【オペラ】5時間半が短く感じる「ワルキューレ」新国立劇場オペラ
飯守さんが指揮・芸術監督の「ワルキューレ」。楽しみです。飯守さん自身によるオペラトークも見て準備万端。特設サイトはこちらです。
新国立オペラというと、ビジュアルで歌手を選んでいる風がありますが、今回は恐らく歌唱力重視。ビジュアルはイマイチですが(狸の分際で失礼なことを申し上げてすみません)、歌声は素晴らしかった!
休憩を入れると上演時間が5時間を超す「ワルキューレ」。これまで途中で意識消失することが多かったですが、今回は(ほとんど)意識消失せずに観ることができ、ようやく筋もわかりました。
で、これは正に歌舞伎だな〜と思いました。神という立場にあるがゆえ、自分の望みを断念し、愛する人を殺し、娘に罰を与えなければなりません。その苦しみに、あとは自分が滅びることを願うのみ。歌舞伎でも、武士としての義を守るため、愛する我が子を手にかけたりします。ブリュンヒルデが、「私はあなた(ヴォータン)が断念した望みを実行したのよ」というあたりは、歌舞伎の「くどき」そのものでした。
ジークムントは、「ラインの黄金」ではローゲを歌ったステファン・グールド。やっぱりジークムントの方があってます。明るく、英雄的な、朗々たる歌声で、初役とは思えない素晴らしさでした。ジークリンデのジョゼフィーネ・ウェーバーは期待の若手との触れ込みでしたが、これまた素晴らしかったです。イレーネ・テオリンのブリュンヒルデの力強い歌声もお見事。
『サロメ』でヨハナーンを歌ったグリア・グリムスレイのヴォータンと、おなじみツィトコーワのフリッカは、ビジュアル担当か?いや、それにとどまらず、声も聞かせてくれました。特にヴォータンは、前回のライジネンだと心のない人非人(神非神か?)ぶりが目立ちましたが、グリムスレイは内面的な苦悩が伝わってきました。フンディングのアルベルト・ペーゼンドルファーは、演出のせいもあって、田舎の頑迷なおじさん風でした。
ゲッツ・フリードリヒの演出はオーソドックスというか、ちょっとオーソドックスすぎる感じ。今回のプロダクションは、元々はフィンランド国立歌劇場のものだそうで、ジークムントが大河ドラマの真田昌幸よろしく毛皮を着ていたり、なんか北欧の田舎が舞台に思えます。でもまあ、ワルキューレにしろヴァルハラにしろ、元は北欧神話のなので、これでいいのかも知れません。
ただ、気になったのはワルキューレの騎行の場面。ワルキューレたちが戦場で死んだ勇者の遺体を運んできて、ヴァルハラの護衛につかせるんだと思うのですが、担架の布をめくるとトランクスいっちょうの貧弱な肉体のオッサンが横たわっていて、しかもワルキューレたちがその上に馬乗りになって飛び跳ねながら奇声をあげたり。なんか、遺体を粗末に扱ってるみたいで、ぽん太は不快感を感じました。
反対に感動したのは、ジークムントの前にブリュンヒルデが現れて、死ぬ運命を伝えるところ。ブリュンヒルデのペーゼンドルファーの神々しさが半端じゃなかったです。日本だったら、阿弥陀如来が迎えに来ちゃって、あ〜もう死んじゃうのか〜という感じでしょうか。
飯守さん指揮、東フィルの、雄大で情感に満ちた音楽にも大満足。次の『ジークフリート』が待ち遠しいです。
リヒャルト・ワーグナー
「ワルキューレ」
2016年10月2日
新国立劇場 オペラハウス
指揮:飯守泰次郎
演出:ゲッツ・フリードリヒ
美術・衣裳:ゴットフリート・ピルツ
照明:キンモ・ルスケラ
ジークムント:ステファン・グールド
フンディング:アルベルト・ペーゼンドルファー
ヴォータン:グリア・グリムスレイ
ジークリンデ: ジョゼフィーネ・ウェーバー
ブリュンヒルデ:イレーネ・テオリン
フリッカ:エレナ・ツィトコーワ
ゲルヒルデ:佐藤路子
オルトリンデ:増田のり子
ヴァルトラウテ:増田弥生
シュヴェルトライテ:小野美咲
ヘルムヴィーゲ:日比野 幸
ジークルーネ:松浦 麗
グリムゲルデ:金子美香
ロスヴァイセ:田村由貴絵
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
協力:日本ワーグナー協会
芸術監督:飯守 泰次郎
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