょうべえ)
「公平法問諍」
幡随院長兵衛 中村 橋之助
女房お時 中村 七之助
出尻清兵衛 中村 勘九郎
伊予守源頼義 坂東 新 悟
御台柏の前 中村 児太郎
子分極楽十三 中村 国 生
同 雷重五郎 中村 宗 生
同 閻魔大助 中村 宜 生
同 笠森団六 中村 鶴 松
近藤登之助 片岡 亀 蔵
唐犬権兵衛 中村 獅 童
水野十郎左衛門 坂東 彌十郎
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