【バレエ】中身のぎっしり詰まった贈り物 《ルグリ・ガラ〜運命のバレエダンサー〜》 Bプログラム
日本のバレエファンに愛され続けるマニュエル・ルグリ。今回の舞台は、芸術監督を務めるウィーン国立バレエ団に加え、英国ロイヤルのヌニュス、ムンタギロフ、ボリショイのスミルノワ、チュージン、そしてパリオペ元エトワルのゲランや、盟友のパトリック・ド・バナ、スペインのエレナ・マルティンなど、若手から錚々たる面々までを率いてのガラ公演でした。
しかも全部で16演目。いつもより早い18:30開演で、一回の休憩を挟んで、終了が22:00!見応えがありました。ほとんど寝ずに見ることができました。
まずはしばらくルグリと仲間たちの練習風景やステージの動画が流れてから、公演が始まります。一つひとつの演目の前に、プロジェクターで演目やダンサーの案内が表示されるという仕組み。普通は公演が始まると暗くてチラシが見えないので、何て演目で誰が踊ってるのかわからくなったりすることが多いので、ありがたいです。ただ、演目案内のときの打楽器を使った激しい音楽は、なんだか格闘技のイベントの選手紹介みたいで、ちょっと違和感を持ちました。
さて、感想ですが……ううう、演目が多すぎて、ひとつ一つをよく覚えてない。印象だけを書きます。
『エスメラルダ』は、ナターシャ・マイヤーがとっても顔が小さくて、キュートでした。
『I have been kissed by you...』は、幕が開くと、恰幅のいい怖〜いオバさんが、ゴージャスな衣装を着てポーズをとってます。初めて見ましたが、この人がエレナ・マルティンとのこと。しばらくすると、スカートの裾から手がニュ〜っと伸びて来て、バナがあわられるという趣向。あまり踊りらしい踊りはなく、バナが舞台とオケピの境に腰掛けたり。そのうちオケピの方に降りようとし始めたのでびっくりしたら、ちゃんと蓋がしてあった様子。当たり前か。天井からいくつもの椅子が吊り下げられたセットも悪くなかったです。
切れ目なく『...Insede the Labyrinth of Sollitude』に移行。ダンサーはジェロー・ウィリック。怪我のため来日できなくなったダヴィデ・ダトの代役ですが、これがとってもよかった。体がよく動いて踊りそのものもうまかったけれど、勢いと若々しさが感じられました。何回も続いたカーテンコールは、「代役お疲れさん」という意味ではなく、すばらしい踊りに感動してのものだったと思います。ぽん太が彼の踊りを見るのは初めて。今後が期待できます。
バナの振り付けもよかった。なんかドラマというか、物語性が出てきましたね。
『海賊』はルグリの振り付け。会場の入り口でもらったチラシの中に、来年ウィーン国立バレエがルグリ版「海賊」全幕をやるという情報がありました。見に行きたいです。本日は第2幕のアダージョで、例の有名なやつではないので、元々の振り付けがどうだったかよくわからず、比較ができませんでした。
ポラコワは東洋っぽい体の動きもあって良かったですが、チェリェヴィチコと間が合わなかったのか、ちょっとリフトがもたついてる気がしました。
『Whirling』は黒い衣装で踊ったやつだっけ、悪くはなかった気がするけど、あまり覚えてにゃい。
『Movements of the soul』を自ら振り付けて踊ったニキーシャ・フォゴは、ちょっと黒人の血が入った感じですが、ぐぐってみるとスウェーデンの生まれらしい。ぽん太は初めて見ました。キュートでコミカルな振り付けが、彼女の雰囲気に似合ってました。
『ジゼル』はヌニュス、ムンタギロフの英国ロイヤル・ペア。ヌニュスのジゼルは、非人間的な妖精という感じではなく、深い悲しみを抱いているように見えました。
ついでスミルノワ、チュージンのボリショイ・ペアによる『ファラオの娘』。これはもう落ち着いて見てられますな。
第一部の〆はゲランとルグリの『ランデヴー』。よくわかりませんが、昔の恋人同士の久々の出会い、みたいなローラン・プティらしい悲哀とペーソスを感じる踊り。ゲランとルグリ、素晴らしとしか言いようがありません。この表現力は、歳をとって衰えるどころか、ますます円熟味を増している感じ。
『タランテラ』はフォゴとウィリックた楽しくリズミカルに踊りました。テクニックもばっちし。
マイヤーとフェイフェルリックが、後半ではコンテ作品の『Mozart à é」を踊りましたが、振り付けがあまり面白くなかったです。
ゲランとルグリの『フェアウェル・ワルツ』は以前に世界バレフェスで見たようですが、今回も堪能。男女の恋の様々な駆け引きと感情の動きを、大人の踊りで見せてくれました。
『白鳥の湖』から黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥは、なんと1964年ウィーン版のヌレエフ振り付け!先日の「バレエ・スプリーム」で、後のバ・ド・トロワ版のヌレエフ振り付けを見ましたから(ロットバルトがいなかったけど)、これで新旧ふたつのヌレエフ版を見れたことになります。
ポラコワは悪くなかったですが、ちょっと可愛らしい振付のヌレエフ版よりも、普通のプティパ=イワーノフ版の妖艶な黒鳥の方があってるかも。32回転もバランス崩してちょっと短めでしたかね。チェリェヴィチコは背が低めで、ポラコワの王子役はちょっと気の毒。ジャンプの大きさも感じられませんでした。ヌレエフ版は、ポーズや線の美しさがないと難しいですね。
『Factum』は、マルティンのフラメンコ的な動きと、バナ独特の動きとの、コラボが面白かったです。
スミルノワとチュージンの『ジュエルズ』より”ダイヤモンド”は、安心して見れましたが、ちと疲れてきて眠くなってしまいました。
前半で悲しみをたたえた『ジゼル』を踊ったヌニュスが、今度は『ドン・キホーテ』。スペイン的な突き抜けた明るさはないけど、元気で可愛らしい感じ。グラン・フェッテで4回転入れてなかった?
