【文楽】歌舞伎でもこのくらい斬って欲しい「伊勢音頭恋寝刃」2015年9月国立劇場第一部
9月文楽の第一部。お目当ては「伊勢音頭恋寝刃」。歌舞伎のあの凄惨な滅多斬り場面を、人形でどう表現するのかが楽しみです。公式サイトはこちらです。また「伊勢音頭恋寝刃」の床本は、こちらで読むことができます。
ロビーに日本刀が展示されてました。『葵紋康継』(葵下坂)という銘で、「伊勢音頭恋寝刃」に出てくる妖刀「青江下坂」のモデルだそうです。越前康継による17世紀後半の作。上にあるのがいわゆる「折紙」ですが、「葵下坂」のものではありません。元禄12年(1699)の発行。
まず初めは「面売り」。「面売り」の娘と「案山子」の楽しい踊り。「案山子」というのは田んぼに立ってるやつではなく、占いなどをして話術を商売にする大道芸人だそうです。娘が次々と面を替えて踊るのですが、天狗やおかめなど、面の特徴を出しながらも、「娘が踊っている」感を出すあたりが見事でした。
続いて「鎌倉三代記」。歌舞伎では2~3回観ているようですが、よく覚えてません。
歌舞伎ではあまり演じられない、女房おらちの滑稽な場面が前に付いてました。病気療養中の三浦之助母の前で、忌み言葉をこれでもかと連発したり、炊事の手元がおぼつかない時姫に、片袖を脱いで乳まで出して、米の研ぎ方を指導したりします。紋壽が表情一つ変えずに、力一杯遣ってました。玉男の佐々木高綱はさすがに堂々としてました。時姫は清十郎。
さて、お目当ての「伊勢音頭恋寝刃」。福岡貢が和生で、仲居万野が勘十郎。なんか反対の方がいいような気もしますが、これはこれで、和生の貢は不気味さがありました。勘十郎の万野は、人形の動きがとっても写実的なのに驚きました。簑助のお紺は流石。遊女らしい色気と、貢に体する恋心が漂い、死を覚悟しながらの縁切りも気迫が感じられました。
歌舞伎と違って、最初に、お紺が浮世の義理から貢とは別の男に嫁がなければならず、それならば貢のために、岩次に帯を解いてでも折紙を取り返し、自害して果てようと決意する場面があり、状況が分かりやすかったです。万次郎は登場せず。徳島岩次と藍玉屋北六が入れ替わっているという下りはなし。
さて、いよいよ滅多切りの場面です。歌舞伎では、華やかな伊勢音頭と斬殺との対比や、丸い障子窓を突き破って血だらけの福岡貢が出てくるあたりが見所です。でも、モデルとなった現実の油屋騒動(Wikipedia)の2名死亡、負傷者7名に比べると、ちょっと斬る人数が少ない気がします。また、滅多切りののちに刀と折紙が手に入り、ありがたやありがたや、めでたしめでたしみたいなエンディングがちと浮いてます。
文楽では、女性たちによる伊勢音頭はなく、また、丸窓の演出もありませんでした。ただ、次々と人を殺していく感じは良かったです(ふと気がつくと、恐ろしいこと書いてますね〜)。何も知らない人がいる部屋の奥の開いた襖の間を、血だらけの貢がゆっくりと横切っていくあたりは、さながら現代のホラー映画のようで、恐ろしかったです。また、徳島岩次だと思って別人を追いつめてついに斬り殺したものの、顔を見て「違ったか〜」とまた岩次を探しにいくあたりも怖かったです。
ラストはついに徳島岩次を斬り殺し、青江下坂と折紙を届けるために屋敷を目指すという感じで、歌舞伎ほど唐突感はなかったです。
なかなか充実した公演で、大いに満足いたしました。
平成27年 9月文楽公演
国立劇場
2015年9月21日
第一部
面売り
面売り娘 三輪大夫
案山子 睦大夫
靖大夫
小住大夫
咲若大夫
喜一朗
清丈
寛太郎
錦吾
燕二郎
おしゃべり案山子 玉佳
面売り娘 勘彌弥
鎌倉三代記
局使者の段
希大夫
清馗
米洗ひの段
呂勢大夫
宗助
三浦之助母別れの段
津駒大夫
寛治
高綱物語の段
英大夫
清介
女房おくる 一輔
女房おらち 紋壽
三浦之助母 勘壽
讃岐の局 紋臣
阿波の局 簑紫郎
北条時姫 清十郎
安達藤三郎実は佐々木高綱 玉男
三浦之助 幸助
富田六郎勘市 玉佳
伊勢音頭恋寝刃
古市油屋の段
切 咲大夫
燕三
奥庭十人斬の段
咲甫大夫
錦糸
女郎お紺 簑助
仲居万野 勘十郎
福岡貢 和生
料理人喜助 簑二郎
徳島岩次 玉志
藍玉屋北六 玉勢
女郎お鹿 清五郎
起番男 勘次郎
仲居 玉彦
下女 玉路
小女郎 勘介
泊り客 紋吉
相方女郎 簑次
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