【バレエ】クランコ振付の「ロミオとジュリエット」は初めてですシュツットガルト・バレエ団
ガラ公演を除くと、シュツットガルト・バレエ団を観るのは初めてです。もちろんクランコ振付の全幕を観るのも初めて。クランコと言えば、ガラの定番「オネーギン」の全幕を観れるのが今回の来日公演の楽しみですが、まずは「ロミオとジュリエット」から。公式サイトはこちらです。
クランコの振付、基本は古典的で、ちょっと硬質な印象を受けました。
Wikipediaを見てみると、ジョン・クランコ(John Cranko)は、南アフリカ出身でイギリス国籍のバレエダンサー・振付家。1927年に生まれ、1973年にわずか45歳の若さで死去。イギリスで振付家として名をなしたあと、1960年にドイツのシュツットガルト・バレエ団に移り、多くの作品を振り付けました。死因ですが、飛行機内で睡眠薬として抱水クロラールを服用したところ副作用で嘔吐し、窒息したそうです。
抱水クロラール……。おじさん精神科医のぽん太もさすがに使ったことないですね〜。1832年に合成され、1869年に不眠症への効果が認められました。合成されたものとしては最初の睡眠・鎮静剤だそうです。1900年ごろにはバルビツール酸系薬にとって代わられました(Wikipedia)。
調べてみると現在も、サロンパスで有名な久光製薬から、飲み薬ではなく、座薬あるいは注腸薬として販売されているようですね。
1960年にはさらに安全性の高いベンゾジアゼピン系薬剤も登場したというのに、クランコがなぜ1973年まで抱水クロラールを使っていたのか、ちょっと疑問も残ります。依存性の問題でしょうか。
ごっほん、みちくさが過ぎました。話しをもとに戻しましょう。
クランコが「ロミオとジュリエット」を振り付けたのが1958年。有名なマクミラン版が1965年ですから、かなり古い振付なんですね〜。マクミラン版よりあっさりしてる気がしましたが、仕方ないです。
クランコ版で気がついたところをいくつか。ジュリエットは最初はパリスを嫌がってなかったようです。楽しそうに踊ってました。ロミオを愛するようになってから、パリスを拒否した感じ。
舞踏会の踊りは男性が小座布団(?)を捧げて踊るクッション・ダンスでした。以前にグルジア国立バレエで見たラブロフスキー版もクッション・ダンスでした。クッション・ダンスについては以前の記事(こちら)を御覧下さい。今回は、最後に男性がクッションを床に置いてひざまずく所も付いていました。
ロミオとジュリエットが互いに一目惚れしてから踊る舞踏会の踊りで、男女がさまざまにパートナーを換えながら踊るのですが、その中でロミオとジュリエットが舞台奥で、そして手前でと、時々出会うのが面白かったです。
バルコニーシーンは、バルコニーというより渡り廊下。階段がなくて、ロミオがジュリエットを抱いて降ろしてました。踊りは悪くなかったです。感動しました。
第2幕がカーニバルになっているのが目新しかったです。5人の道化のコミカルな踊りがありました。この音楽もあまり聞いたことがなかった気がしますが……。
ティボルトがマキューシオを殺すのは、まったくの偶然の事故という演出でした。
第2幕の幕切れ、ティボルトの母親は、ティボルトの亡骸と一緒にタンカ(?)に乗せられて運ばれて行きました。
ジュリエットが薬で仮死状態になることを知らせる手紙がロミオに届かない、という下りはナシ。
墓場での、ロミオと仮死状態のジュリエットとのパ・ド・ドゥがなかったのが残念でした。ただ、一夜を過ごしたロミオとジュリエットが別れを哀しみながら踊るパ・ド・ドゥは、複雑なリフトの連発で、見応えがありました。
最後はロミオとジュリエットの死で終わり、キャピレット家とモンターギュ家の面々が現れて嘆いたり和解したりする下りはありませんでした。全体として両家の対立よりも、二人の心理に焦点をあてているように思われました。
ただ、最後の場面はいくつか違和感がありました。ロミオがパリスに襲いかかって殺す理由がよくわかりませんでした。また目覚めたジュリエットは、パリスの死体を見ても何の反応もありませんでした。それに最後にジュリエットが自殺するなら、パリスの短剣ではなくロミオの短剣を選ぶだろうと思いました。
