【バレエの原作を読む(9)】「ダフニスとクロエ」←ロンゴス『ダフニスとクロエー』
久々登場の「バレエの原作を読む」シリーズ。今回は「ダフニスとクロエ」です。
「ダフニスとクロエ」は、バレエよりも、原作よりも、ラヴェルが作曲した音楽が一番有名ですね。
1909年に「バレエ・リュス」を旗揚げしたディアギレフは、1910年に、ロンゴスの『ダフニスとクロエ』を原作とするバレエの音楽をラヴェルに依頼。台本はフォーキンでしたがラヴェルはあんまり気に入らなかったようです。それでもラヴェルは5月にはピアノ譜を完成させましたが、今度がディアギレフがそれを気に入りません。リズムよりメロディー重視だし、合唱が入ってたり……。てなことで初演が延びのびになるなか、待ちくたびれたラヴェルは第1部後半から第2部前半を1911年に「第1組曲」として初演。バレエが初演されたのは1912年になってからでした
バレエの初演は1912年6月8日、パリのシャトレ座でバレエ・リュス(ロシアバレエ団)。振付けはフォーキン、ダフニスはもちろんニジンスキー、クロエはタマーラ・カルサヴィナ、指揮はピエール・モントゥーでした。
フォーキン版のあらすじは、例えばこちらのブログ(バレエ音楽「ダフニスとクロエ」|liebevoll)に詳しく書かれております。フォーキン版とは書いてありませんが、たぶんフォーキン版でしょう。
すごく大雑把にまとめると、クロエに恋心をいだくダフニス。たくましい牛飼いドルコンが「ちょっとまった〜」とクロエに近づくが、踊りが下手で物笑いにされる。ダフニスの踊りにクロエは魅せられ、甘い口づけ。二人は恋に落ちます。年増女リュセイオンがやってきてダフニスを誘惑して立ち去る。そこへ海賊がやってきてクロエを誘拐。絶望したダフニスは、ニンフの助けを得て、パンの神に助けを乞う。すきをみて逃げようとするクロエだが、海賊に手込めにされようとする瞬間、パンが現れて海賊をやっつける。再会を喜ぶ二人。パンを讃えながら、一同祝福の乱舞。
さて、フォーキン版以外にどのような振付けがあるのか、ぽん太は申し訳ありませんがよく知らないし、調べる気力もないのですが、これまでぽん太が観たものを挙げると……
アシュトン版 英国バーミンガム・バレエ団
だいたいフォーキンと同じストーリー。詳細は忘れました。
ジャン・クリストフ=マイヨー版 モナコ公国モンテカルロ・バレエ団
愛し方がわからない若いカップルに、成熟したカップル(リュセイオンとドルコン)が愛の手ほどきをするというエロティックなコンテ作品。
バンジャマン・ミルピエ版 パリ・オペラ座バレエ団
だいたいのあらすじは同じだが、抽象的な衣装やセット。
で、原作ですが、ロンゴス(Λόγγος)の『ダフニスとクロエー』(Ποιμενικά κατά Δάφνιν και Χλόηνもしくは Δάφνις και Χλόη)で、翻訳は上にアマゾンのリンクを張った岩波文庫版が手に入りやすいかと思います。
その解説(松平千秋)によりますと、紀元前後から5世紀にかけて、地中海世界では多くの通俗的な大衆小説が作られたそうで、その大部分はギリシャ語で書かれていたそうです。しかし現在完全なかたちで残っているのはわずが5篇しかなく、ロンゴスの『ダフニスとクロエー』はそのうちのひとつだそうです。書かれたのは2世紀後半から3世紀前半、日本でいうと、邪馬台国の卑弥呼が魏に使者を送ったのが239年ですね。
作者のロンゴスについては、確かなことはほとんどわからないそうです。
レスボス島を舞台にした、若い男女のラブ・ストーリー。レスボス島は、エーゲ海の東側にある島で、現在のトルコの沿岸にありますが、ギリシャの領土です。
で、あらすじですが……。
めんどくさいけどまとめるかな〜。ゴールデンウィークで暇だし。
ただ、小学生以下にはふさわしくない表現がありますので、中学生以上だけお読み下さい。
序 レスボス島で狩りをしていた私は、世にも美しい絵をみつけた。そこには恋の物語が描かれていて、多くの人たちがそれを見にこの島を訪れていた。私は長老の話を元にして、4巻の物語を書き上げた。
巻1
