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2022/03/22

【美術展】キューピッドの画中画をみちくさ。修復後の《窓辺で手紙を読む女》「フェルメールと17世紀オランダ絵画展」東京都美術館

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 オミクロン株による第6波が減りそうで減らない今日この頃、ぽん太とにゃん子は、修復によってキューピットが現れたというフェルメールの《窓辺で手紙を読む女》を見に、上野まで出かけてまいりました。この絵は修復前も見たことはなく、今回が初見でしたが、とても素晴らしかったです。上のふたつの画像は(そして以下のフェルメールの絵も)Wikipediaからコモン・ライセンスのものです。もちろん左(スマホだと上?)が修復後、右(下?)が修復前です。

 1979年に行われたX線調査によって、壁の中にキューピットを描いた画中画があることが確認されたのですが、フェルメール自身が塗りつぶしたと考えられていました。しかし2017年12月に始まった新たな調査の結果、上塗りはフェルメールの死後に何者かによってなされたことがわかり、フェルメールが描いた当初の状態への修復が行われることになりました。長い修復が終わって公開されたのが2021年9月。今回の展覧会は、この絵を所蔵しているドレスデン国立古典絵画館以外での初の公開となります。

ドレスデン国立古典絵画館所蔵
「フェルメールと17世紀オランダ絵画展」

東京都美術館(上野)
2022年3月上旬
公式サイト
作品リストpdf

【主な出品作】
・ヨハネス・フェルメール《窓辺で手紙を読む女》(修復後)1657-59年頃 
・レンブラント・ファン・レイン《若きサスキアの肖像》1633年
・ワルラン・ヴァイヤン《手紙、ペンナイフ、羽ペンを留めた赤いリボンの状差し》1658年
・ヤン・デ・ヘーム《花瓶と果物》1670-72年
・コルネリス・デ・ヘーム《牡蠣とワイングラス(レーマングラス)のある静物》製作年不詳

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 コロナ災の展覧会はすべて時間予約制。ちょっと早く着いたので、上野駅2Fに新しくできたエキュート上野の「やなぎ茶屋」に行きました(→ホームページ)。ぽん太は「宇治抹茶白玉ソフト」を注文。抹茶のお味がしっかりしてとても美味しかったですが、ひとつだけ注文があります。白玉がちょっとでかすぎます。噛み切らないと飲み込めないので、ちょっと食べにくいです。他のお客さんも苦労して食べてるように見えました。


 食欲が満たされたところで美術展の会場へ。入口のメッセージを読んだり、前座の絵を見ている人たちを尻目に、ぽん太とにゃん子は一目散にフェルメールを目指します。B1Fを足速に通り抜け、エスカレーターで1Fに上がり、《窓辺で手紙を読む女》の前へ。オミクロンのせいもあるのか、けっこうすいてました。絵の前に20人くらいしかいなかったかな。向かって左の上流に停滞している人たちを尻目に、ぽん太とにゃん子は下流の右側から接近。上流から流れてきた人が下流から立ち去るのですから、下流の方が絵に接近しやすいです(注:係員さんが「列は作っておりません、空いている方からご覧ください」と案内をしてました)。

 で、素晴らしいです。テーブルの上の厚めの織物、右側のカーテンの硬めの布の質感が見事に描かれてます。テーブルに置かれた果物は光が当たってキラキラ輝いていますが、近づいて見ると霜が降りたかのような小さな白点が描きこまれています。《牛乳を注ぐ女》でもピッチャーや容器に白い点がありましたが、それはグラニュー糖のように大きく、今回の絵とは違ってます。女性の黒い服の上の金糸も光り輝いております。修復前の写真の模写も展示されていましたが、それより全体に色も鮮やかですね。

 ところが絵に向かって右からの角度からだと、今回の修復で現れたという肝心のキューピットの画中画が、ライトの照明が反射してよく見えません。そこでいったん戦線離脱し、こんどは左側から接近。見えました、見えました。背景ですからやや淡いタッチですが、大きめのキューピットが弓を杖代わりに立ち、仮面を踏みつけております。仮面は欺瞞や不義を表すので、キューピットがそれを踏みつけているということは、真実の愛を讃えていることを意味するそうです。

 俳句など省略好きの日本人にとっては、修復前の絵の白くて大きな壁の中に、女性がいったどんな手紙を読んでいるのかをあれこれ思い浮かべるのもいいような気がしますが、修復後の、誠実な愛の応援歌として見るのも悪くないですね。この娘の幸せを祈りたくなります。

 実はこの絵キューピットの画中画は、他のフェルメールの絵にも出てきます。

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 まず《眠る女》(1657年頃、メトロポリタン美術館)。暗くて見づらいですが、画面の左上の絵がそれで、キューピットの片足と仮面が見えてます。

