【首藤康之】ダンスとセリフが交代する斬新な舞台「出口なし」KAAT神奈川芸術劇場
首藤康之のおっかけで横浜へ。演目は「出口なし」。こんかいは首藤のダンスもけっこう見れて、なかなか楽しめました。
「出口なし」は、哲学者サルトルの手になる戯曲で、1944年に初演されました。彼の実存主義の哲学が盛り込まれていて、「地獄とは他人のことだ」というセリフは有名です。
この戯曲をもとに、モーリス・ベジャールは「3人のソナタ」というバレエを振りつけました。こちらの初演は1957年。ぽん太は以前に、ジル・ロマン率いるモーリス・ベジャール・バレエ団の来日公演で観たことがありますが、だいぶ以前のことなので、あまり覚えておりません。ネット上の動画も見つかりません。
こんかいKAATでの「出口なし」の上演を提案したのは首藤だったそうで、昔見たベジャールの「3人のソナタ」が印象に残っていて、いつか自分でも演じてみたいと思っていたそうです。
出演はバレエ出身の首藤と中村恩恵に、演劇の秋山菜津子。首藤は最近よくセリフのある役をよくやってるけど、中村はまさかセリフは言わんだろう。逆に演劇の秋山は踊れないだろうし、いったいどんな舞台になるのかな。「出口なし」をインスピレーションの源として、言葉とダンスが混ざった抽象的な舞台になるのかな、などと考えながら幕が開くのを待ちました。
実際は、全体として戯曲に従って劇が進行するものの、セリフと舞踏が交互に繰り返されるという展開でした。その分、セリフは全体に省略し、少し改変しているようでした。
中村恩恵もがセリフを発したのには、ぽん太もびっくりしました。初めて声を聞きました。ちょっと滑舌が悪いところもありましたが、カマトトのお嬢様っぽい口調で頑張ってました。
対して舞台出身の秋山奈津子も、他の二人の踊りに見事に絡んでおりました。以前にジャズダンスをやっていたそうです。もちろんセリフのうまさはダントツ。初めて観た役者さんかと思ったら、野田秀樹の「桜の森の満開の下」に出てたんですね。
三人ともそれぞれ観ていてヒヤヒヤする部分があって、スリリングでした。
踊りとセリフの交代という構成はなかなか面白く、成功していると思いました。物語の展開も緊張感があってダレることがなく、終盤に向かってヒートアップしていく感じも良かったです。
最後はどのように終わるのかと思いながら観ていたのですが、「さあ、また始めよう」(だっけ?)のセリフのあとにダンスシーンがあって幕となったのですが、これは余計な気がしました。「さあ、また始めよう」のセリフが十分衝撃的なので、最後にダンスをもってくるなら、よっぽどインパクトがないとダメなように思いました。
KAATの芸術監督で、今回の舞台を演出した白石晃が案内人役で登場し、舞台を引き締めてました。
音楽は誰の曲だったんでしょう。ピアノ曲でしたが、なかなか雰囲気に合ってました。
しかし一方で、このサルトルの演劇を見ていて、「時代は変わったな〜」と感じました。確かに現代社会は、情報通信の発展によって、常に他人の視線にさらされており、それを意識せずに暮らすことはできません。だけど我々は、サルトルの時代のような濃密な人間関係を結ぶことはないし、他人の視線によって「実存」を脅かされるような不安を感じることもありません。むしろ他人の視線は、人間関係を希薄化し、均質化しているように感じます。
帰りに野毛でハシゴ。行った店は大黒屋(昔ながらの居酒屋で、イカコロルイベを初めていただきました)、叶屋(樹木希林さんの実家の老舗居酒屋だそうですが、近代的な大きな店に改築されてしまっています。地酒が揃ってます)、弥平(魚が自慢。地酒もそろってます)。
「出口なし」
KAAT神奈川芸術劇場
2019年01月30日(水)
・公演情報|神奈川芸術劇場
雑誌のインタビューへのリンクもあって面白いです。
【原作】ジャン=ポール・サルトル
【上演台本・演出】白井晃
【出演】
男/ガルサン 首藤康之
女1/イネス 秋山菜津子
女2/エステル 中村恩恵
案内人 白石晃
美術:杉山至
照明:大石真一郎
音響:徳久礼子
衣裳:前田文子
ヘアメイク:小林雄美
舞台監督:大垣敏朗
演出助手:西祐子
技術監督:堀内真人
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