レスボス島の町ミュティレーネーのほど近くに住む山羊飼いのラモーンは、ある日一頭の山羊が男の赤ちゃんを育てているのを見つけた。男の子はたいそう美男子で、、高価な品々を携えていた。ラモーンはこの子の出生を秘密にしたまま自分の子供として育てることにし、ダフニスと名付けた。しばらして今度は羊飼いのドリュアースが、羊が育てている女の赤ちゃんを見つけた。ドリュアースもこの子を自分の娘として育ていることにし、クロエーと名付けた。
こうして山羊飼いとなったダフニスと羊飼いとなったクロエーは、近くで仕事をしていたこともあり、仲良く一緒に遊ぶようになった。ところがだんだんと二人はお年頃。水浴びをしているダフニスの裸を見て、体を洗ってあげていたら、何かドキドキしてきたクロエーちゃん。夜も眠れず食事もとらず、仕事もほったらかしで、泣いたかと思ったら笑い出す始末。でも恋などという言葉さえ知らないダフニスは、自分が病気になったと思うばかり。
さて、既に恋をわきまえた荒々しい牛飼いのドルコーンが、クロエーに目を付けました。ダフニスとドルコーンは喧嘩になりますが、言い合いに勝ったダフニスに、クロエーはご褒美のキッス。あらあら、大変。この日からダフニスも恋に落ちました。ほてる体を冷やそうと水浴びしても、恋の炎は燃え盛るばかり。
しかしエロサイトなどない時代の牧人の二人。ダフニスは、クロエーのかぶっている松の冠にキスをして自分もかぶってみたり、クロエーも、水浴びをしているダフニスの服にキスをして、それを着てみたり。お互いにリンゴをぶつけあったり、髪の毛を整え合ったり。あ〜違うでしょ。あらじれったい。
そんなある日、テュロスの海賊がやってきて、家畜からなにから略奪を行うが、ダフニスとクロエーは、牛飼いのドルコーンの身を犠牲にした助けを借りて、海賊を撃退する。巻2
秋になって、ダフニスとクロエーはブドウの収穫に駆り出されます。ある老人が、二人にエロース(恋)の話を聞かせます。「いいかい、若いお二人さん。恋の病に効く薬は、キスをすること、抱き合うこと、裸になって一緒に寝ることしかないんじゃ。」
二人は自分たちが恋をしていることを知ります。そして教わった最初の二つの方法を試してみますが、最後の一つはさすがに恥ずかしくてできません。でも二人の心はさらに火がつくばかり。それからの二人は、出会うたんびに抱き合ったりキスしたり。あるとき二人は抱き合ったままバランスをくずして倒れてしまいました。でも、そのあとどうしていいかわからず、夕暮れとともにそれぞれ帰途についたのでした(あ〜〜じれったい)。
そんなおり、メーテュナムの裕福な若者たちが小舟に乗って、村や町を訪れて遊んでおりました。彼らはダフニスとクロエーの村の近くに船を停めようとしたのですが、とも綱をなくしてしまったので、青い柳の枝で船を陸につなぎ止めました。ところがこの柳をダフニスの山羊が食べてしまったからさあ大変。船は沖に流されてしまい、怒った若者たちはダフニスを責め立て、縛り上げようとします。村人たちはこれには憤慨し、若者たちを追い返しますが、メーテュナムにようやく帰り着いた若者たちは、村人たちに船や金品を略奪されたと嘘を言います。それを聞いてメーテュナム人はミュティレーネーに戦争をしかけ、村々を襲って手当り次第に略奪を行い、あげくのはてにクロエーまでつれ立てて行きました。
残されたダフニスはニンフの祠に行って悲しみを切々と訴えます。するとあら不思議、その夜、夢の中に三人のニンフが現れ、クロエーを助けるように勇敢な闘士でもあるパーンにお願いしたことを伝えます。実際メーテュナムの船には異常現象が次々と起こります。羊が狼のように吠えだしたり、碇を上げようとしてもびくとも動かなかったり、イルカの群れが海中から躍り出て船を壊したりします。ついには司令官の夢枕にパーンが現れ、クロエーと山羊、羊を返すように命じます。
クロエーが無事に帰ってきたことを喜んだ村人たちは宴を開きます。再会に喜ぶ二人は、お互いに愛し続けることを誓い合ったのでした。巻3
冬が過ぎて、春になりました。長い冬の間に、二人は少し成長しております。ダフニスはクロエーに、老人が教えてくれた恋を癒す三つの薬のうち、だたひとつやり残していたことをしようと言います。そう、裸になって二人で寝るのです。
「でも一緒に寝てどうするの?」とクロエー。
「牡羊や牡山羊が牝にするようなことをするのさ。あれは楽しいことに違いないよ」とダフニス。