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 次に《中断された音楽の稽古》(1660 - 1661年頃、フリック・コレクション)。不鮮明なのはフェルメールがそう描いたのか、経年変化のせいなのかぽん太にはわかりませんが、真ん中に大きく例のキューピットが描かれています。

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 そしてはっきりキューピットが描かれているのが、《ヴァージナルの前に立つ女》(1672 - 1673年、ナショナル・ギャラリー@ロンドン)です。おんなじポーズのキューピットで、左手に札みたいなものを掲げていますね。仮面は踏みつけていないようです。

 いろいろとググってみると、このキューピットの絵は、オットー・ファン・フェーンの有名な「寓意画集」のなかの「only one」という絵が元になっているそうで、恋愛に対する貞節を賞賛しているんだそうです。画中画は、その絵をもとに誰かが描いたものと考えられますが、特定はされていないそうです(『ヴァージナルの前に立つ女』 - Google Arts & Culture)。

 オットー・ファン・フェーンに関しては、日本語のWikipediaにはなし。英語版Wikipediaの方にはあって、オランダ人の画家で、16世紀後半から17世紀前半にベルギーで活躍。ヒューマニストとしても知られ、若きルーベンスの絵の先生でもあったそうです。

 ファン・フェーンは、エンブレム・ブック(寓意画集)の制作にも熱心に取り組みました。エンブレム・ブックとは、まさにファン・フェンーンが活躍した16世紀・17世紀にオランダ、ベルギー、ドイツ、フランスで流行した本の形態で、ちょっと謎めいた絵と、それを解き明かすヒントとなる文章の組み合わせが、多数掲載されたものでした(エンブレム・ブック - Wikipedia)。

  で、問題となっているキューピットの絵ですが、探していたらありました。Emblem Projict Utrecht というサイトで、ファン・フェーンの『愛のエンブレム』(Amorumu Emblemata, 1608)の全文(!)を見ることができます。画中画の元の絵はこちらですね(→Perfectus amor non est nisi ad unum)。

 右手で弓を杖のように持つキューピットが、左手で数字の1が書かれた札を高く掲げ、それ以外の数字が書かれた札を右足で踏んづけています。

 あれ、踏んづけているのは仮面じゃないですね。もう一度《窓辺で手紙を読む女》の画中画をよくみてみると、確かに足元には仮面が置かれていますが、踏んづけているのはちょっとよくわからない何かです。公式サイトにも、画中画のキューピットが「仮面を踏みつける」と書いてありますが、これ、ひょっとしたら間違いなんじゃないの?

 また、《ヴァージナルの前に立つ女》に描かれたキューピットが持っている札。数字の1が書かれているはずですが……拡大して目を凝らしても読み取れないですね。フェルメールがそもそも描いていなかったのか、それとも経年劣化のせいなのか。

 さて、オットー・ファン・フェーンのエンブレムに戻ると、タイトルは PERFECTVS AMOR NON EST NISI AD VNVM.です。Arist. と書いてありますから、アリストテレスの引用ですね。ただホームページの主は、引用先が見つからないため、本当にアリストテレスの言葉かどうかわからないとしているようです。

 PERFECTVS AMOR NON EST NISI AD VNVM. というのはラテン語ですね。えっへん。ラテン語を1年間だけ勉強したことがあるぽん太がお読みいたしましょう。格変化とか全て忘れたというか、最初から覚えられなかったですが。さて、昔はアルファベットのVとUがあまり区別されてなかったので、現代の表記では PERFECTUS AMOR NON EST NISI AD UNUM. となります。nisiを羅和辞典で引くと「もし〜でないのなら」という意味だそうなので、あとはだいたいわかりますね。直訳すれば、「ひとりに向かうのではなければ、完全な愛ではない」、くだいて訳せば「完全なる愛はただひとりにのみ捧げられる」といったところでしょうか。

 その下に書いてあるラテン語の文章は、ちょっと訳すのがめんどくさいですが、ありがたいことに下に英訳が書かれています。

Only one.
No number els but one in Cupids right is claymed,
All numbers els besydes he sets his foot vpon,
Because a louer ought to loue but only one.
A streame disperst in partes the force thereof is maymed.

 こ、これ英語? なんか変ですが……という気がしますが、VとUが混ざっていることなどを考慮して暗号解読していくと、claymed→claimed、vpon→upon、louer→loverなど、わかりますね。

ただ1のみ。
キューピットが右手に持つ数字の1だけが求められる。
それ以外の全ての数字の上に、キューピットは足をのせる。
なぜなら、愛する者はただ一人たけを愛すべきだから。
流れはいくつもに分かれると、その力は弱まるのだ。

 in Cupids right というのがわからないな〜。「キューピットが右手に持つ」という意味のような気がするけど、絵では左手に持ってるよな〜。版画で裏返しになったとか? 「キューピットの正義において」なんてことないよね。

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