オオトリはルグリの『Moment』。舞台上のピアノの生演奏をバックにした踊り。最初は太極拳みたいな動きから始まりました。ルグリの表現力のある動きが、ブゾーニ編曲のバッハとよく合ってました。滝澤志野のピアノも、音楽のタメ具合など、とてもルグリと息があってましたが、あとでチェックしたらウィーン国立バレエ団の専属ピアニストとのこと。う〜ん、息があってるわけです。
3時間があっという間。最後は会場全体がスタンディング・オベーション。ルグリもいつまで踊ってくれるかわからないし…。中身がぎっしり詰まった贈り物だったな〜などと思いながら、猛暑のなか帰途につきました。
《ルグリ・ガラ〜運命のバレエダンサー》
2017年8月23日
東京文化会館
Bプログラム
1)『エスメラルダ』
音楽:C.プーニ
振付:M.プティパより
出演:ナターシャ・マイヤー、ヤコブ・フェイフェルリック
2)『I have been kissed by you…』
音楽:M.リヒター
振付:H.マルティン、P.d.バナ
出演:エレナ・マルティン、パトリック・ド・バナ
『…Inside the Labyrinth of solitude』
音楽:T.ヴィターリ
振付:P.d.バナ
出演:ジェロー・ウィリック
3)『海賊』第2幕よりアダージョ
音楽:L.ドリーブ
振付:M.ルグリ
出演:ニーナ・ポラコワ、デニス・チェリェヴィチコ
4)『Whirling』
音楽:P.グラス
振付:A.ルカーチ
出演:ニーナ・トノリ、ジェームズ・ステファン
5)『Movements of the Soul』
音楽:バルバトューキ、K.ディクソン、M.スタイン
振付:ニキーシャ・フォゴ
出演:ニキーシャ・フォゴ
6)『ジゼル』
音楽:A.アダン
振付:J.ペロー/J.コラリ
出演:マリアネラ・ヌニェス、ワディム・ムンタギロフ
7)『ファラオの娘』
音楽:C.プーニ
振付:P.ラコット
出演:オルガ・スミルノワ、セミョーン・チュージン
8)『ランデヴー』
音楽:J.コスマ
振付:R.プティ
出演:イザベル・ゲラン、マニェル・ルグリ
9)『タランテラ』
音楽:L.M.ゴットシャルク
振付:G.バランシン
出演:ニキーシャ・フォゴ、ジェロー・ウィリック
10)『Morzart à 2』より
音楽:W.A.モーツァルト
振付:T.マランダン
出演:ナターシャ・マイヤー、ヤコブ・フェイフェルリック
11)『フェアウェル・ワルツ』
音楽:F.ショパン、V.マルティノフ
振付:P.d.バナ
出演:イザベル・ゲラン、マニュエル・ルグリ
12)『白鳥の湖』より黒鳥の
グラン・パ・ド・ドゥ
音楽:P.I.チャイコフスキー
振付:R.ヌレエフ(1964年ウィーン版)
出演:ニーナ・ポラコワ、デニス・チェリェヴィチコ
13)『Factum』
音楽:K.コルホー
振付:H.マルティン、P.d.バナ
出演:エレナ・マルティン、パトリック・ド・バナ
14)『ジュエルズ』より“ダイヤモンド”
音楽:P.I.チャイコフスキー
振付:G.バランシン
出演:オルガ・スミルノワ、セミョーン・チュージン
15)『ドン・キホーテ』
音楽:L.ミンクス
振付:M.プティパ
出演:マリアネラ・ヌニェス、ワディム・ムンタギロフ
16)『Moment』
マニュエル・ルグリ ソロ
(世界初演)
音楽:J.S.バッハ/F.ブゾーニ
振付:N.ホレツナ
出演:マニュエル・ルグリ
ピアノ:滝澤志野
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