最近のロミジュリの演出は、ジュリエットがパリスといやいや踊りを踊ったり、結婚を拒否するジュリエットをお父さんがDVばりに怒ったりして、ちょっとグロテスクというか陰鬱なものが多いですが、そのあたりはあっさりしてました。でも当日はパリの同時多発テロの翌日。両家の憎しみと争いのぶつかり合いが、ISのテロと重なって、見ていて息苦しくなりました。
ロミジュリは何度も見てますが、ジュリエットのお母さんって可哀想だな〜と初めて思いました。ティボルトが殺された時には、ロミオに襲いかかろうとし、遺骸にすがって泣き叫んでました。よく考えると、息子が殺された直後に、ジュリエットの結婚なんですね。パリスとの結婚を嫌がるジュリエットを、お母さんは優しく受け入れているようでしたが、夫にたしなめられて、厳しく突き放してました。ジュリエットの死(仮死)に際しては、ティボルトの時で涙は枯れ果てたのか、後ろから優しくジュリエットを抱きしめて、虚ろな表情を浮かべていました。
舞台美術は、アールデコ調が入ったり、植物が南洋風だったりして、ちょっと統一感がない感じ。舞踏会の黒と金の衣装は美しかったですし、ジュリエットの寝室の天井の青い四角も綺麗でしたが、デザインの一貫性がありませんでした。中幕をつかっての素早い場面転換は、よくできてました。
ダンサーでは、ジュリエットのエリサ・バデネスも、ロミオのダニエル・カマルゴも初めて見ました。バデネスはスペイン人だそうですが、タマラ・ロホのような厳しさはなく、明るいラテン系のお姐ちゃん風。手足が長くて、とてもしなやかでした。リフトされたときの姿の美しさが印象に残りました。ロミオのカマルゴも、スタイルが良くてなかなかの男前(にゃん子が喜んでました)。ジャンプもそれなりに高く、アクロバティックなリフトを危なげなくこなしてました。バルコニーシーンで、ジュリエットに最初にキスをする直前の思いつめたような表情に、ぽん太も男ながらゾクッとしました。シュツットガルトといえばフォーゲル君も見たいけど、ロミジュリはこういう若いダンサーの方がいいです。
日本人の森田愛海がジプシーの一人として踊ってました。
オケは東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団。金管が不安定だったのもちょっとだけで、迫力あるいい演奏でした。
シュツットガルト・バレエ団2015年日本公演
「ロミオとジュリエット」
2015年11月15日 東京文化会館
振付:ジョン・クランコ
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
装置・衣裳:ユルゲン・ローゼ
初演:1962年12月2日、シュツットガルト
キャピュレット家
キャピュレット公:ローランド・ダレシオ
キャピュレット夫人:メリンダ・ウィザム
ジュリエット:エリサ・バデネス
ティボルト:ロマン・ノヴィツキー
パリス:コンスタンチン・アレン
乳母:ダニエラ・ランゼッティ
モンタギュー家
モンタギュー公:キリル・コルニロフ
モンタギュー夫人:エレナ・ブシュエヴァ
ロミオ:ダニエル・カマルゴ
マキューシオ:パブロ・フォン・シュテルネンフェルス
ベンヴォーリオ:ルイス・シュティンス
ヴェローナの大公:セドリック・ルップ
僧ローレンス:セドリック・ルップ
ロザリンド:アヌーク・ファン・デル・ヴァイデ
ジプシー:アンジェリーナ・ズッカリーニ、森田愛海、ロシオ・アレマン
カーニバルのダンサー:ルドヴィコ・パーチェ、ルイジ・ヤン、パウラ・レゼンデ
オスカン・アイク、ロジェ・クワドラド
ヴェローナの貴族と街の人々:シュツットガルト・バレエ団
指揮:ジェームズ・タグル
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
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