国立劇場の歌舞伎は、10、11、12月と三ヶ月をついやして『仮名手本忠臣蔵』の通し。
歌舞伎座のプログラム構成が「名場面集」になりつつある昨今、うれしい企画です。国立劇場におかれましては、ぜひ今後とも、通し上演や復活上演にチャレンジしていただきとうございます。
特設サイトはこちら、通常の公式サイトはこちらです。
こんかいの上演では、普段はなかなかみれない場面を観られるのも有り難いです。10月でいえば「文使い」「裏門」や「花献上」。「文使い」「裏門」は、勘平とおかるが密会していたため、判官の刃傷沙汰という一大事をに居合わせることができず、一度は死を考えますが、思いとどまっておかるの実家にひとまず逃れることを決意する場面。有名な五・六段目でなぜ二人が山崎で暮らしているかが理解できます。ぽん太はこの場面をこれまで歌舞伎では見たことがありません。でも、「仮名手本忠臣蔵」から想を得たモーリス・ベジャールのバレエ『カブキ』では、おかると勘平の美しいパ・ド・ドゥを観たことがあります。
「花献上」は、蟄居している判官に、妻のかほよ御前が八重桜を献上しようとする場面ですが、なんと41年ぶりの上演とのこと。華やかで美しい八重桜が、沙汰を待つ判官の哀しい身の上と対比されて、涙を誘いました。
で、ぽん太が今回の通し公演で興味を持っているのは、以前からぽん太がこだわっている「勘平成仏問題」です。
五・六段目の単独上演では、無念さから成仏を拒否した勘平が、連判状に加わることを許されて、成仏していくという演出が多いですが、元々の文楽では、勘平は成仏せずに怨霊となって仇討ちに加わるという設定です。
怨霊になっちゃダメじゃん、と思うかもしれませんが、実は塩冶判官も切腹の直前に「生きかわり死にかわり、鬱憤をはらさん」と、怨霊となって復讐することを宣言しております。判官は潔く切腹したと思いがちですが、実はそうではなく、高師直に深い怨念を残しているのです。勘平が怨霊になるというのは、判官の復讐に自分も加わるということなのです。
で、みごと仇討ちが成功し、判官は恨みをはらしてめでたく成仏できたとして、勘平はどうするの?実は十一段目に焼香の場があって、仇討ちの後、亡き主君の位牌に向かって、由良之助は最初に焼香をするよう一同に促されますが、師直を討ち取った矢間重太郎に一番を譲ります。されば二番目にと促されると再び拒否し、肌身離さず持っていた勘平の縞の財布を取り出して、勘平に二番の焼香をさせるのです。これで勘平も成仏して、めでたしめでたしとなるわけですが、この場面、あんまり上演されません。
ですから「勘平成仏問題」は、判官切腹から討ち入り後の焼香まで、通しで上演しないと筋が通らず、完結もしないのです。
今回の通し公演では焼香の場も入っているようで、国立劇場が「勘平成仏問題」にどう向き合ってくれるのか、ぽん太は今から楽しみです。ただ特別サイトの解説には、「原作の“財布の焼香”をアレンジした「柴部屋焼香」も上演し」と書いてあり、どうアレンジされているかちょっと不安でもあります。
ところがぽん太、日頃の不摂生がたたり、判官切腹の直前に睡魔が襲ってきました。そのため、判官の「生き変わり死に変わり、鬱憤晴らさで措くべきか」というセリフの部分を聞き逃してしまいました。う〜ん、省略されることも多いこのセリフを、今回梅玉が言ったのかどうか、言ったとしたらどういう風に言ったのか。わかりません。ぽん太一生の不覚です。たしか売店で上演台本を売っていたような。11月に行った時に、(買わずに)ちらっと見てみようっと。
それに辞世の句も聞き逃したような。ところがにゃん子に聞いてみると、辞世の句はなかったとのこと。ニャニャにゃに〜!?、判官切腹に「風誘う 花よりもなお 我はまた 春の名残を いかにとやせん」という辞世の句はつきものだろ〜。
ところが脚本を読んでみると、確かに辞世の句はありません。う〜ん、辞世の句はないのが本当なのか。でも、なんでぽん太は辞世の句があると思っていたのでしょう。そういう台本もあるのかしら?試しに真山青果の『元禄忠臣蔵』を見てみると、第一幕「江戸城の刃傷」の最後に辞世の句が出て来るようですね。こっちと記憶がごっちゃになったのでしょうか?