二人でしばらく裸でじっと横たわったあげく、ダフニスは山羊のまねをしてクロエーに後ろからのしかかったりしましたが、結局どうしていいかよくわからず、とうとうダフニスは泣き出してしまいます。
そこに現れたるはリュカイニオンという町から嫁いできた美人で垢抜けした女房。ダフニスとクロエーの現状はとうにお見通し。自分の欲望を満たすチャンス到来とばかりにダフニスをだまして森の中に誘い込むと、まんまと愛の手ほどき。しかしその後もダフニスは、「クロエーに同じことをしようとすると、痛がって泣き出して血だらけになる」とリュカイニオンに言われたことを心配し、あいかわらずキスと抱き合うことしかしませんでした夏になると、美しい娘へと成長したクロエーに、あちこちから縁談が持ち上がります。あわてたダフニスは、自分もお婿さんとして立候補しようとしますが、他の金持ちの求婚者には太刀打ちできません。すると霊験あらたかにも三人のニンフが再び夢枕に立ち、お金のありかをダフニスに教えます。
お告げに従って大金を手にしたダフニスは、クロエーの父ドリュアースに結婚を申し出ます。大金に気を良くしたドリュアースは、自らダフニスの父ラモーンに結婚を掛け合いに行きますが、ラモーンは「自分は領地を持っているご主人様の使用人にすぎない。秋になるとご主人様がやってくるので、その許可が得られたら結婚を許しましょう」と答えます。巻4
秋になり、ラモーンはご主人様を迎える準備にせいを出します。
そこに領主様より一足早く、ご主人様の息子アステュロスが、取り巻きの遊び人グナトーン(男)を伴って到着。グナトーン(男)はクロエーではなくって、なんとダフニスにご執心。ダフニスに後ろからのしかかって「自由にさせてくれ」というと、ダフニスは意味がわからず、「牡牛が牝牛に乗るのはあたりまえだが、牡牛に牡牛が乗るのは見たことがない」と逃げ出します。
やがて主人のディオニューソファーネスが到着。裕福で、誠実なお人柄。丹精込めて手入れされた畑に満足し、ダフニスの山羊飼いとしての仕事ぶりもほめ讃えます。ラモーンはここぞとばかりダフニスの出生の秘密をみなに打ち明け、証拠の品々を示します。それを見た主人の妻が大声をあげます。なんとダフニスは主人夫妻の実の息子だったのです。皆が大喜びするなか、ダフニスは「そうだ山羊に水を飲ませにいかないと」などと言い出し、「をひをひ、この子はまだ山羊飼いのつもりでおるわい」などと、ホームドラマのような会話があったりします。
けれどもクロエーは「ダフニスがご主人様の息子だとしたら、羊飼いの私のことなんかもう忘れてしまうに違いないわ」とただ一人嘆くことしきり。そのときクロエーの父ドリュアースは、自信に満ちた表情で、「大丈夫だ、俺にまかせろ」。お父さんかっこいー。
翌日ドリュアースは、証拠の品々を抱えご主人様を訪ね、クロエーの出生の秘密を打ち明けました。品々を吟味した主人夫妻は、クロエーが立派な家柄の娘であることを確信し、二人の婚約を許します。着飾ったクロエーの美しさに、一同ばかりかダフニスまでもびっくり。
クロエーは、町一番の年長者の老人の娘であることがわかりました。ダフニスとクロエーの希望で、村に戻って牧人風の結婚式をあげることになりました。ディオニューソファーネスは村人を全員呼んで豪華な宴を催しましたが、山羊たちもこれに加わったので、その匂いに町から来た人たちは閉口しました。
結婚式の夜、ダフニスはリュカイニオンに教わったことを初めてクロエーに試みます。クロエーも、これまで長い間二人がしてきたことが、子供の遊びにすぎなかったことを初めて知ったのでした。
う〜ん、ライトノベル顔負けのラブ・ストーリーですね〜。書いててこっちがこっぱずかしいです。
べたなストーリーではありますが、ちょっと感動するな〜。昔のおおらかな時代というか、エロい表現が少なくないです。いろいろ事件や困難は生じますが、みななんだかいい人で、最後はめでたしめでたしみたいなところがほっとしますね〜。
こうしてみると、もともとのフォーキン版やアシュトン版、ミルピエ版は、原作の一部をうまく利用している感じですね。マイヨー版は、恋のこの字も知らない男女の淡い恋がやがて大人の愛へと成長して行くという原作の大枠をうまく生かした読み替えと言えそうです。
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