梅玉の塩冶判官、秀太郎の顔世御前、左團次の高師直、幸四郎の大星由良之助など、これだけの役者がそろえば、面白いのはあたりまえ。歌舞伎では3階席が定番のぽん太ですが、今回は1階最前列にしてみたので、表情がよく見えてとても良かったです。やっぱり近くの方がいいですね〜。
錦之助の若狭之助が、キレやすい若い大名をうまく演じてました。扇雀の早野勘平、上方風の色っぽさがあって、「文使い」「裏門」の艶やかさに会ってました。
隼人くんと米吉の恋模様には、隼人くんファンのにゃん子が大喜び。米吉くん、顔は可愛いけどこれまでなんだか無表情でしたが、今回は表情で芸をしてました。
「えへん、エッヘーン」の口上人形の配役紹介が、開演10分前からだったので、前半を見逃してしまいました。まあ、でも、開演前にやるのが正しいといえば正しいので、仕方あないかも。
服部幸雄編著『仮名手本忠臣蔵 歌舞伎オンステージ8』白水社、1994。
現行の歌舞伎の台本。いくつかのヴァージョンが付録として収録されている。
竹田出雲作、守随憲治校訂『仮名手本忠臣蔵 附 古今いろは評林』岩波書店、1937年、岩波文庫。
オリジナルの文楽の浄瑠璃です。
真山青果『元禄忠臣蔵(上、下)』岩波書店、1982年、岩波文庫。
国立劇場開場50周年記念
平成28年度(第71回)文化庁芸術祭主催
竹田出雲・三好松洛・並木千柳=作
通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)【第一部】四幕九場
2016年10月5日 国立劇場
国立劇場美術係=美術
大 序 鶴ヶ岡社頭兜改めの場
二段目 桃井館力弥使者の場
同 松切りの場
三段目 足利館門前の場
同 松の間刃傷の場
同 裏門の場
四段目 扇ヶ谷塩冶館花献上の場
同 判官切腹の場
同 表門城明渡しの場
(主な配役)
【大 序】
塩冶判官 中村梅玉
顔世御前 片岡秀太郎
足利直義 中村松江
桃井若狭之助 中村錦之助
高師直 市川左團次
【二段目】
桃井若狭之助 中村錦之助
本蔵妻戸無瀬 市村萬次郎
大星力弥 中村隼人
本蔵娘小浪 中村米吉
加古川本蔵 市川團蔵
【三段目】
塩冶判官 中村梅玉
早野勘平 中村扇雀
桃井若狭之助 中村錦之助
鷺坂伴内 市村橘太郎
腰元おかる 市川高麗蔵
加古川本蔵 市川團蔵
高師直 市川左團次
【四段目】
大星由良之助 松本幸四郎
石堂右馬之丞 市川左團次
薬師寺次郎左衛門 坂東彦三郎
大鷲文吾 坂東秀調
赤垣源蔵 大谷桂三
織部安兵衛 澤村宗之助
千崎弥五郎 市村竹松
大星力弥 中村隼人
佐藤与茂七 市川男寅
矢間重太郎 嵐橘三郎
斧九太夫 松本錦吾
竹森喜多八 澤村由次郎
原郷右衛門 大谷友右衛門
顔世御前 片岡秀太郎
塩冶判官 中村梅玉
最近のコメント